庁舎の会議室での出来事の後、リオ達はラティーファ達と合流し、昼食を取ってから里で暮らすための住居へと案内されることとなる。
案内はアースラで、場所は庁舎から数分程度の距離にある複数の樹木が支柱となっている大きなツリーハウスだった。ちなみにこの辺りは里の上層部に位置する人達の家が多く、隣はアースラの家だという。
「何から何までありがとうございます」
「俺達まで住まわせてもらってなんか悪いですね」
「よいよい。お主達は儂らにとっては大事な客人でもあり、恩人でもあるからの」
リオが丁寧にお礼を言い、ネクサスも頭を掻いて申し訳なさそうにするが、アースラは気にした様子もなく答える。
「うわぁ~!」
家の中へと案内され、ラティーファが歓声を上げる。
玄関を入ってすぐ目に飛び込んだのは開放的なリビングダイニングで、室内にはシックな家具が配置しており、引き戸を開ければ外を見渡せるデッキに直通している。
さらに主寝室を始めとしたいくつかの寝室があって、キッチン、トイレ、さらには風呂も完備されていた。
(浸かれる風呂、だと!? 日本人としては実に魅力的な物件だな!)
風呂を案内され、リオとラティーファ、ネクサスが目を輝かせていた。
「………………?」
その3人の様子にシンシアは少し首を傾げていたが…。
案内を終えたアースラが隣の家に帰宅し、しばし共に旅をしていた4人の時間が流れる。
「部屋割りはどうする?」
「後で決めよう。今は少しゆっくりしたいしな」
「そうか」
4人は現在、リビングで寛いでいた。
「ネクサス」
「ん~?」
すると、リオが真剣な表情でネクサスを見る。
「なんだよ、急に真面目な表情なんてしてよ」
ソファに深く座り、身体を預けていたネクサスだが、リオの表情を見て姿勢を正しながら尋ねる。
「これから、どうする気なんだ?」
「これから、か……そうだな…」
「「………………」」
リオの問いにネクサスは静かに眼を瞑る。その様子をラティーファとシンシアも黙って見つめていた。
「元々、勝手についてきた身だしな。それにシュトラール地方には帰る場所もない。あるのは、罪で汚れた己の身一つだ。かと言って、ここにずっと居座るのも何か違う気がする」
静かに、ネクサスは語り出す。
「元は村人。奴隷に堕とされ、裏組織で欠陥品呼ばわりの日々を過ごし、初任務は捨て駒同然。そして、任務終わりに追手を差し向けられ、自分の死を偽装し、逃げ延びて…面白い奴を見つけたからと追いかけ、同行してここまでやってきた。我ながら計画性の欠片もない、酷い人生だ。けど、まぁ…」
そこでネクサスは眼を開いてリオとラティーファ、そしてシンシアを見る。
「出会いには、恵まれてた方かな? お前達に出会えてよかったよ。だから、迷惑じゃなきゃ…もうしばらく一緒にいさせてくれないか? その内、目的意識を持つかもだが…生憎と、今は何も浮かばなくてな…」
それはネクサスの本心だ。前世では、特に何になりたいとかを確立する前に死んでしまい、今世では冒険者を夢見ていたものの、その夢は前世の記憶が戻った際に捨て去ってしまった。だから、ネクサスには特段なりたいものはなかったし、漠然としか生きてこれなかった。それでも腐らずにいたのは…忍という前世の自分が教えてくれた。未来は自らの手で切り拓くものだと…生きていれば、未来は変えられるのだと…そんな想いが今のネクサスの根底にあった。
だから、ネクサスは…しばらくはリオと行動を共にしたいと願った。リオにどのような目的があるのかは知らない。もしかしたら、邪魔で拒否されることだってあり得る。だから、そこまで強くは願わない。いずれは里を出て、どこかでひっそり暮らすのもありだとも考えている。
「………………」
そのネクサスの答えに、リオは…
「……いいよ。なんだかんだでネクサスがいて助かってる部分もあるし…何より、稽古相手がいなくなるのは俺も寂しいからな」
