「カービィのタマゴ、ですか?」
「そう!カービィと同じぐらいのサイズでさ、寝て起きたらカービィが持ってたんだ」
朝早い時間に雨が降り出した。きっとにわか雨だ。数時間で止むだろう。
ブン様は村の方へ遊びに行かれて、雲行きが怪しくなったので一度帰ってきた。
そのとき、一階でワドルディたちと洗濯物を取り込んでいた私と、たまたま会ったのだ。
私は頬に手を添えた。
「カービィと同じくらいのサイズのタマゴですか。カービィは赤ちゃんだから、タマゴは産めないと思うんですけれど……」
「そうだけどさ、面白いじゃん!」
「まあ、ブン様ったら。からかいも、ほどほどになさってくださいね。あなたは、カービィのお友達なのですから」
「へーい。んじゃ、またな。リーノ」
「はい。また、ブン様」
ブン様はお家に帰られた。屋根のある場所に洗濯物を干し直した後、メタナイト卿のお部屋に行く。
二度、ノックをした。ノックは三回以上するのがマナーと聞いたことがある。この国ではノック二回で通っている。それ以上すると、うるさいとか、多いとか言われるのでしない方がいい。
扉が開く。
出迎えてくれたのは、ソードナイトさんだ。
「おはようございます。中で、少しお話できますか?報告したいことがあります」
「どうぞ」
中へ招いてくれた。奥に進むと、椅子に座ったメタナイト卿と、床に座ったままのブレイドナイトさんがいた。メタナイト卿の隣まで歩く。
三人の視線がこちらを向いた。
「おはようございます。メタナイト卿、ブレイドナイトさん」
「おはよう、リーノ」
「おはようございます」
「報告です。カービィがタマゴを産んだ、と村で噂になっているみたいです」
「おそらく、陛下が用意したタマゴのことだろう」
「ご存知でしたの?」
「昨夜、深夜に陛下たちがカービィと同じくらいのタマゴを持って、城の外に出かけられた。カービィに預けたということは、おそらくカービィに育てさせるためだ」
「カービィに育てさせて、襲わせるつもりでしょうか?酷いわ……」
「かもしれん。村へ行くなら気をつけるように」
「行くつもりでしたが、今日はやめておきます。二人に、予定が変更になったことを伝えに行かなくちゃ」
今日は村へ行ってやることがあった。
先日のレストランゴーンでの騒ぎ。迷惑をかけたカワサキへ、お詫びのお菓子を持っていくこと。久しぶりにヤブイ先生の勉強会を開くため、先生に許可を貰いに行くこと。
どちらも明日にまわそう。命が大事だ。
メタナイト卿たちと別れて、私はアーニャとランタンのいる階層へ急いだ。
二人を見つけて、予定を変更したことを伝えた。陛下がいないうちに、お部屋を大掃除したいと言ったのだ。
「この時期に大掃除ですか?」
「陛下の部屋はいつでも綺麗にします。大掃除は数ヶ月に一回、もしくは思い立ったらやります」
「臨機応変ってヤツね。仕方ない。陛下の部屋、綺麗にしちゃいましょう」
「ありがとうございます」
「カワサキへ贈るお菓子と、先生の件はどうしますか?」
「今日、陛下とお話します。明日の午後から半日休めるようにしますので」
「それなら、仕事を気にしないでいいので、余裕を持って取り組めますね!」
明日が楽しみだと、二人は笑う。私も笑った。
確実な情報ではないので、カービィのタマゴが魔獣かもしれないということは、黙っておいた。
次の日の午後、フーム様と厨房で出会った。なんでもここから、いい匂いがただよってきたらしい。
「今、カワサキに贈るお菓子を作っているんですよ」
「リーノたちの手作りね。おいしそう」
「味見していく?えーと、フーム様」
「なんか、ランタンにそう呼ばれるの変な感じ」
「ランタン、フーム様にも敬語を使ってください」
「気をつけるわ」
お菓子を盛った皿をフーム様の前に出す。フーム様はお行儀よく、食べ始めた。
「おいしい!これならお店だってできるわ」
「ありがとう、ございます」
「ありがとうございます。フーム様」
「うん。二人とも、その調子です」
「ねえ、聞いてみたかったんだけど、リーノの指導ってどんな感じ?」
私の前でその質問をするのかと、驚いた。二人は気にせず答える。
