曇りひとつない晴天、その時間は廊下を掃除していた。もちろんワドルディ達と一緒だ。
そこにロロロとラララが、猛スピードで飛び去っていった。両手にまん丸の何かを掴んで。
事件の香りを感じ取った私は、すぐに近くの空き部屋の中へ入った。
「ワドルディたち!早くこちらへ!」
ワドルディたちは言われるがまま、慌てて部屋の中へ駆け込んだ。全員が入ったので、扉を閉めて鍵をかける。
間もなくして大きな機械が動くような、ガシャンガシャンという音が聞こえてきた。扉の前を通り過ぎ、また遠のいていく。
静かになった。おそるおそる扉を開けると、廊下には誰もいなかった。
嵐を避ける事ができて、リーノは心からほっとした。
「(何かあったようですね。夕方頃にお菓子を持って、大臣家へ寄ってみましょうか)」
その日の夕方に仕事を終えることができたリーノは、昨日焼いたスコーンを持って大臣家を尋ねた。
夕食を終えたところだったらしい。スコーンを見せると一家に喜ばれた。カービィにも喜ばれた。
テーブルでは全員が揃って食べられないので、それぞれ分かれてスコーンを食べる事になった。
パーム様、メーム様、ブン様、カービィはソファでテレビを見ながらお菓子を食べている。
私とフーム様はテーブルでいただいた。そこで今日あった事件の話をする。
「今日、ロロロとラララが猛スピードで廊下を飛んでいく姿を見ました。何があったのでしょうか?」
「デデデが魔獣を呼んだのよ。そのせいでカービィがまた危ない目にあったわ」
「またですか?すみません、フーム様。陛下たちには今度こそやめてくださるよう進言します」
「リーノが謝ることじゃないわ!悪いのはデデデよ!だから、あまり気に病まないで」
「ありがとうございます。ですが、誰かが陛下をお止めしないと。今後もっと強い魔獣が送られてくるかもしれません」
一瞬、カービィが戦士として育つ邪魔をしてしまうかもしれない、そう考えた。頭を振る。
未来がアニメの通りになるとは限らない。避けられる危険は避けるよう努力するべきだ。
「……そんなふうに、心からカービィの心配をしてくれるのはあなただけだわ」
「すみません、フーム様。正直に申し上げますと、私は魔獣が怖いだけですわ」
困ったように笑うと、フーム様は声をあげて笑われた。
「私、リーノのそういう正直なところ、好きだわ」
「ありがとうございます」
とびきりの笑顔で返す。
聡明な彼女に好かれると、なんだか自分が立派な人になったかのように感じて、少しこそばゆい。
そして自分を誇らしく思うのだ。
その日の夜。陛下に本を読み聞かせているときに、お願いしてみた。
「陛下、お願いがあります。もう魔獣で遊ぶのはやめませんか?」
「いやゾイ。あんな面白いものやめるもんかゾーイ」
「魔獣より面白い物があれば、やめられるんですか?」
「……考えてやらんこともない」
「かしこまりました。少々頭を捻ってみます」
あくる日。
地下調理場にて、六名の影があった。
月一の料理パーティーの日がやってきた。三人の戦士と私たち幼馴染三人が、集まって開く料理パーティーである。食材は村で手に入りやすい物を中心に、簡単な料理を考える。
「この間はお肉を使った料理でしたので、今回は魚メインの料理を考えました」
「鮭のホイル蒸しよ。美味しそうでしょ?」
「フライパンで簡単にできますし、初心者の皆さんにはうってつけだと思います」
「蒸し料理という事は、さっぱりしているんだな。楽しみだ」
「どんな味がするんだ?」
「あっさりよ。食べやすいから気にいると思うんだけど……」
「では調理方法を言いますね。メタナイト卿、ソードナイトさん、ブレイドナイトさん。それぞれまな板の前に立ってください」
三人はそれぞれまな板の前に立つ。今回の講師役はランタンだ。テキパキと調理方法をやりながら教えていく。
まず今回用意する食材は、鮭(切り身、人数分)、お酒、塩胡椒、醤油(またはポン酢)、きのこ(今回はしめじ)、玉ねぎ。
しめじは手でちぎり分けておく。玉ねぎは皮を剥いて芽を取り、輪切りだ。
次にアルミホイルを、鮭と玉ねぎとしめじを包めるほどの大きさに切り、まな板にしく。アルミホイルの真ん中に鮭、玉ねぎ、しめじの順番で置く。
そこにお酒、塩胡椒、ちょっとだけ醤油(またはポン酢)をかけた後、包む。水が中に入らないようにしっかり。
