カップルイベント当日。
快晴、気温も心地よく、イベント日和。
娯楽の少ないこの国で、催し物が始まった。そうなれば、村中の人たちが開催場所にやってくる。
つまり、このお城に、だ。
彼らを楽しませるのは、何もイベントだけではない。料理上手なメイドが監修しただろう、屋台飯にも注目している。朝、何も食べずにやって来た村人がいる。それほど、彼女の料理にはファンがいた。
城内、厨房にて。
「どんどん村人たちが集まってきたでゲスよ!さっさと運ぶでゲス!!……って、リーノここで何をしているでゲスか!?」
「料理の最終チェックをしておりました。これが終われば直ぐに準備いたしますので、少々お待ちください」
「仕事熱心なのはいいでゲスが、さっさと準備してイベントに参加するでゲスよ!」
「はい。必ず参加します」
恭しく頭を下げるメイドをじろりと見る。
彼女がこうして仕事熱心なおかげで、料理の質が下がらないで済む。それはいい。自分だって後で食べるのだ。美味しい方がいいに決まっている。
けれど、今日は彼女が主役と言っていいイベントが開催されたのだ。
女性とは、支度に時間がかかるもの。自分の母がそうだった。今日ぐらい仕事を忘れて、その瞬間まで恋人とイベントを楽しめばいいのに。
ま、リーノは仕事ができる。私生活もだらけていない。上手くやるだろう。
エスカルゴンはリーノから目を外し、次の料理の味見に向かった。
リーノが「戦士たちの部屋」と思っている部屋は、三人の中では「メタナイト卿の部屋」だったりする。あのテレビがある、よく三人の戦士たちが集まっている部屋だ。今日もそこで、メタナイト卿、ソードナイト、ブレイドナイトがテレビを見ていた。カップルイベントが始まったことを告げている。
「始まりましたね」
「今回は何が起こるのでしょうか」
「わからん。私はイベントに出る。つまり全体を見て動く事ができない。お前たち、頼んだぞ」
「はい」
「お任せを」
力強く頷く二人の部下の返事を聞き、メタナイト卿もまた気を引きしめる。
ふと、扉の外から気配を感じた。数は数人、この部屋に近づいてきた。見回りの者かと思ったが、そうではない。それらは部屋の前で止まると、扉を遠慮がちにノックした。
今日はブレイドナイトが、扉を開けに行った。
扉を開けて、数瞬、間が生まれた。どうしたのか。
「……アーニャ」
「こんにちは、ブレイドナイトさん」
続いて挨拶する女性たちの声がする。その中に待っていた恋人の声もあった。彼女に会うべく、そして様子を確認するべく椅子から降りる。
「ブレイドナイト」
ブレイドナイトの近くに立つと、彼は主人に気づいた。そして主人の前から退く。
そうすると、メタナイト卿はリーノたちの姿がよく見えた。
ーー驚いた。
「……美しいな」
「ありがとうございます」
三人とも、それぞれめかしこんでいる。
アーニャは可愛らしく、ランタンは艶っぽく、リーノは上品に。三人の個性が光っている。皆、よく似合っていた。
これでは、ブレイドナイトが言葉を失うのも無理はない。ソードナイトはランタンの姿を見て、一度目を覆った。フルフェイスの下は、さぞ赤いだろう。
「ランタン……上着ないのか?」
「ないわ。今日は恋人を見つける日だもの。攻撃力高くいかないとね」
「攻撃力??」
「つまり、自分の武器を存分に振るえるよう、頑張って着飾ってきた訳です」
「わたくしは、メイドのイメージを崩さないよう上品にまとめました。アーニャは優しくて可愛いので、その良さが全面に出るようにしました。ランタンはとっても色っぽくなるよう頑張ったんですよ」
「そういうこと」
先程、メタナイト卿に褒められた事でさらに自信がついたのだろう。三人はそれぞれ服がよく見えるようにポーズをとった。
