平穏な日と変わらなかったと思う。
その日はフーム様、ブン様、ロロロとラララと会わなかった。お互いに遊びや付き合い、仕事などがある。珍しいことでもないので、夜は普通に明日の予定を立てながら眠った。
異変を感じたのは、メーム様から相談を持ち掛けられた時だ。
「フームったら、眠ったままのカービィとピクニックに出て行ってから戻らないの。心配だわ」
「いつ出かけられたんですか?」
「昨日なのよ」
「昨日!?一体どこまで出かけられたんでしょうか」
「行先までは聞かなかったわ。様子が変だと思っていたの。あの時止めておけばこんな事には……」
「メーム様、村人たちに聞きこみしませんか?フーム様とカービィの行方を知っている方がいらっしゃるかもしれません」
「そうね。何もせず待つよりも、その方がいいわね」
「では、村へ行く前に寄り道をしてもよろしいでしょうか?」
「いいわよ」
私とメーム様、部屋で歩き回っていたパーム様を加えて、戦士たちの休憩室を訪れた。中にはソードナイトとブレイドナイトがいた。
訪問の理由を手短に話す。彼らは「メタナイト卿も昨日から行方が分からない」と教えてくれた。
「同時期にフーム様、ブン様、カービィ、ロロロ、ラララ、メタナイト卿までいないなんて……。偶然ではない気がします」
「リーノの言う通りだ。どうだろう、ソードナイト、ブレイドナイト。一緒に村へ行って、皆の行方を聞き込みしないか?」
「わかりました」
「行きましょう」
私たち五人は手分けして村を回った。村を南北に分けて、大臣夫婦と戦士たちが聞き込みに回る。私は村の郊外を時計回りに回った。ヤブイ先生の診療所を訪れた時、フーム様たちが巻き込まれた事件について話を聞けた。
なんでもデデデ陛下とエスカルゴン閣下が用意した魔獣のせいで、カービィが眠ってしまったらしい。その病を治すためにカービィを連れてフーム様は出かけられた。ブン様はああ見えて、責任感の強い子だ。ロロロとラララを従えて、きっとフーム様について行ったのだろう。そしてメタナイト卿は、カービィを起こすために子供たちと共に危ない場所へ出かけられたのだ。
私は怒った。
今回は村人たちに手を出さなかったのかもしれない。しかし、フーム様たちとメタナイト卿に被害がおよんだ。フーム様たちが帰ってくるまで食事は、ワドルディたちだけに作らせよう。
集まった情報とそこから推測される事件を考えて、リーノは村の広場に急いだ。
待ち合わせの時間よりも早く、皆さんは広場に集合していた。
「お待たせいたしました。わたくしが最後のようですわね」
「さほど待ってはいません。今しがた集まったところです」
「そうですか?ならいいのですが。では、さっそく情報交換しましょうか」
「すまない。できればどこかの店に入らないか?」
「腰を落ち着けて話したいの。あとできれば飲み物が欲しいわ」
大臣夫婦の言う通り、少々喉が渇いた私たちは揃ってコックカワサキの店に入る。この店は、食事はイマイチ。けれど飲み物は普通なので安心していただける。
「大臣夫婦にリーノ、それにソードナイトさんとブレイドナイトさんじゃないか。珍しい組み合わせだね。なんかあったのかい?」
お喋りな店主が問いかけてくる。代表してパーム様が事情を説明した。
「そりゃあ心配ですね。みんなどこに行ったのかな?」
「それがわかれば苦労しないよ。それと、お茶を頼むよ」
「あいよ」
「あの、もしかしたらわかったかもしれません」
「なんだって?!」
ヤブイ先生から聞いた事件を話す。そして自分の推理も。すべてを話し終える頃、テーブルには五人分のお茶が運ばれた。
メーム様がお茶を一口飲み、ため息を吐く。
「不安だったけれど、メタナイト卿も一緒なら安心だわ」
「カービィを含めて、皆無事に帰ってきてくれたらいいんだが……」
「その花を探しに行ったのなら、あと三日か四日は帰って来られないなら」
「待つしかないな。救助に行ってもすれ違う可能性がある」
「そうですわね。……はあ、安心しましたらお腹がすいてきました。こちらで食事にしませんか?お茶だけ飲んで帰るというのも良くありませんから」
