【完結】転生者がカービィ世界で生き抜く話   作:紅絹の木

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激辛ブーム

アーニャとランタンがメイドとして雇用された。

試用期間は三ヶ月。この三ヶ月でばっちり結果を出して、二人とも採用してもらうんだ。なので、初日から飛ばしていく。

朝五時に起こして、身だしなみを整える。髪型に規則はないので、二人ともそのままにするみたい。メイド服に着替えたら、ポケットに小型のナイフを入れておくよう注意した。

 

「なぜですの……?」

「陛下たちに縛られることがありますので」

「なにそれ!酷いじゃない!」

「ここは、そういう職場です。さあ、折りたたみナイフでいいですから、ポケットに入れて置いてください」

 

二人とも、私が用意した折りたたみナイフをポケットにしまう。アーニャが両手を胸の前で組んだ。

 

「これが使われないことを祈ります」

「お守りのようなものですから。多分、大丈夫です」

 

二人が不安そうに眉を下げるので、気分を変えるために朝食を食べる。服を先に着てしまったので、昨日のうちに、作っておいたおにぎりを朝食に選んだ。

 

二人の部屋は、お城の中でも私と同じ階層にある。廊下を曲がった先が、アーニャ、ランタンの部屋だ。荷物は少量に分けて運んだ。といっても、三ヶ月後どうなっているかわからないので、全ての荷物は運んでいない。

 

朝食後は、厨房に向かう。陛下と閣下のご飯を作るためだ。厨房には既に使われた形跡がある。洗われたフライパンに、まだ水滴がついている。

 

「陛下たちが起きられる前に朝食の準備を進めます。使われた形跡がありますね。おそらくワドルディたちのご飯を作っていたんだと思います」

「こんな朝早くからですか?」

「はい。ワドルディたちの朝食はいつも早めなんですよ。日が登らないうちから朝食を作り、夕方になる前から夕食作りを始める。人数が多い分、調理にも時間がかかります」

「なるほどね」

「では、朝食を作りましょう。今日は和食にいたします」

「なぜ和食なんですか?」

「昨日が洋食だったからです。毎日飽きないための工夫のつもりです」

「リーノのご飯なら毎日食べても飽きないわよ」

「ありがとうございます。褒めても何も出ませんわ」

「あら、残念」

 

どっと、私たちは笑いあった。

朝食を作っている途中、完成一歩手前で作業を中断する。陛下を起こしに行くためだ。

 

「エスカルゴン……様は起こさないの?」

「はい。ご自身で起きるので、目覚ましはいらないようです。できれば、エスカルゴン閣下と呼びましょう。敬語は必ず使ってくださいね」

「はい。わかりました」

「大王様……陛下と閣下に敬語を使うのは当たり前だとして、私たちはリーノに使わなくていいのかしら?」

「あっ、たしかにそうですね」

「わたくしに敬語を使うなら、試用期間が終わり採用されてからですね。それまでは、わたくしは二人の上司ではありませんから」

「わかりました。そういうことなら」

「もうしばらくはこのままね。了解」

「では、陛下を起こしに行きます」

 

陛下を起こすポイントは、耳元で朝食のメニューを読み上げることだ。詳細に、食欲をそそるように説明しつつ読み上げる。そうすると陛下のお腹が鳴る。その音を聞いて陛下は起きるのだ。

 

陛下が支度なさってから食堂に向かい席につくまでの間に、私たちも準備を進める。

陛下の支度は後から来たワドルディたちに任せて、部屋を出る。

厨房に戻り料理を完成させる。カートに料理を乗せて、必要な物を揃えたら厨房を出発する。

 

食堂に到着すると、陛下と閣下はすでに席についていた。リーノはデデデ大王とエスカルゴンに近づくと、頭を下げた。

 

「たいへんお待たせいたしました。すぐにご用意させていただきます」

 

アーニャとランタンは壁際に立ってもらって、配膳は私がする。フードカバーを取ると、陛下は目を輝かせた。

 

「今日もうまそうだゾイ!!!」

「ほほ〜おいしそうでゲスな!」

「ありがとうございます。どうぞお召し上がりください」

「いただきますゾイ!」

「いただくでゲス〜」

 

うまいうまい!と連呼する陛下。お二人とも箸を休めずに食べてくださった。お二人が食べ終わるまで、私もアーニャたちの隣に立って待つ。

二十分後、全てのお皿は空になった。陛下と閣下はお箸を置いて、席を立つ。

 

