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第1話 軍祭、奇襲、対応
中央暦1639年9月23日
フェン王国 某所ーーー
フィルアデス大陸の東に位置する、勾玉を逆さにしたような陸地を持つ『フェン王国』と言う国がある。
フェン王国、この国に魔法は無い。国民全員が教育として剣を学ぶ。
王宮騎士団の十士長アインは今日も剣を振っていた。彼は国に10人しかいない剣豪の称号を持っている。
「アイン、ちょっと来てくれ」
アインの上司である、騎士長マグレブが話しかける。
「何ですか?」
「剣王シハンがお呼びだ」
剣王シハンとはフェン王国の国王である
「え?私をですか?」
十士長ごときが剣王に呼ばれるなんて・・・考えられない事だった。
「いや、私もだ。全騎士団の十士長以上の者が対象だ、どうやら国の一大事らしい」
彼は王宮へ向かった。
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1時間後
フェン王国首都アマノキ 王城ーーー
日本人が見たら時代劇のセットかと疑うほど戦国~安土桃山のような城の大部屋に20人ほどが集まっていた。
「パーパルディア皇国と紛争になるかもしれない」
「「「「「!!!!!!!!!!!!!」」」」」
全員に衝撃が走る。
戦力差は絶望的であり、さらに敵は列強だ。兵士の装備も全く違うので、数値以上の差がある。
敵が文明圏というだけでも避けるべきである。にも関わらず、よりによって列強・・・場は静まりかえる。
「とにかく、各人戦の準備をしておいてくれ」
張り詰めた空気が流れた。
隣国のガハラ神王国への親書作成や、外交ルートでの交渉に関する話し合いが行われた後に、次の議題へと移る。
「剣王、日本と言う国が我が国との国交開設のための交渉を行いたいと言う件についてですが。」
「ガハラ神王国の使者からの情報のやつだな。ガハラの東側にあると聞くが、あそこには小さな島々しかない筈だが………それが集まってできた新興国なのか?」
「各国からの情報によると、人口は3億人を越え、国土は5つの大きな島と無数の小島から成り立ち、列強国を越える科学力を持っているとの事です」
「さ…3億人!?ワハハハハ、ホラもここまですれば大したものだ」
「それに…」
側近の言葉が詰まる。
「どうしたんだ?」
「これは未確認情報なのですが、日本にはたった1隻でロウリア王国艦隊約4000隻を壊滅に近い損害を負わせた『戦艦』と呼ばれる軍船を保有しているそうなんです。」
「戦艦……日本は列強国が持ってるような戦列艦をそう呼ぶのか?で、その戦艦とやらの詳しい情報は?」
「それが、どれもこれも荒唐無稽なものばかりで、信用に足る情報はまだ………」
「うむ。それについても確かめる必要がありそうだ。よし!直ちに日本の使者を連れて参れ!くれぐれも粗相の無いように!」
「御意」
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1時間後ーーー
「何か……こう、気が引き締まりますな。」
「えぇ。まさか戦国時代の日本と同じ文化を持つ国があって、町中の建物や城までも日本式建築と同じとは。」
フェン王国に外交交渉にやってきた、日本の外務省職員の島田耕一と随行員の浜本康則の二人は、フェン王国の第1印象が日本の文化に通じるものがあった事に興奮していた。
「剣王が入られます!」
声があがり、部屋の扉が開かれるとシハンが入ってくると、二人はその場で立ち上り一礼する。
「そなた達が、日本国の使者か」
相手は達人の域を大きく超えている。外務省職員で剣道7段の島田は、剣王の動きを見て感じ取る。
「(並の人間の闘気ではないな…まるで戦国時代の武将を見ているかのようだ…)」
「(すごいオーラ…ス○ンド使いか?)」
「はい。日本の外務省より遣わされました島田と申します。こちらは随行員の浜本です。」
「貴国と国交を開設したく思い、参りました。ご挨拶として、我が国の品をご覧下さい」
島田は、ジュラルミンの大きなアタッシュケースを机の上に置いて蓋を開ける。
剣王の前には、様々な日本の「物」が並ぶ。
日本刀、着物、真珠のネックレス、扇、運動靴・・。
シハンと側近らはそれらを手に取り驚きと興奮の目で品々を観察する。
剣王は日本刀を手に取り、引き抜く。
「(なんだこの剣は……細くて叩いたら折れそうに見えるが、この刃の薄さ、手に馴染むような握り心地、そしてこの構えやすさ…………これ程の剣を作ろうとすれば相当の手間と時間が掛かるだろう。)」
「ほう・・・これは良い剣だ。我々は貴国のことを見くびっていたようだ」
シハンは刀を鞘に戻し机に置くと、島田に向き直る。
「これ程の物を仕上げるには相当の手間と時間、そして長い間に積み重ねられた技術が必要となるのは間違いない。私は貴国に興味が湧いた。」
「では……」
「うむ。」
事前に聞いた、日本からの提示条件と、日本からの書類に間違い無いか確認する。
「失礼ながら、私はあなた方の国、日本を良く知らない」
話が続く
「日本からの提案、これはあなた方の言う事が本当ならば、すさまじい国力を持つ国と対等な関係が築けるし、夢としか思えない技術も手に入る。我が国としては、申し分ない」
「島田殿、済まないが確かめたい事があるのだが。」
「何でしょう?」
「実は、ある噂なんだが、貴国にはロウリア王国の艦隊を退けた『戦艦』と呼ばれる軍船があると聞く。」
「戦艦………それは恐らく我が国の『きい』の事でしょう。」
「やはり本当であったか。いや、実は我が国は貴国の事はあまりよく知らない。特に貴国がロウリアに勝利したと言う話については荒唐無稽な物が多い。」
「はぁ……」
島田はシハンの次の言葉に驚くこととなる。
「私は貴国の力をこの目で見てみたい。確か貴国には海上自衛隊と呼ばれる水軍があると聞く。親善訪問を兼ねてその"キイ"と呼ばれる軍船の力と貴国の水軍の力を見てみたい。」
