「行ってきまーす!」
「じゃあな!リーノ」
「ぽよぽよ〜い」
「みなさん気をつけて」
フーム様たちがリュックを背負い、城から出て行く。今日はウィスピーウッズの森を訪ねるらしい。
星のカービィといえば、りんごの実をつけるウィスピーウッズだろう。ゲームではお馴染みのボスキャラだ。一度会ってみたい。
それよりも、森に入ったら迷ってしまうことが恐ろしくて、行きたくないけど。
リーノは掃除用具を抱えて、次の場所を目指した。
「今日は久々にいいお天気だから、お仕事頑張ろうっと」
陛下たちにも、おいしいご飯を作って差し上げなくちゃ。
そう考えて掃除は隅々まで行い、お昼からたくさん動けるように洋食定食を作った。「おいしい!」と連呼する、デデデ陛下とエスカルゴン閣下は常に笑顔だった。私も嬉しくなって、お二人が食事する様子を食べ終わるまで見ていた。
そこまでは良かった。
「さ〜て、お散歩にでも行くかゾイ」
「わたくしもお供するでゲス。陛下」
あからさまな演技に口元がひくりとひきつる。もっと上手に隠していただければ、私だって気づかないのに。正直な方たちだなあ。
「何を企んでいらっしゃるのですか?」
「何も!?」
「いつもいつも、私らは悪い事企んでるわけじゃないでゲスよ!」
「いっーだ!!」
歯をむき出して私に見せる。まるで幼子のような行動に笑ってしまった。
「くすくす……かしこまりました。そう仰るなら信じます。夕飯までにはお戻りください」
あっさり引き下がった私に、お二方は驚いたようだ。目を大きく開いて、互いの顔を見合わせている。
私はそんなお二人を置いて、食堂から出て行った。
午後三時頃に掃除を切り上げて、村へ行く。夕方の買い出しだ。いつもは村人に注文して、お城まで届けてもらう。けれど今日は、調味料が一つ空になっていて、私も同じものを購入したかった。なので、直接購入するために、私は村まで降りてきたのだ。
村でたった一店舗しかないコンビニへ入る。
「こんにちは。お邪魔しますね」
「いらっしゃい!ゆっくり見ていってくれ」
にこりと微笑めば、相手も笑顔で返してくれる。私はカゴを取り、店内を進んだ。
まず調味料の棚から、目的の商品を四つもカゴに入れる。二つはお城の厨房に置いて、もう半分は自宅に置くのだ。残り一つになったらまた買いに来ればいい。
次はお菓子コーナーで、ワドルディたちに配るお菓子を選ぶ。自分も勤務中に舐めるし、子供たちに配ることもあるので、みんなから好かれる商品を選ぶ。そのうち一つは高い値段の物を選ぶ。中々食べられない分、あげると喜ばれるからだ。
必要な分はカゴに入れた。他にも必要なものがなかったか、少し考える。
すると、誰かに後ろから肩をトントンと、軽くつつかれた。振り返る。
「はい?」
ぷに。
頬をつつかれた。
「きゃ」
「私よ」
「アーニャもいますよ」
アーニャとランタンだったみたい。驚いたわ。
「もう、びっくりしたわ」
「悪かったわね。買い物するところが目に入ったからさ、声をかけようと思ったのよ」
「ついでに買い物もしようと思いまして」
二人もカゴを持っていた。だが、商品は入っていない。これから選ぶのだろう。
「この飴、おいしいんですか?」
アーニャが私のカゴに入っている、落ち着いた色合いの飾り気のない飴をしげしげと見る。前世でいう黄金糖というお菓子によく似ている。
「おいしいわ。私、いつも買うの」
二人は「そうなの」と言うと、同じお菓子をカゴに入れた。
「リーノが言うなら間違いないわね」
「ですねえ。帰って食べるのが楽しみです」
「二人にとってもおいしければ嬉しいです。私は、必要なものは選び終わりましたので、会計を済ませてきますね」
