【完結】転生者がカービィ世界で生き抜く話   作:紅絹の木

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軍曹とダイナベイビーと忍者

 フーム様たちがまたいなくなった。

 今度は海に遊びに行ったきり、帰ってこないとメーム様は泣いた。

 泣きつかれた私は、とりあえず大王様たちの動向を探った。

 

 私の目の前では大王様も、エスカルゴン閣下も大人しい。時々、クスクスと笑いをもらすので何か企んでいることは明白だった。食堂でお茶を楽しまれる陛下にはっきりと聞いてみる。

 

「陛下、とても楽しそうですわね。何かあったんでしょうか?」

「ないゾイ!」

「そうそう!ないでゲスよ!」

 

 何もないという割には笑いをこらえている。隠し事が下手だと思った。陛下たちの後を四六時中ついて歩くことはできないので、メタナイト卿に相談する。

 戦士たちの部屋に行くと、彼に会えた。

 

「……というわけなのです」

「なるほど。そなたの言う事はわかった。今日の夜からでも調べておこう」

「お願いしますわ」

 

 メタナイト卿に任せておけば安心だ。明日にでも良い話が聞けるだろうかと思っていたら、戦士はその日の深夜に尋ねて来た。

 自室で、もう寝ようとしていた矢先だった。私はメタナイト卿を自室に招き入れる。

 

「お茶でもご用意しますね」

「いや、今回は遠慮する。陛下たちだが、やはりフームたちがいなくなったのは二人のせいらしい」

「やっぱり……。フーム様たちは無事に帰って来られるでしょうか?」

「みんなを信じる他あるまい。陛下たちがカービィたちにとどめを刺しに行くと言っていた。陛下たちの船を奪えば、ププビレッジまで帰ってこられるだろう」

「そうですか……。こんな遅くまで調べてくださってありがとうございました。メーム様たちには私の方から伝えます」

「わかった。では、おやすみ」

「おやすみなさいませ」

 

 メタナイト卿はすぐに部屋を去っていった。疲れていたんだと思う。今度、差し入れる時には、何か甘い物を送ろう。それで少しでも疲れが取れればいいな。

 リーノは布団に潜り込み、明日の予定を立てる。

 

「明日は早起きしましょう。お菓子を作った後に仕事に行って、メーム様にお会いする。それから部屋に戻ってきてお菓子を包み、メタナイト卿たちに渡しましょう」

 

 

 

 予定は組み立てた通りうまくいった。メーム様とパーム様は、私の説明に多少混乱されたようだけれど、子供たちを信じて待つ決断をした。私も不安だが、お二人ほどじゃない。そもそも私はこの世界の、アニメ星のカービィという物語のラストを知っている。子供たちは無事に帰ってくるという確信があった。

 だから今は信じて、普通の生活に戻ろう。

 

 

 

 子供たちは数日で帰ってきた。駆け足で城の門をくぐり、待ちかねていたご両親の腕に飛び込む。そうして家へと帰っていった。

 その姿を、私は上層階から見守っていた。隣には愛しい戦士がいる。

 

「無事に戻ってこられたようです。本当に良かった」

「そうだな。……顔つきが少し大人びたようだ。良い経験を積んで来たのだろう」

「言われてみればたしかに……。きっと知らない土地に放り出されて心細かったでしょうに、それでも子供たちだけで頑張ったんですね。わたくし、自分のことのように誇らしいですわ」

 

 目を細めて遠くを見る。彼らはどんな冒険をしたのだろうか。私に聞かせてくれるだろうか?それとも大したことじゃないと、語らずに笑うだろうか。

 フームたちを見ていると、隣からの視線が気になった。「何か?」と戦士に向かって微笑めば、彼はじっとこちらを見つめてくる。その瞳は熱を含んでいて、リーノは照れくさくなり顔をゆっくりとそらした。

 

 

 

 ところで陛下たちは、フーム様たちが返ってきた翌日には浜辺で見つかった。着ていた洋服がボロボロだったのと、酷くお疲れの様子から痛い目にあったのは間違いない。今回、罰はナシにしておいた。

 

 

 

 酷い目にあったのだから、もう金庫のお金がないのだから、魔獣は呼べないから、しばらく大人しくしているだろうと思った。陛下たちの行動力を舐めていたわ。

 

 玉座にて、閣下が作られた薬により芋虫が魔獣になってしまった。すべてはドクターエスカルゴンの努力の賜物である。

 玉座の外で私は額を抑えた。連日、夜遅くまで真面目に頑張っていらっしゃるからとお茶や夜食を差し入れていた。その努力が実るようにと思ってしまったのだ。こんなことになるなら、薬ができる前に止めるべきだった。