二人は驚愕の視線をシハンに送った。
まだ国交が開かれていないのに、武装した艦船を派遣するのは戦争行為にも匹敵するものである。
普通の護衛艦なら火砲となるものは少なく(その分内に秘めた能力は凄いが)、あまり威圧感は無いが、『きい』型などの戦艦は全長が300mを超え、白 城のような艦橋も持っており、威圧感が凄まじい。
「(せっかく開きかけていた外交交渉をわざわざ閉めてしまうのは流石に外務省や日本にとっては大きな痛手になる。戦艦1隻見せるだけで国交が開けるなら背に腹は代えられんか…)」
異世界で、しかも武の国だから、そんな事もあるのかな?と思い、本国に報告した。
フェン王国からの要請により、戦艦『ひぜん』を含む海上自衛隊第2艦隊第7空母打撃群が派遣されることとなる。
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中央暦1639年9月25日
フェン王国 首都アマノキーーー
「あれが日本の軍船か………まるで城のようだ」
「城と言うよりは、島だな」
アマノキの港から沖に見える、巨大な船を見てシハン達が素直な感想を漏らす。今アマノキの沖に停泊しているのは、『きい』と殆ど全く見た目が同じである、姉妹艦の『ひぜん』だった。
『きい』は砲弾を撃ちすぎたため、砲の消耗が激しく、換装をしており、準同型艦の『とさ』も旧ロウリア王国首都ジン・ハーク砲撃後に長年動かしてなかったせいかエンジンの不調によりドック入りしたので『ひぜん』か派遣されることになった。
軍祭に参加する海上自衛隊第2艦隊第7空母打撃群の編成は以下の通り。
BB-43 ひぜん
CVN-73 しょうほう
CG-79 かこ
DDH-179 ふそう
DDG-175 みょうこう
DDG-127 あずま
DD-136 さとぐも
DD-144 よいづき
「私は何度かパーパルディアに行き彼らが保有している戦列艦を見た事がありますが、アレの前では……」
「確かに、パーパルディアの戦列艦など小舟……いや、玩具だな」
騎士長のマグレブとシハンは笑いながら『ひぜん』とパーパルディアの戦列艦をそう例えた。
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海上自衛隊戦艦『ひぜん』CIC内ーーー
CICでは『ひぜん』艦長坂本隆士1等海佐と第7空母打撃群司令官村上圭太准海将は驚愕していた。
「う~む、信じられんな」
「しかし、間違いありません」
「ステルス戦闘機が必要だな…ステルス艦もいるか?」
上空に飛んでいる『風竜』と呼ばれる生物から、レーダー波に酷似した電波が照射されている。
このレーダー波は、航空機の物として見れば、それなりに出力が高く、ルックダウン能力はあるかどうか分からないが、十分脅威になる。
文明圏から外れた国で、レーダーを持つ飛行物体が確認された。つまり、文明圏には、これを大量に運用出来る部隊がある可能性もある。
この発見により、異世界に転移してから高額なため生産が見送られていた『F-3』『F-5』『F-35』の生産開始、また超高額なため生産停止中の『F-22』も生産停止が解除されることとなる。
「艦長。そろそろ時間です。」
「ああ、教練対水上戦闘用意!!」
坂本の指示で、乗員達は各々の部署に就く。
「主砲右砲戦用意!!弾種HE、目標、右舷標的!」
「弾種HE!目標、右舷標的!」
命令を受け取った砲術長は、CICのトリガーを操作すると、自動で測距儀が旋回し、右に見えるフェンが用意した10隻の標的船に照準を合わせ各砲塔に情報が伝達されると、4基の主砲塔が動き始める。
「おぉ………あの巨砲が動いたぞ」
シハンは天守閣から見える『ひぜん』の各主砲搭の動きを見ながら、これから起こる事に内心ワクワクする。
「砲術長、外すなよ!」
「あんな近い的、外す方が難しいです!」
坂本の指示に砲術長は気合いを入れて、トリガーに指をかける。
3回程警報が鳴り響き、乗員は艦内に待避した。
「撃て!」
その時、アマノキ全体にに雷鳴のような爆音が響き、市民達は何事かと沖合に視線を向ける。アマノキ全体が見渡せる天守閣に居たシハン達は耳を塞ぎ後ずさる。
各国武官達も目を白黒させる。
「うぉっ!!」
「なんだぁ!!」
爆音が響いた直後、10隻の標的船を取り囲むように8本の巨大な水柱が上がり、標的船は水柱の中に消えて見えなくなった。
30秒して水柱が無くなると、さっきまで見えていた筈の標的船は姿を消し、海面には標的船の残骸が浮かんでいた。
標的船10隻は、爆散、轟沈した。
「なんと…………」
シハンは言葉が出なかった。
「……途轍もない威力の砲を…12門も載せるとは…」
「我が水軍が戦ったとしても…砲が発射された時点で終わりでしょうな…」
剣王シハン以下フェン王国の中枢は、想像を遥かに絶する日本国の戦艦の戦闘力に瞠目する。
1隻からの攻撃で、10隻をあっさり沈める。しかも、とてつもない威力の攻撃で沈めた。列強パーパルディア皇国でも、そんな芸当は出来ない事をここにいる誰もが理解している。
「すぐにでも、日本と国交を開設する準備に取り掛かろう、不可侵条約はもちろん、出来れば安全保障条約も取り付けたいな…」
「日本が覇権主義ではなく助かりました。まさに剣神のお陰でありましょう」
「そうだな。はっはっはっはっはっ!」
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数分後
海上自衛隊戦艦『ひぜん』CIC内ーーー
「間違いないな」
「はい、レーダーに感あり!西の方角、目標数20機!時速188ノットで接近してきます。あと数分でこの場に到達すると予想されます。』
「西は、パーパルディア皇国という国があったな」
「はい」
「フェン王国の軍祭に招かれているのではないのか?」
