メタナイト卿、ソードナイト、ブレイドナイトがデデデ大王の配下となった日。リーノは数人のワドルディを連れて、彼らの部屋となる場所を掃除していた。
城内の部屋はリーノ含めてワドルディたちが毎日一層ずつ掃除している。よく使う場所は毎日だ。ここの城は上にも地下にも階層が広がっているので、一ヶ月以上掃除されない場所があったりする。あまり人が訪れない地下は特にそうなりやすい。
メタナイト卿たちに割り当てられた部屋は、ちょっと埃が溜まっていた。なので私たちが掃除にやって来たのだ。
まず家具を部屋から出して中を空っぽにする。二つある窓を開けると、気持ちのいい風が入ってくる。天井から埃を叩き落として、掃き掃除を行う。次に強力な掃除機を持ってきて、砂埃などを吸い上げた。
部屋の掃除中に、風通しのいい場所で家具の埃を払う。さらに拭き掃除もやり、ピカピカにする。
埃まみれになりながら、大掃除を行った。タンスの引き出しも全部取り出して拭くぞ。手を伸ばしたところで声をかけられた。
「……何をしている?」
「はい?あら、メタナイト卿。先ほどはお疲れさまでした。ただいま大掃除中ですわ」
メタナイト卿、ソードナイト、ブレイドナイトの三人がいた。彼らはつい数十分前にワドルディ百人切りを見事やりきったばかりだ。多少埃まみれになっていたが、かすり傷一つもない。疲れているから休もうとこの部屋に来たのだろうか。その背中には旅の荷物があった。
「なぜ今、大掃除をしているのだ?」
「部屋が埃まみれで汚かったからです。掃除が終わってからお呼びするつもりでした。もし休憩なさるなら、あちらのお部屋にどうぞ。あなた方の休憩室ですわ。そちらなら先に掃除を済ませています。体を休められるかと」
「どこだ?」
「ご案内します。ワドルディたち、少しの間離れますね」
「わにゃわにゃ」
ワドルディが全員頷いたのを確認して、持っていた雑巾を畳みタンスの傍に置いた。軽く埃を払ってから、メタナイト卿たちを休憩室に案内する。
休憩室の中は広く、この辺りでは珍しく畳が一畳置かれていた。大きめのカーペットも床に敷かれて、一人用のソファ椅子がある。アニメで見た、三人がいつもいたあの部屋だ。
ソードナイトが驚きの声を上げた。
「畳があるのか」
「気に入られましたか?違う階層には一面畳敷きの部屋もございます。そこはワドルディたちの休憩室なので、もし入るならワドルドゥ隊長の許可が必要になります」
「一面畳敷き……それはいいな。いや、こちらで充分だ」
「そうですか。では、わたくしはこれで」
体を反転させようと足を引いたところで、ブレイドナイトさんに呼び止められた。
「待ってくれ。飲み物をいただきたいんだが……」
「でしたら、城の台所をお使いください。お水はいくら使っていただいても構いませんが、紅茶などは各自で用意してくださいね。食事も、基本は各自で負担します」
「そ、そうなのか」
「もし昨日と同じ食事をとりたい場合は、食堂に向かってください。月末にお金を払うことになりますが、栄養バランスのとれたおいしい食事を食べられます。以上で、何かご質問はありますか?」
メタナイト卿が質問した。
「この部屋に自由に物を置いてもいいのか?」
「ええ、大丈夫ですよ。冷蔵庫など置いてくださっても構いません。しかし部屋を壊さないようにお願いします」
「わかった。質問は以上だ。ありがとう」
「いえ、それでは掃除に戻りますので、失礼いたします」
私は一礼をしてから、部屋の扉を閉めた。
掃除は一日がかりだった。三人が一緒に眠る部屋なのだから、結構広かったのだ。大変だったけれど無事に終わって良かった。あとは、ベッドシーツやらタオルなど、最初に渡しておく物をクローゼットに入れておく。これでいいだろう。そうだ部屋の花瓶に、中庭で咲いたバラを挿しておこう。喜んでくれたらいいな。
ワドルディたちを先に帰し、メタナイトたちを呼ぶ。彼らは部屋の出来栄えに大層驚き、喜んでくれた。
「明日も驚く場所にご案内しますわ」
「驚く場所?どこだ?」
「それは秘密です。ふふ、明日の夜九時にご案内いたしますわ。夜の方が、都合がいいので」
私はくふふと笑いながら、その日は彼らと別れた。ああ、疲れた。今日は食堂でご飯を食べよう。食堂でメタナイト卿たちと会わなかった。どこで食べたのだろうか?