リーノはポーズを決めた後にお辞儀をして、メタナイト卿と目を合わせて美しく微笑んだ。
アーニャは照れて、俯いた。よく出来たストールの刺繍を手でなぞっている。
ランタンは何度もポーズを取り、最後にソードナイトに向かってウインクした。
ソードナイトが「うぐ」と情けない声を出したが、聞かなかった事にする。
「そういえば、アーニャもカップルイベントに出るのか?」
「はい!ぜひ来てください、とお城から手紙が送られてきたんです」
「なんだって?」
「その中に食事無料券も付いてきたし、ご飯食べるついでに気合い入れてオシャレしようかって話になったのよ」
「つまり、食事がメインで恋人探しは二の次か……」
「いい出会いがあれば、とは思ってるわよ」
「なに!?」
「ランタンったら」
あんまりからかっちゃダメよ。と言わんばかりに、リーノが彼女の二の腕をぽんぽんと軽く叩く。ランタンは、いたずらが成功したように笑った。その笑顔は普段の彼女のイメージと離れ、可愛らしい。横目で確認すると、案の定、ソードナイトが釘付けになっている。それにブレイドナイトは、アーニャに釘付けだ。
察しやすい事は、戦士として致命的である。後で注意しておかなくてはならないだろう。
今は前日の約束通り、リーノと共にイベント会場に行こう。
「そろそろ行こう。お前たち、後は頼むぞ」
「はっ」
「お気をつけて」
背筋を伸ばす部下たちには、先程のような緩んだ気配はない。
私とリーノ、その前方にランタンとアーニャが隣合って歩き出す。
会場である城の庭についた。
恋人たちが主役なだけあって、あちこちにハートの風船が飾られている。遊園地のようなアトラクションが多数ある。その中には、二人席が多めに設置されているようだった。
メリーゴーランドなら、二人用のハートの馬車が設置されている。
ジェットコースターなら、恋人たち向けに装飾されたハートの席がある。
ハートの台座の写真スポット。
ハート型で虹色のわたがし。
どれもこれもハートだらけだ。
「急ぎで作る必要があったのはわかります。ですが、こうもハートの装飾多いのは如何なものでしょうか……ご家族の方や、まだ恋人と出会えていない方もいらっしゃいますのに」
「リーノ、私たちは遊びに来たのよ。仕事のことは一旦忘れなさい」
「ですねえ。今日はゆっくり遊びましょう」
「そうね……。はい、そうします」
「よし、じゃあ私はアーニャと遊んでくるわ。またね、お二人さん」
「じゃあね、リーノ。失礼します。メタナイト卿」
「またね」
「ではな」
二人は屋台から行くか、先に乗り物を楽しむか相談しつつ去っていく。
アーニャとランタンのオシャレした姿を見た男性たちが、彼女たちに気づいてじっと見ている……気がする。
「やはり、あの二人は注目を集めているな」
「そうですね。とても素敵ですからね」
するとメタナイト卿は私の目を見た。
「そなたも、な」
「ありがとうございます。メタナイト卿も、本日も素敵です」
「そうか、ありがとう」
本心を伝えると、感謝を返してくれる。それは、たいへん居心地がいい。伝えてよかったと安心できるし、嬉しくなるのだ。
リーノは嬉しかった。こんなに優しくて気遣いができる人が恋人だなんて夢のようだ。大切にしてもらっている。だから、私ももっと大切にしたい。
「わたくしたちも乗り物を回りますか?それとも屋台に?」
「できれば会場を一周したいのだが、かまわないか?」
「はい。いいですよ。では、少し歩きましょう」
メタナイト卿と寄り添うように並んで歩き出す。
きっと、会場の地理を把握されたいんだわ。私はそう思った。
彼と共にイベント会場をぐるりと回る。視線が私たちに集中しているように感じた。気になるけれど、横を向くとメタナイト卿がいてくれる。傍にいてくれると実感する度に強ばる体から力を抜けていった。