「食った食った!リーノ、食後にコーヒーを持ってくるゾイ」

「かしこまりました。どちらに運びましょうか?」

「玉座の間ゾイ」

「私もコーヒーを」

「かしこまりました。コーヒーを二つお持ち致します」

 

陛下たちが出て行った後に、食器を片付ける。またカートに乗せて、厨房に帰る。三人で食器を洗い、布巾で水気を取ればあっという間に終わった。すぐにコーヒーにとりかかる。

 

「二人にもコーヒーの淹れ方を教えておきますね」

「リーノから教えて貰えるなんて!」

「メイドになったかいがあります!」

「ふふ、大袈裟ですよ」

 

そんなに褒められると照れくさい。誤魔化すように笑った。

 

 

 

やり方を丁寧に教えたため、少々時間がおしてしまった。

急いで玉座の間に向かうと、ちょうど魔獣がデリバリーされた後だった。

 

「お〜、リーノ!コーヒーをはよう飲ませるゾイ!」

「ただいま」

「ねえ、リーノ。アレって……」

「二人は入口近くで待ってて。私だけ行ってくるわ」

 

二人をカスタマーサービスに会わせたくなかった。だから入口近くで待たせる。

ガラガラとカートを押す。手にじんわりと汗をかいた。そこで、ふと気づく。足音が後ろから聞こえてきた。振り向かず声を抑えて話す。

 

「なぜついてきたの?」

「一人よりも二人、二人より三人いれば」

「なんだって乗り越えられる。大丈夫。リーノは私たちが守ってあげる」

「だからリーノは私たちに力を貸してくださいね」

「守るためだったのに、しょうがないなあ」

眉を下げて笑う。もう嫌な汗はひいている。背筋を先程までより伸ばした。前を向く。もう怖くない。私が二人を守るんだ。

 

陛下の近くで止まる。そして手早くコーヒーをいれて、渡した。陛下はそれを受け取ると、一口飲む。

そしてほっと息を吐くのだ。

 

「はあ〜、たまらんゾイ」

「ありがとうございます。エスカルゴン閣下、どうぞ」

「いただくでゲス」

「…………」

 

こちらをじっと見てくる男性が一人。サングラスにシェフ帽子を被っている。ダウンロード機器の上に立っているということは、おそらく魔獣なのだろう。できればお帰りいただきたい。

私の気持ちは置いておいて、一応お客様に当たるのでコーヒーを出した。

 

「どうぞ」

「メルシー」

 

メルシー。久しぶりに聞いた。たしかにフランス語で「ありがとう」だったはず。

魔獣はコーヒーを一口飲むと、雰囲気がガラッと変わった。一気に飲み干し、カップを持って、私に詰め寄る。何か言っているが、まったくわからない。

 

「あ、あの、落ち着いてください」

『ふむ。どうやら、リーノを助手に迎えたいそうですね』

 

カスタマーサービスがそう言った。

 

『そんなにおいしいなら、わたくしもいただきたいものですね〜』

「リーノを助手に?それはいいアイディアゾイ!!」

「なんの話でしょうか?」

「村に出すレストランの話でゲス。リーノは新しいレストランに出張するでゲスよ」

「今は新しく入ったメイドの研修、日々の仕事で忙しいので、お断りしたく」

「それは免除ゾイ!レストランで働くゾイ!」

 

お、お断りしたい!魔獣の仕事に手を貸したくないのだけれど……。ううん、考えようによってはいいのかもしれない。情報が仕入れやすいから、メタナイト卿のお役に立てるわ。

うんうん悩んでいると、アーニャが右から、ランタンが左から私を挟んだ。

 

「デデデ……陛下、エスカルゴン閣下!リーノが行くなら」

「私たちも勉強のために行かせてください!」

「うーむ……」

「看板ウエイトレスがいたら、ますます繁盛するでゲスな!」

「ならば、決まりゾイ!!デハハハハハ」

 

陛下が笑う。私は小声で二人と話した。

 

「よかったんですか?何か起こりますよ?」

「それなら尚更行かなくちゃ。ねえ、アーニャ」

「ですです。一緒に乗り越えましょう」

「二人とも、ありがとう」

 

こうして私たちは陛下の悪巧みに参加することになった。

 

 

 

次の日、レストランはカワサキの店の前に建てられた。酷いと思う。これじゃ、カワサキの店が潰れてしまうわ。

 

「陛下、レストランを別の場所に移動は……」

「せんゾイ」

「ですよね……」

 

カワサキ、ごめんなさいね。レストランがなくなったら、お詫びの品を持っていくわ。

 