「それはいいが、味がな……」
パーム様の一言で皆さん黙ってしまった。散々歩き回った後に不味い物を食べたくないのだろう。それならば。
「失礼。」と言って、席を立ちあがり厨房に入った。
約ニ十分後、私とカワサキは五人分の親子丼を運んで来た。ほかほかと湯気が立ち上り、鶏肉と半熟卵と三つ葉がおいしそうだ。なにより甘くていい香りが鼻をくすぐった。
「勝手に料理を決めてしまってすみません。よろしければどうぞ」
「これは、カワサキが?」
「はい。わたくしは少しお手伝いさせていただいただけですわ」
「オレの間違いを指摘してくれたおかげで美味しく作れたよー!存分に味わってよね!」
「リーノが見ていてくれたのなら、安心だな。どれどれ……」
各人が鶏肉と卵をご飯に乗せて、一口食べる。最初に声を漏らしたのは戦士たちだ。
「うまい」
「出汁がよくきいている。いけるなあ、これ」
普段とは違う話し方を聞いて、私たちは目が点になった。視線に気づいたブレイドナイトが咳払いし、ソードナイトが隣に座る仲間を肘で小突いた。
メーム様がにこりと笑われる。
「それが二人の素なのね。あなたたちが城に来てから初めて知ったわ」
「そうだねえ。いつも君たちは忙しそうにしているから、こんな風にゆっくり言葉を交わすこともなかったね。リーノは仕事上、メタナイト卿と一緒にいる場面をよく見るよ」
「陛下について少々お話する事が多くて……」
「なるほど」
私も座り、五人でご飯を食べる。戦士たちは恥ずかしがっているのか、普段よりも固い口調で相槌を返していた。それが余計におかしくて、私と大臣夫婦は笑いをこらえることになった。
メタナイト卿たちは二日目に帰ってきた。
朝、村に向かうため城内を歩いている時だ。ボロボロの姿をしたメタナイト卿とばったり会った。マントは切れ切れ、体中埃まみれ。微かに鉄の匂いもする。怪我をしているかもしれない。その考えがよぎると寒気がした。
「メタナイト卿、怪我をされていませんか?!すぐに手当てをしないと……」
「応急処置は済ませてある。大きな怪我はないし、問題はない」
見かけよりも元気なのだろうか。肩に張った緊張が解けていく。
「安心しました。あの、子供たちは?」
「全員無事だ。怪我もしていない」
「よかった……。皆、無事に帰ってきてくれて本当に良かったです。どちらへ向かわれるのですか?」
「部屋に戻る。さすがに休みたいのでな」
「あの、私にできることは何かありませんか?」
メタナイト卿はしばし黙ったあとに「起きたら、君の料理が食べたい」と言った。
私は頬を緩ませて頷く。
それから、念のためメタナイト卿について行った。
「もしソードナイトさんとブレイドナイトさんがいなかったら、わたくしが包帯を替えるのを手伝いますわ」
「頼む。世話をかけるな……」
私は周りに人がいないことを確認してから、そっと小声で呟いた。
「世話ができるのは恋人の特権です」
「ふふ、そうか。ならば、君が怪我をしたり不調の時は私が世話を焼こう」
「その際はよろしくお願いします」
メタナイト卿たちの部屋の扉を開ける。中はもぬけの殻で、静かだった。部屋の明かりのスイッチを入れて、中に入る。
「メタナイト卿は座っていてくださいね」
「わかった。救急箱は向かいの棚だ」
指差された壁には武器が飾られている。そんな壁の左下に救急箱は置かれていた。それをメタナイト卿の傍に持って行く。彼は畳の上に座っていて、すでに包帯を取り始めていた。
「身につけていた包帯は土で汚れて使い物になりませんね。捨ててもよろしいですか?」
「そうしてくれ。ゴミ箱は……私の方が近いな」
メタナイト卿は身をよじってゴミ箱に手を伸ばした。彼はぐぐもったうめき声を上げて、手を伸ばした姿勢で止まった。素早くリーノが手を伸ばして、ゴミ箱を取った。
「無理なさらないでください」
「無理をしたつもりはないんだがな。私も歳かな」
「いくつなのですか?お若く見えますけれど」
「君より年上だ」
