【完結】転生者がカービィ世界で生き抜く話   作:紅絹の木

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雪と王女

常夏のププビレッジ。

本日も快晴。日差しが肌を焼くようだ。

暑すぎて何度も掃除の手を止めては、額や首筋の汗を拭う。今日はまた一段と暑い気がした。

 

「こうも暑いと毎日冷たい物ばかり飲みたくなりますわね」

「わにゃわにゃ」

「あなたもそう思いますか?ですよねえ」

「わにゃ」

 

 リーノのメイド服は夏仕様になっていて、上は半袖の上品なデザインのシャツ、下は薄手のスカートだ。自作なので好きなようにカスタマイズし、エスカルゴンに許可を貰って着ている。厚地のメイド服は、今は大切にクローゼットの中に仕舞われている。

 城の廊下をせっせとほうきで掃いていく。するとそこに陛下が走って通り過ぎた。

 

「……大自然に挑戦ゾーイ!!!」

 

 前半部分は聞き取れなかったが、後半はわかった。また何かダウンロードするつもりなのだろう。掃除が一段落したら、メタナイト卿たちに報告しよう。今度は一体何をされるおつもりなのだろうか。

 

 

 

 午後からは徐々に過ごしやすい気温になっていった。そしてお城の庭の草木が枯れはじめ、空からは白くて冷たい物が降る。寒い。手をかざして白い物に触れてみた。ヒヤッとした後、それは解けて水滴になった。ププビレッジで見るはずがない、雪だった。

 異常だ。おそらく魔獣によって引き起こされている。ここまでこの国に変化が起きてしまえば、メタナイト卿への報告はいらないだろう。彼もきっと陛下の……魔獣の仕業だと考えるはず。

 

「リーノ」

 

 優しく呼ばれた。振り返ると、部下を引き連れたメタナイト卿がいた。いつもと変わらない佇まいの三人に驚く。

 

「こんにちは、メタナイト卿。それにブレイドナイトさんとソードナイトさん。今日は一段と冷えますわ」

「おそらく陛下のせいだろうな」

「間違いないと思います。昼前に陛下が何か企んでいた様子を見ましたから」

「やはりか」

 

 ため息でもつきそうな疲れた声を出される。陛下に呆れていらっしゃるのだろう。

 私たちの会話を聞いていたソードナイトとブレイドナイトが、それぞれの考えを口にした。

 

「では一体どうやってこの雪を降らせているのでしょう」

「やはり魔獣でしょうか」

「……陛下たちはここ最近大人しかったです。部屋に籠りきりになるなど怪しい動きはありませんでした。ですので陛下たちが何かしたというよりは、魔獣をダウンロードしてこの雪を降らせた可能性の方が高いと思います」

 

 自分の知っている情報をできる限り簡潔に述べる。その言葉にメタナイト卿が頷いた。

 

「リーノの言う通りだろうな。しばらく様子を見よう。リーノ、あまり一人で出歩かないように」

「かしこまりました。お三方も気をつけて」

 

 

 

 

 

 仕事が終わったのは夕方だった。その頃にはすっかり雪が積もりだして、私は歯を鳴らしつつ急いで自室に帰った。

 

「(寒い!寒い!早く冬服に着替えないと凍え死んじゃう)」

 

 早歩きから走り出して、とにかく急いで自室に向かった。体が内側から若干温まってきた頃、自室の扉の前に誰かがいた。あの後姿はメタナイト卿だ。

 

「こんばんは、メタナイト卿。何か御用でしょうか?」

 

 声をかけると、メタナイト卿はこちらを振り返った。メタナイト卿はすぐに話し出さず。私の瞳を見ていた。

 

「?」

「……用は、特にないが。君に会いにきた」

「…………まあ」

 

 流暢ではない、絞り出すような言葉にリーノの胸は高鳴る。

 このまま帰すなんてとんでもないと言わんばかりに、言葉を並べて部屋に招く。

 メタナイト卿には椅子に座ってもらい、お茶を沸かす間にささっとリーノは着替えを済ませる。お風呂場に行き、ちょっと厚手のズボンと長袖に着替えるだけだ。数分で支度は整った。

