精霊幻想記~もう1人の転生者~   作:伊達 翼

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第五十五話『裸の付き合い』

 家決めも終わり、一同はしばらく語らいの時間を取っていた。

 ただ、到着してから一気に顔合わせや事情説明などもしていたので、時間もそれなりに経っており、雅人のお腹の音を皮切りに夕食の準備をすることになった。

 その際、リオ、ネクサス、雅人の男衆は先に風呂に入るようにと、女性陣に言われてしまい、お言葉に甘えたネクサスが率先して向かうことでリオと雅人も風呂場へと向かう。

 

 風呂場に着いたリオ達は服を脱ぎ、それぞれ体を洗ってから湯船に浸かる。

 

「ふぃ~…やっぱ、日本人の心の洗濯と言えば、風呂が一番だな。ま、俺は精神が日本人なだけなんだが」

 

 ネクサスがなんともオヤジ臭いことを言う。

 

「シノブ兄ちゃん、なんかオヤジ臭くね?」

 

「まぁ、見た目はともかく、中身は立派なおっさんだからな~」

 

 雅人の言葉に、ネクサスは特に気にした様子もなく返す。

 

「なら、ハルト兄ちゃんも?」

 

「そう言われてしまうと…ちょっと答えづらいな…」

 

 さしものリオも苦笑してしまっていた。

 

「そういえば、さ。少し気になったんだけどいい?」

 

 すると、雅人が気になったことをリオとネクサスに尋ねることにしたようだ。

 

「ん~?」

 

「どうした?」

 

 2人して雅人の方を見て首を傾げる。

 

「いや、そこまで大した話じゃないんだけどさ。2人はあの中で好きな子とかいないのかな、って」

 

 雅人の唐突な問いにリオとネクサスは顔を見合わせる。

 

「好きな子、ねぇ…」

 

「何を訊くかと思えば…藪から棒にどうしたんだよ?」

 

 ネクサスは天井を見上げ、リオは呆れたように雅人を見る。

 

「いや、だって…あんだけレベルの高い女の子達が周りにいて何とも思わないのかな、って」

 

「何とも思わないのか、って言われてもな…」

 

 雅人としては真面目に聞いているようで、リオはやや困り顔で呟く。

 すると…

 

「ん~…そうさな。俺は、好きかどうかはともかく…気になる奴ら(・・)ならいるな」

 

 ネクサスが意外なことを口にする。

 

「えっ!?」

 

「ホントか!? シノブ兄ちゃん!」

 

 その意外な言葉にリオは驚き、雅人も興奮気味に訊く。

 

「まぁ、こんなんで嘘吐いても仕方ないからな」

 

 ネクサスはそう答える。

 

「それで誰なんだよ!?」

 

「ちょっ、雅人。落ち着け」

 

 雅人がネクサスに詰め寄るのをリオが宥める。

 

「サラにシア、シンシア、朝陽だな」

 

 その様子を見ても特に気にせず、ネクサスは気になる相手の名前を口にした。

 

「4人も!?」

 

「あくまでも気になる奴らだ。好きかどうかはともかく、って言ったろ?」

 

 悪戯っぽい笑顔でネクサスは驚く雅人にそう言う。

 

「え~! なんだよ、それ!?」

 

 そんなネクサスの言い方に雅人が文句を言う。

 

「そういう雅人はどうなんだよ?」

 

「俺? 俺はまぁ…みんな、綺麗だとは思うけど…なんていうかな、こっちに来て世話になってたから、姉ちゃんみたいな感覚なんだよな。だから、あんまそういう対象として見れないというか…」

 

 ネクサスの返しに雅人はそう答えるが…

 

(あとは…亜紀姉ちゃんはともかく、他のみんなはハルト兄ちゃんかシノブ兄ちゃんのどっちかが好きっぽいしな。あ、でも…美春姉ちゃんだけはわからねぇや)

 

 内心でそのようにも感じていた。

 

「そうかい。で、ハルトはどうなんだ?」

 

 雅人の内心を知ってか知らずか、ネクサスは矛先をリオへと向ける。

 

「俺は…今はそれどころじゃないからな…」

 

 リオはなんとも微妙な表情で答える。

 

「………………」

 

「え? なんで?」

 

 その答えにネクサスもまた微妙な表情を作り、雅人は首を傾げる。

 