「それはわかりますが」
「詳しくは秘密、だな」
「メタナイト卿は秘密が多いですね」
「誰にでも、他者に言えない事はある」
それはそうだが、メタナイト卿は特に秘密が多い気がする。私が知らないだけか。
汚れた包帯をゴミ箱に入れる。戦士はその間にマントや肩当を外していく。あらわになる彼の体は傷と汚れにまみれていて、痛ましい。
「汚れを落とすお湯が必要ですね。持って来ますので少々お待ちいただけますか?」
「いや、その必要はないようだ」
「?」
間もなく部屋の扉が開いた。ソードナイトが桶を持って入ってきたのだ。桶からは湯気が立ち上っている。
「ソードナイトさん、その桶の中身はもしかしてお湯ですか?」
「ええ、卿とあなたが城の廊下を歩いているところを、先程見かけまして。手当にお湯が必要になると思い、急いで持って来ました」
「ありがとうございます。ナイスタイミングですわ」
手を伸ばして桶を受け取ろうとするけれど、ソードナイトは渡してはくれなかった。
「あの……」
「後はやっておきます。どうぞ、仕事に戻られてください」
できればメタナイト卿が傷の手当てをして、ベッドに潜るところまで見届けたかった。でもここで居座る理由が、ソードナイトに説明できる理由が私たちにはない。
メタナイト卿を窺う。目が合うと、彼は頷いた。
「リーノ、世話になった。食事、楽しみにしている」
「……はい。消化にいいものをお持ちしますわ。リクエストがあれば、夕ご飯前に仰ってくださいね。それでは、失礼します」
二人に頭を下げて、部屋を出た。
しばらく歩き、角を曲がったところでため息を吐く。
早く落ち着いて、私たちの関係を二人に話せるようになりたいわ。そうすれば、こういう時だって、傍にいられるのに。それに、せっかくヤブイ先生のおかげで包帯を巻く技術が身に着いたのだ。メタナイト卿に見せたかったな。
両手をぐっぱと握っては開いてみせる。今はとにかく、言われた通り仕事へと戻るのだった。
夕方。
いつも陛下と閣下の為に料理する時間を、今日は戦士たちの為に使う。夕飯は親子丼とスープにした。具材は小さく切って食べやすいように調理してある。喜んでもらえたらいいな。
カートに必要な物を乗せて、ガラガラと音を立てながら戦士たちの部屋に向かった。
部屋の扉をノックする。
扉を開けてくれたのはブレイドナイトだ。
「こんにちは。ブレイドナイトさん。メタナイト卿とあなた達に食事をお持ちしました」
「卿から話は聞いています。どうぞ」
扉が大きく開かれる。中に入ると、部屋の中にはソードナイトが立っていた。
「あら、メタナイト卿は……寝ていらっしゃいますのね」
畳の上で横になっている彼がいた。
ソードナイトに向き直り、メタナイト卿の具合について質問する。
「メタナイト卿はどうですか?あれから具合が悪くなったりしていませんか?」
「いいえ、問題ありません。傷の手当てをしてからは、あのように、ずっと眠っておられます」
「そうですか。具合が悪化していなくてよかったですわ」
もう一度眠る彼の姿を見てから、ソードナイトとブレイドナイトの方に向き直る。
「では、わたくしはこれで。食器やカートの類は……」
「片付けておきます。そのくらいはできますので」
「そうしてくださると助かります。失礼しますわ」
閉じた扉を再び開けて、部屋を出て行く。
陛下の為に夕食を作らないなら、もう仕事はない。このまま自室に戻ることにした。
戦士たちの部屋にて。
「メタナイト卿、起き上がれますか?」
部下たちのその声を聞いて、メタナイト卿は目を覚ました。ゆっくりと起き上がり、体に不調がないか確かめる。
「お加減はいかがですか?」
「問題ない。楽になったぐらいだ。……食事はリーノが?」
「はい。先程、我々に持って来てくれました」
「そうか。では、ありがたくいただくとしよう」
部下たちは協力してお椀に盛り付けていく。息の合った動きで無駄がまったくなかった。
今日の夕ご飯はどうやら親子丼とスープらしい。どちらも程よく味が付けられており、とろりとした卵が鶏肉に絡みついて旨い。