「とは思いますが…一応確認をします」
「……対空戦闘用意」
「戦闘配置ですか」
「ああ、攻撃してこないと限らないからな。この異世界じゃあ余計に」
「了解です、対空戦闘!」
「対潜警戒も厳となせ!相手は列強だ。潜水艦もいるかもしれんぞ!」
艦内に警報が鳴り響き、乗員達は突然に発令された対空戦闘用意の号令に驚きつつも、訓練通り各々の配置に就く。
「そのまま待機。突発事態に備えよ」
その飛行物体はフェン王国首都アマノキ上空に至ったが、王国からの返答は無かった。
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数分後
パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロード部隊ーーー
『ひぜん』が補足したのは、フェン王国に懲罰的攻撃を加えるためにパーパルディア皇国を出撃したパーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロード部隊20騎である。
軍祭には文明圏外の各国武官がいる。その目前で、我が国の圧倒的な軍事力、皇国に逆らった国がどんな末路を辿るかを見せつける。
パーパルディア皇国はよく逆らった蛮族の民達を各国の派遣武官を前で処刑し、『恐怖』を第3文明圏に広げていた。
ガハラ神国の風竜3騎も首都上空を飛行している。
風竜が皇国ワイバーンロードを見ると、ワイバーンロードは、階段で不良に当たってしまって絡まれている気の弱い男を見てしまったかのように、風竜から目を逸らす。
「ガハラの民には構うな。フェン王城と、そうだな…あの目立つ白い船、そしてあの灰色の巨大船に攻撃を加えろ!!」
ワイバーンロード20騎は上空で散開した。地上では各国武官やフェン国民がワイバーンロードの事を不思議そうに見ている。
「何の演技だ!?」
「どこの国だ?」
誰もが疑問に思った時、急降下していた竜が口を開け、口内に火球が形成され始める。
「「「「「!!!!!!!!!!!」」」」」
次の瞬間、10騎のワイバーンから放たれた火球は、王城の最上階に着弾し、木製の王城は炎上を始める。
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同時刻
海上自衛隊戦艦『ひぜん』CICーーー
「巡視艇いなさにワイバーン10騎が急降下中!!!」
「なっ!」
CICで悲鳴に似た報告があがる。
「『いなさ』は応戦しているか!?」
「いいえ!回避行動中です!」
「くそっ!避けられるか!?」
次の瞬間、パーパルディア皇国の皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロード5騎は、直下約500m付近に停泊中の海上保安庁の巡視艇『いなさ』に向かい、導力火炎弾を放出した。
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同時刻
巡視艇いなさ艦橋ーーー
軍祭に、事前情報の無い未確認機が多数接近中との自衛隊からの事前連絡を受けていた巡視艇『いなさ』は、エンジンを始動し、上空の監視を怠ってはいなかった。
機関室で4サイクル高速ディーゼルエンジン3基が唸り、必死とワイバーンロードの攻撃を避けようとする。
「未確認機が我が方へ発砲!!!!!」
「エンジン出力最大!回避せよ!!!」
『いなさ』は、出力を最大にし、移動を始める。降り注ぐ火炎弾を次々と回避する。艦後方で、海上に火炎弾が着弾する。
たが、一つの火炎弾が船体後部に直撃する。
「!船体後部に被弾!火災発生!!!!!!」
「消火活動を実施しつつ、最大船速へ!!!上空の監視を厳とせよ」
「了解!航海科第2分隊応急処置班!消火急げ!」
上空では火炎弾を交わされた竜騎士が驚愕していた。
「何!!あのタイミングで、ほとんどかわされただとぉ!!?」
「敵船は速度が桁違いに速いぞ!気をつけろ!」
「(とてつもないスピードで航行する白い船に巨大船?同じ旗を掲げているが見たことないな…)」
急降下から、水平飛行に移行したワイバーンロード5騎は、必中タイミングで撃ったにもかかわらず、そのほとんどをかわされた事に放心していた。
「くっっっなかなか消えないな…」
「艦橋へ、こちら第2分隊応急処置班!火は粘性があり消火困難!増援を求む!」
『こちら艦橋、了解。第3分隊も向かわせる!』
導力火炎弾が命中したことによる火災は、炎が粘性を持っているらしく、消火活動に手間取る。
「正当防衛射撃を実施せよ!!!」
いなさの対不審船用の20mm機銃が上空を向く。この機銃は対艦用であり、対空用には設計されていない。しかし、自己の生命を守るため、『いなさ』は、持てる武器を上空へ向けた。
「了解、正当防衛射撃!撃てぇ!!」
画像により、上空を飛ぶワイバーンにしっかりと照準を合わせ、発射する。曳光弾を交えて上空に弾は発射される。
『いなさ』の放った弾は、5騎中1騎に着弾し、血飛沫をあげ、ワイバーンロードは、上空でのたうちまわる。竜騎士は振り落とされ、海中へ落下した。
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『いなさ』被弾後
戦艦『ひぜん』CICーーー
「『いなさ』被弾!火災発生!」
「被害は?」
「見たところありません」
「よし…クソが、どこの国かは知らんがよくもやってくれたな…」
坂本はドス黒い声を上げる。どうやら前職は『ヤ』のつく自営業の噂は本当のようだ。
『ひぜん』へと向かってきていたワイバーン部隊は、『ひぜん』のほぼ直上から急降下を仕掛ける。
「なんてデカさだ………」
「あのような船を蛮族どもが…?」
「島みたいだ」
騎士達は距離が縮まる度に、『ひぜん』の巨体に恐れおおのく。
「あんなものはハリボテだ!怯むな!攻撃用意!」