「わかりました。もう少しお話する時間はありますか?」
「ありますよ。では、外で待ってますね」
二人に手を振って、私は先に会計を済ませた。
店の中に居ては邪魔になるので、外でのんびりと待つ。夕日をぼんやり眺めていた。
「こんにちは」
「こんにちは」
反射的に笑顔で挨拶を返す。相手は名前を知らない、同年代ぐらいの男性だった。男性は隣にやって来た。近いと思ったので、一歩離れる。男性は離れた分だけ近づいてきた。なぜでしょう。
「何か?」
「君と少し話がしたいんだけど、今ヒマ?」
「友人を待っていますので」
断ったつもりだった。けれど、相手はそう思わなかったみたい。にこっと笑いかけられた。
「良かった。あのさ、今度おれの家でパーティするんだ。よかったら来ないか?」
「行きません」
「なんで?メタナイト卿に止められているの?」
「いえ、知らない人について行かないことにしているんです」
「そうなんだ!じゃあ、自己紹介するよ!おれは……」
「ちょっと、私のリーノに何か用なの?」
お店から出てきたランタンが、私と男性の間に割って入る。男性はランタンを眺めて、またにこっと笑った。
「ちょっと誘ってただけだよ。君もどう?」
「好きでもない奴の相手なんかしない」
「きついなあ」
はっきり断られても笑っている男性に、気味悪さを感じた。
私は無言でランタンの腕を掴むと、お店の入口に向かう。ちょうどアーニャが出てきた。
「二人ともちょっとこっちに」
アーニャの腕も掴む。ボルン署長のいる警察署へ足を向けた。進もうとする私の腕をランタンが引き止める。
「どうせならリーノの家に泊まるわ。アーニャはどう?」
「私もそうします」
「仕事はいいんですか?」
「とにかく、行きましょう」
「あっ、待ってください。……私たち帰りますので。さようなら」
「送るよ」
力強く別れの言葉を言ったのに、ついてこようとする。嫌だなと思って、ついに眉間にシワが寄った。
「その必要は無い」
聞き慣れた声がした。男性の後ろにソードナイトとブレイドナイトが立っていた。男性は驚いて振り返る。
「我々が送る。どこまで行くんだ?」
「お城です」
「では一緒だな。行こう」
歩き出す二人の戦士の後ろをついて行く。男性は何か言おうとして、結局やめた。
村から充分離れた、お城へと続く坂道でアーニャがブレイドナイトの隣に並んだ。
「さっきは助けてくださってありがとう」
「困っているように見えたから、当然のことをしたまでだ」
「それでも助かったわ。ありがとね、二人とも」
「礼には及ばん」
今度はランタンがソードナイトの隣に並ぶ。いいなあ、私もメタナイト卿の隣に並びたいわ。
思わずため息を吐いた。ランタンとアーニャがすぐに私の隣に戻ってきた。
「ため息吐いちゃって、どうしたの?アイツ、怖かったの?」
「私、事情をよく分かってないんですけど、声をかけられたんですよね?しつこいと困りますよね」
「違うの。さっきの人には困ったけれど、二人が……ううん。四人が羨ましかったの。私もメタナイト卿の隣を歩きたいなあって思って」
「相変わらず仲がいいわね。そういえば、メタナイト卿はどこにいるの?城?」
私が聞けなかったことを、たまたまだけど、さらりと聞いてくれるランタンに感謝した。
ソードナイトとブレイドナイトは少し硬い声で答えてくれた。
「卿は大事な用があって」
「今は別の場所にいます」
アーニャの腕が、私の片腕を抱き込んだ。
「そうなんですか。ちょっとの間だけ、リーノは寂しいですね」
「うん。でも、私よりメタナイト卿の方が大変だろうから。帰ってきたら癒してさしあげたい」
「大変さとか、そういうマイナスにどっちが上とかないわよ。両方大変。二人とも寂しかった。だから、お互いに癒されなくちゃね」
