「しんでください」
「カービィ!」
カービィの背後から、リーノたちが来た道から人影が飛び出す。
フーム、ブン、そしてメタナイト卿だ。
メタナイト卿の圧に魔獣たちが怯んでしまい、カービィに飛びかかれなかった。
リーノは忌々しそうに舌打ちする。
ブンが仰天した。
フームも口元を手でおおう。
「リーノが舌打ちした……」
「はじめて見たわ……」
「気を抜くな!」
メタナイト卿の活で、二人は緊張感を取り戻す。
メタナイト卿は剣を抜いて、臨戦態勢に入った。
リーノを、睨みつける。
リーノも、メタナイト卿を睨んだ。
リーノは背後で唸る魔獣を片手で制する。
そんな姿を見て、子供たちはひどく動揺した。
あれではまるで魔獣たちの指揮官だ。
フームはこそりとメタナイト卿と話す。
「リーノはナイトメアに操られているの?」
「……おそらく」
「いいえ、違いますよ」
リーノは無表情で言い放った。
「わたくしは魔獣になったのです」
「!!?」
「そんな!?」
「嘘だ!!」
「ぽよう!」
フームは信じたくなかった。
姉のような人物が、魔獣になる条件を満たしているとは思いたくなかったのだ。
だから頭を何度も横に振って、自分に言い聞かせるように叫んだ。
「嘘よ!!!リーノは憎しみの中で生きたりしていなかったはずよ!だから、魔獣になれるわけが……」
「なれたんですよ。魔獣に」
リーノは空中をぼんやりと見た。
いや、あれは過去に思いを馳せているのだ。
メイドは独り言のように話し始める。
「なぜ魔獣になれたのか?わたくしの中に憎しみがあったせいのか……。あったのかもしれません」
キッと空を見上げる。
「わたくしから両親を取り上げた世界に対して、ずっと!怒って、憎んで、許せなかった!……まあ、推測ですけど」
ころころと感情を変えるリーノ。
見たことがない、想像さえしなかった表情、感情、そして心に、誰も何も言えない。
唯一、リーノと同じように大切な人を失っているメタナイト卿なら、何か言葉をかけれたかもしれない。
だが、彼は静かにメイドの言葉を聞いていた。
リーノは両手を口元に持っていき、優しく笑う。
「いいじゃありませんか、魔獣になった理由なんて。今は、この場をどうするかが大切です」
リーノの言葉にメタナイト卿が強く頷く。
「その通りだ。……カービィ、これを吸い込め」
「ぽよ!」
取り出したのはソード。
カービィはソードをコピーした。
リーノは目を丸くする。
「近くで見たのは初めてです。本当に不思議な力ですね。ですが、剣一本でこの数の魔獣を相手にできますか?」
魔獣たちがそれぞれ叫び声をあげる。
フームは気を強く持つが、ブンは震え上がった。
「やべーよ、姉ちゃん……」
「フーム、ブン。隠れていろ」
「はい」
フームとブンは下がって、木の後ろに隠れる。
リーノはそれを見届けてから、魔獣たちに合図を出した。
「では、始めましょう」
魔獣たちが一斉に襲いかかる!