指揮官らしき騎士は部下達にそう言い聞かせ攻撃準備を指示する。
「本艦直上、急降下!攻撃態勢に入った模様!」
『ひぜん』の第1艦橋上の見張所に居る見張員が、慌てて報告を入れる。
「艦長!」
「ちっ、対空戦闘!CIWS射撃用意!」
「だめです!CIWS射程外!」
ワイバーンはCIWSのちょうど死角に入っていた。
「くっ!総員衝撃に備え!」
艦橋では全員が対ショック体制を取る。
ワイバーンロード部隊は火炎弾を発射する姿勢を取る。
「喰らえ蛮族!」
その直後に、『ひぜん』に向かってきたワイバーン5騎から同時に放たれた火炎攻撃がが降り注いだ。
全弾が見事に命中し、第2砲塔の左舷側が炎上し、黒煙が上がる。
「被害知らせ!」
「前部第2砲塔左舷側にて火災発生!」
「消火急げ!」
「了解、自動消火装置作動!」
甲板上にある蓋が横に開き、中から穴の空いた先が丸い円柱上の物体が現れる。自動消火装置である。
自動消火装置は自動的に火災を探知し、穴から泡状の消化剤を出し、消火する。
「消火完了!」
「了解!右舷副砲!攻撃始め!!」
各副砲ごとに的が重ならないように、振り分けられる。FCSシステムにより、敵との相対速度が計算され、飛行する敵の未来位置で迎撃できるよう、副砲の砲身が上空を向く。
沈黙していた片舷5基の127mm単装砲と5インチ単装砲が起動し、自動制御で逃げようとするワイバーン部隊を追尾する。
「どういう事だ!?あの数の火炎弾を喰らって平気なのか!」
水平飛行で待避行動を取っていたワイバーン10騎は、渾身の一撃が効いていない事と摂氏何百度もある炎が瞬く間に消え去っていく様子に唖然としていた。
しかし戸惑っているうちに副砲が完全自動制御により5騎のワイバーンを瞬く間に撃墜。残りのワイバーンロード部隊5騎も海上自衛隊の各艦から発射されたCIWSや砲撃によってこの世界から姿を消した。
海上自衛隊第2艦隊第7空母打撃群に攻撃を仕掛けてきたワイバーン部隊は3分もしないうちに全滅した。
「「「……………………………………」」」
剣王シハン及びその側近たちは、開いた口が塞がらなかった。ワイバーンロードは、間違いなくパーパルディア皇国のものだろう。
我が国が、ワイバーンロードを追い払おうと思ったら、至難の技だ。1騎に対して一個武士団でも不可能だ。そもそも、奴らは鱗が硬く、弓を通さない。
文明圏外の国で、1騎でもワイバーンロードを落とすことが出来れば、国として世界に誇れる。『我が国は、ワイバーンロードを叩き落すことが出来るほど精強である』と…
それを、日本の奴らは、いともあっさりと、怪我をして動けなくなったハエを踏み潰すかのように、自分はほとんど怪我を負わず、列強の精鋭、ワイバーンロード竜騎士隊を20騎も叩き落してしまった。
しかも、日本の白い船は、軍ではなく、警察的な役割を果たす船らしい。
日本は、文明圏外の武官が集まっている軍祭で、各国武官の目の前で、各国が恐れる列強、パーパルディア皇国の精鋭ワイバーンロード部隊を赤子の手をひねるように、叩き落とした。
歴史が動く、世界が変わる予感がする。ワイバーンロードは、おそらく自分たち、フェン王国への懲罰的攻撃に来ていたのだろう。
日本をこの紛争に巻き込めたのは、天運であろう…剣王シハンは、笑いながら燃え盛る自分の城を眺めていた。
勿論、その様子は上空を飛んでいたガハラ神王国の騎士『スサノウ』と相棒の風竜は、『ひぜん』の高い対空戦闘能力に驚嘆する。
『すごいものだな…あの船は…』
風竜は感嘆の声をあげる。
『あの船から、トカゲどもに、人間にとっては不可視の光を浴びせ、船の砲はそこから反射する光の方向を向き、トカゲどもの飛行する未来位置に向かって撃っている・・・あの船は、見た目以上の技術の塊だな』
「そ…そうなのか?そんなにすごいのか!?」
『うむ、大きいだけかと思ったら違うようだ。古の魔法帝国の伝承にある、対空魔船みたいなものだろう』
「へぇ…そんなにすごいのか…帰ったら報告書が大変だな」
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1時間後
フェン王国 首都アマノキの沖500㎞の海上ーーー
パーパルディア皇国監査軍東方艦隊司令官ポクトアールは、懲罰攻撃に向かったワイバーン部隊からの通信途絶の報告を受けていた。
「竜騎士隊との通信が途絶しました」
「「「!!!!!!!!!」」」
旗艦の艦橋に驚愕と静寂が現れる。
「いったい何があった……」
「フェンにワイバーンロードを撃墜できる力はあるまい」
「我々に抵抗できる国…ムーかミリシアルか?今のところ我が国が宣戦布告を受けたと言う情報は入ってきていない。だとしたらムーとミリシアル以外の勢力なのかもしれん。」
ポクトアールは嘆きたくなった。いやな予感がする…しかし、これは第3外務局長カイオスの命である。
皇国監査軍東洋艦隊22隻は、フェン王国へ懲罰を加え、今回ワイバーンロードを倒した皇国に盾突く者に対し、各国武官の前で滅するため、風神の涙を使用し、帆をいっぱいに張り、東へ向かった。
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更に1時間後ーーー
「なんてことだ……」
「やってしまった………」
外務省職員の島田は、海上自衛隊及び海上保安庁がフェン王国に攻撃に現れた正体不明の部隊を見事に殲滅する様子を見て、多少混乱する。
国と国との争いに巻き込まれてしまった…運が悪すぎるとしか言いようがない。
しかし、今回、国籍不明の部隊は、明らかに海上保安庁の巡視艇に先制攻撃を加えており、現に船体後部に着弾し、火災も発生した。どう見ても正当防衛射撃であり、海上保安庁を責める訳にはいかない。
国籍不明部隊の数は多く、海上自衛隊が参戦しなければ、撃退は難しく、王城近くにいた島田自身や一般人にも死の危険があった。もちろん海上自衛隊を責める訳にはいかない
