陛下が叫ぶ。
「愛とボランティア精神に目覚めたゾイ!」
「え?」
「は?」
昼間、玉座の間に呼び出されて聞かされた。
愛とボランティア精神?本当に目覚めてくださったのなら嬉しいですけれど……。
エスカルゴン閣下にも、まだ知らされていない陛下のアイディアとは一体なんでしょうか。
「この城の一部を遊園地に改造して、人民どもを招待し、カービィを……」
「カービィを?」
「どうするのですか?」
「カービィも!招待してやるゾイ!」
エスカルゴン閣下は訳がわからない、という顔をする。私は陛下を怪しむが、それは心の底に隠しておく。ここで正直になっても、陛下に警戒心を抱かせるだけだ。ならば、情報を得るために相手の懐に入らなきゃ!
「それは、素晴らしいお考えですね。なにか、わたくしに手伝えることはございますか?」
「お前はいつも通り、村のヤツらを食事で歓迎するゾイ」
「かしこまりました。腕によりをかけてご馳走を作りますわ。では、すぐに行動いたします」
私は深く一礼して、玉座から出た。向かう先はメタナイト卿のお部屋だ。
メタナイト卿のお部屋に到着する。中にいらっしゃったのは、メタナイト卿お一人だけだった。
部屋に入れてもらい、先程の陛下のご命令を伝える。メタナイト卿は私の話を聞いて、深く頷いた。
「紛れもなく、罠だろうな」
「やはり、そうですか。フーム様に伝えた方がよろしいですか?カービィを一番近くで守れるのは、あの方だけです」
「今知らせるのはまずい。君という情報源に気づかれたら、次から警戒されるだろう。フームには、陛下が村人たちに遊園地のことを発表した時に、忠告すればいいだろう」
「かしこまりました。では、そのようにいたします」
「ところで、リーノ。今度の休みは空いているか?」
「それが、次の休みはサトさんたちのお茶会に参加することになっておりまして……すみません」
「謝る必要はない。では、君を独り占めするのは、また今度にするか」
「そんな風に言われたら、照れちゃいますわ」
片手を、熱が上がった頬にそえる。そんな顔を見られたくなくて、彼に背を向けようとした。けれど、肩に手を置かれたので、体を背けることはできなかった。
「メタナイト卿?」
「少しだけ」
メタナイト卿は仮面をずらして、口元を顕にした。
私は、目を閉じて、少し屈んだ。
その数日後の火曜日。
早朝から陛下たちは出かけられた。といっても、村にとっては人々が動き出す時間である。多くの人が出歩く時間帯を狙って、陛下は村へ出かけたのだろう。
次の日の水曜日、午後。まだ太陽が真上にいる時間。
村の広場で開催するヤブイ先生の勉強会にて、陛下たちが何をしたのか理解した。陛下は村人たちに遊園地を宣伝したのだ。村中、遊園地の話題で持ち切りだ。
そのため、出会う人みんなに質問される。
「遊園地ってどんなものなの?」
「ご飯たべられるの?」
「楽しいものはあるのかい?」
どれも期待に満ちた眼差しだった。答えてあげたいけれど、私も詳細は教えていただけていない。ただ、食事があること、腕によりをかけて作るので楽しみに待っててほしいことを伝えた。みんな、一応は納得して、帰っていく。
そして私は勉強会に真剣に取り組んだ。いつか村が焼かれる、襲われる未来を知っている。なので、応急処置や止血の方法は覚えておくにかぎる。
ヤブイ先生から合格点をもらったら、他の人に声をかけていく。今回はアーニャとランタンも、合格点をもらったので手分けしてまわった。
真剣に取り組む私たちを見て、参加者たちも意欲的になっていく。嬉しい変化だった。
そして日曜日がきた。
お城の門前にはたくさんの村人たちが橋がかかるのを待っている。それを、城の中でも上の階に位置するベランダ部分から見下ろす。
「ついに、この日が来ましたね」
アーニャは、覚悟を決めたように言った。メイドになってから、初めての大仕事なのだ。気合いが入っている。私は緊張をほぐすように言う。
「アーニャ、心配しなくても大丈夫ですよ。練習もしましたし、みなさん喜んでくれますわ」
「そうそう。私らの料理の腕前はサトさんに花丸をもらっているんだから、自信持ちましょ!」
「そうですね。このお仕事、成功させましょう」
私たちは声を揃えてアーニャに同意した。
それから、厨房は大忙しだった。ほとんどの料理は完成している。大変なのは料理が冷めきる前に、絶妙な時間に立食会場まで運ぶことだ。
「(おそらく、今がいいかもしれません)」
自分の勘を頼りに料理を会場へ運び、並べていく。その途中でエスカルゴン閣下が様子を見に来た。閣下はジロリと会場の様子を確認する。
「準備はいいでゲスか?」
「間もなく完了いたします」
「んじゃ、そろそろ人民どもを呼ぶでゲス」
「かしこまりました。急ぎます。みなさん、聞こえましたか!すぐにお客様がいらっしゃいます!急いで!」
私も料理を配置するべく、急いだ。
その五分後、綺麗に並べられた料理を見て喜ぶ村人たちの姿があった。彼らはすぐに食事を食べ始める。私はアーニャ、ランタンを連れて、会場を歩いた。困っている村人がいたら助けるためだ。
クレーンゲームの傍にフーム様とブン様、カービィと村の子供たちの姿が見えた。ご挨拶するために、そちらへ歩き出す。
「フーム様、ブン様、カービィ」
「リーノ、それにアーニャとランタンも。あなたたちもデデデの策に参加しているのね」