翌朝、日々の日課である掃除、調理、洗濯をこなして夜を待つ。途中の買い出しで、村の女性たちに捕まった。彼女たちいわく、もっと三人の戦士たちについて聞かせてくれ、だそうだ。昨日の今日で話せることなど何もない。「何も知らない」と言って逃げて、何とかアーニャとランタンに会えた。民家の裏側に三人肩を寄せ合って会話する。
「今夜、泊まりに来ない?あの三人をあの場所に案内するんだけど……」
「いいわよ。荷物持って行くわ」
「了解です。それじゃ、夕方リーノのお部屋に上がりますね」
「うん、待っているわ」
二人は夕方五時に城へやって来た。両手には大きめの荷物を持っている。中にはお菓子やカレーの食材があった。私の部屋でカレーライスを用意し、久々の女子会を開催する。席について「いただきます」と声を揃えた。一口食べる。うん、ちょっとスパイシーでおいしい。
「結構いけるじゃない?」
「とてもおいしいですよ」
「そうだね。すごくおいしい!」
「で、あの人たちにどこまで見せるの?」
「すべてお見せするわ。もちろん、私たちの場所は秘密よ」
「はあ、よかった。もし見せると言ったら止めていましたわ」
「そんなことしないわ。あそこは私たちだけの秘密基地よ」
三人で声を抑えて笑い合う。
話題はやっぱり、あの三人の戦士たちに偏った。
「ねえ、昼間は“何も知らない”って言っていたけれど、実際はどうなの?何か接触があったんじゃないの?」
ランタンがぐっと身を乗り出す。すると彼女の豊満な胸が押しつぶされた。苦しくないのかしら。私はサラダを飲み込んで言う。
「あの人たちに割り当てられた部屋を掃除したの。それもピカピカにね。綺麗になった部屋を見せたら、とても喜んでくれたわ」
「それだけですか」
「ソードナイトさん、あの長身の男性は畳を見て喜んでいたわ。ワドルディたちの休憩室に“一面畳敷きの部屋がある”と言ったら羨ましそうにしていたと思う」
「へえ、和風が好きなの?好い趣味だわ。そのソードナイトって人」
ランタンが髪をかき上げる。この仕草が色っぽいって村の一部の男性たちには評判だ。私も、たまにドキッとする。ランタンって大人だよね。
「和風いいですよね。歴史も古くて、風情があって……取り入れることは難しいですけれど、華やかで素敵です」
「……今度、着物を仕立てちゃう?」
「できれば小物がいいです。ストラップとか」
「私も、コースターとかがいいな。部屋に飾ったり、コップの下に置いたりするの」
「ああ、そうね。二人は着たいとか言うタイプじゃなかったわね」
ランタンはリーノの部屋の壁を眺めた。部屋には、三人が幼い頃描いた絵や、アーニャがプレゼントした絵、ランタンが縫ったパッチワークを壁に飾ってある。女の子らしい部屋だ。しかし、置いてあるものがちょっと多いため、散らかっている印象を受ける。
「サトさんなら、着てくれるんじゃないかな?」
「でも、そしたらお代もらえるのかしら?私、タダ働きは嫌なのよね」
「……勝手に作っといてお金貰うのは、変か」
「良くはないよね。合意していないから」
「そうだね」
「それで、小物は今日作るの?」
「とても、作りたいです」
「私はしたいです。いいですか?ランタン」
「いいわよ。一緒に考えながら作りましょう」
「じゃあ、始めの時間は小物作りに決定!ありがとう、ランタン」
「ありがとうございます。ランタン」
「どういたしまして」
お喋りをしていたら、あっという間に時間が来た。私たちは荷物を持って急いで、戦士たちの休憩室に向かった。