すぐ空になったお椀には、米粒一つもついていない。おかわりもした三人は、感謝を込めてこの場にはいないリーノに向けて手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
深夜。リーノの自室。
ベッドの上で何度も寝返りをうつ。瞼を閉じるたびに考えることはただ一つ。今日のように、恋人になったメタナイトが危険な目に遭うだろう未来についてだ。カービィとナイトメアとの戦いは始まったばかり。その戦いに、今後もメタナイト卿は自ら飛び込んでいく。
そしてメタナイト卿自身の因縁によって戦いは引き起こされる場合もある。
チリドック、シリカ、ナックルジョー……。ナックルジョーなんて三回もププビレッジにやってくるのだ。しかも二回は魔獣を引き連れてやってくる。
「こわい。こわいな……」
無力なままでは戦えない。じゃあ守ってもらうのか。それでいいのか。人には向き不向きがあるけれど、私はこのままじゃいけない気がする。
「頼るだけじゃなくて、頼られる私になりたい」
来るべき日に備えて力を付けようと考える。
ヤブイ先生の勉強会も続けていこう。そうすれば、守られるだけの私じゃないわ。
そこまで考えて、やっと意識が沈んだ。
次の日。まず基礎体力を付けるために体に重りをつけた。はじめは両手足に一キロずつ。慣れ始めたらさらに一キロ加える。重りをつけて仕事をこなしつつ、城内を歩き回る。いい訓練になると思った。まずは筋力をつけないとね!
重りは見えたら、お城のメイドとしてはカッコ悪いので、衣服で隠す。これで誰にもバレずに筋トレができる。
その日は午前中に仕事を終わらせて、村の八百屋さんに寄った。果物がたんまりと積まれたかごを二つ購入する。ついでにリボンで簡単に装飾してもらった。
それを持参して、まずは戦士たちの部屋を訪れた。
ノックする。扉を開けてくれたのはブレイドナイトさんだ。
「ごきげんよう。お見舞いの品をお持ちしました」
「こんにちは。ありがとうございます。今お茶を淹れますね」
「いえ、これから大臣一家のお部屋へ行きますので。……あの、メタナイト卿のお加減は?」
「かなり回復しています。傷もほとんど治っていますし、日常生活に問題はありません」
ほっと息を吐く。
「それが聞きたかったんです。ありがとうございます。それでは失礼します」
「あの、昨日の夕食、たいへん美味でした。皆で完食しました。作ってくださってありがとうございます」
「こちらこそ、完食してくれてありがとうございます。作ったかいがありますわ。それでは……」
互いに頭を下げ合って、私は次に大臣一家の部屋に向かった。
部屋の扉をノックすると、フーム様が迎えてくれた。その元気なお姿と、お声を聞けて、私はまた安心するのだった。
*****
数日後。玉座をコロコロと小さなほうきで掃除する。するとボタンが反応してしまった。
こんな事はナイトメア社の転送装置が導入されてから初めてで、私は大変驚いた。
やってしまった!またカスタマーサービスに会ってしまう。もの凄く嫌だが、押し間違えてしまったのはこちらだ。一言謝るべきだろう。
そう覚悟を決めたのに、作動したのは転送装置だけ。魔獣から隠れるため玉座の後ろへと避難した。直後、爆発した。
「きゃあ!!!」
ちょうど玉座が盾になり、爆風の直撃は免れた。音は城全体に鳴り響いたようだ。部屋の外からドタバタと走る音が聞こえてきて、陛下の号令によってワドルディたちが入ってきた。
しかしドン!バキ!と何かを殴る音がして、ワドルディたちは床に転がった。
やはり、魔獣が転送されてきたみたいだ。せめて姿だけでも見て、メタナイト卿に情報を渡さないといけない。
ちらっと、顔を出して魔獣を覗き込んだ。しかし魔獣はすでに扉の方に走り出していて、転送装置が邪魔になって見えなかった。
騒音が遠のいてから、立ち上がり玉座の間から廊下へと出る。
「リーノ!!」
「メタナイト卿!それにソードナイトさんとブレイドナイトさん」