新しくできたレストランの名前は、レストランゴーンという。シェフ、ムッシュ・ゴーンから名前をとったのだ。店の支配人はエスカルゴン、ホール担当にはアーニャとランタンが加わったワドルディたち。私とムッシュ・ゴーンは厨房で調理担当だ。といっても、私は食後のコーヒーを出すためだけにいるので、調理には関わらない。

村長夫婦が最初のお客様だった。ハナさんに、何か変な物を食べさせるわけにはいかない。私はムッシュ・ゴーンを監視した。しかし、意外にも問題はなかった。普通の食材で、普通に調理するだけ。怪しい点はない。

拍子抜けしていると、ゴーンさんに何か言われる。辛うじて聞き取れたのは「カフェ」という言葉だ。

フランス語でカフェ、といえばコーヒーだったはず。ピーンとくる!

 

「コーヒーですね!かしこまりました」

 

コーヒーの支度が整うと、エスカルゴン閣下に村長夫婦へ持っていくように言われた。カートを押して、村長夫婦のテーブルにつく。

 

「おや、リーノもここで働いとったんか」

「いつものメイド服と違いうわね。三人とも可愛いわよ」

「ありがとうございます」

 

いつも着るメイド服よりも、フリルが少々多い。私には可愛すぎる気がしたが、似合っているみたい。良かった。

食後のコーヒーを村長夫婦が飲まれる。

 

「うーん、これも絶品だ」

「最初から最後までおいしいなんて、幸せです」

「それは良かった。淹れたかいがあります」

「うん?これもシェフが用意したものでは?」

「それはリーノが淹れたコーヒーでゲスよ」

「まあ、リーノ。あなた、こんなにおいしいコーヒーを出せるようになったのね。凄いわ」

「いつも、楽しく料理を教えてくれたハナさんのおかげですわ」

「おおげさよ。私はただ、基本的なことを教えただけ。頑張ったのね、リーノ」

「はい、頑張りました」

 

自分の成長を見守ってくれた人から、努力を認められる。嬉しくて、胸が熱くなった。

村長夫婦は笑顔で帰られた。

その後、村人たちが殺到する。

 

コーヒーは、フルコースを注文されたお客様だけにサービスされる。フルコースはたいへん安い。カワサキのランチより安い。なのでやって来る村人たち全員が注文した。私はコーヒー作りに忙しくなった。

村長夫婦の次は、大臣一家をもてなすためホールに出る。

 

「まあ、リーノ!あなたまで」

「お許しください。陛下に命令されては、わたくしたちは従うしかありません」

 

フーム様は残念そうにため息を吐いた。

ブン様が身を乗り出して言う。

 

「ところでさ、本当にアーニャとランタンもメイドになったんだな!」

「はい。先日から働いております」

「君と同じように、城から出張しているんだね」

「その通りです。パーム様」

「あら!このコーヒーおいしいわ!」

「ありがとうございます。メーム様、淹れたかいがありますわ」

 

その言葉に、店中の人が驚きの声を上げる。

 

「コーヒーはリーノが淹れたの?凄いじゃない」

「飲ませて!飲ませて!」

「私にもちょうだい!」

「私のを少しあげるから、落ち着きなさい」

「新しくご用意しますよ。フーム様とブン様には、ミルクとお砂糖をご用意いたしますね」

 

子供たちにはジュースをサービスする予定だったが、変更してコーヒーをだす。

二人は何も混ぜず、まずは一口飲んだ。

 

「苦い!でも、うまいかも」

「本当、凄いわ!リーノ」

「ありがとうございます」

 

深くお辞儀する。

大臣一家の会話を聞いていた村人たちが、手を挙げてコーヒーを注文しだした。すぐに用意を始める。

 

 

 

夜、リーノの自室にて。

レストランの制服から部屋着に着替え、メタナイト卿とお茶を飲む。今日は緑茶だ。温かいお茶を心ゆくまで楽しみたい。けれど、話題が不穏だ。

 

「……というわけで、レストランゴーンを手伝うことになったんです。すぐに知らせることができず、すみません」

「それは構わないが、大丈夫か?シェフは魔獣なのだろう?」

「今のところ問題ありません。普通ですわ。使う食材も、道具も、調味料も普通です。おかしな点はありませんでした」

「ふむ。では、みなの信用を得た頃に、何か仕掛けてくるかもしれない」

「そうですね。油断せずに働きますわ」

 

これで話は一段落した。まだ少し、話したい。

 

「あの、まだ話せますか?」

「ああ、今日は時間がある。どうした?」

「嬉しかったことを報告したくて」

「聞こう」

 