夜九時ちょうど。中にはっきりと音が聞こえるように、ちょっと強めに扉を叩いた。すぐに扉が開かれる。
「こんばんは。お待たせしてしまったかしら?」
「いや、九時ちょうどだ。そちらの者たちは?」
「わたくしの幼馴染の二人です。アーニャとランタンですわ」
アーニャは軽く礼をして、ランタンは「よろしく」と言った。メタナイト卿は自己紹介をして、次にソードナイトとブレイドナイトを紹介してくれた。それぞれ挨拶を済ませたので、さっそく目的地に行こうとなった。胸が躍るようにわくわくする。
「皆様、ついて来て下さい。危険な場所でも怪しい場所でもありません。ただ秘密なだけです」
「……わかった」
明かりを持って私が先導する。その後ろにアーニャとランタンが続いて、次にメタナイト卿たちが歩いた。私たちはどんどん階段を下る。そして地下への扉を開けた。
「この先に目的のものがありますわ」
「ふむ、地下か」
「お楽しみはこれからよ」
ランタンがそういうと、戦士たちは不思議そうに顔を見合わせた。
さらに地下への階段を下りる。地下一階のワインセラーの近くを通ると、パーム大臣とすれ違った。
「パーム大臣、こんばんは」
「やあ、こんばんは。リーノ。アーニャとランタンも久しぶりだね」
「こんばんは、パームさん」
「こんばんは、お元気そうで何よりです」
パーム大臣はワインを持っていた。おそらくワインセラーからの帰りなのだろう。彼はメタナイト卿を見つけるとちょっと目を見開いて、それから笑顔で会釈した。
「リーノ、紹介してくれるかい?」
「はい。メタナイト卿、こちらパーム大臣です。パーム大臣、こちらメタナイト卿、ソードナイト様、ブレイドナイト様です。今、地下を案内しているところなんですよ」
「それは、それは。地下は城の者なら自由に使えます。あなた方も良い場所が見つかるといいですね」
「……そうですね」
「では、わたくしはこれで。リーノ、皆、あんまり遅くまで起きていたらダメだよ?」
「はい。承知しております。おやすみなさいませ、パーム大臣」
「はい、おやすみ」
パーム大臣は私たちが歩いてきた方向とは別の、城の者しかしらないエレベーターの方へ歩いて行った。私たちは再び階段を下りる。ずいぶん長い時間、階段を下りた。何度かチャリと鎖の音がしたので、おそらく懐中時計で時間を確認したのだろう。私も懐から、大王様から誕生日に頂いた懐中時計を取り出す。時間は十時半を回っていた。そろそろだ。
「もうすぐ到着しますよ」
「……一体どちらまで行くのですか?」
ブレイドナイトさんが警戒した声色で言う。アーニャはそれに気づかず、機嫌良さそうに返した。
「もう、すぐそこですわ」
その様子に毒気が抜かれたのか、ブレイドナイトさんは「そうですか」と、肩の力を抜いて言った。
十分も歩くと、両開きの扉が目の前に現れた。アーニャとランタンが片方ずつドアノブを持つ。私は端によって、三人の視界を邪魔しないように身をよせた。
「三、二、一……オープン!」
ゆっくり扉を開く。
その先には庭があった。まるで絵画の風景をそのまま再現したような美しい光景が、眼下に広がっている。緑豊かで、小山から水が流れて滝ができていた。七階層分の高さをぶち抜いて、造られたそれはワドルディたちの地下の休憩室だった。下でワドルディたちが各自休憩していた。
「ここは……」
「素敵でしょう?ワドルドゥ隊長の趣味の園芸ですわ。半年前に完成したばかりなんですよ。ここで休憩できるのはワドルディたちだけですけど、こうやって見るだけならば、自由なんです」