『ぴーんぽーんぱーんぽーん!リーノ、メタナイト、オマケに村人共はイベント特設会場に来るゾイ!メインイベントを行うゾイ!デハハハハハ!!!』
「……呼ばれましたね」
「ふむ。このイベントのために、私たちは参加するよう言われたのかもな。何が起こるか分からない以上、気をつけるぞ」
「はい。充分注意します」
不安がふくらみ、息が苦しくなる。胸いっぱいに深呼吸した。
大丈夫。最近は筋力もついてきたし、いざという時にはポケットにしまっている果物ナイフで縄を切ろう。
それに、独りじゃない。メタナイト卿がいてくれる。カービィたちだって、この会場のどこかにいてくれる。私はみんなの邪魔にならないよう頑張ればいいだけ。大丈夫。大丈夫。
両手を合わせてギュッと握る。その様子に気づいたメタナイト卿が、手を差し伸べてくれた。私も手を伸ばして、互いに握り合う。互いの熱が、中央で混ざり合う。それは勇気を、私に与えてくれる気がした。
人々の流れに乗り、特設会場とやらに来た。
「ステージに呼ばれるかもしれないから、最前列にいよう」
「わかりました」
「あー!やっと見つけたでゲスよう!リーノはさっさとこっちに来るでゲス!!」
「すぐに参ります!!行ってきますね」
「気をつけて」
メタナイト卿と別れて、エスカルゴン閣下について行く。特設会場の裏側に回って、控え室に入った。
控え室には大きなハート型の箱があった。中央には人が一人座れるスペースが空いている。
「そこに入るでゲス」
「かしこまりました」
空いたスペースに入り、座る。
「これを持っとくでゲス」
「わかりました」
受け取った黒い水晶玉は、ただの玉に見えた。もしかしたらこれが魔獣かもしれない。そう思うと鼓動が早くなる。
「それにしても、ずいぶんおめかししたでゲスなあ」
「はい。今日は特別ですので……。いつものメイド服の方がよかったらでしょうか?」
「いや、そっちの方がいいでゲス。んじゃ、閉めるでゲスよ」
「はい」
箱の蓋が閉まった。鍵の音は聞こえてこない。蓋の隅に小さな穴がいくつも空いている。空気を通す穴だろう。そこから光が差し込む。全くの暗闇ではないことに安堵した。
だが、そこで渡された水晶玉が妖しく光りだす。
「な、なに!?」
……本音を言え。
…………不満をぶちまけろ。
不気味な声が聞こえてきて、リーノの意識はそこで沈んだ。
特設会場、ステージ上。
エスカルゴンがマイクを握りしめた。
「あーあー、お集まりの皆さん!よくぞ集まってくださいました!今からカップル、夫婦限定!告白大会を始めるでゲス!!」
村人たちは何が始まるのかわからない、けれど面白そうだと言わんばかりに拍手喝采をおくる。
しかし、フームとブンはそうせず首を傾げた。
「カップル、夫婦限定?」
「なんで?告白なら独身の人向けでしょう??」
「それでは、まずこの二人にやってもらいましょう!村長とハナ夫人!さあ、ステージに上がるでゲスよ」
言われるがまま、夫婦はステージ中央に上がる。注目されている事もあって、二人は少し恥ずかしそうだ。
「ワドルディ!!持ってくるでゲス」
ワドルディがガラガラとカートを押して村長夫婦の真ん中に置いた。カートの上には水晶玉が置かれている。
「二人には今から本音をぶつけ合ってもらうでゲス。愛し合っているなら愛を、気に食わない事があるなら不満を。どちらに転ぶかは二人次第でゲス」
「それは、一体どういう……?」
村長の言葉に耳を傾けず、エスカルゴンはぐふふと笑う。
「さあ、二人ともこの水晶玉を覗き込むでゲスよ!!!」
夫婦は怪しみつつも、好奇心が抑えられず水晶玉を一緒に覗き込んだ。
水晶玉が妖しく光る……!
