自然豊かなププビレッジ。
平和な村に工場が建てられた。この村には似合わない見た目をしている。その工場煙突から、黒々とした煙が二十四時間あがっている。
その煙は、城へたどり着くと壁や天井を黒く汚した。おかげで掃除が大変である。
「こういうとき、アーニャたちの手があれば、楽できますわね」
ワドルディたちはやることがあるようで、みんな忙しそうだ。リーノと共に掃除するワドルディたちも、どこかへ駆り出されている。
おそらく、新しくできた工場で働いているのだろう。あの工場には、嫌な予感がしていた。村人たちに怪我がなければいいのだが。
「リーノ!」
「フーム様?少々お待ちください」
高い所を脚立にのぼって掃除していた。下からフーム様に呼ばれたので、脚立を降りる。
身だしなみを整えようとしたら、何か言いたげなフーム様と目が合った。今日は先にお話を聞いた方が良さそうね。
「このような格好で失礼します。何かご用ですか?」
「デデデの企みを止めて欲しいの!あなたの言葉なら耳を貸すでしょう?」
「それは、難しいかと。わたくしはただのメイドです。いくら陛下たちに長く仕えているとしても、あの御方は耳を貸してくれませんわ」
「そんな……」
「ごめんなさい。フーム様、今はお力になれずとも、騒動が落ち着いたときには必ず力にならせていただきます」
「それじゃ遅すぎるのよ!」
フーム様は走り去ってしまった。
その背中を、私は直視できない。私がこうして、のんびり構えてられるのは、未来を知っているからだ。工場は壊れて、村人たちは正気に戻る。壊れた自然は帰ってくる。
でも、フーム様はそれを知らない。だから、今を一生懸命生きられる。行動される。
それが眩しくて目を伏せる。自分が少し情けなかった。
数日後、村が気になった。雨が降っていたからだ。そろそろ酸性雨によって自然が壊され始める頃だ。私はその様子を見ておかなくてはならないと思った。
城の廊下でメタナイト卿に出会い、一緒に村へ向かった。
会話はあまりない。私の重苦しい気持ちを察してくださっているのかも。
村へついたのに、誰にも会わなかった。おかしい。お昼前だとしても数人とすれ違うものなのに。
「みんな、工場で働いているのでしょうか?」
「だろうな。アーニャとランタンは?」
「二人は工場には行っていないはずです。前に工場について説明したところ『それなら、自分たちで作品を作っていた方が良い』と話していましたから」
「ならば、無事だろう。雨だ。家にいるだろう」
「ええ、そうですよね」
メタナイト卿に花畑があった村の外れに行かないかと誘った。彼は了承してくれたので、そちらに足を向ける。
花畑には先客がいた。フーム様だ。声をかけようとして、何も言えなかった。フーム様の先にあったはずの自然がなくなっていたのだ。草木は枯れて、以前のような緑美しい景色はない。
「この、雨のせいですね」
「ああ、そうだ」
「メタナイト卿、それにリーノ……。気づいていたの!?」
「おおよそな」
「わたくしは、何となくという程度です。あの煙には、良くない物が含まれている気がしていました」
「二人とも、どうして止めてくれなかったの!?」
メタナイト卿はちらりと私の方を見てから、言った。
「愚か者たちは痛い思いをしなければ理解できない」
「…………」
手をぎゅっと握りしめる。フーム様が声を張り上げた。
「ひどいわ!リーノが村を、みんなを大切にしていることは知っているでしょ!」
「いいんです。フーム様、メタナイト卿は間違っていません。それに私だって、こうなることをわかっていたのに、何もしなかったんです。悪いのは私自身です」
「リーノ……」
「フーム様、それにメタナイト卿。わたくし、不安なんです。あの工場は便利グッズを作るためだけなのでしょうか?」
「なんですって?」
「わたくしの勘が正しければ、もっと悪いことが起きるはずです。それが恐ろしいのです」
「……調べてみる!!」
フーム様は走ってどこかへ向かわれた。きっと工場だろう。
「メタナイト卿、今日は工場の方に行ってみようと思いますの」
「何をするつもりだ」
「何もしません。外からただ、眺めるだけですわ。この自然を壊した原因を、ただ見たいんです」
「わかった。共に行こう」
「ただ近くで見るだけですよ?」
「念の為、というやつだ」
「わかりました。では、ご一緒に」
工場へ歩いていく。誰にもすれ違わない。それがとても寂しくて、こんなこと何度も起こりませんようにと祈った。
やがて雨は止む。
工場が近くなる。すると激しい物音と人々の悲鳴が聞こえてきた。私たちは走り、逃げてゆく村人の一人を捕まえる。
「何がありましたの!?」
「デデデに騙されていたんだ!ここはロボット工場だった!!今は、カービィが戦っている!」
それだけ言うと村人は走って行ってしまった。メタナイト卿の方へ振り向く。
「メタナイト卿!」
「落ち着け。フームたちの姿がない。まだ中にいるんだ」
「そんな……わたくしのせいで、フーム様は!」
「君がきっかけだったとしても、決めたのはフームだ。信じて待とう」
「わかり、ました」
「リーノ!メタナイト卿!!」
「逃げろ〜!!!」
「フーム様、ブン様、カービィ!」
「逃げるぞ!!」
「は、はい!」
後ろから走ってくる三人と合流し、工場から離れ続ける。
五分ほど走っただろうか。後ろで大爆発が起きた。
遠くで悲鳴も聞こえた。なんとなく、聞き覚えがあるのは陛下たちの声だからだろう。
きっと今回も、ワドルドゥ隊長が兵士を率いて探しに行くんだわ。帰ったらご飯の用意だな。
村は自然を失った。
取り戻すべく、キュリオさんとフーム様がリーダーとなり村人たちは動き出した。
私も参加する。お手伝い程度なのは、炊き出しを主に担当しているからだ。私が作るご飯をみなさん楽しみにしてくれているらしい。嬉しいことだ。
何より、以前より村人たちが自然を大切にしようと行動していた。子供たちは花を見つけては水をやった。大人たちは、もっとよく考えて木を切ろうと話し合うようになった。
それが嬉しくて、メタナイト卿との会話でも話題に出す。
「良い方向に落ち着きそうです。良かったですわ」
「だが、また同じことが起こるかもしれない」
「そのときは、また頑張ればいいんです。今度は、わたくしもフーム様のお手伝いをさせていただきます」
それが、私の出した結論だった。
工場のせいで自然が大変なことになった。そして、お城も大変なことになった。
天井と高い壁が煙で汚れた。私一人頑張っても、すぐには綺麗にならない。ワドルディたち総出で掃除しても数日かかってしまった。
あー、これは間違いなく、掃除上手なメイドがもう二人いた方が助かるわね。
陛下に進言したところ、お試し三ヶ月で雇うこととなる。
「というわけで、陛下から許可をいただきました!二人とも、準備はいい?」
「いいわ!店長には言ってあるもの」
「私も、大丈夫ですよ!」
「では、今から引越し始めましょう!」
アーニャとランタンは、これからメイドになる。
そして私は二人の上司、メイド長となった。これには驚いた。