 お風呂場を出ると、まだお湯は沸いていない。

 

「メタナイト卿は何を飲まれますか?」

「では、コーヒーを」

「かしこまりました」

 

 ここに城の調理場ほどの調理器具は揃っていないため、本当においしいコーヒーは淹れられない。それでも持てる知識を総動員させて、できるかぎりおいしいインスタントコーヒーを淹れた。

 それをメタナイト卿にだす。自分は手抜きの紅茶だ。飲めて体が温まればそれでいいのだ。

 

「うむ、うまい」

「それは良かったです」

 

 好きな人においしいコーヒーをだせてよかった。これからはコーヒーに関連する器具も揃えた方がいいだろうか。そういえば、彼がコーヒーを好きかどうかも知らない。

 

「メタナイト卿は、コーヒーがお好きなのですか?」

「どちらかといえば好きだな。君は紅茶の方が好きか?」

「どちらも好きです。特に好きなのは緑茶などですわね」

「そうなのか?」

「ええ、あの苦さがたまりません。かといって渋すぎるお茶は飲めませんけれど」

「そうか……覚えておこう」

「メタナイト卿の、特に好きな飲み物は何でしょうか?」

「特にはない。おいしければいいな」

「なるほど。私も、覚えておきます」

 

 和やかに笑い合う。

 やっぱり、コーヒーに関連する器具を揃えておこう。彼がいつここに来ても、おいしいものが飲めるように。

 お茶を一杯飲んだ後、メタナイト卿は帰られた。なんでもまだ用事が残っているらしい。戦士の仕事というのは大変だなと思った。

 

 

 

 次の日、ププビレッジは一面の雪に覆われた。

 手がかじかむわけだ。指先が痛いので何度も息を吐きかける。

 厚手のメイド服に手袋と、タイツを身につけて部屋の外に出た。するとワドルディの一団が、彼らの身長ほどある雪かき用のシャベルを持って、目の前を歩いて行った。雪かきでもするのだろう。今日の掃除には雪かきが追加されるかもしれないな。

 

 案の定、掃除の仕事の中に雪かきが追加されていた。

 全身くたびれたけれど、夕飯の用意が残っている。メイドの仕事も楽ではない。

 

 夕飯はおでんを出して差し上げる。陛下たちは美味しそうに召し上がってくださった後、すぐに出かけられた。雰囲気は外に遊びに出かける子供そのものだったのに、その笑みはあくどい。すぐにメタナイト卿にお知らせする。

 

「わかった。様子を見に行こう。君は城から出ないようにな」

「はい。気をつけますわ。ですので、メタナイト卿も気をつけてくださいね」

「ああ、油断はしない」

 

 

 

 その夜は今まで経験したことがないほど寒かった。部屋の中でも凍えてしまいそうだったので、途中で起きて白湯を飲んだぐらいだ。

 ペットボトルにお湯を入れて、タオルで包む。なんちゃって湯たんぽの完成である。それを布団に持ち込んでようやく眠りについた。

 

 朝、汗だくになって飛び起きた。もう、あの指先が凍るような気温ではない。温かなププビレッジが戻ってきたのだ。

 

「元に戻って良かった……。でも、昨日のうちに用意した冬物はもういりませんね」

 

 片付けが少々面倒に思えるリーノだった。

 

 

 

 その日、村に行くと親友たちに会った。

 なんでも陛下たちがスノーボードやスキー板を配ったおかげで、雪を楽しめたらしい。

 

「そうなのね。それじゃあ、今回は怒る必要はないですね」

「いいんじゃない?まあ、被害がでたところもあるでしょうけれど、一日程度ならお休みとして考えればいいでしょうし」

「大きな被害が出なくて良かったです」

 

 リーノ、アーニャ、ランタンは雪によって村に被害が出なかったことに安心した。

 村に大きな被害が出なかったので、今回は怒らなくていいだろう。村人を楽しませてくれたみたいだし、何か美味しい物でも用意しておきましょうか。

 

