精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第五十一話『本気の喧嘩』

 リオ達はアマンドの東門から出て、しばらく街道を進むと、人気のないことを確認してからリオはセリアを、ネクサスは朝陽を抱えて空を飛び、ガルアーク王国の王都ガルトゥークへと向かった。

 日が沈む前に、ガルトゥーク近郊へと到着した一行は、王都近郊の岩場の人気のない場所に岩の家を設置する。例によってリオとネクサスの家を向かい合うようにしているが…。

 

 とりあえず、設置したはいいものの、これからの方針を決めないとならないため、ネクサスと朝陽はリオの家にお邪魔している。

 

「とりあえず、ガルアーク王国の勇者になってる『皇 沙月』に会える可能性が出てきた。となると、美春ちゃん達を呼びに戻らないとかね?」

 

 ネクサスはリオにそのように言っていた。

 

「そうだな。ただ、問題は3人も運べるかなんだけど…」

 

「アイシアは先生の護衛に残すとして、ファングを連れてくかどうかか…」

 

 未だファング本来の大きさを測ってないので、この機会にファングを元の姿に戻してその背に乗せて運ぶという手もあるにはあるが…。

 

「それだと朝陽の護衛がな…」

 

 ネクサスがいない間の朝陽の護衛役がいなくなる。それを心配していると…。

 

「大丈夫、よ。この前と、違って、セリアさんとアイシアが、いるんだし…」

 

 朝陽がそのように言ってくる。

 

「そうか? なら、アイシア。朝陽の護衛も頼めるか?」

 

「いいよ」

 

 契約主であるリオではなく、アイシアに直接頼む辺り、ネクサスもなかなかに図々しい。

 

「アイシアの負担が大きいかもしれないけど、お願いね」

 

 リオの方も仕方ないとばかりにアイシアに頼んでいた。

 

「任せて」

 

 アイシアも頷くと、これで精霊の民の里に行く面子が決まった。リオ、ネクサス、ファングだ。

 

 それからネクサスと朝陽は向かいの家に戻り、それぞれ夕食を取って明日に備えるのだった。

 

………

……

 

 翌日の午前中。

 リオとネクサス、そしてファングは家から出ると、それぞれセリアとアイシア、朝陽に挨拶していた。その際、アイシアはリオに抱き着いてリオに自らの想い…これからもリオの傍にいて、一緒にいることを伝えていた。それに触発されたセリアもリオに抱き着いて、教えてもらった料理を練習して待ってると伝えていた。

 

「朝っぱらからお盛んで…」

 

「………………」

 

 その様子を見ていたネクサスと朝陽もやや呆れていたが…。

 

「シノブ、気を付けてね?」

 

「あぁ、行ってくる」

 

 こちらは簡単なやり取りで挨拶を済ませていた。

 

 

 

 それからリオ達は岩の家から少し離れた場所に移動すると、転移結晶を取り出す。

 

「じゃあ、頼まぁ」

 

「あぁ。『転移魔術』」

 

 リオの肩に手を置いたネクサスの言葉にリオも頷き、転移結晶を使用して里の近くへと転移する。ちなみにファングは実体化してネクサスの頭に乗っかっている。

 

 リオ達の視界が精霊の民の里近郊の森の中へと変わる。

 

「無事に転移完了か。ま、ここで待ってても仕方ねぇから、俺達の方から行こうぜ?」

 

「わかった」

 

 ネクサスに言われ、リオも頷くと2人して空を飛び、里の方へと向かう。目指すは庁舎前の広場だ。

 

 すると、広場から1羽の巨鳥が飛び上がってくるのが見えてくる。

 

「お兄ちゃん!」

 

 その巨鳥…エアリアルの背に乗るラティーファとオーフィア、そして美春の姿を確認すると、リオは微かに顔を曇らせ、美春から視線を逸らしてしまう。

 

(リオ…?)

 

 それを横目で確認したネクサスは少し眉を顰める。

 

「?」

 

 そして、当の美春もリオに視線を逸らされたことにやや不安そうな表情をしている。

 

(やきもきするな…)

 

 2人の想いを知っているだけにネクサスもどこか微妙な表情を浮かべる。

 しかし、実際に話してみるとすぐにリオの態度は元に戻っていて、美春も気のせいだと思ったのか、普通に会話していた。

 

(発破、かけた方がいいのかな…?)