夫婦の瞳から柔らかさが消えて、目がつり上がった。
エスカルゴンが二人にマイクを渡す。
「はい、スタート!!」
戦いのゴングが鳴った。
「あなたはいつも、人を頼りすぎですよ!アレがない。コレがない。そういえば私が持って来ると思っている!あげくには『ハナ、お茶』ですって!私は家政婦ではありません!!!」
「ワシはいつも家族のため、村人たちのために働いておるんじゃ!お前は仕事をしとらんのだから、少しくらいワシを労わってくれてもいいじゃろう!」
「私は!私は、毎日休みなく家族のために家事をしています!子供たちの面倒だって見て……仕事をしないのではなく、できないんです!あなたと違って時間がないんです!」
「ワシだって時間がないわい!」
「お〜っと、これはこれは。お互いの鬱憤が爆発したようでゲスな」
フームは愉快に笑うエスカルゴンに対して怒りを感じた。それよりも、今は村長夫婦の事が気がかりだ。
「あの二人、いつもはすっげー仲良しなのに。あんな口喧嘩しちゃって……」
「多分、あの水晶玉のせいよ!」
フームは全力で駆け出した!
「ねーちゃん!」
「ぽよう!」
ブンとカービィもその後を追う。三人はステージに上がり、睨み合う村長夫婦に声をかける。わめくエスカルゴンは無視した。
「ねえ、村長さん!ハナ夫人!どうしちゃったの?いつもはあんなに仲良いじゃない!」
「この人が!」
「お前が!」
「しっかりして!いつもの二人に戻って!!」
フームが村長の肩を強く掴み、ゆさぶる。すると村長の目から険しさが徐々に薄まり、そしていつもの優しい顔つきに戻る。
その様子を見届けたフームは、次にハナ夫人を正気に戻した。彼女からも、険しさが消えて元の優しい表情に戻った。
「私は一体何を……あなた、ごめんなさい。あんな事、言うつもりはなかったの」
「ワシの方こそすまんのう。お前はよくやってくれているのに、責めるような事を言ってしまった……許しておくれ」
夫婦は互いの手を取り合い、体を寄せ合う。どうやら仲直りできたみたいだ。
フームは胸を撫で下ろす。そしてキッとエスカルゴンを睨みつけた。
「どうして村長夫婦はあんなに激しく喧嘩しだしたの!?」
「二人になんかしたら、リーノが黙ってないぞ」
ブンの言葉にエスカルゴンは身震いした。本気で怒ったリーノは恐ろしい。恐怖からか、視線がついつい水晶玉に向かってしまう。
その様子を見て、フームは水晶玉に近寄り、覗き込んだ。
……本音を言え。
…………不満をぶちまけろ。
「やっぱり!この水晶玉のせいよ!」
「な、何をする気でゲスか!やめるでゲスよお」
フームはエスカルゴンの制止に耳を貸さない。水晶玉を両手でしっかりと掴もうとした。
バチッ!!
だが、激しい静電気がおきて掴めなかった。
「きゃあ!」
伸ばした手を引っ込める。幸い、ケガはない。
水晶玉がきらりと光り、ゆっくりと空中に浮かぶ!