 

「とにかくメタナイト卿に報告しておきましょう」

 

 いつも色気のない報告ばかり。たまにはゆっくりと二人の時間を楽しみたいものだと、リーノはため息をつく。

 

 メタナイト卿に報告すると、彼もため息を吐いた。

 

「まったく、あの方は……。陛下ならすぐに行動なさるだろう。気をつけておく」

「わたくしも、陛下や閣下の行動に注意しておきますわ」

「ならば明日、一度会わないか?」

「ええ、かしこまりました」

 

 約束をとりつけて、その日は仕事に戻った。陛下たちはほとんどの時間を外で過ごされたので、私は有益な情報を手に入れることはできなかった。

 

 次の日。仕事を抜け出し城のベランダでメタナイト卿と、メタナイト卿が協力を頼んだロロロとラララ、そして私が集まって報告会を行う。

 

「では、わたくしから。陛下たちは夜中に出かけられて、明朝戻ってきました。その時たいへいお怒りだったとか。何かが上手くいかなかったようですわね」

「間違いなく、例の薬関係だよね」

「きっと薬を打ちたい相手がいたんだけど、上手く打てなくて怒ってたんだわ」

「ラララの言う通りだろうな。その相手だが、おそらく……」

「今朝から村を騒がせているダイナブレイド関係でしょうか?」

 

 後で村におりて、村人たちの安否をたしかめないといけませんね。きっとダイナブレイドのせいで村は滅茶苦茶だわ。

 その時車の音が聞こえた。城に入ってくる車の音なんて一つしかない。陛下たちだ。全員で下を覗き込むと、陛下と閣下が高笑いして帰ってきたところだった。

 

「何かが上手くいったようですわね」

「急ごう。おそらく時間はあまりない」

「そうですね。例の薬は玉座の間にあります。私はそちらに行って陛下たちを待ち伏せします」

「私はカービィにその事を報せてくる。リーノ、無茶はするな。ロロロ、ラララ、手伝ってくれ」

「かしこまりました」

「任せてよ!」

「ねー!」

 

 

 

 玉座の間に入り、薬がある近くの柱に身を隠す。数分後には陛下たちが入ってきた。大きな鳥かごを抱えている。中にはフーム様や、ブン様ほどの背丈がある禿げた鳥が「ぴいぴい」鳴いていた。あれがダイナブレイドの雛だろうか。本当に大きい。

 

「ダハハハハハ!ようやっと雛を手に入れたゾイ!」

「早速魔獣にしちゃうでゲスよ!」

 

 いそいそと巨大な注射器の前に鳥かごを置いて、お二人は装置の前に立った。不気味に聞こえる笑い声を漏らしつつ、注射器のついたアームを動かす。

 私は飛び出した。

 

「やめてくださーい!!」

 

 雛と注射器の間に割って入る。突然、飛び出してきた私に陛下たちは非常に驚いたようだ。閣下なんて目を限界まで広げて「あっぶねーな!オイ!!」と叫んでしまっていた。

 私は両手を広げてやめてくれるよう訴える。

 

「陛下、閣下、このような非道な真似はお止めください!雛が、ダイナブレイドが可哀そうではありませんか!」

「黙れー!!ワシの目的を邪魔する奴は許さんゾイ!痛い目を見たくなければどけえい!!!」

「陛下は本気でゲスぞ!!」

「どきません!」

「ぐぬぬ……」

 

 どうやって時間を稼ごうか考えていた、その時だった!

 カービィがワープスターに乗って乗り込んて来た!!

 

「「「カービィ!」」」

 

 三人の声が重なる。続いて巨鳥が玉座の間の扉を破壊して入り込んできた。あれがダイナブレイドだろうか、近くで見ると相当大きい。雛が嬉しそうに騒ぎだす。うん、親鳥で間違いなさそう。

 トッコリがダイナブレイドの耳元まで飛んできた。

 

「わかったか?ダイナブレイド!お前のベイビーを攫ったのはコイツらなんだい!!」

 

 コイツらとは陛下たちの事だろう。ダイナブレイドは陛下たちを睨む。それを見ていた私でさえすくみ上るほど怖いのだ。直接見つめられている陛下たちはもっと怖いに違いない。

 

「あ~の、お許しを……」

「ワシに近づくでないゾイ!!」

 