「運が悪いですね…」
「ああ、疫病神でも俺に憑いているのか…」
このタイミングでこんなことが起こるなんて、本当についていない…。島田は自分の運命を呪った。
巡視艇『いなさ』はアマノキの港に停泊し、エンジンを切り、錨を降ろし、外務省の一団が来るのを待っていた。
港では、人々が目を輝かせ、こちらに手を振っている。
「お父さん、あの白い舟がワイバーンをやっつけたんだよね!」
「そうさ!あの光弾の嵐、すごかっただろう!!」
「うん!すごかった!」
「おーーい!!」
「ありがとう!」
満面の笑みでこちらに手をふるフェン王国の人々、海上保安庁の職員は少し固まった笑顔で手を振る。海上保安庁は海上自衛隊と比べると圧倒的に人気が無い。これほどまでに好意的な視線を受けたのは、初めての経験だった。
「お…外務省のお偉いさんが来たぞ」
焦りの顔を浮かべ、島田達が港へ真っ直ぐとこちらに向かってくる。
「エンジン始動!!!」
エンジンをかけるが、音がして動かない。
「「「「・・・・・・・・・・」」」」
「「「「!?」」」」
「どうした!エンジン始動だ!!」
プスっ…という音が鳴るばかりでエンジンがかからない。
「…エンジンがかかりません」
「なっ…」
『いなさ』は、パーパルディア皇国、ワイバーンロード竜騎士隊の導力火炎弾の直撃を受けた影響で、エンジンが壊れてしまった。
「原因は何だ!!何処が故障している!!」
「…不明です」
業者でなければどうしようもない。外務省の一団が到着する。
「嘘でしょ…」
「う・・・動かない!!?」
「はい、さっきの戦闘の影響かと思います。」
「自衛隊に曳航してもらう事は?」
「港が浅くて出来ません。錨も上がりません」
「自衛隊に、ボートで迎えにきてもらって、船だけ残していけば・・・・」
「新世界技術流出防止法にかかります」
「では、いなさを撃沈してしまえば・・・」
「他国の首都の港で、そんなこと許される訳無いだろう!!」
議論は続くが、いなさが動かない事実に変わりはない。
「島田さん…なんか変だと思いませんか?」
「ん?…どうかしたのか?」
「可笑しくはありませんか?フェンからあの武装勢力の正体についての解答があったのは、襲撃から一段落したつい先程です。向こう側からの説明の時に最初から武装勢力の正体を知ってたかのような口振りでした」
「…つまりお前が言いたいのは、フェンはわざと我が国を紛争に巻き込むために行った謀略だと……」
「状況証拠だけで確証はありませんが、その可能性は高いかと」
浜本の推測に島田は更に頭を抱える。
「だとすればフェンは何のために我々を争いに巻き込む必要があったと考える?」
「『ひぜん』の砲撃演習を目の当たりにしたフェンは、自国では対抗できない争いを日本に肩代わりさせるためだと思われます」
「じゃあ、『いなさ』は?」
「魔法でも何か使ったのでしょう。衛星からの情報で機械文明があることを確認しています。対機械文明用にそういう魔法を持ってても可笑しくはないかと…」
「だとしたらあのシハンて男は、相当なキツネだぞ」
島田は転移前
取り合えず、今後の事についての指示を仰ぐため外務省に連絡を取り指示を仰いだ後に、再びフェン王国側との実務者協議に入る。
事態は切迫していた。夕方に、フェン王国側との会議が予定されていたが、外務省は急遽フェン王国外交部署に連絡を求める。フェン王国側は、即時会談に応じた。
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30分後ーーー
日本国外務省の一団は、来賓室で待っていた。フェン王国は貧しい国ではあるが、外交のための来賓室は、豪華さは無いが、おくゆかしさ、趣のある部屋であり、非常に質が高い。
フェン王国騎士長マグレブが現れた。
「日本のみなさま、今回フェン王国を不意打ちしてきた者たちを、真に見事な武技で退治していただいたことに、まずは謝意を申し上げます」
騎士長は深々と頭を下げる。
「いえ、我々は、貴国への攻撃を追い払ったのではありません。我々に攻撃が及んだので、振り払っただけであります」
「さっそく、国交開設の事前協議を…実務者協議の準備をしたいのですが…」
「……今回の件について我が国からの正式な回答をお伝えします。我が国と貴国との国交開設のための本格的な協議を安全に尚且つスムーズに行うため、我々はこの場に留まりたいのです。我が国の艦船につきましては我々の警護を兼ねて引き続き停泊許可をお願いしたい」
日本政府からの正式な回答を聞いたシハン達は僅かに安堵の表情を浮かべるが、島田は更に続ける。
「貴国は、もう戦争状態にあるのではないですか?我が国は戦争に巻き込まれた形であって宣戦布告を受けていません」
「事実、死傷者も出ていませんし、我々は攻撃を受けても参戦する意欲はありません。戦争はコストが掛かりますしね」
「しかし、そんな事が通じる程、パーパルディア皇国は甘くはありませんぞ。」
「ただ1つ、これだけは、心に留めおいて下さい。あなた方があっさりと片付けた部隊は、第3文明圏の国、しかも列強パーパルディア皇国です。我が国は、パーパルディアから土地の献上という一方的な要求をされ、それを拒否しました。それだけで襲って来たような国です」
「過去に、我々のようにパーパルディアに懲罰的攻撃を加えられた国がありました。その国は、敵のワイバーンロードに対し、不意打ちで竜騎士を狙い、殺しました」
「かの国は、パーパルディア皇国に攻め滅ぼされ、国民は、反抗的な者はすべて処刑し、その他の全ての国民は奴隷として、各国に売られていきました」
「王族は、親戚縁者すべて皆殺しとなり、王城前に串刺しでさらされました」
「パーパルディア皇国、列強というのは、強いプライドを持った国というのを、お忘れなさらぬようお願いいたします」
シハンからの説明を聞いた二人は心底呆れ返ると同時に、パーパルディア皇国の実情に言葉がでない。