「予定より早いけんど、陛下ー!!!」
「デーッヘヘヘヘヘ!いでよ、魔獣オマシー!」
突然現れたデデデ、その声に応えるかの如く水晶玉に恐ろしい目が浮かび上がった。透き通った体は、気味の悪いオレンジ色に変色する。
カービィがフームたちの前に出て、構えた。驚いた村長夫婦はステージから逃げ出す。エスカルゴンも安全地帯まで下がった。
「あれば魔獣オマシー!人の心を操る魔獣だ!」
「なんですって!」
「強敵じゃん!!」
メタナイト卿が音もなく現れた。悲観する姉弟に対して、戦士は落ち着いている。
「いや、恐ろしい力を持っているが、そこまで強敵ではない。相手を操るときにはただの水晶玉に、攻撃するときはあの様に変化する。対処がしやすい魔獣なのだ」
「つまり、戦いながら操られる心配はしなくていいのね!カービィ、聞いていた通りよ!」
「ぽよ!!」
魔獣とカービィの戦いが始まった。
オマシーが輝く。ビームが照射された!カービィはそれを間一髪避ける。姉弟も慌てて下がった。魔獣との戦闘が始まり、会場はパニックに陥る。みんな我先にと特設会場から逃げ出していく。
メタナイトはカービィからも、フームたちからも少し離れた。いつでも飛び出せる距離でありながら、彼らの視界には入らない絶妙な位置だ。そこで戦闘を見守るつもりだった。
それをチャンスと思った者が二人いる。
「メタナイト!」
戦士が驚いて振り向くと、デデデ大王とエスカルゴンが悪どい笑みを浮かべている。その後ろには、人が一人入れそうな巨大なハート型の箱があった。
「ワシからのプレゼント、受け取るがいいゾイ!!開け〜、あ、ゴマ!!!」
「よいしょー!!」
デデデ大王の掛け声に従い、エスカルゴンが箱の蓋を取る。
何が飛び出してくるのかと思い、メタナイト卿は身構えた。
箱からリーノが現れた。
服装に変化はない。たが、顔から表情が抜け落ちている。いつもの彼女ではなかった。
「リーノ!!」
「気安くうちのメイドの名前を呼ぶなゾイ!!!」
「こっちはそっちの関係を認めたわけじゃないでゲスよ!!」
二人の言葉は無視する。それよりも、リーノの様子が気がかりだだった。
リーノはゆらりと箱から出てくる。足取りはしっかりしている。ケガはしていないようだ。傍に駆け寄ろうと足を出して、止まった。
リーノの両手には、水晶玉と化したオマシーがいたのだ。
「陛下!これは一体……!」
「ぐふふふふ……さあ、メタナイト。リーノの偽らざる本音を聞くがいいゾイ!」
水晶玉が妖しく光る!
「わたくしは……」
「リーノ」
「わたくしの事、迷惑に感じていませんか?重荷ではありませんか?!だって私、寂しがり屋ですもの。大好きな人と、いつも一緒にいたいんですもの!母も、父も、いなくなっちゃったから、いつも傍にいてほしいんですもの!村のみんなは遠いし、陛下たちは上司だし、メーム様やパーム様たちに頼るのは気が引けてしまう。あなただけなんです。あなただけが寄り添える相手なんです……」
メタナイトは動揺した。まさか、あんなに愛おしそうに笑う彼女が、こんな孤独を抱えているとは思わなかった。
同時にデデデ大王とエスカルゴンも、動揺していた。金槌で頭を殴られたようだ。メタナイトに追い討ちをかける言葉を忘れて、リーノを見ている。
「わたくしは、弱い。要領が悪くて、甘えん坊で、大人になれなくて、愛する人たちに恩も返せない。今、みんなが困っているのに、助けられない。私は私のことが、きら……」
「えーい!!!」
アーニャがリーノから水晶玉をぶんどった!それを床に投げつけるが、叶わない。水晶玉は魔獣なのだ。浮かんで回避できる。
「アーニャどいて!やー!!!」
今度はランタンが、バットを振り回して水晶玉を床に殴り落とした。水晶玉はゴンゴンと鈍い音を鳴らして転がっていった。
リーノは数回瞬きする。
「あら?わたくしは……」
「リーノは弱くない!ちゃんと仕事できるし、村のみんなから好かれてて、子供たちから憧れられてて、村のためにも頑張ってる!!!」
「そうですよ!だから、もう自分自身のこといじめないでください」
「ランタン、アーニャ」
「寂しいなら、私たちが傍にいてあげる」
「お城のメイドにだってなってみせますよ」
「ふふ、三人でなら楽しそう」
親友二人が、リーノを抱きしめる。
リーノは徐々に意識がクリアになり、その瞳に涙を浮かばせた。
メタナイトが伸ばした手は空中を少し彷徨い、体の方に引っ込めた。いつものようにマントを体に巻き付ける。驚かさないように、ゆっくりリーノに近づいた。
「リーノ」
「はい。メタナイト卿」
「後でゆっくりと話そう。いいか?」
「はい。場所はわたくしの部屋でいいですか?」
「ああ、頼む。」
メタナイトはしばし恋人の瞳を見つめた後、カービィたちの方へと体を向けた。
戦いはすでに終盤で、ビームをコピーしたカービィが二体の魔獣を倒していた。
その日の夜。
陛下と閣下には市販の素うどんをだした。私が昔からお世話になっている村長夫婦に、ハナさんに手を出したのだから、罰は受けていただく。
私の作ったご飯ではないとわかると、御二方ともたいへんがっかりされた。市販のうどんも美味しいですよ?