すぐにメタナイト卿たちに出くわす。三人とも慌てて来たようだった。
「中にいたのか!?無事か?」
「怪我はありません。ごめんなさい。敵の姿は見ていません」
「無茶はしなくていい。私たちは後を追う。そなたは反対側へ逃げろ」
「わかりました。皆さん、気をつけて」
スカートを軽く摘まみ上げて私は走り出した。途中何度も城が揺れたけれど、転ぶほどではない。とにかく真っ直ぐ走って、行き止まりの空き部屋に入った。
電気は消したまま、暗闇の中でじっと息を潜める。
城が揺れなくなってどのくらいの時間が過ぎたのだろう。私は恐る恐る扉を開けて、廊下の様子を窺う。襲撃があったとは思えない静けさだ。脅威は去ったのだろうか?安全なのかな?
意を決して廊下に出る。
「リーノ!」
「ひっ!」
私は飛び上がって驚いた。
声の方へ顔を向けると、そこにはアーニャとランタンとソードナイトが揃っている。
「皆……どうしてここにいるの?」
「お城に来る途中、偶然メタナイト卿たちと会ってね。危ないからここへ避難するように言われたのよ」
「そうだったの。二人をお城へ連れて来てくれてありがとうございます」
「いえ。ご主人に命令されただけですので、お気になさらず」
「今ね、私たちリーノの部屋に向かう途中だったの。匿ってくれないかしら」
「ええ、いいわ。行きましょう」
「……では、私はここで失礼します。もう危険はないと思いますが、気をつけて」
「ソードナイトも、気をつけてよね」
「ああ、わかってる」
ランタンとソードナイトの気軽なやりとりを見て、私とアーニャは視線を送り合う。そしてソードナイトが走り去る。姿が見えなくなったところでランタンに迫った。
「ランタン、今のやりとりは一体どういうことなんですの」
「あんなに親しくお話しするということは、二人はもしかして……」
「違うわよ。……まだね」
ふっと笑うランタンはあんまりにも艶っぽい。私たちは言葉を飲み込んでしまった。こんなランタンは出会って今までで初めて見る。
「さあ、リーノの部屋にお邪魔するわよ」
「そうね。行きましょうか」
先を歩くランタンに遅れないよう、私とアーニャは後ろをついて行った。
二人を自室に招き入れる。扉を閉めようとしたとき、ワドルドゥ隊長が廊下の先からこちらに走ってくる姿が見えた。
ちょうどいい。今日の事件について何か聞けるかもしれない。
私は廊下の端に立って彼が通る瞬間を待つ。
「リーノ殿、探したぞ!城内の掃除を手伝ってくれないか?」
「何があったんですか?」
「侵入者が城の一部を壊してしまって、その片付けに人が必要なのだ」
「侵入者はまだ城内にいるのでしょうか?」
「いや、もういない。陛下のお話では星の戦士を探しに村に向かったようだ」
「わかりました。ちょっとお待ちくださいね」
自室に戻り、アーニャとランタンに事情を話す。
「星の戦士……カービィを探しているということ?」
「そのみたいですね。村の皆、無事だといいんですけど」
「とにかく、私は仕事に行ってくるわ。この部屋の物は自由に使って」
「いってらっしゃい。リーノ、気をつけてね」
「いってらっしゃい。悪いわね」
「いいの。二人こそ、今日はここにいてね」
再び廊下に出た。
「お待たせいたしました。それでは行きましょうか」
「うむ。頼むのである」
侵入者が開けた穴は大きく、それだけで相手の強さがわかってしまう。侵入者が転送されたとき、見つからなくてよかった。今の私では足手まといにしかならず、人質になっていたかもしれない。最悪死んでいただろう。
身震いしながら、瓦礫をゴミ収集場所へ運んでいく。それをなんども往復している内に夕方を過ぎ夜に差し掛かった。一部ではすでに修復作業が進んでいる。
「今日はここまでー!お疲れさまでした!」
「わにゃわにゃわにゃ!」
「お疲れ様です」
掃除用具を元の場所に戻しに行こうと集めた。そのときフーム様とブン様が私の名前を叫びつつこちらにやってきた。なんでしょうか。
「リーノお願い、力を貸して。訳は後で話すわ」
「今は急いでいるんだ。すぐに来てくれ!」