「ランタン、それ凄く素敵です!」
「さすが、ランタン!そうよね。メタナイト卿が帰ってこられたら、無理のない範囲で甘えさせてもらおうっと」
わいわいと話し出す。時々、ソードナイトとブレイドナイトも参加して、帰り道はとても楽しかった。
私は夕食を作らないといけないので厨房に向かい、アーニャたちは私の部屋で待つらしい。ソードナイトとブレイドナイトは仕事に戻ると言い、廊下の奥へ消えていった。
その日の夜、激しい雨が降った。風も強くて、出かけられたフーム様たちのことが心配だ。無事だといいのだけれど。
私はアーニャとランタンと、三人一緒に眠る。自室のベッドには、二人しか入れない。なので、リビングからソファを持ってきてベッドの隣に配置した。
今回は私がソファで眠る。三人が布団に潜ったとき、アーニャが話し出した。
「そう、言い忘れていたんですけれど」
「なあに?」
「私たち、本当にお城のメイドになりたいんです」
「どうして?今の仕事に何か問題でもあるの?」
「いえ、仕事にではなくて、周りがね。今日みたいにさ、男たちが寄ってくるのよ。勤務先にも居座られるし、店長たちも困ってんの」
「家の前で待ち伏せされたこともあるんです。ボルン署長に相談もしたんです。けれど、何も起きていない今は、注意することしかできないと言われまして……」
「そうだったの……」
じっとしていられなくて、上体を起こす。
考えたくないけれど、最悪のケースが起きたとき、近くにいない私じゃ助けられない。ならばいっそ、傍に居てもらった方がいいのかも。
「うん、そういうことなら、私は二人に協力する。明日から、どうすれば陛下に雇ってもらえるか考えましょう」
「ありがとう!リーノ。相談してよかった」
「ありがとうございます。リーノ。上手くいくよう頑張りましょうね」
「ええ!」
三人はようやく、体から力を抜いて眠ることができた。
翌日。廊下の掃除中。
仕事が一段落したら、それともお昼に相談しようか。どのタイミングで話せばいいのか悩んでいた。
デデデ大王にそっくりな像を、優しく丁寧に拭き掃除する。そこにフーム様たちが走ってやって来た。
掃除の手を止めて、身なりを整え、三人を迎える。
「よかった!リーノやっと見つけた!」
「探したぜ〜」
「ぽよぽよ」
「こんにちは、フーム様。ブン様。カービィ。何かご用ですか?」
ご姉弟は急いでいる様子だけど、カービィは楽しそうだ。大事な用だとわかっているのか、お菓子はねだってこない。
「お願い!デデデからラブリーを取り返してほしいの!」
「らぶりー?ですか」
たいへん可愛らしい名前だ。
なんでも、ウィスピーウッズの森に咲いた花の名前らしい。その花を、陛下がお城に持ち帰ってしまったのだ。ウィスピーウッズが困っているので、元の場所に返したいとのこと。
「わかりました。そういう事情でしたら協力させていただきます。陛下から、お花を返していただければいいんですよね?」
「そうよ」
「では、参りましょう。この時間ならは、お部屋にいらっしゃるはずです」
四人は、大王の私室に向かった。
大王の部屋は扉が開いていた。中を覗くと、誰もいない。おかしい。
「ラッキーじゃん!今のうちに……」
「いえ、おそらくこちらの方に」
リーノは己の勘を頼りに部屋の奥、バスルームの方へ歩いていく。
少々力強く、ドアをノックした。
「陛下!リーノです。開けますね」
「開けるでないゾイ!」
「えっちでゲスよう!!」
「バスルームを使っていないことは、バレていますよ!」
音が反響していないし、シャワー音も聞こえない。何より陛下がバスルームを使ってらっしゃるのに、エスカルゴン閣下も中にいるなんておかしいです!