実はこの旅を通し、ネクサスはリオの稽古相手をすることが多かった。それはちょうどラティーファが心を開いた頃のことで、相手がいた方が稽古も捗るだろうと、ネクサスから言い出したことだ。今では互いの訓練の締めとして立ち会うことが多く、稽古だとしても本気でぶつかり合うことも間々あった。リオは剣、ネクサスは二刀流のダガーを用いることが多いが、徒手空拳だったり、得物を入れ替えたりとそれなりに充実した日課になっていた。
「……そっか。ありがとな、リオ」
ネクサスもそんなリオの言葉にお礼の言葉を言うと、改めてソファに深く身体を預けた。
そんな会話をしてから日が落ちる少し前のこと。
「ご、ごめんください!」
アースラが案内をしている時に物資をサラ達が持ってくると言われていたのを思い出し、リオが玄関まで出迎えに行く。それを見て男手も必要だろうと、ネクサスも立ち上がってリオの後を追う。
「皆さん、こんばんは」
「よっ、こんばんは」
「こ、こんばんは!」
リオが愛想良く、ネクサスも軽い感じで出迎えると、サラがガチガチに緊張した面持ちで一礼する。サラの後ろにはオーフィアとアルマ、フレイシアスもおり、それぞれに会釈していた。
「アースラさんからお話は伺っております。さ、中へどうぞ」
「ん~?」
リオがサラ達に対応してると、ネクサスが不思議そうに首を傾げる。
(はて、手ぶら? 外に荷物が置いてある…感じでもねぇしな)
「ネクサス」
「ん? あぁ」
玄関で突っ立ていたネクサスをリオが呼び、ネクサスも不思議に思いながら後を追う。
「ラティーファ、サラさん達だよ」
「シンシアも一言、挨拶しとけ」
ネクサスは多分無駄だろうと思いつつも、シンシアに告げていた。
「こんにちは、ラティーファ、シンシア」
リオに紹介され、サラ達がリビングのソファに座るラティーファとシンシアに挨拶する。
「あ、こんにちは。お姉ちゃん達」
「………………」
ラティーファは礼儀正しく4人にお辞儀したものの、シンシアは一言も発することなくペコリと会釈したのみだった。
「はぁ…いつまで経ってもそのスタンスは変わらんのか。悪いな、サラ…さん達も」
そんなシンシアの態度にネクサスはどこか呆れたような溜息を吐く。
(どうにかして心を開かせてやりたいけど…道のりは長いな…)
内心ではシンシアのことを気にかけているものの、その根底に何があるのかわからない以上、気長にやろうとネクサスは考えていた。
「いえ、お気になさらず。ネクサス様も無理な言葉遣いは不要ですよ?」
「そうか? なら、俺のことも様付けしなくていいぞ。ただ、俺からは呼び捨てになりそうだけど…構わないか?」
「えっと、はい。呼びやすいようにしてくれて構わないかと…」
「そっか。すまんな…どうにも目上とか年上の人とかなら敬称も付けやすいんだが…歳が近しいとなると、呼び捨てになっちまうんだよな。俺の場合は…」
「そうなんですか?」
「まぁ、俺の性格かその辺の問題だからあんま気にしないでくれ」
「わかりました。では、これからはネクサスさん、とお呼びしますね」
「おう。それで頼むわ」
「はい。それで、リオ様。早速で恐縮なのですが、荷物を搬入してもよろしいですか?」
サラとネクサスがそのような会話をした後、サラがリオにそう尋ねていた。
「はい。お願いします」
「とは言え、その荷物は? サラ達は手ぶらで、さっき外を軽く見たが、荷物らしいもんはなかったが…?」
リオがお願いするが、ずっと疑問に思っていたことをネクサスが聞き返す。
「そういえば…確かに手ぶらですね?」
リオも気付いてはいたらしいが、ネクサスほどズケズケと質問はしないようだ。
「ご心配なく、
「うん、任せて」
「「?」」
とりあえず、リオの案内で全員で食糧庫へと赴くことになった。
「『
食糧庫に着くと、オーフィアが中へと入って手をかざすと、何やら呪文を詠唱した。
すると、オーフィアのかざした手の先の空間が渦状に歪み、その直後、食糧庫の中に様々な食材が出現したのだった。
「「えっ!?」」
「っ!?」
「こいつはおったまげた…」