拗ねたように言われてしまい、私は深くお辞儀した。
「すみません。陛下からのご命令には逆らえません」
「あなたが、謝る必要はないけど……ねえ、デデデから何か聞いていない?カービィを倒す作戦とか!」
アーニャとランタン、それにフーム様たちの視線が集まる。私は首を振った。
「いえ、何も聞いておりません」
「そう。いいわ、引き続き警戒する!ありがとう、リーノ」
「わたくしは何も……それでは失礼します。みな様」
フーム様たちは手を振って、遊園地エリアの方へ走っていかれた。
しばらく時間が経って、エスカルゴン閣下が玉座の間にてカラオケ大会をすると仰られました。賞金は九百万デデンと、一年分のスイカ。間違いなく罠です。危ない、けれど九百万デデンに目が眩んだ村人たちの三分の一は、走って行きました。
「……私たちも参加できるのかしら?」
「ランタンったら、今は仕事中です」
「冗談よ。九百万デデンもあったら、三人で山分けできるのにって思ったからさ」
ふざけて笑い合う二人の手を取って、私は真剣な声で止めた。
「行っちゃダメです……。なにか、凄く嫌な予感がしますので」
二人は目を丸くさせた。それから、手を握り返してくれる。
「行かないわよ。怪しいもの」
「ですねえ。いのちだいじに、です。怪しいものには近づきません」
「ありがとう、二人とも」
それから私たちは、立食会場で仕事をこなし続けた。料理がなくなれば運び出し、村人たちが居なくなれば、料理を片付ける。三時以降はお菓子を並べる予定なので、会場を綺麗に片付ける。テーブルクロスが汚れていたので、こちらも取り替える。
お菓子の準備が整ったら、アーニャとランタンを連れて遊園地エリアの方へ歩いていく。
そこで、カービィの歌声が聞こえてきた。
城が震える。
「?何かしら」
「歌声ですね、それに地震でしょうか?」
「じ、地震なら、みなさんを避難させた方がいいですよ!わたくしは厨房のワドルディたちを呼んで来ます!アーニャとランタンは遊園地にいる村人たちを避難させてください」
急いで厨房へ向かい、ワドルディたちに声をかけた。城の外へ出る途中、まだ残っている村人たちに城の外へ出るよう促して、みんなで脱出する。
その間にも城は大きく揺れていた。
そして崩壊する。
城がレンガの山へと姿を変えた。
「陛下……閣下……メタナイト卿!!」
城の方へ走り出す。幸い、橋は無事だった。橋から中へ走り、レンガの山へと近づく。そしてできるだけ持ち、壁の方へ運んだ。それを繰り返す。
とんでもなく、時間がかかる作業だ。手間もかかるし、一人では無理だろう。助けたい人たちを助けられないかもしれない。ならばいっそ、出直して周りに助けを求めるべきだ。
それでも今、何かせずにはいられなかった。
そこにリーノ以外の物音が聞こえてきた。そちらの方へ目をやる。レンガの上を滑り、走る音は二人分。それはリーノから遠い場所で聞こえて、それから遠ざかった。微かに見えた赤いガウンと紫の体に大きな巻貝の背中。
陛下と閣下だ。
「ご無事だったのね、よかった……」
二人の無事を知って、不安が少しおさまった。あとは、他の人たちを探し出すだけ。
大切な人たちの姿を見たことで、冷静になった頭で考える。
「一度でこのたくさんのレンガを動かす方法は……!?」
「ぽよう」
「カービィ!!」
発見とひらめき。いつの間にか傍に来ていたカービィに、リーノはあの言葉を叫んだ。
「カービィ!レンガを吸い込んで!」
「ぽよ!」
カービィはレンガを吸い込む。強力な吸い込みは、瞬く間にレンガの山を消していった。
何回かに分けてレンガを吸い込んでもらうと、メタナイト卿、大臣一家、村人たち、城に残っていたワドルディたちの姿が見えた。彼らの上にのっていたレンガが無くなったことで、みんな助かったのだ。
リーノはすぐにメタナイト卿の傍へ駆け寄る。
「ご無事ですか?痛いところはありませんか?」
「無傷だ。問題ない」
「よかった……。では、他の方に会いに行ってきますわ」
「ああ、気をつけて」
次に、パーム大臣とメーム夫人、フーム様とブン様の安否を確かめる。それから、カラオケ大会に参加していた村人たち。全員軽傷だった。
「みなさん、本当に無事でよかった!」
「無事だったけれど、えらい目にあったわ」
サトさんが疲れた様子でため息をつく。
私は深々と謝った。
「陛下たちのせいですよね。本当に、なんと言って謝罪すればいいのか……」
悲痛な気持ちでいると、メーム様が私の肩を軽く優しく叩いた。
「いえ、城が崩壊したのはカービィの歌のせいなのよ」
「それは本当ですか?」
パーム様が身振り手振り加えて仰る。
「本当だよ。物凄い声量だった。聞こえただろう?」
「はい、外にも聞こえていました。でしたら、どうかカービィを怒らないであげてください。彼がみなさんを助けてくれたんですよ」
私の言葉を聞いた村人たちが、複雑そうな顔をした。結局、誰もカービィを責めず、村人たちは帰って行った。
城壁に置いてあった備蓄食料、キャンプキットを運び出し、みんなで夜を過ごす。
みんなというのは、城に住んでいるメンバーのことだ。さっきは見かけなかった、ソードナイトとブレイドナイトも、アーニャとランタンに合流している。
住む家が無くなってしまった。それでも、あまり落ち込んでいない。なぜなら、ワドルディたちに任せておけばあっという間に城を直してくれるからだ。
私もできる限り協力しよう。