 逃げ出そうとする二人。ダイナブレイドの大きな(陛下の背丈ほどある)足に踏みつけられてしまった。騒いで逃げ出そうともがくが、逃げられない。

 巨鳥はその大きすぎる翼で注射器を弾き飛ばした。注射器は壁にぶつかり、陛下たちの目論見は水の泡となって消えたのだ。

 ダイナブレイドの顔が突然こちらを向いた。その瞳は「どけ」と言っているように感じたので、慌てて足を動かす。

 雛の前から横に移動するとダイナブレイドはその硬いくちばしで鳥かごの錠を壊した。雛が自ら出てきて親鳥の足に抱きつく。良かった。雛は無事に帰ったのだ。

 

「カービィ!」

「やったね!」

 

 フーム様とブン様たちが来た。私もそちらに合流する。

 

「フーム様、ブン様、カービィ。雛は無事に解放されましたわ」

「ええ、本当によかった!リーノが時間を稼いでくれていたんですってね。ありがとう!」

「メタナイト卿から聞いたぜ。やるじゃん」

「無我夢中でした。とにかく皆様が無事で良かったです」

 

みんなで親子の様子を見る。雛とダイナブレイドは顔をこすり合っていた。

 

「まったく世話を焼かせやがったな!」

「一件落着ってとこだね」

「今回はカービィとリーノのおかげで命拾いしたってわけね」

「ぽよう」

「わたくしが雛の命の恩人ですか?不思議な気持ちです」

 

 

 

 そうして話している間にダイナブレイドは雛と陛下たちを抱えて大空へ舞い戻る。みんなで追いかけた。

 

「元気でねー!もう心配かけちゃダメよー!!」

 

 手を振って別れをつげる。雛が助かってくれて嬉しい。けれど、確実に陛下たちは何かされるので、素直に手を振れない。どうか返してくれないだろうか。

 

 あ、落とされた。かすかに水しぶきが聞こえてきたので、川にでも落ちたのだろう。悪運の強い方たちなのか、ダイナブレイドが慈悲をかけてくれたおかげなのか。真相は闇の中だ。

 

「わたくしは、陛下たちを探すようワドルドゥ隊長にお願いしてきます。それでは」

 

 挨拶もそこそこにフーム様たちと別れる。

 城は最低限のワドルディ達を残して、陛下たちを捜索しに行った。皆が戻ってきたのは深夜だった。私は陛下たちがお戻りになるのを待っていた。帰ってきたら温かい飲み物を出して迎えたかったからだ。罰は受けたのだから、私からこれ以上何かする必要はないだろう。

 

 

 

 

 

 ダイナブレイドの件で懲りたのか、陛下たちは珍しく大人しかった。一週間ほど平穏な日々が過ぎていく。

 しかし、私は思うのだ。そろそろ何かが起こるだろう、と。

 

「(本当、もうしばらく平和であってほしいものだわ。でも、なんだか雲行きが怪しいのよね)」

 

 天気の話ではない。陛下たちの様子だ。今庭で忍者ごっこをしているのだ。人に手裏剣を投げるのは危ないからやめていただきたい。実際にフーム様に当たりかけている。今日の夕飯の時間にでも注意させていただこう。

 洗濯かごを持って、ベランダから離れた。

 

 

 

 夕飯時。陛下と閣下に「人が近くにいる場合は忍者ごっこをしない」と注意したが、ツンとそっぽ向かれて話を聞いてもらえなかった。

 

「そのように反抗的な態度を取られるようでしたら、こちらにも考えがございます」

「な、なんゾイ」

「一週間、夕飯はお粥です」

「またか!!」

「美味しく、栄養面にも気を使ったものをお出ししています。油ものやお肉が中心の食生活よりも健康的ですわ」

「アレは朝、ものすごく腹が減るから嫌でゲスよ!!!」

「では、お約束してください。人のいない時間帯を狙って遊ぶこと。人が通ったら遊びを中断する事。よろしいですか?」

「ぐぬぬ……わかったゾイ!だから粥はやめい!」

「しょーがねーなこりゃ……」

「ご理解いただけてよかったです」

 

 お粥攻撃は案外効き目がある。これからも多用するかもしれない。これに加えて別の対策も考えた方がいいだろう。何かいいかな。毎食サンドイッチばかりだそうかな。それだとカツサンドとか、フルーツサンドとか種類が様々にある。おいしい食べ方が多いから交渉には使えないか。

 

 

 

 夜、久しぶりにメタナイト卿を自室に招いて、お茶を飲む。陛下たちが忍者ごっこをしていた話をした。彼は懐かしそうに銀河戦士時代の話をしてくれた。

 

「銀河戦士団の中にも忍者がいたんですね。さぞ強かったんでしょうね」

「強かった。諜報や潜入にも長けていたから、銀河戦士団は彼らに頼り過ぎていた面もあったな」

「まあ、そうですの」

 

 銀河戦士団の忍者といえば、裏切り者のヤミカゲだ。そういえば、ヤミカゲって村が忍者ブームの時にデリバリーされて、カービィとの戦いに敗れたけれど生き残った。それ以降登場せずにアニメは終わってしまい、永遠の伏線扱いになってしまったんだよね。

 ……ん?村が忍者ブームの時?

