プププグランプリ。
プププランド初めてのグランプリレースが始まる。
陛下の車が、装甲車から高級車に変わっていた。
ああ、もうすぐレースが開催されるわ。と、記憶の海から思い出が浮かび上がる。勝ったのは、たしか村長夫婦。レースにはカービィもフーム様とブン様も参加していて、陛下の妨害行為によって危険なレースになるはず。そして、あの人も参加する……。
胸が痛む。
カービィのためとはいえ、幼子を追い込む彼を見たくなかった。かといって、私がカービィのために何かできるわけではない。
雑巾で拭いたピカピカの窓ガラスに、不安そうな自分の顔が反射している。自分にできることは何か、そう問いかけてくるようにも見えた。
自分にできること……うーん、カービィへの妨害行為を減らすために動くとか?諜報活動なんてやったことがない。うまく情報を得たとしても、それは誰に伝えるの?メタナイト卿に言うの?彼の場合、陛下の案が生ぬるいと判断したら、さらに強化された妨害案を提出しそうだ。これはなしかな。
手を出せば悪化してしまいそうで、恐ろしい。
やはり、いつものように陛下にやめてくださるようお願いするしかないのかな。
リーノはため息を吐く。
「レースの日は、質素なご飯で決まりですわね……」
カービィには特性のお弁当を差し入れしよう。
陛下に「たくさんホットケーキを作れ!」と命令された日から三日後、レース当日になった。ホットケーキを何に使ったのかは知らない。けれど、夕食のデザートにアイスが乗った小さめのホットケーキを出したら大層喜んでくれた。
「では、リーノ。アーニャとランタンをつれてしっかり客を呼び込むゾイ」
レース前。陛下はそう仰った。
レース会場には、娯楽に飢えたほとんどの村人たちが押しかけている。これ以上の集客は見込めないだろう。ならば、他の方法でお金を稼ぐのみ。
「かしこまりました。しっかり稼ぎます。なので、どうかお気をつけて。行ってらっしゃいませ」
深くお辞儀して申し上げると、陛下はたいへん満足された様子で頷いた。
「閣下、どうか陛下をよろしくお願いいたしますわ」
「任せるでゲス。ほんじゃ陛下」
「行くゾイ」
お二人は新しい車に乗り込み、スタートラインに並ぶ。そこには他に車が並んでいた。
村長夫婦、フーム様とブン様、カービィとトッコリ、そして今メタナイト卿の車が位置につく。
これで合計五台の車が並んだ。
スタートは一斉に……とはならない。カービィが数分出遅れて走り出した。マシントラブルか?そう思ったけれど、星型の車は順調に走り前方に追いつく。
同時に陛下の妨害行為も始まった。
主にカービィが狙われている。それは時々、他の参加者を巻き込みながら、レースを盛り上げた。
レースが二週目に入った頃、私たちメイドも動く。メタナイト卿への黄色い声援を、「私も応援したい」という気持ちを抑えて聞いた。
レース中、観客が飽きてしまわないように色々なアイディアが出た。クレーンゲーム、射的、その他屋台。そしてレースクイーンに扮したメイドたちとの交流会だ。
つまり、お祭りも一緒に開催したのである。
リーノたちはボディラインを強調するけれど、肌はあまり見せない。そんな服を着て、交流会場に現れる。近い、周りの村人たちの視線を釘付けにした。そのタイミングで実況中のロロロとラララが交流会の宣伝をする。
『ここでお知らせです。レース会場には様々な屋台が出店しており、大人から子供まで楽しめるわ!』
『特に!お城のメイドである、リーノ、ランタン、アーニャたちと楽しく交流できるのは、モニターに映し出されている会場限定よ!』
『たくさんの人が来るとこが予想されるから、行くなら早めにね。それじゃあ、レース実況に戻るよ!』
モニターが変わった直後、村人たちが交流会場に押し寄せる。九割男性、一割女性または子供だ。
ワドルディたちの力を借りて、列を整理し、並んだ村人たちに一枚のメニュー表を渡す。
このメニュー表は今日のために作られた特製のもので、表面にはワドルドゥ隊長がデザインされたグランプリレースのシンボルワークがある。裏面にはメニューとその金額が書かれていた。
村人の一人がメニューを読み上げる。
「なになに……指名料は千デデン、写真一枚は五百デデン、握手一回は二百デデン、笑顔一回目は無料?なんじゃこりゃ」
「エスカルゴン閣下がお決めになられたメニューです。巷では、こういうのが流行りだとか……」
そういうと列の三分の一がメニュー表を返して、去っていった。残った方たちは、隙間ができた列を詰めて財布を確認している。どうやら注文するようだ。
ヒソヒソとアーニャとランタンが顔を寄せる。
「本当にお金になるのね。こういうこと」
「驚きですね」
「二人とも今は仕事中です。私語は慎んでくださいね」
「はい」
「わかりました」
「では、準備はよろしいでしょうか?」
二人はにこっと笑ったので、一番目のお客さんに壇上に上がってもらう。
二十代後半と思われる男性だった。
「指名されますか?」
「いや、いいです。笑顔と写真を一枚お願いします」
「かしこまりました。ではこちらの椅子にお座りください」