 

 そんなやり取りを傍から見てたネクサスは、リオにもう一度だけ言いたいことを言おうかと考えていた。

 

 そうこうしている内に、リオ達は庁舎前の広場へと降り立つのだった。

 

「ネクサスさん! おかえりなさ、い…?」

 

 そこにサラ達も合流し、ネクサスにも挨拶したのだが…

 

「よぉ、サラ。ただいま。どうかしたか?」

 

 いつも通りに接してるつもりのネクサスだが…

 

「なんだか、見知らぬ女の人の匂いがします…」

 

 そう言ってどこかジト目でサラに見られるネクサスに注目が集まる。

 

「あ…?」

 

 まさか、そんなことを言われるとは思いもせず、ネクサスも間の抜けた声を漏らす。

 

(あ、もしかして朝陽のことか? 流石は狼種、鼻が良いな)

 

 などとネクサスはてんで別なことを考えている。

 

「ネクサスさん?」

 

「ネクサス様?」

 

「ネクサス…?」

 

 サラ、フレイシアス、シンシアの3名からどこかジト目な視線を受けるネクサスは…

 

「さて、最長老方に帰還の挨拶でもしてくるかな」

 

 白々しい程の逃げの一手を打った。

 

(逃げたな)

 

(逃げたね)

 

(逃げましたね)

 

(逃げた)

 

 それを見てたリオ、ラティーファ、オーフィア、アルマが揃って同じことを考えるが、どこか微笑ましそうに笑っていた。

 

「……なんだよ?」

 

 その視線に気付いてたネクサスがやや仏頂面で問い掛ける。

 

「いや…なんでもないよ」

 

 代表してリオが苦笑しながら答えると、庁舎へと歩いていく。

 

「ったく…」

 

 ネクサスも頭を掻きながらリオの後を歩いていく。

 ジト目なままだが、サラ達もリオとネクサスの後を追い、ラティーファとリオの義理の兄妹の親しげな様子を見てた美春は…

 

「ハルくん…なの?」

 

 消え入りそうな声で、一言漏らしていた。その視線の先にはリオがいて、誰かの面影を重ねているようにも見えたが、それに気づいた者はいなかった。

 

………

……

 

 それからリオ達は庁舎の最上階の会議室にて最長老3人に帰還の挨拶をしてから、探し人の1人である『皇 沙月』の所在を見つけたことを報告し、美春達にも事の経緯を説明した。そこで1ヵ月半に開催されるという夜会で接触を図ろうということと、美春達へ注意事項も一緒に説明していた。

 神の使徒という宗教的にも稀有な存在である勇者への接触はそれだけリスクがあるということだ。

 

 その話を聞いた美春達も簡単にはこの里に戻れなくなるという事実や沙月に会いたいという願いもあって葛藤を抱いていた。

 リオは最大限助力することを約束し、考える時間も必要だと会議室での話し合いは解散することになった。

 

 その後、精霊の民の里での自宅へと皆で戻る中、美春達は考え込んでいて無口になり、他は静観の姿勢を示していた。

 そして、自宅に戻り、お昼の用意をオーフィアやフレイシアス達に任せ、リオはラティーファの相手をして、ネクサスもリビングでしばし寛いでいた。

 

 そんな中、美春がリオと2人きりで話したいと、玄関前の外に出る。そこで美春はリオの意見を聞いていた。これから、どうしたらいいのか…客観的な意見を聞きたかったのだろう。ただ、それだけでない気もする。その中で、美春はリオに『日本に帰りたくはないのか?』と尋ねてしまう。リオはそっとかぶりを振って、その事実を否定した。死んだ身の自分には居場所がないのだと…。

 そんな時に、ラティーファが起きてきて2人の前に出てくる。話は終わったとリオは美春に確認すると、美春も頷く。そして、近所に挨拶がてら散歩に出かけると言ってリオは外へと向かう。

 ただ…

 

「お~い、リオ。何処に行くんだ?」

 

 デッキから顔を出したネクサスが何処かに行く様子のリオに声を掛けていた。

 

「ちょっと散歩だよ。ついでに近所の皆さんにも挨拶でもって」

 

「そういうことなら、俺も行くわ」

 

 そう言ってデッキから飛び出し、リオの隣に着地する。

 

「行儀が悪いぞ?」

 

「堅いこと言うなって」

 

「子供達が真似したらどうする気だ?」

 

「ま、その時はその時さ」

 

「まったく…」

 

 リオが困ったようにネクサスを見ながら散歩を開始して近所の皆さんに帰還の挨拶をして回った後、庁舎前の広場まで戻ってきた時だ。

 

「なぁ、リオ」

 

「なんだ?」

 

 突然、ネクサスが真剣みのある声でリオを呼び止める。その声音にリオも立ち止まって振り返らずにネクサスに問う。

 

「お前、美春ちゃんを避けてるだろ?」

 

「……何を言うかと思えば、そんなことはないよ」

 

 ネクサスの言葉をリオはやんわりと否定する。

 

「復讐の相手を見つけたからか? 自分の復讐に巻き込みたくないとか、そんな理由で距離を置こうとしてるんじゃないのか?」

 

 しかし、ネクサスの言及は止まらなかった。

 

「別に…」

 

「だったら、俺が前に言ったことも忘れたのか? 美春ちゃんと向き合えって言ったよな? 何故、彼女と向き合おうとしない?」

 