「素晴らしい景色だ」
「うむ、見事だ。お一人で造られたのか?」
ソードナイトさんの言葉にランタンが答えた。
「始めは一人だったみたい。でも隊長が自分たちのために休憩室を造ってくれていると知ったワドルディたちは手を貸すようになったの。最後は全員で造ったって聞いたわ」
「そのおかげで凝った造りになったそうです。あの山とか、滝も見事ですよね。今は他の場所で、温室を作られているそうですよ。完成したらフラワーガーデンになるので、楽しみです」
戦士たちがそれぞれ感嘆の声を上げる。私たちは無事に喜んでもらえたことに、胸を撫で下ろした。ほっと息をつく。
リーノが「さらにイベントがある」と言った。
「十一時には帰りの音楽が流れます。プロジェクターを使って、天井に満点の星空を映すんです。とっても綺麗だから、あなた方に見て欲しかったの」
「音楽は生演奏です。ワドルディたちはプロじゃないけれど、美しい演奏をするのよ」
「つまり……」
ランタンが温かい缶コーヒーを三つ、メタナイト卿たちに差し出した。突き当りにある売店で買ってきたのだろう。
「ちょっとした歓迎会のつもりで呼び出したのよ。疲れているところ、悪かったわね」
メタナイト卿は缶コーヒーを受け取る。ソードナイトとブレイドナイトも続いた。じっと缶コーヒーを見てから、私たちを見る。
「ありがとう」
「どういたしまして」
私たち六人は十一時を回るまで、近くに設けられたベンチに座った。ベンチは数が多かったので、全員座ることができた。ココアを半分ほど飲んだところで、メタナイト卿に話しかけられた。
「ところで、この城の地下は広いのか?」
「広いです。地下五十階以上はあるはずですわ」
アーニャが手を広げて言う。
「縦にも横にも広いんですよ」
「そんなに大きいと、すべては把握しきれないだろう?」
「ええ、そのとおりです。陛下は、きっとこの庭のことも知りませんわ。そして私たちの秘密基地のことも」
「あなた方も何か造ったのか?」
「地下の広い部屋を一室借りているだけよ。あの庭みたいな物を造っているわけじゃないわ」
「私たちはそこで趣味に没頭しているだけです。この庭が見える場所にあります」
「どこにあるんだ?」
リーノたちはにこりと笑って、口元に人差し指を当てる。
「内緒ですわ。なんたって、秘密基地ですから」
「ねー」
「ねー」
「ふむ、そうか」
「この城の地下はまるで迷路のようですわ。出入り口が複数あれば、一つしかない場所もある。色んな階層から行ける場所もあれば、地上からしかいけない場所もある。陛下の趣味が反映されていますわね」
「お城が建築された時から手伝っているリーノにも、わからないんだもの。私たちだけなら迷子になって出られなくなるわ」
「あなたたちも気を付けなさいよ。初めて行く所は、できるならワドルディに道案内を頼むといいわ。あいつら、なんでも知っているから」
「いつもお菓子を携帯するといいですよ。何かあげないと、ワドルディは頼み事を聞いてくれませんからね」
「口封じにもお菓子がいるわよ」
「……つまり、そなたらはそうして地下に秘密基地を得たのだな?ワドルディに案内させ、お菓子で口を封じた」
「そうです!」
私たちは笑い合った。いたずらが表面化した気分だ。メタナイト卿はため息を吐いた。多分ちょっと呆れている。
その時、リンゴンと鐘が鳴った。
「あら、時間ですね」
アーニャの言うとおり、部屋の外が暗くなっている。私たちは外に出て、満天の星空を見上げた。