「成程、ご忠告感謝します」
「では我々は一度船に戻り、現状の説明を行いますので失礼します。」
二人は、問いただしかった一連の出来事について、何とか喉の奥に留めて、いなさへと戻った。
政府に問いあわせた所、日本国政府の決定は、フェン王国西側沖への護衛艦の派遣だった。
パーパルディア皇国艦隊と、フェン王国が衝突する前に、話し合いが出来ないかを試す。何とか戦闘を回避したい。
戦闘は回避したいが、新世界においては、ある程度の積極的外交も必要との判断から、今回の行動の命は下された。
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5時間後ーーー
「フェン水軍13隻、出港しました!」
「そうか」
部下からの報告を受けた坂本は双眼鏡で、13隻のフェン水軍がアマノキから出港していくのを見る。
2時間前に『しょうほう』から発艦したF/A-18Eから、西から接近してくる艦隊を確認したと言う報告が入り、その情報をフェンに伝えた結果、接近してくるのはパーパルディア皇国の艦隊であると判断された。
フェンは直ぐに水軍に出撃命令を下し、パーパルディア皇国艦隊を迎え撃つ態勢を整え出撃していく。
「司令、時間です」
「うむ、出港準備!」
「了解、出港準備!」
フェン水軍に遅れるように、村上は出港準備を出し、いなさを除く『ひぜん』以下第7空母打撃群は出港準備を整えて、先に出撃したフェン水軍の後を追うようにアマノキを経つ。
「坂本君…彼らは大丈夫だろうか?」
「難しいと思います。パーパルディアはこの世界で5カ国しか無い実力を持つ国。恐らく相当な数の戦力を投入しているでしょう」
「『しょうほう』偵察機の情報では敵は19世紀の英国を越えるほどの戦力を保有しているようです」
「一方、フェンは良くて戦国時代の海軍力…勝つのはかなり難しいと思います」
「…そうか…もし彼らが壊滅したら、我々がパーパルディアの相手をする事になるだろうが、我々は勝てるかね?」
「勝てるではなく勝たなければなりません。もし我々が負ければ、一般市民と使節団が危機に晒されるでしょう」
「それだけは何とかして防がないといけないな。まあ、『ひぜん』が負けることはあり得んが…」
坂本と村上は『ひぜん』の全能力を以てしても、アマノキに居る使節団と一般市民にパーパルディア艦隊を近付けないよう誓いを新たにする。
「フェン水軍とパーパルディア艦隊の様子はどうだ?」
「偵察機からの報告では、両軍は戦闘に入っている模様です」
「どっちが優勢だ?」
「フェンが圧倒的に劣勢です。距離が縮まる度にフェン水軍の数が減っていきます」
「いよいよ我々の番かな?」
「そうですな、対艦戦闘準備!」
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同時刻
旗艦『剣神』以下フェン王国海軍ーーー
「何と言う事だ…」
「一方的な虐殺だぞ…」
パーパルディア艦隊と接敵したフェン水軍は、船の数と性能で勝るパーパルディア艦隊の前に劣勢に立たされていた。
フェン王国水軍長クシラが乗り込む剣神の回りを航行していた軍船は、パーパルディア艦隊の戦列艦の砲撃の前に全くの無力で、時間が経過する度に味方の数は減っていく。
厳しい訓練を重ねてきたフェン水軍の軍船の甲板では、負傷した水兵がのた打ち回り、砲撃が命中し積んであった油に引火した船からは炎が上がっている。
「これが列強の力なのか……」
砲艦の数、1艦あたりの砲数の差、砲の射程距離及び威力、そして艦の船速、どれもが桁違いであり、クシラは、力の差を思い知る。
これほどの差とは思わなかった。列強とは、文明圏内での規模のみの差で、「列強」と名乗っていると思っていた。
しかし、現実は違った。「質」、「技術」においても列強は文明圏を遥かに凌駕していた。これでは、敵が1艦だったとしても勝てない。
これでは勝てない……
たが、クシラの脳裏には、まだ希望はあった。
「日本は………日本のあの軍船はまだ来てくれないのか!」
クシラも『ひぜん』の力をこの目で目撃しており、あの艦が来てくれればフェンは勝てると言う希望だけが残っていた。
「水軍長!後方の水平線を!」
部下からの報告にクシラは後ろを振り返る。
水平上に、一際存在感のある島のような巨船が姿を表す。
「おぉぉぉぉ!!!来てくれた!!日本が来てくれたぞぉぉ!!」
僅かな希望が叶ったクシラの気分は高揚し、思わず叫んでしまう。
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同時刻
戦艦『ひぜん』CIC内ーーー
「ギリギリ間に合ったな…」
「フェン王国水軍残存艦艇数3隻です。パーパルディア艦隊、依然船速を緩めることなく接近中です」
「よし、上空のヘリに通達。『予定通りパーパルディア艦隊に向けて警告を送れ。戦闘状態に陥った場合、直ぐに退避し、『しょうほう』に着艦せよ』」
「了解、『予定通りパーパルディア艦隊に向けて警告を送れ。戦闘状態に陥った場合、直ぐに退避し、『しょうほう』に着艦せよ』ヘリに送信します」
直ぐに、『ひぜん』所属のシーホークが前に出ると、フェン水軍の真上を通り抜け、パーパルディア艦隊の5㎞手前でホバリングし音声で警告を送り始める。
一通り警告を送るが、パーパルディア艦隊は速度と針路を変える事なく、まっすぐ直進してくる。
「パーパルディア艦隊、針路、速度共に変化なし!」
「引かないか…よし、右砲戦用意!機関前進全速、取舵一杯!」
「了解!右砲戦用意、前進全速!取~りか~じ一杯!」
坂本の命令により、艦が左に旋回し、4つの砲塔がパーパルディア艦隊に向く。
「弾種榴弾、目標パーパルディア艦隊!」
「照準良し!砲撃準備完了!」
「撃ち~方始め!」
「了解、撃ち~方始め!てぇ!」
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同時刻