「オーフィア姉さんが使ったのは、あの腕輪…『時空の蔵』と呼ばれる魔道具です。腕輪には、時間的空間的に隔離された亜空間を作り出す時空魔術が込められていて、それを登録者である者の魔力と、特定の呪文を用いることで物を出し入れすることが出来るんです」
初めて見る光景に驚いていたリオ達にアルマが少し誇らしげに説明していた。
「凄いですね。それほどの物が…」
「精霊の民ってのは、時空魔術も扱えるもんなのか?」
驚きから回復したリオとネクサスが疑問を投げかけると…
「はい。ただ、燃費の悪さがネックでして…使用には大量のオド…人間族で言う魔力を消費します」
さらにこの時空の蔵を作るには『精霊石』という魔石や魔力結晶石の上位互換品が必要なのだとか。
それから全員で食材の整理を行っていると、リオがとある食材を発見する。
「これは…?」
「それは稲の籾を脱穀したものですね。炊いたり炒めたりする穀物の一種です」
そのアルマの説明を聞き、リオが納得していると…
「米だと!?」
ちょうど近くで聞いていたのか、流石のネクサスも思わずといった具合に驚きの声を上げ、「あ、しまった」という表情をしながら顔を逸らした。
風呂の時も頑張って耐えて内心で歓喜したが、米と聞いては日本人として反応せざるを得なかったわけで、流石に内心で驚くわけにもいかず、ついつい口から言葉が出てしまった訳だが…。
「ネクサス。お前…」
それによってリオも何かを察したのか、驚いたように目を見開いてネクサスを見た。
「? よくご存じでしたね? 確かにお米と呼ばれていたと思いましたけど…」
アルマが首を傾げてそう言うと…
「ま、まぁな~。こう見えても意外と俺って博識だし?」
大量の冷や汗を掻いた状態で明後日の方向を見ながら物凄く胡散臭い言葉を吐いた。
「自分で意外って…」
リオがやれやれと肩を竦めたが…
『今夜、話を聞かせろ』
表情は呆れていたが、その眼は笑っておらず、視線がそう物語っていた。
「うぐっ…」
その拒否権を許さない圧にネクサスも逃げれそうにないと判断したのか、ガックリと項垂れていた。
食糧庫での整理を終えた8名はリビングに戻り、お茶を用意して一服していると…
「その…リオ様。私達はどちらのお部屋で寝たらいいでしょうか?」
「………………はい?」
突然のサラの発言にリオがきょとんと首を傾げる。ネクサスの件でどう問い詰めようか、少し悩んでたところでその発言だったので、少し間が空いてしまったようだ。
「えっと…最長老様…アースラ様からお聞きになっていませんか?」
「えっと、何をでしょうか?」
リオも今の一言で状況が理解できたらしいが、心を落ち着けるために敢えて尋ねた。
「私達4人もこの家に暮らしてリオ様やネクサスさん達のお世話をするようにって…」
そのサラの言葉に…
「…………えぇ!? お姉ちゃん達もここに一緒に住むの?!」
時間が要したが、最初にラティーファが声を上げて驚いた。
「確かに世話役がどうとか言ってたが…まさか一緒に住むって話とは…」
ネクサスも先の失態を一旦棚に上げ、悩ましげに頭を掻いていた。
「………………」
シンシアはいつもの無口無表情なので反応がイマイチわからないが…。
その後、アースラもやってきてサラ達のことをお願いされ、リオもネクサスに視線を送るが、ネクサスも困惑したように頬を掻いてリオの判断に任せると、視線を送り返していた。リオもそれを受け、サラ達が嫌じゃないならと承諾した。
その結果、リオ達と精霊の民の少女達との同居が決まった。
まだ部屋割りを決めてなかったこともあり、部屋の数を確認したところ、主寝室を含めて寝室がざっと9部屋あることを確認した一同は部屋割りを決めるのだった。同居メンバーはリオ、ラティーファ、ネクサス、シンシア、サラ、オーフィア、アルマ、フレイシアスの計8人なので結構ギリギリであった。
そして、その日の晩はこれから始める新生活を祝してささやかな晩餐会を開くことになる。参加メンバーは同居する8人に加え、最長老であるアースラ、シルドラ、ドミニクの3人も加えた11人とそれなりに多くなった。