「まずはここまで。できたかしら?」
「できたぞ!」
「ああ、簡単だな」
「じゃあ次に行くわよ」
次は蒸しだ。フライパンに包んだ鮭をそっと乗せる。中身が出ないように気をつける事。今回は一つのフライパンに鮭を三つ乗せる。
包んだ鮭の半分よりも下にくるように、水を入れる。
火にかける。水が沸騰して約十五分で、できあがりだ。沸騰させている間、お湯が無くならないように気をつける事。なくなる前にお湯を足す事。
お湯を捨てて、火傷しないように包んだ鮭を、そのまま平なお皿に乗せる。
ここで炊飯器が鳴った。
「ご飯もできたわね。さあ、サラダをちゃちゃっと作って食べましょう」
すでにサラダ用として売られていた物をボウルに移し、そこにツナとコーンをのせる。マヨネーズをかければ完成だ。
白ごはんと鮭のホイル蒸し、サラダでできあがり。
全員の声が重なった。
「いただきます」
各々が箸をのばす。男性三人は早速ホイル蒸しを食べた。
「うん、ほろほろと柔らかくて美味い」
「あっさりしていて食べやすいな。それに香りもすごくいい」
「私もホイル蒸し好きです。これだと魚が食べやすいんですよね」
「アーニャは魚が苦手なのか?」
「苦手ではありません。好き過ぎるという訳でもありません。多分蒸し料理が好きなんですわ。お肉も蒸した方が好きですから」
「そうなのか。……卿、次も蒸し料理なんてどうでしょうか?」
「ふむ。そうだな」
もくもくと味わって食べているメタナイト卿。よほど気に入ってくれたらしい。頬が緩む。
「あの、次回は私の特製料理を出したいと思うんですが……」
「リーノの特製料理を?もしや、式典で出すはずだった物か?」
「そうアレよ!リーノの料理が食べたくて、デデデの式典に参加したのに!あの大王ったらへそ曲げちゃって食べられなくなったアレ」
「御三方はリーノの料理を食べられたんでしょうか?」
「いや、食べられなかった」
「でしたら、ぜひ食べて欲しいです。リーノの料理は本当に美味しいので」
「ああ、知っている」
「まあ、そうですの?」
「少し前におにぎりを差し入れてもらった。あれはうまかった」
「あら……」
「その話は聞いてないわね」
アーニャとランタンの視線がこちらを向く。私は「話しそびれました」と言った。彼女たちの視線が後で詳しく教えて欲しいと、訴えていた。ちょっとデートしただけで、進展らしい進展はありませんでしたのに。
食事の後は、片付けだ。
前回と同じく、ソードナイトさんとランタン。ブレイドナイトさんとアーニャ。メタナイト卿と私に分かれて掃除をする。
黙々と皿洗いをしているとき、あの件を思い出した。デデデ陛下に、魔獣よりも面白い遊びを提案すること。メタナイト卿に相談してみよう。
「あの、メタナイト卿。ちょっとご相談したい件がありますの」
「なんだ?」
「陛下に“魔獣よりも面白い遊び“を提案することになったんですけれど、考えが行き詰まりまして。メタナイト卿なら何を提案されるか、お聞きしたいんです」
「難しい質問だな。陛下の事なら君の方が詳しいはずだ」
「そうですね。けれど知っているからこそ、陛下が魔獣に興味を持つのは当然だと。そんな答えに行き着いてしまいます」
「そうか……」
「陛下は刺激的なものがお好きですからね……」
それからは沈黙がおりた。
メタナイト卿は静かに考えこんでいる。私は何も言わずに、答えを待った。
最後のお皿も洗い終わって、シンクも綺麗に掃除し終わった。彼は口を開いた。
「恐竜は、どうだろうか?」
「恐竜ですか?」
「昔、仲間から聞いたのだ。男の子は恐竜が好きだと。陛下も好きになるのではないか?」
「なるほど」
そういえば恐竜回がアニメでもあったな。試してみる価値はありそうだ。
「陛下にご提案してみます。ありがとうございます、メタナイト卿」
「どういたしまして。ところで、もし私が何も言わなかったら、陛下には何を提案した?」
「そうですわね。どうしていたかしら……。私が教えてさしあげられる何かを、ご提案していたでしょうね」
「例えば?」
「料理、裁縫、勉強……簡単な日曜大工。でしょうか?」
「日曜大工もできるのか?」
「軽くて小さな棚を作るぐらいならできますわ。一人暮らしが長かったものですから」
「凄いな」
「ふふ、ありがとうございます」