「……お前には関係ないことだろ?」

 

 珍しくリオの言葉に怒気が含まれる声音でネクサスに言う。

 

「あぁ、関係はないな。だが、見ててイライラする」

 

 ネクサスの歯に衣着せぬ物言いに…

 

「それこそ、お前には関係のない話だろ…!」

 

 リオが振り返りながら言うが…

 

「ッ!!」

 

 その言葉を聞く前から距離を詰めてたネクサスが、リオの顔面を殴る。

 

「っ!?」

 

 バキッという音と共にリオの身体が後ろによろける。

 

「独り善がりも大概にしろよ? 彼女の不安も考えろや」

 

「っ…なにを…!」

 

「お前は目を逸らしてたからわかってねぇだろうが、彼女…不安がってたぞ?」

 

「……っ」

 

 それを聞いてリオが少しびくりと反応する。

 

「お前は、また逃げるのか? 彼女を置いていくのか?」

 

「…………れ……」

 

「言いたいことがあるなら、ハッキリ言えや。前世でも今世でも、そんなんだから彼女を悲しませるんだよ」

 

 ネクサスの容赦ない言葉が琴線に触れたのか…

 

「黙れ!!」

 

 リオが珍しく感情を露にしてネクサスに殴り掛かる。

 

「ぐっ…!」

 

 その拳を受け、ネクサスも後ろによろける。

 

「お前に俺の何がわかる!」

 

 リオはネクサスの胸倉を掴んで叫ぶ。

 

「あぁ、知らんな! 今の逃げてばかりいるお前の言葉なんざ聞く耳持たん!!」

 

 しかし、ネクサスもそう叫びながらリオに頭突きをかましていた。

 

「ぐっ!?」

 

 思わぬ一撃にリオが仰け反るが…

 

「この…!!」

 

 その反動を利用して頭突きをし返す。

 

「ぐっ…!!」

 

 頭突きをし返されたネクサスは反射的に右拳をリオの腹部へと叩き込む。

 

「うっ…!?」

 

 リオも呻くが、それでもネクサスに反撃するべく拳を握る。

 

「なんだったら、お前の口からでなく、俺の口から言ってやろうか? お前の前世を、お前の過去を!!」

 

「やめろ!!!」

 

 ネクサスの挑発に、リオの眼に殺意が宿り始める。

 

「はっ! 逃げ腰のお前の代わりに言ってやるって言ってんだ! ちったぁ感謝しろ!!」

 

「うるさい!!」

 

 ネクサスとリオの拳が交わり、クロスカウンター気味に互いの顔面を捉える。

 

「ちっ…!!」

 

「ぐっ…!!」

 

 それでも2人の殴り合いは止まらない。

 

 ネクサスは2人の想いを知っているから、それを見て見ぬふりをして遠ざけようとするリオに憤りを感じていた。

 

(本当は通じ合っているのに、何故こうもままならないのか…)

 

 リオはネクサスの言ってることを理解していても、それでも自分の醜い姿を美春に見せたくないと感じていた。

 

(俺だって…俺だって、本当のことを言いたい。でも…でも…!!)

 

 ネクサスはリオと美春の仲を本気で心配したからこその言葉だ。

 リオは己の弱さをわかっていながらも、それでも言ったらどうなるのか、わからないからこそ葛藤していた。

 

 この2人の本気の殴り合いは広場にいた者に目撃され、いつの間にかそれなりの数の住民が集まっていた。

 精霊の民の盟友2人が殴り合っているのだ。そりゃ何事かと心配にもなる。

 そして、それは当然…

 

「お兄ちゃん!?」

 

「ハルトさん!?」

 

「ネクサスさん!?」

 

 自宅にいたラティーファ達の耳にも入り、人垣を分けて2人の見える位置まで移動し、止めなければと思った。

 しかし…

 

「この分からず屋が!!!」

 

「お前こそ、何だって言うんだ!!!」

 

『っ…』

 

 2人の剣幕に気圧され、どう止めていいのかわからないでいた。

 

 

 

 結局、2人の殴り合いは続き、里の戦士数名掛かりで取り押さえられ、最長老達も何事かと駆け付ける事態となった。

 ネクサスは自分からリオに手を出したと言い、自ら『牢にでもぶち込んでくれ』と頼み、リオからしばらく距離を置く選択をした。その際、リオに悪びれた様子もなかったことから、仕方なく最長老達もネクサスの言い分を汲んでウズマ達にネクサスを牢へと連行するように指示する。

 被害者でもあるリオだが、自衛とは言え、少し騒ぎを起こしたために自宅謹慎を言い渡されていた。当のリオも騒ぎを起こした手前、最長老達に申し訳なさそうにしていた。

 事情は後日聞くことにして、その場は解散となった。

 

 この日、リオとネクサスは本気の喧嘩をしたのだ…。

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