メタナイト卿とカービィは互いに背中を合わせて、戦った。
主にカービィが自由に攻めて、メタナイト卿がそれに合わせる感じだ。非常に息が合っている。それだけメタナイト卿のアシストが上手いのだろう。
一匹ずつ、魔獣は倒されていくが、長期戦に不慣れなカービィも息が上がる。そして着実にダメージが蓄積されていく。
リーノは、二人の息が乱れるその瞬間を待っていた。
最後の一匹が爆発する。
カービィはすぐに息を整えたが、メタナイト卿は若干遅い。年齢差が出たようだ。
――ニヤリとリーノが笑う。
「ヤミカゲ殿」
「おう」
彼女の背後、影から現れたのは忍者ヤミカゲ。
メタナイト卿は剣を握り直した。
「なぜ、お前がここにいる?」
「こいつのお守役さ。なんせ、こいつを誘拐したのは、俺だからな。ナイトメアから監視を命令されている」
「貴様……!!」
「そう怒るなよ」
「お喋りは結構です。では、メタナイト卿の足止めはお願いしましたよ」
「ああ……殺しちまっても文句言うなよ?」
「その時は、わたくしがあなたを亡きものにいたしましょう」
「いい表情で言うようになったじゃねえか。惚れるぜ」
「ご冗談を」
リーノはゆっくりとした足取りで、カービィに向かう。メタナイト卿もそちらに駆け寄ろうとして、ヤミカゲに阻まれた。
間もなく、メタナイト卿対ヤミカゲの戦闘が始まった。
剣と刀が激しく打ち合う音が聞こえる。
リーノはカービィから数メートル離れたところに立った。
そして構える。
「これが、新しいわたくしです!カービィ、参りますわ!!」
リーノから電撃がはじけて、一瞬の光とともにその姿が変わる。
顔の側面から犬のようなとんがった大きな耳が生えて、手には鋭い爪が、スカートからふさふさのしっぽが見えた。
白と青の犬のような魔獣。その名を。
「コールドック!!はあ!!」
リーノは口から拳大の氷を吐き出した!それは鋭く人一人くらいなら貫けそうだ。
カービィは剣で砕いた。
リーノは忌々しそうにその様子を見る。
次は、体から冷気を噴出させた。周囲に針のように細い氷を作り、それを操る。
「いけ!」
一弾目はカービィにまっすぐ向かう。すべて壊される。
二弾目は斜め下からカービィを狙う。かわされる。
三弾目は真上からカービィに降りそそいだ。当たる。
カービィは怯んだ。
リーノは一気に攻撃しようと走る。
「来て、ワープスター!」
フームによって流れ星がカービィに落ちてくる。
間一髪のところでカービィは、リーノの突撃を避けた!そして、今度はカービィがリーノに突撃して吹っ飛ばす。
――ガン!!!
「あぐ!!!」
リーノは木に激突して、ずるりと地面に落ちた。
メイドは動かない。
その頃、不利を悟った忍者は煙幕で姿を消した。
メタナイト卿は空中に向かって叫ぶ。
「待て!!!」
「そいつを放置してもいいのか?ハハハハハ……」
忍者の気配が遠のいていく。
戦士はすぐにカービィの傍へ走った。
「カービィ、リーノは……?」
「ぽよ」
カービィが指さす方向、木の下でメイドは倒れている。見る限り大きな怪我は無さそうだ。
敵が姿を消したため、フームとブンが隠れた場所から出てきた。
「さっきから動かないの!」
「……確かめよう」
メタナイト卿を先頭に、カービィ、フーム、ブンがつづく。
リーノはどれだけ近づいてもピクリとも動かなかった。
子供たちは、リーノから二メートル離れた場所に止まらせる。戦士は一人、リーノに近づいた。
「リーノ、リーノ」
メイドの肩を掴んで、優しく揺さぶる。
メイドは苦しそうに呻き声を上げた。
「まだ、わたくしは、まだ……」
「その怪我ではもう戦えない。諦めるのだ」
「……できませんの。わたくしに注入された魔獣薬は、試作品で。不完全な魔獣を生み出すもの」
会話を聞いていたフームが疑問の声を上げる。
「つまり、どういうこと?」
「……ナックルジョーのように、元に戻れないのだろう。そうだな?」
リーノは頷いた。
フームとブンが、リーノに抱きつく。
二人の頬は涙で濡れていた。
「嘘よ、嘘よ!リーノが魔獣になったまま戻れないなんて、そんなの嘘よ!」
「どうにかしてくれよ!助けてくれよ!なあ、メタナイト卿!!リーノは、俺たちの姉ちゃんなんだ!」
メタナイト卿は何も言えない。
この状況を打破する案が思い浮かばないから。
できるなら、叫びたかった。
神か、運命に激しく怒りをぶつけたかった。
なぜ、私から大切なものを奪う?