「え、ええ?」
左手をフーム様に、右手をブン様に掴まれて引っ張られる。もつれる足を必死に動かして、素早い二人になんとかついていく。
城の門を抜け坂道を下り、草原を走り抜け辿り着いたのはコックカワサキの店。裏口の扉をフーム様がノックする。扉は静かにゆっくりと開かれた。
「あ、フーム様とブン。それにリーノじゃないか~」
「カワサキ、入れてちょうだい」
「いいよ~」
お店の中に入る。室内は厨房の灯りが一つだけしかつけられていないため、薄暗い。私の疑問に気づいたのかカワサキが説明する。
「ここの灯りだけはついていても、外に光が漏れないから安心なんだよね」
「だからここしか明かりがついていないのね」
フーム様とブン様は納得されているが、私にはわからない。
「あの、一体何があったのでしょうか?」
質問にはフーム様とカワサキが答えてくれた。
城に転送された侵入者が、カービィを探し回って村中で暴れた。カワサキの店にも侵入者は来た。もう来てほしくないから、身を隠すように、明かりも外に漏れないように気をつけているらしい。
「あんなのにカービィが会ったらひとたまりもないわ。なんとかカービィを匿ってあげなくちゃ」
「具体的にはどうするんですか?」
「隠れる場所はもうあるの。後は食料を届けるだけ。二人にはお弁当作りと、それを運ぶのを手伝ってほしい」
「かしこまりました」
「それならいいよ」
カービィを匿うためあちこち走り回っていたフーム様とブン様は部屋の隅で休んでもらう。私とカワサキは冷めてもおいしく、食べやすい料理ということでサンドイッチを作り始めた。卵とハム、ホイップクリームとフルーツの二種類を用意する。
できあがったサンドイッチの量は普通の人なら充分だ。でも……。
「これだけじゃ、足りるはずがありませんわよね」
「カービィだもんね~」
「ねえカワサキ、ここの食料全部持って行ってもいいかしら?」
「そしたらカービィだって腹が膨れるだろうな!」
「今回はしょうがないか。いいよ。全部持って行こう」
カワサキは家中をひっくり返して、とても大きくて風呂敷のような正方形の布をひっぱり出して来てくれた。
それをホールに広げて、お弁当と食べ物をすべて乗せて包む。カワサキ二人分ぐらいの大きさになったので、持ち上げるのは大人たちに決まった。
「わたくしとカワサキとで持ちあげましょう。ブン様は横から支えてください。フーム様は私たちを先導していただけますか?」
それぞれが了承してくれたので、さっそく持ち場につく。その前に、腕と足に付けていた重りを外しておく。
「カワサキ、後で取りに来ますのでこちらのテーブルに置かせていただいてもいいかしら」
「いいよ~。食材がないんじゃ、どうせ明日は休業だし」
「ありがとうございます」
「リーノ、あなたそんなもの付けていたの?」
「ええ、ちょっと体力をつけたくて」
「ふーん」
夜。ほとんどの人が寝静まった頃合いに、店をこっそりと出てカービィがいる場所へ向かった。カービィが隠れていた場所は村から離れた荒野の洞窟だった。洞窟に入るとカービィは瞼をこすっていて、どうやら寂しい思いも怖い思いもしなかったらしい。
風呂敷の結び目を解いて、食料を見せる。赤子の戦士はその山に飛びついて、食料をぱくぱくと飲み込むように食べていく。サンドイッチもあっという間に食べてしまった。
「見事な食べっぷりですね」
「元気でよかったわ。あのね、カービィ……」
フーム様が食べ物に夢中なカービィに「見つかっても戦ってはいけない」と説得する。
その身に危険が迫っているというのに、当の本人は能天気に食べ続けている。
「わかってくれているのかしら……」
「どうなのでしょうかね」
「お食事中失礼するゾイ。カービィちゃんにお客さんゾイ」
独特な笑い声が二重に響く。洞窟の入り口にはデデデ陛下とエスカルゴン閣下がにたりと笑っている。そして、その前に少年が現れた。
ツンツンヘアーに鉢巻を巻いて、カービィの世界では珍しく両手足が長い少年。
ナックルジョーだ!