 もしやと思い、メタナイト卿に確認する。

 

「……メタナイト卿、ちょっとお聞きしたいんですけれど。今の村のブームはもしかして忍者ですか?」

「ああ、そうだ。村に買い物にいったソードとブレイドから聞いたが、それがどうかしたか?」

「いえ。陛下たちのブームの元がどこか、確認しておきたかっただけです」

 

 ということは、近々ヤミカゲがここにデリバリーされてくるということだ。ヤミカゲのイメージって怖いとか敵の中じゃ強い方だから、会いたくない。会わずに済んだらいいな。

 

「どうした。何か心配ごとでも?」

 

 急に無口になった私を気遣ってくださる。私は正直に話した。

 

「このブームにのって、陛下が忍者の魔獣をデリバリーするかもしれないと思いました」

「その可能性は大いにあるな」

 

 二人してため息を吐く。まったく陛下には困ったものだ。

 元気がないよりかは、ずっといいかもしれない。けれど元気が有り余るのも問題だ。ちょうどいいくらいの塩梅で抑えてくれないものだろうか。

 紅茶を飲もうとカップを傾けた時、中身がないことに気がついた。

 

「あら、もう飲んでしまいましたわね。メタナイト卿、おかわりはいかがですか?」

「……いや、コーヒーはもういい」

「そうですか?では、何にしましょう」

「君を、くれないか?」

「あ、えーと……」

 

 急に、来た!!!そうなったらいいなー、と考えていましたけれども!

 顔を赤くしたまま動かない私に戦士が緩やかに近づく。そして手を取った。

 

「だめか?」

「あう……だめでは、ありません」

 

 あなた、そんな声も出せるんですね!驚きですわ!!!

 恋人の甘えた声に体が震える。重ねた手から熱が伝わり、胸がどきどきしている。

 彼に導かれて、私たちはベッドの方に足を進めた。

 

 

 

 

 

 その日の深夜。

 まどろみの中、愛しい人の腕に抱かれていた。そんな甘い空気をぶち壊す如く、警報が城中に鳴り響く。

 二人はほとんど同時に飛び上がった。

 

「な、なんですの!?」

「何者かが、城に侵入したようだな。そなたはここにいろ。様子を見てくる」

「わたくしも……うう……」

 

 動けない。全身が重くだるい。上半身を起き上がらせるので手一杯だ。出て行こうとした戦士はベッドに戻ってきた。恋人の背中に手を置いて支える。

 

「無理をさせたか」

「いいえ。わたくしが望んだことです」

「……そうか」

 

 一瞬。仮面がズレて、唇が重なる。リップ音がして熱が離れた。

 

「何が心配だ?」

「フーム様たちのことが」

「では子供たちの様子も見てこよう。朝に伝える。それでいいか?」

「はい。よろしくお願いします」

「任せてくれ」

 

 メタナイト卿は今度こそ、部屋から出て行った。足音が遠のいてから、ぱたりと背中からベッドに寝転がる。

 

「(恋人って、こんなに甘いものなのか??)」

 

 顔から湯気が出てしまうほど恥ずかしかった。

 

 

 

 夜明け頃にメタナイト卿は部屋を訪れた。

 

「侵入者は忍者だった。どうやら陛下たちの持っている巻物が目当てで侵入したらしい。子供たちは無事だ。むしろ件の忍者と仲良くしている」

「教えてくださってありがとうございます。なんというか、さすがフーム様たちですわ」

 

 胆が据わっているというか、コミュニケーション能力が高いというか。どちらにせよ侵入者と仲良くなるなんて、さすがだと思う。

 メタナイト卿は気になるという事で、もう少し子供たちの様子を見てくると部屋を出て行った。私はそれを見送った後、仕事に行く。

 

