四人に、私とメタナイト卿の関係について話した日から数日。怖くて村に行けていない。
なぜ、怖いのかと言うと……昨日、村から帰ってきたメタナイト卿が疲れた様子だったからだ。彼のそんな姿を見かけることは珍しい。何かあったに違いありません。加えて、何か言いたげに私を見つめ、それでも何も言わなかった。
なんでしょう。なぜ、黙るのですか?
疑問は不安に、不安は恐れに変わりました。
村のみんなに会いたいけれど、でも、でも……何が起こるのでしょうか。そればかりが気がかりです。
夜空の下で、真っ暗になった村を見つめてはため息を吐きました。隣にいるメタナイト卿がこちらを向きました。
「村が気になるのか」
「はい。みんなに会いたいのですが、今行くのは怖くて……」
「一人が怖いならば、私と行くか?」
「それは、素敵な案ですね。あなたとなら、恐れよりも楽しむ気持ちの方が勝りますもの」
「嬉しい事を言ってくれる」
そして、私たちは寄り添いました。
恐れも不安も、海の向こうに吹き飛んでしまいました。胸に、木漏れ日が差し込んでくるようでした。
「(この気持ちを、喜びを、あなたも感じてくださっていたら、いいですね)」
そう願って、目を閉じました。
さすがに、そろそろ村へ生活用品を買い足しに行かなくてはなりません。メタナイト卿にお願いして時間を作っていただき、私たちは村へ向かいます。
城から村へつづく下り道を、重い足取りで歩きます。
「緊張しますわ」
「まあ……なるようになる」
「そうですね」
今は、はじめての村デートを楽しむとしましょう。
村に入りました。
あちらから、こちらから。村人たちが、私たちを窺っているように思えてなりません。そわそわと手を、まるでハンドクリームを塗るようにさすります。
「寒いのか?」
「いえ、気を紛らわしているんです」
「ふむ。手に触れて気が紛れるのなら、私の手を握るか?」
驚いてメタナイト卿を見つめます。
視線を感じました。多分、話し声が聞こえた村人たちが、こちらを見ています。
彼は手袋をはめた手を、こちらに差し出してきました。村人たちの視線を気にしていないように。堂々と、自然に、私と手を繋ごうとしています。
嬉しい。
胸の真ん中辺りから、温かい気持ちが湧き出ます。それは内側から身体中に広がり、私の手を動かしました。
「……エスコートをお願いできますか?」
冗談を言ってみました。
差し出された手の平に、私の手を重ねます。ゆっくりと優しく握られました。
「私でよければ」
笑っていらっしゃるのか、それとも本気なのか。わからない調子で頷かれます。
それがおかしくて、私は頬を緩めました。
「ねーちゃん……アレ……」
「あら、まあ!」
「ぽーよう?」
青く丸い戦士と、上品にメイド服を着こなす女性が並んでいる。その間には戦士の左手とメイドの右手が、仲睦まじく繋がれていた。
一歩先を歩く戦士が、まるでメイドをエスコートしているようだ。
その様子に気づいた村人たちは騒めく。
ある者は納得したように見守る。ある者は口をあんぐりと開けて繋がれた手を凝視した。
この場にいない誰かに報告しに行く者。目に涙を浮かべる者。
二人を中心に波紋は村中に広がっていく。
ブンはペロペロキャンディを持っている事を忘れて、口を開けたまま二人を見た。フームは驚きと喜びと、少しの寂しさを感じつつ二人を心の中で祝福した。
そしてカービィは。
「ぽよ!ぽよ!」
お菓子を貰おうとリーノに走り寄った。
「カービィ!」
フームの呆れを含んだ制止する声は届かず、赤ん坊の戦士はリーノの傍で止まった。そして片手を差し出す。
「こんにちは、カービィ。今日は飴でもいいですか?」
「ぽよう!」
「では、差し上げますね。どうぞ」
カービィは、今日もリーノからお菓子を貰えた。飛び跳ねて喜び、包み紙を解いて、飴を口に放り込む。
今日も甘くて美味しかったらしい。うっとりと表情を緩めている。
「包み紙は貰いますね」
「ぽよ」
カービィは右手に広げていた包み紙を、リーノに渡す。リーノは慣れた様子で、包む紙をポケットにしまった。
カービィに視線を戻すと、子どもたちが増えていた。フームとブンだ。
リーノはにこりと微笑む。
「こんにちは。フーム様、ブン様」
「こ、こんにちは。リーノ。それに、メタナイト卿」
「よお……」
「ああ」
子どもたちにいつもの勢いはない。デートを邪魔したかもしれない申し訳なさと、二人の仲について質問攻めしたい気持ちがせめぎ合っているからだ。
リーノはにこりと笑い、戦士の方は静かだ。そして、繋いだ手はそのまま。
フームは根掘り葉掘り聞いたりせず、ごく自然な会話を心がけた。
「えーと、二人は、これからどこに行くの?」
「わたくしの生活用品を買い足しに行くところです。メタナイト卿には荷物を一緒に持ってくださるよう、お願いしたんです」
「それってデート?」
「ブン!!」
「でーと!でーと!」
「カービィもやめなさい!」
フームは、戦士とメイドをからかう二人を叱った。
リーノは穏やかに笑って、メタナイト卿は考えるように、お互いの顔を見る。
「デート、ですわね」
「そうだな」