ナックルジョーとカービィは戦い始めた。フーム様がワープスターを呼ぼうとしたが、エスカルゴン閣下に捕らえられてしまう。
「子供になんてことをなさるのですか!閣下、お止めください!!」
「だまらっしゃい!お前もこうでゲス!」
「きゃあ!!」
「リーノ!」
私もあっという間にロープで両手を縛られてしまった。これでは身動きがとれない。コックカワサキも陛下によって簀巻きにされてしまった。
戦いが続く間、私たちは見守る事しかできない。ひどく歯痒い気持ちになった。
「(こんなことなら、普段からナイフの一本でも持ち歩くべきでしたわね……)」
カービィは戦う気がないのか、ナックルジョーに対して防戦一方だ。
「なんかこう、胸が……」
「スーっとするゾイ!」
「酷いですわ!陛下、閣下。相手は赤子なのですよ!」
「しかし何匹も魔獣を倒した戦士でもある。そちは黙って見とれい!ダハハハ」
何もできないのだろうか。
最後の一撃が決まろうとしたその瞬間、メタナイト卿がナックルジョーの拳を止めてくださった!それに怒った陛下と閣下が私たちから離れて、三人の元へ走る。その隙にソードナイトとブレイドナイトが縄を切ってくれた。
「ありがとう!ソード、ブレイド」
「恩に着るぜ!」
お礼を言うと、フーム様とブン様はすぐさまカービィの傍へ駆け寄る。
「いけません!フーム様、ブン様!ありがとうございます。ソードナイトさん、ブレイドナイトさん」
「コックカワサキはこちらに任せて」
「後を追ってください」
「ええ、そうします!」
スカートを下品にならないよう軽く摘まみ上げて、走る。二人の元にはすぐに追いついた。
御二方に追いつくと、メタナイト卿がこちらをちらりと見た。すぐに視線を外され、ナックルジョーに近づく。数分間にらみ合い、メタナイト卿は言った。
「間違いない。お前が探しているのは、この私だ」
「!今なんて言った!?」
「お前の父を倒したのは、この私だ!!」
「……!!」
ナックルジョーがメタナイト卿に殴りかかる。思わず目を塞いでしまった。体の大半を覆う仮面と、拳がぶつかる音は聞こえない。ゆっくりと目を開ける。
「どういうことだ」
メタナイト卿は剣を収めて、静かに話し始めた。
メタナイト卿とナックルジョーの父親は戦友だったこと。ある日、戦いの最中、父親は敵に攫われてしまったこと。そしてある日、魔獣として戻ってきたこと。
ナックルジョーは「嘘だ!」と叫んだ。それをメタナイト卿が「嘘ではない」と、落ち着いた声で話す。
「……そして、彼の想いに誓って」
ナックルジョーに差し出したのは一つのペンダントだ。中には何が入っているのかわからないが、ナックルジョーの父親にとって大切なものなのだろう。
最期まで持っていたこと、魔獣になってまで生きようとした息子への愛を語る。
「ナックルジョー、お父様はあなたに会いたい一心だったのよ」
対してナックルジョーは笑い出した。そして魔獣になってしまう父親を「大馬鹿だ!」と怒りを見せる。
「まったくだ。そんなにしてまで愛した息子が魔獣になってしまってはな!」
理性を捨て、憎しみで生きるものは魔獣と呼ばれる。
少年は否定するが、フーム様とブン様が進み出てナックルジョーがやった事をみせつけた。少年の攻撃をうけてボロボロになったカービィだ。
それでも魔獣であることを否定する。どれだけ魔獣になる条件が揃っていても、証明にはならないと。
「カービィが証明する!」
そうして再びカービィとナックルジョーが向かい合う。
ナックルジョーの攻撃をうけるだけだったカービィだが、フーム様の「吸い込みよ」の言葉に反応し、エネルギー波を吸い込んだ。ファイターカービィとなった彼は、ナックルジョーと互角だ。陛下が仰ったとおり、このままでは勝負がつかないだろう。
突如ナックルジョーが変身し、まるで魔獣そのものに変身する!