たくさんの人たちに、コーヒーを褒めてもらえたことを話した。

 

「リーノのコーヒーはおいしいからな」

「ありがとうございます。すみません。今日はご用意できなくて」

「気にしないでくれ。このお茶もいい物だ」

 

メタナイト卿がお茶を一口飲む。

突然、雰囲気が変わった。

 

「思い出した。リーノ、聞きたいことがある」

「何でしょうか?」

「男に声をかけられたらしいな」

「……ああ、この間のことですね」

「君の口から詳しく聞きたい」

「わかりました。お話します」

 

私はその日のことをできるだけ詳細に話した。多分、ソードナイトさんとブレイドナイトさんから聞いたんだわ。

すべて話終えると、メタナイト卿は少し冷たくなったお茶を飲んだ。

 

「男の特徴は覚えているか?」

「あまり覚えていません。好きではない思い出は、すぐに忘れるようにしているので」

「そうか。残念だ」

 

なぜ残念なのでしょうか?

本当は覚えていたのですが、言わなくて良かったかもしれない。

 

 

 

レストランが開店してから数日。ブームは起きた。

激辛ブームだ。

カワサキの激辛ラーメンに勝つため、こちらは激辛ピザで勝負にでた。

店に来るお客様たち全員が、激辛ピザを注文する。

カラシたっぷり、凄まじい料理がどんどん厨房から運ばれていく。食べた人はみんな、辛さに苦しんでいた。私は見ていられなくて、エスカルゴン閣下にある提案を言った。

食後にアイスをサービスするのだ。

これはかなり好評だった。けれど、新しくカワサキの店ででた激辛ギョーザの方に人は集まった。ただ、ギョーザを食べた後にレストランゴーンに寄る人もいる。アイスが目当てだ。

お客様は来る。それでも、カワサキの店に客を取られて悔しい陛下たちは、新しい激辛メニューを考えた。辛さ百倍、激辛ハンバーガーだ。

ムッシュ・ゴーンがハンバーガーを作る様子を見ていたのだが……驚いた。すべてにカラシを使っていた。あれは、辛い。私は食べたくないです……。

今回は、アイスではなくシャーベットがサービスされる。ピンク色のシャーベットだ。とてもおいしそう。でも、なんだか嫌な予感がする。

 

「リーノも食べるかゾイ?」

「いえ、わたくしの分までどうぞ」

「そうかそうか!食べてやるゾイ!」

 

陛下たちはおいしそうにシャーベットを食べる。何も無ければいいんだけど。

 

事件はすぐに起きた。

シャーベットはカービィそっくりに作られた。それを食べた村人たちが、カービィを食べようとしだした。そして、ムッシュ・ゴーンが真の姿を現した!

今はコックカービィと戦っている。

 

「なんてこと……!」

「リーノ!こちらに!」

「メタナイト卿!」

 

フーム様たちの傍に、メタナイト卿がいらっしゃった。急いで近くに駆け寄る。その時、ホールを見回したが、アーニャとランタンがいない。

 

「メタナイト卿、アーニャとランタンの姿が……」

「私が外に避難させた」

「そうなんですね!よかった」

 

安心したのも束の間、カービィが敵に冷やされてしまった。そこにカワサキの激辛カレーが投げられて、カービィの口に入る。

そして、カービィは初めて口から火を吹いた。

魔獣は燃え、店にも引火する。

 

「逃げるぞ!リーノ、先に行け!」

「はい。メタナイト卿」

 

スカートを持ち上げて、出入口に駆け出す。

 

充分離れた場所まで走った。息を切らして振り向くと、メタナイト卿、フーム様、ブン様、カービィも一緒だった。

お店は燃えてなくなった。

 

 

 

レストランゴーンの火が消えた後、陛下たちはカワサキの店の前で皆に囲まれた。アーニャと、ランタン、私、メタナイト卿は、それを遠巻きに見ていた。

 

「陛下……閣下……」

 

村人たちを危険に晒したのだ。怒られて、罰を与えられて当然。村人たちは、残酷なことはしないだろう。わかっていても、心配だった。

 

「自業自得だわ。行きましょ。反省させるべきよ」

「ここで、ちゃんと罰を受けないといけないと思います。リーノ」

「わかっています。ただ、見届けたくて」

 

陛下たちはカワサキのホットスペシャルという、激辛カレーを食べて、転倒された。

 

「ワドルディたちを呼んで、運んでもらおう」

「そうですね」

 

ワドルディたちを呼ぶために城へ戻る。

帰ってきたら、胃に優しいご飯と、アイスを付けて差し上げよう。

 

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