仲間も、友人も、恋人も……。みんな……。
いなくなる。
最後に残ったのは虚無だった。
「まだ……」
諦めちゃいけない。
リーノは最後の賭けに出た。
自分にできること、やれることを最後まで。
「カービィ、これを吸い込んで……」
懐のポケットから、青バラのコンパクトを取り出す。
それをカービィに差し出した。
カービィは何も言わず、吸い込んでくれた。
七色に反射してうまれるのは、ミラーカービィ。
「みらー」
カービィの声に反応して、杖が暖かな光を灯す。
そして、リーノの中から鏡が出てきた。
二枚の鏡だ。
一つ目は、透き通っていて、触れたら割れてしまいそうな飾りっけのないシンプルな鏡。
二つ目はメイドモチーフに飾られた可愛らしい鏡。
二つ目の方は黒く淀んでいた。
一つ目の鏡から声が発せられる。
『ねえ!お願い、リーノを助けて!』
女性の声だ。リーノとは似ていない。
一つ目の鏡にぼんやりと人の姿が浮かぶが、よく見えない。誰なのだろう。
『説明は後でね!今は一刻も早くリーノを助けないと、助からないから!飲み込んじゃうね!』
すると、一つ目の鏡が掃除機のように、磁石のようにフーム、ブン、カービィ、メタナイト卿を吸い込む。
「きゃああああ!」
「な、なんだこれ!?」
「ぽよー!!」
「!?」
鏡は四人を吸い込むと、大人しくなった。
*****
「いててて……」
「なんなの一体」
「ぽよ?」
「みんな、見ろ」
メタナイト卿に言われて、辺りを見回す。
不気味な部屋だった。
黒い床、壁と天井は白い。明かりはついておらず、少々暗い。
テレビがついていて、その光だけが部屋を照らしている。
そのテレビの影から、人が出てきた。
フームは、いつか夢見た星の戦士のようだと思った。
自分たちとは違う背の高い体。
手足は長く、まるで違う生き物のようだ。
例えるなら、それは木のようだった。
――どこかの星では、それを人間と呼ぶ。
人間は頭を下げた。
「あの、無理やり連れてきてごめんなさい。私の名前は、りか。信じてもらえるか、わからないけれど……リーノの前世よ」
「リーノの」
「前世?」
「信じられないことはわかってる。でも、どうか今だけは、リーノを助けるために力を貸して欲しいの。……さあ、こっちよ!」
りかはテレビの中に入った!
フームたちはどうするか、戸惑う。
「どうする?あのりかっていうやつの言葉を信じるのか?」
「メタナイト卿……」
「あの、りかという者から、リーノの気配を感じた。僅かだが、信じてもいいかもしれない」
メタナイト卿はテレビ画面に手を伸ばして、その体を飛び込ませた。
フーム、ブンも意を決して飛び込む。
カービィも、その身を弾ませた。
テレビの先は見知った風景が広がっていた。
プププランドのププビレッジである。
村からも、城からも離れた草原の丘に、五人は立っていた。
「ここはプププランド?どうしてここに……?」
「俺たち、戻ってきたのか?」
「違うわ。ここはリーノの精神世界。記憶の中なの。だから、ほら後ろを見て」
りかの言う通り、振り向く。そこにはテレビがあった。平原の中に、ぽつんと置かれている。変な感じだ。
「私たちが通った道であるテレビがある。それに村を通って城へ行けば、ここはプププランドにそっくりな場所であって、同じではないとわかるはずよ」
「そうなのね……って、その姿はなに?」
りかはメイド服を着ている。リーノの物にそっくりだ。
「これ?可愛いから真似してみたの。まあ、リーノは可愛いから何でも似合うんだけどね!」
にしし、とりかが笑う。まるでリーノのことを妹かなにかだと考えているようだった。
りかは歩き出す。
「行きましょう!今リーノに起こっていることを、説明するわ」