料理は最初サラ達が作ると言い出したが、これから一緒に住むのだからとリオとネクサスも参加することとなった。それに参加人数も多いので、料理を供給する役も必要だろうというのと、ラティーファの鶴の一声で2人も参加することになったのだ。
リオは持ち込まれた食材を使って再現したい地球の料理を作り、ネクサスもリオにバレた以上は隠しても仕方ないとリオのサポートをしつつ自分も地球の料理を再現するのだった。
2人の料理はなかなかに好評だったので、オーフィアやフレイシアスが教えてほしいと頼んだほどだ。リオもネクサスも里の料理を教えてもらうことをお願いしていた。
………
……
…
ささやかな晩餐会が終わり、同居メンバーが寝静まった頃…
コンコン。
「開いてるよ」
主寝室をノックした相手にリオはそう答える。部屋決めの際、『主寝室は年長者のネクサスが使えば』とリオは言ったが、『ここの中心人物はリオだし、リオが使えばいい。俺はこじんまりした方が気が楽だ』と言って辞退したのだ。結果、主寝室はリオが使うことになったのだ。
「邪魔するぜ」
そこにネクサスが入ってくる。その表情は諦観の念が強いのか、苦笑いを浮かべていたが…。
「せっかくの晩餐会の後に辛気臭い話をしなくてもな」
明るかった先程の晩餐会を思い出したのか、ネクサスがそのように呟くが…
「ネクサス」
「わかってる。わかってるさ。いずれ話そうと思ってたことだし、観念するよ」
リオの鋭い呼びかけにネクサスは観念したように肩を竦める。
『俺は、忍。紅神 忍。それが俺の前世での名前だ』
すると、ネクサスは久し振りに使ったからなのか、少し拙い感じの日本語で改めてそう名乗っていた。
『日本語…』
リオもまた拙い感じの日本語で呟いていた。
『やっぱり、お前もか…』
『知って、いたのか?』
『確証はなかった。だが…この旅の中で、漠然とそんな予感はあったんだ』
『そうか…』
リオとネクサスの間に少しだけ沈黙が流れる。
『なぁ、ハルトってのは…お前の?』
『あぁ。前世の名前…"天川 春人"っていうんだ』
先に沈黙を破ったのは、ネクサスの方だった。
『名前に聞き覚えはないが…あの時…死の間際、バスに乗ってたか?』
ネクサスは少しだけ躊躇したようにだが、ハッキリと尋ねた。
『っ!? じゃあ、ネクサス…いや、忍さんも?』
『あぁ。俺は20歳の大学生だった。あの時、バスの外を見てたのはお前か?』
『はい。俺も20歳の大学生でした』
『そうか…じゃあ、お互いにさん付けはいらないな』
前世ではタメだとわかり、ネクサスは砕けた口調で続ける。
『前世の記憶が戻ったのは、7歳くらいの頃だ。春人もそうか?』
『はい。7歳くらいの時に記憶が蘇りました』
『こっちでは俺の方が一つ上だから、ハルトは俺よりも1年遅かったのか?』
『おそらくは…』
何か法則性でもあるのか、と2人は考えていたものの、それを証明する術はなかった。
『あの時、バスにはもう2人…女子高生と小学生くらいの女の子がいたのは覚えてるな?』
『はい』
『その子達の所在は…春人なら既に見当がついてるな?』
『では、忍も…?』
『あぁ…薄々だが、確信は持っている』
ネクサスはリオにそう伝えた後、ある事実も教えることにした。
『あの時、意識が遠ざかる中で、俺は春人を中心に魔法陣が浮かぶのを見たような気がした。もしかしたら、それが原因で転生したのかもしれない、と俺は考えている』
『そうなんですか!?』
『確証はない。だが、他に要因が思いつかないのも事実だ』
『そう、ですか…』
ネクサスが前世で見た最期の光景を伝えると、リオも驚いていた。
『一応、確認だが…小学生の女の子は、ラティーファちゃんだな?』
『……えぇ、ほぼ間違いないかと…』
少し間を置いたが、ネクサスの問いにリオは頷いていた。
『となると、やはりリッカ商会の会頭かそれに近しい人間が女子高生の転生者か…』
『会ったのですか?』
『いや、一度は奴隷にまで堕ちた身だ。リッカ商会に買い物はしに行ったが、そこまでは確かめられなかった。だが、推測は出来た。問題は、どういう意図で地球産の商品を展開していたか、という点だな』