「そういえば、そろそろ食事会をまた開きたいですね」

「そうね。いつがいいかしら。私は今月なら二十日以降が開いているわね」

「私は二十五日以降でしょうか」

「では二十五日以降でまとめてみましょう。城に帰ってメ……皆さんに聞いておきますね」

「頼んだわ。じゃ、私たちはそろそろ買い物に行きますか」

「そうですね。リーノ、また会いましょう」

「じゃあね」

「二人とも、またね」

 

 

 その日は陛下たちにすき焼きを出して差し上げた。子どものようにはしゃいで食べられる姿は微笑ましくて、私は頬を緩める。

 

「陛下、今後も村に被害が出ない程度にお願いしますね」

「うむうむ、わかっておるゾイ」

「ほとんどカービィたちのおかげでゲスけど……」

「エスカルゴン!」

「ああ!いや、なんでもないでゲスよ!!」

 

 なるほど。カービィたちのおかげで冬が一日で済んだのか。

 

「わかりました。明日のおやつはナシということで」

「ガガーン!!!」

「嫌ゾイ!食べたいゾイ!!」

「ないものはございません」

 

 悪しからず。

 

 

 

 夜、後は自室に戻るだけという時間に戦士たちの部屋を訪ねた。

 

「こんばんは、メタナイト卿」

「ああ。よく来てくれた」

 

 今日はメタナイト卿が出てくれた。彼は私を部屋に招き入れる。

 

「何か飲むか?」

「いえ、長居できませんのでこのままで。実は次の食事会の日程の事でご相談したいのです」

「今月の末日ならば問題ないと思う」

「というと、三十日ですわね。わかりました。アーニャとランタンにもそのように伝えますわ」

 

 さらさらと持ち歩いているメモに内容を書き込む。これで用事は終わりだ。あまりにも早すぎて、時間が余ったぐらいだ。少しだけ、ここにいても許されるだろうか。

 メタナイト卿の様子を窺うと、彼が手招きした。

 

「おいで」

「はい」

 

 広げられた腕の中にそっと飛び込む。彼の背中に手を回すと、彼もまた同じようにしてくれた。

 この人といると安心できた。体から力が抜けていくのがわかる。呼吸も深いものに変わり、眠気が襲ってきたところで、彼から離れた。

 

「すみません。このままだと眠ってしまいそうで……そろそろ帰りますわ」

「送るか?」

「いえ、大丈夫です。時間を作ってくださってありがとうございます」

「君の為ならこのぐらいはする。いつでも言ってくれ」

「ふふ、それじゃあ甘えちゃいますね」

 

 

 

 ドア越しから仲睦まじい声が聞こえてくる。

 

「君の為ならこのぐらいはする。いつでも言ってくれ」

 

 あまり聞かない、主人のひどく優しい声。

 

「ふふ、それじゃあ甘えちゃいますね」

 

 もう一方は最近主人と仲がいいこの城唯一のメイドの声。

 はて、二人の仲はこんなにも近いものだったのか。もしかしたら、自分が思うよりも特別な仲なのかもしれない。現在、二人から「付き合っている」という報告は受けていない。なので、一応知らんぷりすることにした。

 数歩下がって、ドアが開くタイミングを待つ。

 

 ドアが開いた。わざと足音を鳴らして近づく。自分に気づいた彼女がこちらを振り向いた。

 

「ブレイドナイトさん、こんばんは」

「こんばんは。お帰りですか?」

「ええ、今日はこれで失礼いたします。それでは、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 

 彼女は自分の隣を抜けて自室へと帰っていった。その後ろ姿をしばし眺めて、主人がいる部屋の中へと入る。

 扉をしっかりと閉めてからメタナイト卿に向き合った。

 

「報告を聞こうか」

「はっ」

 

 先ほどの声は聞き間違いか、はたまた夢か。主人の声はいつも通りに戻っていた。

 自分も、アーニャと話す時はあんな感じになっているのだろうか。

 ブレイドナイトは頭の隅でそう考えた。

 