「待って!どこへ行くの?」
りかは悩んで答えた。
「どこ……どこだろう。リーノがいる場所なんだけど、私もわからないんだよね」
「つまり、説明しながらリーノを探すのか?」
「そう……です」
りかは顔を逸らす。その頬は赤かった。
今リーノに起きていること。
りこはできるだけ噛み砕いて説明する。
「半端な魔獣化で元の姿に戻れないこと。そのせいで苦しんでる。魔獣として人を害する気持ちと、リーノとして誰も悲しませたくない気持ちがぶつかり合っているの」
「どうしてそんなことがわかるの?」
「私がリーノと体を共有しているからよ。体の中で起きていることは大体わかるの。……あのね、心して聞いて。リーノは、魔獣になる前の姿には戻れないわ」
「そんな!」
「助けられないのかよ!?」
「違う。元の姿には戻れないけれど、魔獣の悪い心だけなら取り除ける。そうすれば、魔獣の力を持ったまま、それでもリーノとして生きていけるわ」
フームとブンは顔を見合わせる。
キレイさっぱり魔獣の力から、リーノを解放してやれると思っていた。しかし、それが叶わない。しかも、魔獣の力が残ってしまう。
それは、いい事だろうか。
メタナイト卿が言った。
「リーノが、生きて戻ってきてくれるなら、何でもいい」
その言葉に、フームとブンも、カービィも頷く。
りかは、笑った。
「その言葉を聞けてよかった。これでリーノを任せられる」
「任せる?」
「私はリーノの前世、今じゃリーノとは双子みたいなものだからね。彼女の周りには、彼女を大切にしてくれる人がいてくれると、安心して……安心できるのよ」
「……ねえ、さっきから不思議だったんだけど、あなたってどういう存在?リーノの前世で双子って?」
りかは遠くを見つめて話しだす。
「まず、自己紹介からしようかな。私は、プププランドじゃない、どこか遠い星で生まれた異星人ってことは理解してもらえるかな?」
「わかるわ。だって、体そのものが私たちとまったく違うもの」
「地球っていう青い星で生まれたの。そこで、まあ色々あって死んでさ。なんの因果か、ププビレッジに近い町で転生したの」
隣を歩いていたブンが疑問を口にする。
「てんせいってなんだよ?」
「輪廻転生……、生まれ変わることよ。りかはリーノに生まれ変わった」
「そう。はじめのうちは、まだ幼い頃はりかの意識が強く残っていたわ。子供の体に大人の心が入っていた。だから周りには大人びた子供だと言われたし、教えたらなんでもできたから、天才児だとか言われた」
「そういえば、よくパパとママに言われたっけ。リーノを見習いなさいって」
「リーノがすっげー勉強も家事もできたのは、もう大人だったからか」
「いや、それは練習を頑張ったからよ。なんども反復練習して、上手になっていったの。勉強を嫌がらなかったのは、大人になったとき必要になるってわかっていたからよ」
りかの説明を聞いて、二人は納得する。
フームがブンをつついた。
「ブン、勉強を頑張ったら?大人になったら必要よ?」
「い、今はりかの説明が先だろ」
姉弟のじゃれ合いに、りかは顔をほころばせる。
「続けるね。歳を重ねる度に、りかはリーノへと変わっていったわ。まるでグラデーションみたいに。りかの意識はリーノの意識になっていった」
「不思議な話だわ。想像もできない」
「なんとなくわかってくれればいいよ。説明している私も上手く言えないし。……いつかりかの意識はなくなり、リーノになろうとしていたとき。事件は起こったわ」
「?」
「エスカルゴン忘却事件」
全員が思い出した。つい最近起きた事件だったからだ。
「リーノはエスカルゴンを忘れていたけれど、りかは覚えていた。それが決定打となって、私たちは分離しちゃった。一つだった意識が、完全に二つに別れたせいで、体に悪影響がでた。最近、リーノはよく目眩を起こすよね?」