「カービィは鏡だ!コピーした姿こそお前の姿!踏みとどまれ!」
メタナイト卿の言葉が届いたのか、ナックルジョーはカービィの攻撃をうけて元の少年の姿に戻った。
青き戦士が少年に近づき、言葉をいくつか交わした。私には聞こえなかった。ナックルジョーが動かなくなる。私たちは顔を見合わせて、ナックルジョーの傍に駆け寄った。
「気絶されたのですか?」
「そのようだ。城に連れて行こう。カービィも、二人とも怪我をしている」
「ぽよ」
あれだけ戦ったのに平気そうな顔をしているが、体のあちこちに擦り傷が見えた。
「怪我の手当てはお任せください」
「ああ、任せる」
日が昇る。朝日だ。
ナックルジョーはソードナイトが背負い、私たちはお城へと帰路についた。陛下たちは装甲車で先に帰られた。眠そうにあくびをしていらっしゃったので、すぐにお部屋で眠られるかもしれない。途中で、カワサキの店により、外しておいた重りを回収する。
カワサキとは店で別れた。
「それじゃあね、カワサキ。今日はありがとう!」
「どうってことないよ」
彼の明るさには時々救われる。一日中働きづめだったり、走り回ったりした日は特に。
「あ、それからリーノ」
「なんですか?」
「デデデのおっさんの下が嫌になったら、いつでも店においでよ。リーノなら大歓迎だ」
「まあ、せっかくですけれど私はまだ陛下の下を離れる気はございません。でも誘ってくれてありがとうございます」
「そうかい。残念だなあ。……またね、皆」
「さようなら、カワサキ。おやすみなさい」
「おやすみなさい。カワサキ」
「おやすみ~」
子供たちは手を振って、戦士たちは頭を下げる。
ナックルジョーは昼前には目を覚ました。一応手当てをしたとはいえ、まだまだ疲れているのに、すぐにププビレッジから出て行くという。朝食も食べずに……この場合はブランチといえばいいのだろうか?とにかく何も食べずにいるのは良くないと思い、朝の残りのご飯でおにぎりを作り渡した。
玉座の間、転送装置前でナックルジョーにおにぎりが二つ入った包みを渡す。
「いいのか?すぐには返せねえぞ」
「構いません。おにぎりを包んでいる布は差し上げます。捨てるなりしてくださいませ」
「そうか。わかった。じゃ、遠慮なく貰っていくぜ。ありがとよ」
少年は鼻をこする。浮かべた笑みは爽やかなもので、好感が持てた。
別れの場には同席せず、疲れを理由に自室に戻る。アーニャとランタンは朝のうちに帰ったので、中には私一人だけだ。
洗面所で顔だけ洗い汚れを落とす。そしてパジャマに着替えてベッドに潜る。
帰路ですでに揺らめいていた意識は力を抜くと、すぐに沈んでいった。