パーパルディア艦隊旗艦ーーー
4基の主砲から放たれた12発の砲弾は、弧を描くようにパーパルディア艦隊の中心部に着弾した。
「何だ!?」
ポクトアールは中心に着弾した弾による爆発と衝撃で揺れた艦橋で尻餅をつく。
「砲撃です!敵艦からの砲撃です!戦列艦『オルジェル』『トレッリ』『ユリッチ』『フランキ』轟沈!」
「何!砲撃だと!?馬鹿な!この距離で撃って届く大砲があるのか!?」
先程現れた『日本国』と名乗る者が現れてから、状況が一変してしまった。
不思議な羽音を響かせる羽虫が警告を送ってきたが、それを無視して艦隊を前進させた途端にこの砲撃。しかも、爆発の衝撃と水柱の大きさから我々が保有するどの火砲よりも遥かに強力なのが分かる。
「見張り!敵艦との距離は分かるか!」
「えぇと…………馬鹿な!!?30㎞近く離れています!」
「何だと!!見た所10キロくらいの距離に居る筈だ!」
「角度と太陽の位置を確認しました!確かに敵艦は30㎞近くは離れています!」
「まさか……敵は我々の想像を遥かに越える程の巨艦だとでも言うのか……」
ポクトアールは『ひぜん』の大きさから『ひぜん』が近距離にいると錯覚を起こしていた。
次の瞬間、敵艦から火が吹いた。
ポクトアールの直感が警報を鳴らし、即座に命令を出していた。
「全艦回避行動!!急げ!」
その直後、艦隊のど真ん中で爆発が起き、巨大な水柱が12本上がると、側にいた艦が衝撃で海面から一瞬だけ浮き上がり、着水と同時に衝撃でバラバラとなる。
「…戦列艦『デュランベルジェ』『スタンフィールド』『ラフィット』『ボッビオ・アンドラーシュ』『メンゲルベルフ』『リード』『ブラウンスマ』『カルリエ』『ペドリーニ』『ミシュラン』
「何!」
新旧10隻の戦列艦が一度の砲撃で消滅するなど、ポクトアールの常識から考えるとあり得なかった。
「……」
横の海では撃沈された戦列艦の残骸と、僅かながら乗員の姿もある。
「まさか…竜騎士隊はあの艦に撃墜されたのか…」
ポクトアールはワイバーンロードと戦列艦を消滅させるほどの戦力を持った船に恐怖していた。
「(あの艦の情報を本国に持ち帰らなければ!本国はおそらく我が艦隊が撃沈されて怒り狂い、『日本国』に宣戦布告するであろう!あの船が一隻だけとは限らん、最悪の展開になるかもしれん!)」
ポクトアールの脳内には敵艦からの砲撃により灰燼と化す本国の姿があった。
「反転!直ちにこの海域から脱出だ!」
そう命令すると、水兵らは急いで艦を回頭させようとする。
だが、
「ウワァァァ!!!」
突然ポクトアールの乗る艦が大きく揺れたかと思った直後、彼は押し寄せる海水に呑み込まれ、自分に何が起きたのかを正確に把握する事なく海中に吸い込まれた。
ポクトアールを失った東方艦隊は戦意を喪失し、向かってきた『ひぜん』と第7空母打撃群に大人しく降伏した。
だが、3隻が被害を受けることなくパーパルディアに帰港し、それを海自は弾代の無駄ということから攻撃しなかった。
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2時間後ーーー
フェン王国 首都アマノキ
フェン王国首都アマノキの港ではパーパルディア艦隊の降伏した戦列艦が並んでいた。
パーパルディア皇国のワイバーンロード部隊をあっさりと片付けた海上自衛隊と海上保安庁、その活躍を見て、文明圏に属さず、軍祭に参加した各国武官は放心状態となっていた。
「な・・・なんだ!!!あの凄まじい魔導船は!!!」
「なんという恐ろしい力だ!!常軌を逸しているぞ!!」
「あの列強ワイバーンロードをあっさりと叩き落とした!!いったい・・・何なのだ!あの船たちは!!」
「日本という新興国家らしいぞ・・・」
「まさか・・古の魔帝の流れを汲む者たちでは!?」
「いや、あの旗を見てみろ…白い下地に赤い丸…まさか!」
「…太陽神の使者!!」
「「「「「!!!!!!」」」」」
「いや、そんな筈がなかろう。あれは御伽噺で…」
「だか、クワ・トイネ公国の森に太陽神の使者の方舟が保管してあると聞いたぞ」
「方舟って、あれか?」
そう武官が指す先には『しょうほう』搭載のF-14Eがあった。
「なっ!あれが方舟か?」
「いや、分からん。見たことないからな…」
「とにかく、日本国の技術がパーパルディアより隔絶したことがわかった…国交を結び、できれば安全保障も…」
「なっ!我が国が一番初めに日本国に目を付けていたのだ!私が一番に国交を結ぶぞ!」
「いや!俺達だね!」
海岸から海を眺めていた文明圏外の国々の武官たちは、自分たちの常識とかけ離れた力を持つ灰色の巨大船に恐怖を覚えると共に、味方に引き入れる事は出来ないかを考え始めていた。
パーパルディア皇国を遥かに超える力を…もしかしたら、日本国は持っているのかもしれない。フェン王国の軍祭に来たのであれば、フェンとは友好関係にあるという事だ。
フェン王国と良好な関係を築き、あの船の国と仲良くなれば、もしかしたらパーパルディア皇国の属国化を防げるかもしれない。
奴隷としての国民の差出や、領土の献上等、もしかしたら…
フェン王国がパーパルディアの領土租借案を蹴った時は、フェンが焼き尽くされるのではないかとも思ったが、あの船の国と友好関係にあるのであれば、フェンが強気に出るのも理解できる。
後にフェン沖海戦と言われた海戦後、日本は急激に多数の国と国交を結ぶ事となる。
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中央暦1639年9月27日午前
パーパルディア皇国 第3外務局ーーー
局長カイオスは、その報告を聞き、脳の血管が切れるのではないかと思われるほど激怒していた。
事の始まりは、フェン王国が皇国の領土献上案を拒否した事からはじまる。498年間の租借案という皇帝陛下の偉大なる「慈悲」も、双方に利があるにも関わらず、拒否される。