私は確信を持って扉を開けた。
そこには、朝お会いした姿のままのお二人がいらっしゃった。
私は仁王立ち、目をつりあげて陛下の顔と閣下の顔を交互に見る。お二人は喉をごくりと鳴らした。
「陛下、閣下。フーム様たちから事情は聞きました。お花を、ラブリーを返してください。でないと、今日のお昼は卵かけご飯にいたしますわ!」
「ええい、怒るでないゾイ!あんな花なんぞ、もう用はないゾイ」
「さっさと持っていっちゃうでゲスよ!」
「……かしこまりました。許可をいただけたので、ウィスピーウッズの森に返却しておきます。寛大なご判断に感謝申し上げます」
深く腰を折り、頭を下げる。まっすぐ頭を上げてから、バスルームを出ていく。
後ろで待っていた三人に、許可をもらったことを伝えた。
「取られた物を取り返すんだから、別に許可なんて要らねーんじゃねえの?」
「勝手に持っていったら、陛下たちがなさったことと同じですわ。それではいけないと思います」
「たしかに」
ラブリーは部屋の窓際、よく日差しがあたる場所に置かれていた。フームはラブリーが入った鉢植えを持って、笑顔になる。
「ありがとう。リーノ!このお礼は必ずするわね」
「お待ちしておりますね」
ふざけてそんなことを言うと、フーム様は柔らかく笑い、ブン様とカービィを連れて部屋を出ていかれた。
さて、私も動かなくちゃいけない。
バスルームに戻り。ぐふぐふ笑っている陛下たちに声をかけた。
「デデデ陛下、エスカルゴン閣下、昼食に話があります。お時間、いただいてもよろしいですか?」
「あー、いいゾイ。後で聞いてやるゾイ」
「手短に話すでゲスよ」
「はい、かしこまりました。ありがとうございます」
これでいい。
今度こそ、リーノはバスルームから、デデデ大王の私室から出ていく。さあ、掃除に戻ろうと足を進めた。
昼食、デザートを食べてご機嫌が良いときに、メイド募集を切り出した。
今は募集を考えていないらしい。しかし、有能であれば雇ってもいいとも仰った。
「かしこまりました。質問に答えていただき、ありがとうございます」
「ところでデザートのおかわりはあるかゾイ?」
「陛下と閣下、それぞれ五つずつご用意しております」
「ぜーんぶ持ってくるでゲスよ!」
「かしこまりました」
昼食は楽しく終わった。
夜は戻ってこないと突然言われたので、お弁当を急いで用意し、陛下たちに渡す。
「何時に戻られますか?」
「わからんゾイ」
「あまり遅くなるようでしたら、わたくしは先に休みます。ご用がある場合はワドルディたちを頼ってください」
「了解でゲス」
「それじゃ、出発ゾイ!デハハハハハ!!!」
「いってらっしゃいませ」
どたばたと駆け出すお二人を見送り、私も出かける準備をする。村に行くのだ。アーニャとランタンにメイド雇用条件を伝えに行こう。
夕方、二人とも仕事中なので多くは話せない。なので、手紙に話したい内容をしたためた。それを持って村に行く。
アーニャは本屋に、ランタンは雑貨屋で働いている。それぞれに立ち寄り、二人に手紙を渡した。
昨日のような困ったイベントはおこらず、リーノはほっと胸に詰まった空気を吐いた。
夜、八時を過ぎても陛下たちは帰ってこない。
きっと悪いことをなさっているんだわ。こんなとき、メタナイト卿がいてくれたら相談できたのに。
そっとため息を吐いて、リーノは自室に帰った。
次の日の早朝。いつもより早い時間に目が覚めた。陛下たちはまだ戻られていないみたい。ならばと、今のうちに陛下と閣下の寝具を洗いたての物に変えておく。これで戻られたとき、気持ちよく眠れるはずだ。
陛下たちは朝十時頃、ボロボロの姿で帰ってきた。
疲れ果てたお二人を見て、怒りよりも心配が勝った。
「お風呂の準備はまだですので、先にご飯になさいますか?」
「そうするゾイ」
「お腹減ったでゲスよう」
「すぐに準備いたします。食堂まで歩けますか?」
お二人はゆっくり動き出した。
怒るときは、お二人が元気な日にしよう。そう思った。