『それに関しては俺も気になっていました』
『ともかく、会う機会があれば、いずれ確かめられるだろうさ』
『そうですね』
転生者についての議論が終わると、今度はそれぞれ転生した後のことについて話をした。
『春人は…いや、リオはどんな人生を送ってきた?』
『……5歳までは母親を一緒にベルトラム王国で暮らしていました。けど、母は俺の目の前で殺され、俺は2年ほど孤児としてスラム街で生きてきました。母を殺した奴に復讐するために…』
『………………』
リオの口から聞かされた話にネクサスは流石に言葉を失う。
『ちょうどその頃に前世の記憶を取り戻しました。その直後に転機が訪れ、俺は王族を助けた恩賞としてベルトラムの王立学院に編入することが出来ました。ただ、それも演習先での出来事が原因で濡れ衣を着せられて、出奔する羽目になりましたが…』
『それは、今年のことか?』
『えぇ。それで恩師の人だけに別れを告げて、ここまで来ました。その途中で出会ったのが…』
『俺達ってことか…』
『そうです』
リオの話を聞き、ネクサスは少し居心地が悪かった。
『悪いな、辛いことを思い出させて…』
『いえ…』
そう答えるリオの表情は硬かった。
『俺は、昼間にも言ったが、元は村人だった。でも村で年貢が納められなくてな。髪色が珍しかったから奴隷に売られた。一度逃げ出したが、結局は連れ戻されて奴隷になった。で、裏組織に買われて殺しの技術を叩き込まれた。訓練と称して人殺しなんかもした』
『ぇ…』
『でもな。この世界では、日本の常識は通じない。だから俺は、生き残るために殺した。生き残れば、いつか未来を切り開けると信じてな』
『………………』
『後悔がないって言ったら嘘になる。でも…それでも、生きたかった。だから今度は生き残ろうって頑張った。ま、魔法が使えない欠陥品呼ばわりだったがな…それでシンシアと組んでプロキシア帝国の諜報活動をして、帰還する最中に追手を騙して俺達の死を偽装した。そして、ガルアーク王国に戻って、アマンドに身を潜めてたら、お前を見つけた。それで勝手に追いかけて、今に至るんだ』
『そう、だったのか…』
ネクサスの話を聞いて今度はリオが暗い顔になる。
『軽蔑するか?』
『いや、そんなことはない。この世界では…前世の常識なんて通用しないってのは俺も嫌ってほど痛感してるから…でも、俺はまだ…』
『無理に納得する必要なんてない。でも、俺達は今、この世界で生きている。だから覚悟は必要だろうな』
『あぁ』
そう言って互いにぎこちない笑みを浮かべていた。
「さて、ちょっと長居しちまったな。日本語使うのも久々でなんか違和感があるわ」
日本語からこの世界の言葉にシフトすると、ネクサスは軽く身体を伸ばしていた。
「そうだな。でも、たまにはこういう会話も悪くない。同郷の人間と話せるみたいで…」
リオも苦笑していた。
「なぁ、はる…リオ」
春人と言いそうになったが、ネクサスはリオと言い直してから尋ねた。
「ん?」
「お前さ…未練とかあるか?」
それは何気ない質問だった。
「……ないと言えば、嘘になるかな。それが?」
ネクサスはリオの表情が一瞬悲しみを見せたのを見逃さなかった。
「そっか。ま、お互い死んで、もう一回生きるチャンスを得た身だ。今を自由に生きようぜ?」
復讐をやめろ、とは言わなかった。裏組織で生きてきて、リオの過去も知った今では止めようとは思わなかった。それが今の…リオの目的ならば、邪魔をするのは野暮だと考えたからだろう。
「それが許されるのならな」
「真面目というか…堅いな、リオは…」
リオの答えにネクサスは苦笑すると、主寝室を出て自室へと戻っていく。
こうしてリオとネクサス。
2人の転生者は真の邂逅を果たした。
リオは復讐のため、ネクサスは自由に生きるため…。
別々のベクトルを持った2人だが、同じ事故がきっかけで転生したという共通点があり、そこから妙な親近感を抱くに至る。
それが良いことなのか悪いことなのか、誰にもわからない。