「一言で言うなら優しいわね。何回同じ質問しても、笑顔で答えてくれるから助かるわ」
「丁寧に教えてもらえるので、わかりやすくていいですね」
「リーノは教えるのも上手なのね!」
「アーニャとランタンが相手だからですよ。もしまったく知らない方が相手だったら、きっと緊張してうまく話せません」
「リーノ、あがり症なところあるものね」
女性が四人もいれば、話も盛り上がる。
話題はカービィに変わった。
昨日、村の噂になったタマゴは、その日のうちにかえったようだ。
中から魔獣の子供が出てきた。その子はずいぶんな食欲旺盛で、村中の食料を食べてしまったらしい。村人たちは怒り、カービィは魔獣の子供を庇った。そしてカービィは魔獣の子供を連れて、村の外れに新しい寝床を作った。
そこに魔獣の親がやって来た。親は子供に攻撃されて怒り、子供に攻撃した。
それに怒ったカービィが戦い、親の魔獣は倒された。
魔獣の子供は、村から近い森で生活することになり、カービィが時々面倒をみるために通っている。
「魔獣は、やっぱり陛下のせいかしら」
「そうよ。リーノ、村に何かあってからじゃ遅いわ!なんとかデデデたちを止められない?」
「ごめんなさい。難しいと思います。私も考えました。でも、他の何かで興味を引きつけたとしても、ホーリーナイトメア社のサービスを使うと思うんです。そうなれば、どこかに魔獣を仕掛けてくる。ホーリーナイトメア社がなくなれば問題は解決するんですが」
「その、魔獣をだうんろーどする機械を、壊すだけじゃダメなのですか?」
「機械は直してしまえば、また使える。だから、壊しても意味が無いのね」
「その通りです。すみません。フーム様」
「謝らないで!リーノは悪くないわ!!それに、デデデが魔獣サービスを使わなくなる方法を、考えてくれたんでしょう?それだけでも、嬉しいわ」
お菓子の熱が引いたところで、フーム様は用事を思い出し、厨房から出ていった。
私たちはお菓子をラッピングする。一番大きな包みはカワサキに、三つの小さい包みは戦士たちに贈る。
「今は仕事中のはず。城のどこかには、いるはずです」
「探すのに時間がかかりそうね」
「でしたら、夜に渡しませんか?夜なら、確実に会えますよね?」
「多分、会えると思います。メタナイト卿とよく会うのは、夜ですから」
「なら、夜にメタナイト卿の部屋にお邪魔しましょう」
「お菓子は厨房に隠しておきますか?メモを書いておけば大丈夫でしょうし」
ランタンがメモ用紙を一枚ちぎり、さらさらと書き込む。それを、三つの包み紙が入っているカゴの中に入れた。簡単に落ちてしまわないように、メモの位置を調整する。
「これでいいでしょ」
「あとはどこに隠すか、ですね」
「上の棚の奥にしませんか?取り出しにくいですけれど、死角になって見つかりにくいと思うんです」
「アーニャの言う通りですね。では、そこにしますか?」
「賛成」
無事にお菓子を隠したら、私たちはカワサキへのプレゼントを持って村へ行く。
村につくと、注目を集めた。
きっとアーニャとランタンがメイド服を着ているから、珍しいんだわ。
ランタンがため息を吐きながら言う。
「メイド服、脱いできた方が良かったかしら」
「そうですね。今は仕事ではありませんし」
「メイド服を、脱ぐ?」
「リーノは慣れちゃっているから、その発想はなさそうね」
「みたいですね」
「……メイド服、いいですよ?丈夫で、汚れにくくて」
「まあね。はあ、村のみんなが慣れてくれたら、注目されなくなるわよね」
「人の噂も七十五日、飽きられるのを待つしかありませんね」
カワサキの店へ入る。
店主カワサキと、常連客のボルン署長と奥さんのサトさんがいた。ボルンさんとサトさんはテーブルに座っている。
「いらっしゃい!今日はお客さんが多くていい日だよ」
「こんにちは。カワサキ。今日は客として来たんじゃないのよ」
「先日のレストランゴーンの件で謝罪に来たんです」
「なんだ〜そんなこと〜。そんな昔のこと気にしなくていいからさ、食べていってよ。それか作って」
「ふふ、あなたの明るさには頭が上がりません。いいですよ、何か作ります。といっても用事がまだありますので、簡単な料理で一品だけにしてくださいね」