それ以上に私のご飯を求めて下さっているのかしら。メイド冥利につきますね。
私の本音を無遠慮に暴いた罪は、なかったことにしました。いつかは向き合わなくてはならない感情だったのです。そのいつかは、今日だと思うことにしました。
そう陛下たちに伝えると「一週間有給扱いにするので休むように」と言われた。自責の念にかられているみたい。失礼だけど、しおらしい陛下たちは別人みたいだわ。はやく元気になっていただく為にも、明日はおいしいご飯を用意しましょう。
すべての支度を整えて、私は自室に帰りました。すぐに風呂に入り、体の汚れを丁寧に洗い落とします。普段着の中でも落ち着いたワンピースを選びました。それから部屋を綺麗に片付けていると、ドアがノックされました。誰かはわかっています。
メタナイト卿が来ました。
彼を部屋に招き入れ、飲み物を用意します。その間私はあまり話せませんでした。いつもそうですが、今日は緊張していて、言葉に詰まったのです。
リビングのテーブルに紅茶とコーヒーを置いて、彼の向かい側に座ります。一口ほどコーヒーを飲んで、メタナイト卿は褒めてくれました。
「いつ飲んでも、君のいれてくれたコーヒーはうまいな」
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
「単刀直入に聞く。私は君を寂しがらせていたか?」
「いいえ。メタナイト卿はいつだって、わたくしに喜びと幸せをくださいました。わたくしが抱える孤独は、両親が亡くなったことが原因です。時間をかけて、癒すしかないと思います」
「そうだな。リーノ。私は、そなたの力になりたいと思っている」
「それは……今後もわたくしと恋人でいてくださるのですか?」
「もちろんだ。君は違ったのか?」
「いいえ。わたくしも、メタナイト卿と恋人でありたいです。ただ、面倒ではありませんか?」
「面倒なものか。傍にいさせてくれ。君が好きだ」
「わ、わたくしも、メタナイト卿が好きです」
話し合いは、想像よりもずっと怖くなかった。むしろ話せてよかったと思えた。固まっていた心が柔らかくなり、今はふわふわとしていて温かい。
ふと、今ならと思った。
「メタナイト卿、この後時間はありますか?」
「あるが、長くは無理だな。どうした?」
「いえ、その。少しの間だけでも、一緒にいられたらと思いまして」
「ああ、わかった。時間までここにいよう」
「えーと、では……その、あちらに行きませんか?」
リーノの視線の先にはベッドがある。その意味を理解したメタナイト卿は、数瞬固まった。その様子に、リーノは慌てた。
「無理にとは言いません!ただ、その、今日は近くに、あなたを感じたくて」
「リーノ、大丈夫だ。わかっている」
「はい」
メタナイト卿はコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。そしてリーノの隣まで歩くと、手を差し出す。
「お手をどうぞ」
いつかエスコートしてくれたように。
リーノは微笑んで、手をそっと重ねた。