「……元々、目的があって旅をしてるわけだしな。人を好きになっても、その人とずっと一緒にはいられないよ」

 

 リオは、どこか寂しそうな表情で語る。

 

「なんでだよ? その人と一緒に旅すりゃいいじゃん」

 

 しかし、雅人には理解できないのか、そのように返す。

 

「そうできれば、一番いいんだろうけど……多分、今の俺には難しいかな…」

 

 リオの旅の目的。すなわち、ルシウスへの復讐。その血塗られた道に、誰かを巻き込みたくはないのだろう。

 

(難しく考え過ぎなんだよな…こいつの場合。ま、前世のこともあって、余計にそう考えてるのかもだが…)

 

 その心情を理解しているのか、ネクサスは内心でそう考えると共に…

 

「雅人の言い分も間違いじゃねぇわな。いずれにせよ、あとはハルトの心持ち次第だよ」

 

 そう呟いていた。

 

「シノブ…」

 

 リオはネクサスを見る。

 

『お前なら、どうするんだ?』

 

 と、問い掛けるような視線を向けて…。

 

「………仮に俺なら、自分のしたいように動くさ。いつもみたいに、な?」

 

 その視線を受け、ネクサスはそんな言葉をこぼす。

 

「って、話し込んでたら長湯しちまったな。さ、そろそろ出ようぜ?」

 

 そう言って湯船から上がるネクサス。

 

「あ、待ってよ、シノブ兄ちゃん!?」

 

 雅人もそろそろ限界だったのか、慌てた様子で湯船から出る。

 

「ふむ、ちゃんと鍛えてるみたいだな」

 

 そんな雅人の身体を見てリオが感心したように呟くと…

 

「ハルト…」

 

「まさか、ハルト兄ちゃんって…男が好きなのか!?」

 

 ネクサスが苦笑し、雅人が驚愕の表情を見せる。

 

「そんなわけあるか」

 

 2人の反応に若干の不満を覚えながら、リオは呆れて否定した。

 

 

 

 その後、男3人が風呂から上がり、美春とオーフィアが中心になって作った夕食を皆で囲む。

 その際、話題がガルアーク王国で行われる夜会関連のことになったり、亜紀と雅人が軽口を叩き合ったりと色々と和気藹々とした食卓になった。

 食後、リオとネクサス、雅人が片付けを行い、残った女性陣が風呂に入ることになったのだが…。

 

「その大人数で入れるのか?」

 

 というネクサスの疑問の声があがる。

 

 いくら広めの風呂とは言え、女性陣だけでも11人はいるので、どうするのかと話し合った結果、リオの岩の家側にはアイシア、セリア、そのセリアから色々と話を聞きたいラティーファ、オーフィア、アルマ、美春、亜紀が残ることになり、ネクサスの岩の家側にはサラ、フレイシアス、シンシア、朝陽が入りに向かうことになった。

 

 そうして入浴の準備をしてからそれぞれの家の風呂場へと赴く女性陣。

 

 リオの岩の家側では予想通りセリアが知るリオについて聞きたがっていたラティーファ達によって色々な話が行われており、リオが孤児だったことや学院での生活なども話されていて、割と和気藹々とした雰囲気だった。

 

 その一方で…

 

「「「………………」」」

 

 とりあえず、身体を洗い、湯船に浸かるサラ、シンシア、朝陽が無言を貫いていた。というか、妙に牽制し合っているようにも見えなくもない…。まぁ、シンシアについては平常運転かもだが…。

 

(えっと…どう話を切り出しましょう…)

 

 同じく湯船に浸かっていたフレイシアスが困ったように3人を見回す。

 一応、この4人に共通する話題と言えば、ネクサス、なのだが…。

 

(困りました…)

 

 まさかこんなことになるとは思っておらず、本当に困ったフレイシアスは頬に手を当てる。

 夕食前のフリータイムで朝陽の事情もある程度はネクサスから話されているものの、それはそれ、これはこれ、というやつなのだろうか?