「なるほど。リーノの調子が悪いのは、この事が原因だったのね」
「そうだよ。上手いこと、カードの表と裏みたいに意識が入れ替われば、目眩とかおきないんだけどね。突然意識がばっさり別れちゃったもんだから、上手にできなかったの。二つの意識が同時に表にでるから、脳への負担が大きくなる。結果、不調に繋がる」
りかは「ごめんね」と続ける。
フームは頭を振った。
「あなたのせいじゃないでしょう?悪いのは……えーと、そう、魔獣を送ってきたナイトメアよ!」
「ありがとう、フーム。……さあ、村についたよ」
いつもと同じ村に見えた。
レン村長、ハナ婦人。ボルン署長、サトさん。ガス、ガング、ヤブイ先生。カワサキ。
みんな村にいるようだった。
でも、どこか人形めいていて怖い。みんな同じ行動をしているのだ。
レン村長とハナ婦人は車に乗って、村を走り抜ける。
カワサキは表をとにかく掃除していた。
ボルン署長は村中を歩いている。
「ここが、リーノの中の村?」
「そうだよ。意識の中で思い出される村だから、みんなリーノの印象と想像と思い出で、できているのよ。……うーん、ここにリーノはいないみたい」
フームとブンはリーノを見上げた。
「わかるのかよ」
メタナイト卿が推測する。
「そなたはリーノと繋がっている。だから、近くにいれば感じ取れるのではないか?」
「当たりです。でも、これ一方通行なんですよね。りかはリーノを感じ取れるけれど、リーノにはできない」
「どうして?」
「ぽよ?」
「リーノが私の名前を、存在をきちんと認識できていないからよ」
子供たちは疑問符を浮かべる。
りかは頬をぽりぽりとかいた。
「そういうものなの」
村を走り抜けて、城へ入る。
中にはワドルディたちがたくさんいて、掃除をしていた。
フームは辺りを見回して、本物の城を思い出す。
「私の印象より、ワドルディの数が多いみたい」
「リーノは、よくワドルディたちと仕事をしているからね。そのせいじゃないかな?」
りかも辺りをキョロキョロと見て、斜め上を見上げた。
「玉座の間かな……?」
全員がりかの視線の方向へ、目を向ける。
フームは睨むようにに見上げた。
「とにかく行ってみましょう」
「よし、階段だな」
「待て」
メタナイト卿が走る子供たちを止めた。
そして中庭を指さす。
「あちらから回って、エレベーターに乗るぞ」
りかは頷いた。
「その方がはやいですね」
「エレベーター?そんなのあるのか?」
「中庭の隠し扉から入れるのだ。行くぞ」
今度はメタナイト卿に先導されて、中庭へ。
噴水やキレイに刈られた草など、本物の城と変わった様子はない。
中庭から近い隠し部屋に入った。奥にエレベーターの扉が見える。
メタナイト卿がボタンを押すと、問題なく動いた。
「うむ。異常ないな。これに乗っていくぞ」
「こんなの知らなかった!」
「今までこれ使って、城を移動していたんだろ?メタナイト卿もリーノもずるい!」
「大王から内緒にするよう言われてたんだよ。ここから帰ったら、怒ってあげて」
エレベーターから玉座の間がある階層へ到着する。
隠し部屋から出ると、見慣れた城の壁や天井、床があった。
敵の存在に気をつけながら、玉座の間へ入る。
中は黒いモヤでいっぱいだった。
「何これ!?」
「大丈夫。私に任せて」
みんなが動揺する中で、りかだけは堂々としていた。
玉座の間の扉を両方開け放つ。まるで淀んだ空気を入れ替えるように。
黒いモヤは、何かに吸い込まれるようにして玉座の間から出ていった。
それは、城のベランダ部分から飛び出し、村の上空を渡り、草原のある場所へ吸いこまれる。