「フェン王国は、皇国をなめている」
このような意見が第3外務局内で主流になった。
数多の国々が存在するこの世界において、文明圏5カ国、文明圏外67カ国、国の大小はあるが、計72カ国もの属国を持つ列強パーパルディア皇国にとって、文明圏外の蛮国からなめられた態度をとられる事は、とても許容出来るものではない。
他の国々の恐怖の楔が外れては困る。このような事情もあって、パーパルディア皇国第3外務局所属の皇国監査軍東洋艦隊22隻と、2個ワイバーンロード部隊が派遣されたのであった。
ワイバーンロード部隊により、フェン王国首都に攻撃を行い、フェン人に恐怖を植え付け、軍祭に参加している文明圏外の蛮国武官に力を見せつける。
そして、艦隊による無慈悲な攻撃により、フェン王国首都 アマノキ を焼き払い、パーパルディア皇国に逆らったらどうなるのかを他国に見せつける…という計画だった。
しかし、結果は惨憺たるものだった。空襲に向かったワイバーンロード部隊は魔信を入れる間も無く、消息を絶った。どうやったのかは不明だが、おそらく全滅したものと思われる。
これについては、当初ガハラ神国風竜騎士団が参戦したのではないかと疑われた。しかし、風竜は確かに強いが数が少なく、通信する間も無く全滅するのは考えにくい。
その後に入ってきた情報、
『フェン王国水軍と、東洋艦隊が会敵し、敵水軍を一方的に殲滅中!我が方に損傷なし』
これは良い。蛮族相手なら当然の結果だ。そして、問題は次に入った情報だ。
『皇国監査軍東洋艦隊 敗北』
第3外務局に激震が走った。しかも、船団はたったの3隻しか帰らず、3隻の艦長は海戦の恐怖で頭がおかしくなったらしく、たったの1隻にやられたと、ありえない報告をしている。
艦長達の言い分によれば、
○灰色の超巨大船と会敵する。
○敵巨大船は速く、1度もこちらの射程距離にとらえることが出来なかった。
ここまでの報告でも、おかしい所は多々ある。まず、船が我が方よりも大きいのに速いという部分。船が大きいと、当然水の抵抗は強くなる。パーパルディア皇国の使用している風神の涙は、はっきり言って世界一であり、『神聖ミリシアル帝国』でも、これほどの風神の涙は作れない。
我が国は、高純度の魔石が取れる鉱山もあり、精製も一流だ。つまり、超巨大船で我が方よりも速い速度が出る訳がないのだ。
そして、艦長達の頭が壊れたと判断される決定的な報告内容、
○敵船は我々の大砲より大きい巨大砲を持ち、約3.5kmの地点から砲撃を開始した
○敵船は巨大砲により10隻の戦列艦をまとめて殲滅させた
3.5kmもの距離を置いての射撃。文明圏の列強でさえ、現在は2km飛翔する砲弾しか造れない。それを遥かに超える射程距離など、しかも文明圏外で、ありえるはずが無い。
もし、報告書が本当だとしたら、そのような距離から砲撃したとしたら砲自体が大きくなる。『巨大砲』と書かれているが、3.5kmから砲撃する巨大砲、そんなの機械文明最強の『ムー』や世界最強の『神聖ミリシアル帝国』でも作られたという報告はない。
しかも…いや、もうやめよう。これらの報告は、完全に負けた言い訳だ。文明圏外の蛮国がそんな超高度な兵器を持っている訳が無い。艦長以下の兵士たちは、口を噤んでいるという。
艦長に脅されているのかもしれないため、今後どんな敵で何隻いたのか、詳細な調査が待たれるところである。
皇国に泥を塗った敵がいるのは事実であり、ふざけた敵を殲滅する必要がある。しかし、敵が誰か知らなければ、攻めようが無い。
今回は負けている。皇帝の耳にも入るだろう。次は、監査軍ではなく、最新鋭の本国艦隊が動くこととなろう。どこかの列強がバックについている可能性も高い。
第3外務局は「敵」を知るため、情報収集を開始した。
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中央暦1639年9月27日午後
パーパルディア皇国第3外務局 窓口ーーー
「申し訳ありませんが、本日課長と会う事は出来ません。」
日本国外務省の職員は、約束したパーパルディア皇国外務局の課長と会議のためやってきたが、窓口で再度足止めをくらう。
「何故ですか?約束したではないですか!!」
「ちょっと込み入った事情が発生いたしまして・・・。申し訳ありませんが、文明圏外の新興国と会議をしている状況ではないのです。予定は未定です。また1ヶ月以上後に連絡を下さい」
外務官は連絡がなかった為知る由もないが、日本が原因で第3外務局は忙しくなっていたため、この日も重要人物とは面会できず、日本国外務省の職員は、この日もトボトボ帰っていった。
フェン王国の軍祭の後、日本は文明圏に属さない国々と、次々と国交を結んでいった。
今までは、日本から出て行き、調査して国交を申し込んでいたが、フェン沖海戦の後はレトロな船にのって次々とやってくる国が増えた。
海上保安庁は忙しくなったが、日本と国交を結んだ国は22カ国に増え、通商が始まった。
レレレさん、戦艦紀伊さん、知らんやつさん、ご感想ありがとうございます。
玄鹿さん、ケーキリゾットさん、HYPERMUTEKINGTさん、IT.exeさん、グリリンさん、Kar98kさん、アパオシャさん、塵旋風さん、哲史さん、お気に入りに登録ありがとうございます。
ARIAHALOさん、Suzu1202さん、評価ありがとうございます。
皆様のおかげで『日本国召喚』総合評価検索8ページ目一番始めまで来ました。
それにオレンジ評価まで付きました。本当に本当に感謝申し上げます。ありがとうございます。
執筆意欲もありますので今後も今作をお楽しみいただけたらと思います。
あと、アンケートを終了さしていただきます。投票してくださった135人の皆様、ありがとうございます。
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