男性は、バーに置いてありそうなオシャレな椅子に腰掛ける。
私たちは男性を中心にポーズをとった。そして笑顔を作る。
「カメラに向かって笑顔でお願いします。三、二……はい、チーズ!」
カシャリ。
「はい、お疲れ様でした。写真はあちらでお受け取りください」
壇上の下、一体のワドルディが手を上げる。男性は案内されるままにそちらへ降りていった。
今回使われているカメラは、現代でいうチェキだ。すぐに現像されるので、こういう交流会に向いている。カメラは先日、新車と一緒に陛下が購入されたらしい。一通り使って遊んだ後、私の所に回ってきたのだ。陛下的には、気に入ったおもちゃを使わせてくれる感覚なのだろうと思う。
気軽に使う割には、カメラは高級だったのでお金を稼ぐことにした。
……最初の六枚はお試しで、自由に撮らせてもらったけどね。写真はそれぞれ私たち三人と、メタナイト卿たち三人が所持している。
カメラマンを担当するワドルディから合図を受けたら、次のお客さんを壇上に上げる。
最終の周回目前まで、交流会は盛り上がった。
人がいなくなったわけではない。村人によっては何度も足を運んでくれて、写真を撮った。その中には私を指名して、ツーショット写真を求めてくる人もいた。もちろん、それがアーニャやランタンの場合もある。
改めて、私たちは人気があるのだと驚いた。
急いで交流会場から控え室に戻る。そこに設置されたモニターで、カービィの快進撃を見た。周回遅れをどんどん縮めていく。
アーニャとランタンが、カービィを応援した。私はそれを咎めたりしない。
陛下たちが応援されないのは、仕方ないことだもの。
じっとモニターを見つめる。
誰もメタナイト卿の話題を出していない。しかも、カービィがタイヤになって走っているということは、メタナイト卿のレースカーは大破した後なのだろう。
カービィへの差し入れと、新しくメタナイト卿のお見舞いを心にメモした。
表彰式。
一位は村長夫婦。二位はカービィ。三位がフーム様とブン様。
それぞれに私と、アーニャ、ランタンがトロフィーを渡す。
「村長さん、ハナさん、おめでとうございます」
「ありがとう、リーノ、今日はまた一段と美しいな」
「素敵ね。いつも素敵だけど、村に来るときは、メイド服以外を着てみたらどうかしら?」
「ありがとうございます。考えておきます」
メイド服のバリエーションを増やしてみようかな?後で二人と相談しましょう。
誰が持ち出してきたのか、あちこちでシャンパンや子供用の炭酸ジュースが飲まれる。みんな楽しそうにグラスを開けていく。
これなら、みんな屋台に流れてご飯を食べそうね。全体的な売上も上がりそうだわ。
結果的には陛下にとって、このグランプリレースは良いものになった。
フーム様とブン様に冷やしたタオルを渡す。するとフーム様がグラスを差し出した。
「リーノも飲みましょう?」
「いえ、わたくしはまだ片付けが残っておりますので」
「子供用のジュースも飲めないの?」
「一応仕事中ですから……そちらのグラスはカービィに差し上げてもよろしいですか?」
「ええ、いいわよ。私が持っていこうかしら」
「わたくしがお持ちします。フーム様はインタビューをお受けください」
「そう?わかったわ。じゃまたね、リーノ」
「それでは失礼いたします。フーム様」
グラスを受け取り、カービィを探す。カービィは表彰台の近くで、メタナイト卿と何か話していた。
ゆっくり近寄り、メタナイト卿が無事である事を遠目で確認してから声をかけた。
「メタナイト卿、それにカービィ。お二人ともお疲れ様でした」
「リーノか。その衣装……よく似合っている」
「ありがとうございます。カービィ、これをどうぞ」
「ぽよぽよ!んぐんぐ……」
カービィはグラスを受け取り、中の炭酸ジュースを飲み干す。
「フーム様のところに行けば、もっと飲めますよ」
「じゅーす!じゅーす!」
カービィはあっという間に走って行った。
たとえ宇宙船を操縦できるようになっても、彼が子供である事に変わりなくて。フーム様にジュースをねだっている姿は愛らしかった。
「カービィも、あなたも、ご無事でよかった。あなたのマシンが大破したとき、とても心配しましたわ」
「すまなかった。だが、アレもカービィの成長のためには必要だった」
「理解しているつもりです。……今日はお疲れでしょうから、ゆっくりお休みください」
「ランタンたちと、ソードとブレイドを連れて帰るか?」
「わたくしたちは片付けがありますので、先に行ってください。後日改めて、お見舞いさせていただきますわ」
その夕食。
ボロボロになった陛下たちを先にお風呂に入れて、それから夕食だ。
出されたものを見て、陛下はたまげた。
「そうめんゾイ!!???」
「嫌でゲス!今日は疲れたけれど腹減っているからガッツリ食べたいでゲスよう!!」
「あのような事をなさったのに、わたくしが怒らないと思ったのですか?今日はそうめんです。他に食べたければ、ご自身で料理なさってください」
「とほほ〜」
テーブルに突っ伏すお二人。
その様子を見て、私は明日は好物を作って差し上げようと、思うのだった。