 

 

 

 

 メタナイト卿が外出している日に、とんでもない事が起きた。

 ピピ惑星のローナ王女様がこのお城にいらっしゃったのだ。

 というのも過去形で、私は裏方に回って食事の準備と食事の準備と食事の……食べ物関連の仕事ばかりをやらされていた。なので王女様にお会いしたのは最後にお見送りした時だけだ。

 王女様はフーム様、ブン様、カービィと親しくお話されていて、一緒に楽しく遊んだんだろうなと思った。

 それにしてもお美しい。女である私でも魅了されてしまうのだから、陛下が心を奪われてしまうのも納得だ。……ここにメタナイト卿がいなくて良かったかも。例え魅了されずとも、王女様の御顔をじっと見られる彼を、私は見たくないもの。妬いてしまうわ。

 

 

 王女様は夕飯前に帰られた。なので、多めに作った夕飯が余ってしまった。

 今回は自分で食べる量を決められるように、とカレーを作らせてもらった。カレーと言っても高級な食材をふんだんに使い、時間と手間もかかっているので、ただのカレーと甘く見られたくない。

 ふ、といい考えが浮かんだ。

 明日にメタナイト卿が帰ってくるはずだ。そのときに食事会を予定になっている。その食事会にこのカレーをだそう。今手を付けていない量の半分を取り分けたら、充分に六人が食べられる量を確保できる。残り半分、六人分のカレーがあるのだ。陛下とエスカルゴン閣下なら食べてしまうだろう。

 リーノはカレーの半分を別の鍋に入れて、そのまま冷蔵庫に放り込んだ。残りは温め直して、夕飯時に出す。

 デデデ大王はこのカレーを酷く気に入った。エスカルゴンもだ。リーノは心の中でガッツポーズをしながら、微笑み「ありがとうございます」と頭を下げた。

 

 

 

 翌日。食事会にて。

 リーノが作ったスパイスの効いたカレーライスを頬張りながら、昨日ププビレッジで起こった事件について話す。話題はもちろんローナ王女のことだ。どうやら村には護衛の方が訪問されたらしい。綿菓子を美味しそうに食べていた、とランタンが言う。

 

「リーノ、あなたはお城にいたんですから、王女様を見たんでしょう?どうでしたか?」

「とてもお美しい方だったわ。上品で、煌びやかで、華やかで」

「護衛の方も相当綺麗だったけれど、王女様に一度お会いしたかったわ」

「ソードナイトさんとブレイドナイトさんは王女様にお会いしていませんの?」

「自分たちは他のことで忙しくて、会えなかったな」

「他の事?」

「秘密だ」

「お城の仕事ですからね。秘密が多いですよね。私も二人には話せない内容のものがありますし」

「それじゃ仕方ないわね。にしても、このカレー本当においしい」

「ありがとう、ランタン。気に入ってもらえて嬉しいわ」

 

 食事は楽しい時間が過ぎた。それが終われば後片付けだ。同じ組み合わせで掃除、片付け、食器洗いを済ませていく。慣れた手つきで片付けが終われば、あとは解散だけだった。

 戦士たちが身支度を整えて、席を立つ。

 

「リーノ。今日も美味かった。ごちそうさま。また来月頼む」

「はい。心待ちにしておりますわ」

「それでは、アーニャ。また」

「またな、ランタン」

「おやすみなさい、ブレイドナイトさん」

「じゃあね、ソードナイト。風邪ひくんじゃないわよ」

 

 各々が別れの挨拶をして、戦士たちが部屋を出て行く。

 リーノは親友たちに聞きたかった。以前にも増して近くなっているように感じる距離感に対して質問したかった。もしかして、自分と同じようにお付き合いしているのかと。もし、その予測が間違っていたら自爆だ。だから今はまだその時期じゃない。メタナイト卿ともう少し過ごして、四人に話せるようになったら聞こう。

 

 

 

 ここ最近は平和だったと。そう思っていたんだけれど、事件はやっぱり突然起こる。

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