「ええ!?」
「マジかよ……」
「ぽよ?」
言葉の意味がわかる二人は驚いた。まだ言葉を理解できないカービィは疑問符を浮かべる。
その言葉を聞き逃さなかった者たちが、素早くリーノたちの前に現れた。
「デート!デート!リーノとメタナイト卿がデート!!」
村の子供たちだ。まだまだいたずら好きの年頃で、村の恋人たちをからかったりしている。今日の狙いはリーノたちらしい。
フームは叱って止めさせようとしてくれている。その様子を見てリーノは胸中にぼんやりと浮かぶ気持ちに意識がいく。
リーノはからかわれているのに、怒る気持ちはまったく湧いてこなかった。むしろ、村人たちに自分とメタナイト卿の関係を広めているように感じて。
改めて恥ずかしさが、そして彼と堂々と村を歩いている喜びが顔を赤くした。
「顔が赤いな。大丈夫か?」
「はい。あなたと村を歩けることが嬉しいだけです」
正直に伝えた。
すると決して上手ではない「ひゅー、ひゅー!」という冷やかしの口笛が鳴った。
「こらーっ!!!」
とどめの一喝により、子どもたちは彼方へ逃げた。
フームはリーノへ向き直る。
「怒っていいのよ?」
「はい、フーム様。でも、怒る気持ちが湧かなかったので」
「リーノって、大人よね」
「そうでもありませんよ。今日は、隣にいてくれたから……」
言葉を続けず、メタナイト卿を見つめる。
その眼差しの熱さにフームは赤くなり、ブンは驚いた。
カービィだけは、わからない。けれど、いい雰囲気の二人を交互に見て、楽しそうに跳ねた。
「なんじゃと!?リーノとメタナイト卿が?!!」
「そうなんでゲスよ!」
玉座の間。
デデデ大王は玉座に座り、エスカルゴンはその近くに立っている。ワドルディたちは離れたところで掃除をしていた。
「なーんか怪しいと思っていたら、あの二人、恋人同士だったんでゲスねえ。どうりで距離が近いと思ったでゲスよ。ま、リーノにはこれまで浮いた話がなかったゲスからね。ちょっとは安心……」
「……さんゾイ」
「陛下?」
「許さんゾーイ!!!ひとん家のメイドをたぶらかすとは何事か!!」
「誑かすって陛下……リーノもいい歳なんでゲスよ?別に恋人がいたっていいじゃないでゲスか……」
デデデ大王は、がっとエスカルゴンの目の下部分を掴んだ。
「大体!なんであの二人には恋人がおって、ワシには一人もおらんゾイ?!」
「あの二人はそれぞれモテるからでゲショ。それに恋人は一人だけつくるもんでゲスよ」
正論を言ったエスカルゴン。言い返せない大王は、エスカルゴンを床に投げた。
「あで!!!」
「かくなる上は、二人を別れさせればいいゾイ」
「まーたリーノに怒られるでゲスよ」
「上手くいけば、問題ないゾイ!ぐっふっふっふっふ……」
『チャーンネル!DDD!!』
『今日はカップルの皆さんに嬉しいお知らせでゲス』
大臣家、リビング。
四人はテレビの言葉に釘付けになった。今日、村である恋人たちの噂が広まったばかりだ。
「リーノたちもこれ見てるかな!」
「そうかもしれないね」
「ブン、パパ!静かに!」
『二日後、デデデ城にてカップルイベントを開催するでゲス!恋人同士はもちろん、ご家族も、寂しい独り身も、楽しめるイベントを用意するでゲスよ!仲がいい二人はさらに距離が縮まり、独り身は恋人が見つかるチャンスかも……!?楽しみにするでゲス!!!』
「カップルイベント?おえー」
「ブン!」
「合同お見合いでもするのかね?」
「さあ?でも家族も楽しめるんでしょ?楽しみだわ」
「デデデが企むことよ!きっと何か裏があるわ!」
その頃、玉座の間。
メイドと青い戦士が二人、デデデ大王の前に跪いていた。
「二日後、カップルイベントを開催するゾイ」
「はい。……はい?」
リーノは驚いた。
カップルイベントなんて回、あっただろうか?少なくとも記憶にはない。
そういえば夕方から外が騒がしい。イベントの為にワドルディが総出で頑張っているようだ。後で何か差し入れしようと考えた。
「イベントにお前たちも出るゾイ。お前たちほど注目を集めるカップルが出れば、村の者共も参加するはずゾイ」
「わたくしたちの事、ご存知だったんですね」
「ワシには隠し事なんて出来んゾイ。ワハハハハ!当日は皆が楽しめるイベント盛り沢山だゾイ。人民共が楽しめるよう、尽力せよ。よいな」
「はっ、かしこまりました」
「……かしこまりました」
話は終わったと、二人は玉座の間から追い出された。
並んで帰り道を歩く。玉座からかなり遠のいた場所で、リーノは話し出した。
「陛下は何をお考えなのでしょうか?」
「わからない。気をつける他ないだろう」
「そうですわね」
「もう遅い。送ろう」
「いえ、今日はワドルディたちに差し入れを作りますので、厨房に向かいます」
「ならば、厨房まで」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
遠くから聞こえるトンカチを振る音が、鼓動を早めて不安にさせた。何が起こるのかわからない不安。
それでも、隣にいてくれる彼とならば乗り越えていける気がする。その努力をしよう。
リーノは顔を上げる。