 朝食をだして、食器を片付ける。それからお掃除。今日は玉座の間の階の廊下を、ワドルディたちと綺麗にほうきではく。

 午前中だった。天気は曇り。突然、玉座の間から電子音が聞こえてきて、嫌な予感がした。ワドルディたちと手を止めて、扉の方を見る。音が聞こえてしばらくした後、扉が勢いよく開いた。

出てきたのは陛下たちだ。こちらに歩いてきた。私とワドルディたちは廊下の片側に整列した。

 

「リーノ、今から出かけてくる!昼までには戻るゾイ!!」

「お昼の準備、しておくでゲス」

「かしこまりました。昼食はカツサンドを予定しております」

「カツサンド!」

「んん~いい響きでゲスなあ!」

「こりゃあ楽しみだゾイ!!」

 

 足取り軽やかに、陛下と閣下は先へ進む。その後ろを見慣れない男が従っていた。私はメイドとしての顔を崩さず頭を下げ続ける。

 重苦しい雰囲気と威圧に、彼が只者ではないことがわかる。顔を拝見したかったがそれ以上に怖かったので、とにかく目を閉じていた。

 足音は聞こえない。けれど空気でわかる。これを気配と言うんだろうか。彼の気配は限りなく薄い。その薄さが異常で、私には浮いているように感じたのだ。

 それは目の前で止まった。

 

「おい」

「はい」

 

 目を開けて、彼を真っ直ぐ見る。左目に大きな裂傷があった。そして何よりも服装が、忍者を物語っている。

 彼は私にぐっと身を寄せて来た。近すぎる。慌てて後ろに下がるが、あいにく壁だ。これ以上下がれなかった。忍者の腕が伸びて、横をすり抜けて壁に押し当てられる。まるでこれは壁ドンじゃないか。どうせしてくれるならメタナイト卿に頼むぞ、私は。

 

「フン!俺の気配をよむから何者かと思えば、ただの小娘か」

「こ、小娘……?」

 

 もうそんな歳ではない。リップサービスの類かと思ったが、初対面にこんな状況で言われるのもなんだかおかしくて、混乱する。

 スン、と忍者が鼻を鳴らした。

 

「……男の匂いがするな」

「は?」

 

 訳がわからずさらに困惑した。相手は私の様子におかしそうに笑って、愉快さに瞳を歪めたかと思えばさっさと先を行く陛下たちの後を追った。

 なんだったの、あの人。

 

 掃除に戻ってもあの忍者の事が忘れられない。こう、イライラするし腹が立つのだ。それに最後にかけられた言葉が気になる。男の匂いってなんぞや?

 

「(男物の香水はかけていないから違う。シャワーは毎日浴びているから臭いはずないんだけど、どうしてあんなことを言われたのだろう?)」

 

 わからなくて、その日はもんもんと一日を過ごした。

 

 昼過ぎになってもそれは変わらない。なんとか今ある集中力を総動員させてカツサンドはお出しできたものの。仕事が手に着かずその日は大変だった。

 

 夕方ごろにメタナイト卿にお会いできた。城の廊下で会ったので、近くに寄り過ぎないように気をつける。誰が見ているかわからないからね。

 そこで、忍者に出会った話をした。

 

「そうそう。今日の昼前、陛下がデリバリーした忍者に会いましたの」

「なんと、ヤミカゲに会ったのか!?」

 

 あ、あの忍者ヤミカゲだったのか。永遠の伏線さんに出会えてちょっと感動する。けれどもう会いたくない。怖いからだ。

 

「なにもなかったのか?」

「少しお話しました。俺の気配をよめるなんて……とか、男の匂いがするな……とも言われましたね」

 

 メタナイト卿は数瞬黙った後、重々しく口を開いた。

 

「私は、女の匂いがすると笑われた」

「……つまり?」

「ヤミカゲはおそらく、私たちの関係に気づいた」

「まさか、そんな……」

「それができてしまうのが忍者の恐ろしいところだ。あくまでも想像の域だろう。しかし奴は確信しているはずだ」

「どうしましょう。ずっと内緒にしてきたのに、バレてしまいましたわ」

「今すぐどうにかなるとは思えない。だが、考えてもいいのかもしれない。身内に話す準備ができているかどうか」

 

 第三者からある事ない事を吹き込まれてバラされてしまうよりかは、自分たちの口から話した方がいいだろう。

視線が語りかけてくる。君はいいのか、と。私は強い決意を持って応える。

 

「私は、できるならあなたとの関係を公表したいです」

「わかった。では、次の食事会がもうすぐだから、その時にでも私たちのことを言おう。いいね?」

「かしこまりました」

 

 次の食事会、非常に緊張してきました。

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