「んじゃ、カレーライス!大量に作ってくれよ!今日の晩飯にするからさ」
「ワシらにも貰えるか?」
「リーノのご飯はおいしいから、食べたいわ」
話を聞いていたらしい署長夫婦が、声をあげた。カワサキはにこっと笑う。
「いいよー!みんなで食べよう」
「カワサキがいいのでしたら、その分多めに作っておきますね」
三人分じゃなくて、おかわりも考慮して二倍の六人分作ればいいかしら。
「ごめんなさい。アーニャ、ランタン。という訳だから、少し待ってくれますか?」
「何言ってるのよ!手伝うに決まってんじゃない!」
「先輩だけ働かせておくなんてできません」
二人はすぐにキッチンへ入っていく。途中、署長夫婦に挨拶をして。私も二人の後に続き、署長夫婦に挨拶をした。
通り過ぎようとしたら、サトさんに腕を優しく掴まれた。
「あの、何か?」
「今度、ハナさんのお宅でお茶会をするの。メームさんも呼ぶから、話聞かせてね」
「それは、やっぱりメタナイト卿とのことですか?」
「もちろんよ〜。私、娘の恋バナを聞くのが夢だったの!」
サトさんの喜びようにも驚いたが、娘という言葉にも驚いた。すごく嬉しくて、顔がにこにこと緩む。
「ぜひ、メタナイト卿も呼んできてね」
「すみません。あの人は忙しいので、参加は難しいと思います」
「なら、リーノ。アーニャとランタンも呼んでお茶会にしましょ!決まりね!都合がいい日に合わせるから、教えてね」
「はい。できるだけ早く、お知らせしますね」
そう言うと、サトさんは手を離してくれた。私はお二人に一礼してから、キッチンに入る。
カレーを三人で作れば、六人分でもあっという間にできあがる。煮込む時間はかかるけれど、その間にサラダを作った。
以前カワサキは、一人暮らしなので簡単な料理ばかり作ると、言っていた。
今回はカレーライスにサラダがついてきて、健康にいいと、喜んでくれた。
署長夫婦は私たちの料理の腕を褒めて、おかわりをしてくれる。
おいしそうにカレーを食べてくれる姿を背に、私たちはヤブイ先生のいる医院に向かった。
ヤブイ先生の許可を得たので、あとは勉強会の日程を決めて、一週間前になったらチラシ配りだ。子供たちに手伝ってもらって、お礼にはお菓子を渡そう。そんな話をしながらお城へ帰る。
夕焼けこやけ。空はだんだんと赤く染まっていく。
お城の門で、佇むメタナイト卿を見つけた。近くまで歩くと、彼はこちらに気づいた。目が合うと、頬に熱が集まるようだ。
「メタナイト卿、ただいま戻りました」
「ああ、おかえり。今日は三人で出かけていたそうだな」
その言葉に、アーニャとランタンが答える。
「カワサキにお詫びの品を渡してきまして」
「ヤブイ先生の勉強会を開催する許可をもらってきたところよ」
「そうか。また開催するのだな」
「はい。前回の復習と、今度は新しく止血の方法を教えていただきます」
「勉強熱心だな」
リーノはメタナイト卿と並んで歩き出す。ふらふらと、メタナイト卿について行こうとしていたので、慌てて親友二人が止めた。
「リーノ、お菓子を忘れているわよ」
「はっ、そうでした。メタナイト卿、三人にお菓子を贈りたいので、一緒に来てもらえませんか?」
「わかった。行こう」
厨房に四人で向かった。
私たちの中で一番背が高いランタンに、隠したお菓子を取ってもらう。脚立にのぼり、上の棚を覗いた。
「えーと、あった。はい、アーニャ」
「受け取りました。ありがとうございます」
「ありがとうございます。ランタン」
「どういたしまして」
ランタンはゆっくり降りてくる。
アーニャは受け取ったお菓子のカゴからメモを取り、ポケットにしまう。カゴごとお菓子をメタナイト卿に渡した。
「ありがとう。いつもすまないな」
「いえ、お菓子が作れて私たちも楽しかったですから」
「そうですね。みなさんを想いならが作ることは、楽しかったです」
「感想、聞かせてよね」
「もちろんだ」
厨房でメタナイト卿と別れる。
私たちは残った。
「で、まだ厨房に用があったかしら」
「あら、これから陛下と閣下のご飯作りですわ」
「わ、忘れてました」
二人は、がくりと肩を落とした。