あそこは――。
「ねえ、あそこって、テレビがあった場所じゃない?」
りかとリーノを繋ぐテレビがあった場所。
「そうだよ。あの黒いモヤは魔獣の悪い心……それを私の意識の中に閉じ込めたの。これで、リーノは解放される」
りかは玉座の間中へ進んだ。
部屋の中央にはリーノが倒れていた。
りかはリーノをそっと抱きしめる。
りかが輝き出した。
その輝きは暖かくて、思い出のように七色に光り、リーノへと移った。そして、リーノの体の中に吸い込まれる。
「これでいい」
みんながりかの後ろに立って、その現象を見守っていた。
メタナイト卿が一歩前に出て問う。
「一体……何をした?」
「記憶を引き継いで貰ったの。りかの記憶は、リーノの役に立ってきたから。これからもきっと必要になるわ」
りかは立ち上がる。
そして、割れた。
鏡が割れるように、それは幻想的に、りかは消えようとしている。
フームが叫んだ。
「りか!」
「元からこういうつもりだったの。私のすべての記憶をリーノにあげること。魔獣の悪い心を私の意識の中へ移すこと、そして私の死をもってそれを無くすこと」
「そんな……」
「最初から死ぬつもりだったのかよ!」
「ぽよう!!」
りかは振り返った。まるでリーノのように、にかりと笑った。
「あなたたちに頼みたいのは、これからなの。私が急にいなくなったら、リーノは混乱する。自分の一部が突然無くなるもの。その衝撃は大きなものよ。だから、リーノを助けてあげてほしい」
「我々を呼んだのは、魔獣の悪しき心と戦わせるためではない。助かったあとのリーノを救いあげることが目的だったのだな」
「そういうことです。こうして事情を知っているのと、知らないのでは対処が違ってくる。適切な対処をしてもらうために、ここへ来てもらいました」
りかはどんどん薄く、細やかな破片になっていく。
「私、みんなと遊んでみたかった。リーノの大事な人たちに会って見たかった。話したかった。今日はそれができて、嬉しかったよ。ありがとう」
りかはとうとう見えなくなって、光の粒子のようになり、消えてしまった。
今度はリーノが光りだす。
リーノは形を変えて、メイドモチーフのあの鏡へと変化した。
――美しく輝いている。
鏡の先には、さっきまで戦っていた場所が見えた。
フームは少し寂しそうに言った。
「りかのおかげね」
「フーム、私たちはこれからリーノを助けなければならない。りかを失って、リーノにどのような症状が出るかわからん」
「俯いているヒマはないってことだろ」
「その通りだ」
「わかってる。……さあ、戻りましょう!!カービィ!」
「ぽよ!」
カービィが杖を掲げる。
鏡と杖は共鳴し、鏡がフームたちを吸い込んだ。
*****
「どこ!?どこなの……あの子はどこ?」
「リーノ落ちつけ」
「メタナイト卿、あの子が、いなくなっちゃって……。私のせいなのに、あの子が身代わりに!」
フームは目を覚ます。
どうやら倒れていたらしい。
身体を起こし、顔を振って頭を覚まさせる。
少し先に、リーノとメタナイト卿がいた。リーノの姿は以前と同じだ。元に戻っている。魔獣ではなくなったのだろうか?
「おちつけません……おちつけないんです……あ、ああ、名前もわからないなんて」
「……彼女の名前はりか。君の前世だった女性だ。君を最後まで守っていた」
「……わかりません。ピンとこないんです。私はあの子を知らない。だから正解もわからない。どうして、どうして……」
「リーノ……」
混乱しているらしいリーノ。彼女を落ち着かせようと、リーノを抱きしめているメタナイト卿。
りかの言う通りになった。
りかを失くしたリーノの混乱は大きくて。
泣き疲れて眠ってしまうまで、りかを探していた。