 

「……で?」

 

「で、とは?」

 

 妙な喧嘩腰の朝陽の言葉にサラが食いつく。

 

「だから、アンタらとあいつはどういう関係なのかって」

 

「それは、言葉にしなきゃわかりません!」

 

 どっちも気が強い質なのか、相性が微妙に悪そうに見える。

 

「………ネクサスのこと?」

 

 ポツリと、シンシアが朝陽に尋ねる。

 

「そうよ。他に誰がいるのよ…」

 

「リオさんがいるじゃないですか」

 

 何やらぶつくさ言う朝陽にサラがそう反論する。

 

「あっちとは、そんな話してないし、興味もないわよ」

 

 まぁ、朝陽はネクサスと共に行動する、というかネクサスに保護されたこともあってネクサスが面倒を見ている面もあるが、留守番中はセリアやアイシアともそれなりに話はしている。

 

「………ネクサスは…………………ネクサス?」

 

 シンシアが首を傾げながらそう呟く。

 

「なによ、それ?」

 

 留守番中にセリアやアイシアとの言語訓練も相俟って、それなりにこちらの言葉を喋れるようになっていた朝陽は、そんなシンシアを見て頭を抱える。

 

「………ネクサス……一緒だと、ホッとする…」

 

「そうですね。ネクサス様といると、私も安心できますね」

 

 シンシアの開いた突破口と考えたフレイシアスもそれに乗っかる形で話に加わる。

 

「お2人はどうですか? ネクサス様と一緒にいて…」

 

「私も…その、気を張らずに済むというか…自然な感じで接することができるというか…」

 

 フレイシアスの言葉にサラが何とか上手い例えを言おうとするが、上手く言葉にできないでいた。

 

「まぁ、年上だからか…妙に手慣れてる感があるのが、癪だけど…悪い奴ではないわね」

 

 素直でない答えを口にする朝陽にサラは呆れたような視線を向ける。

 

「クスクス…まるでサラさんみたいなことを言いますね」

 

 フレイシアスがそんな風に評すると…

 

「………は?」「………え?」

 

 朝陽とサラが同時に心外だとばかりにフレイシアスを見る。

 

「………似た者同士?」

 

 その様子を見ていたシンシアからもそんな指摘を受ける。

 

「「なっ!?」」

 

 流石に朝陽もサラもその言葉には驚いてザバン、という音を立てながら同時に湯船から立ち上がる。

 

「誰がこんな貧相なやつと!」

 

「どこが貧相ですか!? そういうあなたは逆に動きづらそうですが!?」

 

「うるさいわね! こっちも好きでこうなったんじゃないわよ!」

 

「自慢ですか!? 最近はシンシアにだって追い越されているというのに、持ってる者の余裕ですか!?」

 

「なにがよ!?」

 

「なんですか!?」

 

 敢えてどこが貧相で、どこが動きづらそうなのかは置いておくとして…。

 

「お2人とも…流石にそれははしたないかと…///」

 

 湯に当てられたのもあるのか、それとも別の要因か…若干、頬を赤くするフレイシアスが苦言を呈すると…

 

「………胸?」

 

 シンシアが首を左右に動かしながら立ち上がった朝陽とサラの胸を見比べる。

 

「「---!!」」

 

 同時にキッとシンシアを睨む朝陽とサラ。確かに似た者同士かもしれない。

 

「………???」

 

 当のシンシアは何故睨まれたのかわからず、自分の胸を下から持ち上げるようにすくう。

 

「………ネクサス。大きい方が、好きかな…?」

 

 その何とも言えぬシンシアの一言に…

 

「「------」」

 

 サラと朝陽がこの場にいないネクサスに何故か殺意を抱き…

 

「もう…シンシアさんまで…///」

 

 フレイシアスは困ったような反応を見せる。

 

 

 

 そうしてネクサスの岩の家側の浴場では、親睦を深めるどころか妙な張り合いが起きてしまっていた。

 

 そんなこととは露知らないネクサス、オーフィア、アルマが家に戻ると、風呂から上がっていた4人の微妙な空気感に戸惑いを覚えてしまっていた。

 ネクサスが『何があった?』と開口一番に聞いたが、朝陽とサラはネクサスを睨むのみ。シンシアは平常運転で、フレイシアスも困った表情でいた。

 ここは同性であるオーフィアとアルマに任せ、ネクサスは自室に戻るのだが…。

 

「俺、なんかしたか?」

 

 自室のベッドに横になりながらそんな疑問を小さく口にするだけだった。

 しかし、その問いの答えは返るはずもなかった。

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