転生者がカービィ世界で生き抜く話   作:紅絹の木

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訓練と羊

 

ランタンとアーニャに、わたくしが魔獣になってしまったことを話しました。

二人は悲しみ、心配し、怒り、混乱しました。拒絶はありませんでした。

わたくしはそのことが有難くて緊張が解けました。自然と流れ落ちる涙に、親友たちは心配して声をかけてくれました。そして懐からハンカチを取り出し、涙を拭ってくれたのです。

わたくしは二人に感謝を述べました。

 

「わたくしのこと怖いでしょうに、心配してくれてありがとう」

「違うわ。リーノが怖いんじゃない。リーノが離れていってしまうかもしれない未来が怖いの」

「リーノ、私たちの傍からいなくなっては嫌ですよ。どうか、抱え込まないで。今日みたいに話してくださいね」

「ええ、ええ……!」

 

わたくしは子供のように大粒の涙を流しました。

メタナイト卿は静かに、わたくしたちが落ち着くのを待っていてくれました。

 

 

 

アーニャとランタンに、ナイトメアに立ち向かうことを伝えると反対されました。

目をつけられたら、今度こそ殺されてしまう。そう説得されました。

わたくしは頭を振りました。

 

「立ち向かわなくては、安寧を得られません。それに、怯えて暮らすなんてできません。あなたたちや、陛下たち、村のみんなを守るために戦います」

 

力強く決意を言葉にすると、二人はもう反対しませんでした。ただ、お願いされました。

 

「目の届くところにいて。どこにも行かないで」

「できうる限り、頑張ります」

「絶対って、言ってください」

 

苦笑には、呆れを含んでいた。

 

 

 

次の日。わたくしの自室にて。

メタナイト卿、フーム様、ブン様、カービィ。

アーニャ、ランタン。

ソードナイトさん、ブレイドナイトさん。

以上のメンバーを巻き込んで、今後について話し合いました。

わたくしの目標だった“メタナイト卿ともう一度話すこと”“味方をつくること”はクリアしました。

あと一つ“堂々と鍛錬すること”について、意見を交わします。

体調を気遣われてわたくしは椅子に座り、その隣りにメタナイト卿が座ります。向かい側にアーニャとランタンが腰をおろしました。

テーブルの近くに移動させたソファには、子供たちが座っています。ソードナイトさんとブレイドナイトさんは、別室から運んだ椅子に座ってもらいました。

わたくしは、全員にお茶―子供たちはジュース―が行き渡ったのを確認してから、話し始めます。

 

「陛下と閣下、それにパーム様とメーム様、村のみんなに力のことを隠しておくことは難しいと思います。なので、話しておこうと思います」

 

フーム様は難しい顔をしました。

 

「それはいいけれど、力が使える理由をどう説明するつもり?」

 

わたくしはにこりと笑いました。

 

「ある日突然使えるようになった、と言いますわ。旅の途中で、使えるようになった。だから故郷には帰らず、プププランドに戻った……」

 

嘘はついていない。だから堂々と話すことができます。

ブン様とフーム様、戦士のお二人は息を飲みます。わたくしのことをよく知る幼馴染は特に驚きませんでした。メタナイト卿は「いい案だ」と賛同していただきました。

ブン様は一つの懸念を問いかけます。

 

「もし、誰かに……村のみんなに魔獣だったことをバラされたらどうするんだ?」

「わたくしの身におきたことを、正直にすべてお話します。そして、拒絶されるならここを去りますわ」

「そんな」

 

子供たちはショックを受けたようです。わたくしは彼らに安心して欲しくて、微笑みました。

 

「もし去ることになりましたら、引越しが終わり次第お手紙を書きますわ。だからあまり悲しまないでください。そのとき、差出人の名前は本名じゃない方がいいですよね」

 

わたくしは手を口元にやり、少し考えました。

 

「そうですわね……青バラの恋、とでも名乗りましょうか」

「それは、いいな」

「ふふ、でしょう?」

 

メタナイト卿と見つめ合って頷き合う。

子供たちは疑問符を浮かべていた。大人たちは何かを察して、頬を染めたり目を逸らしたりしました。

 

 

 

惚気を交えつつ、話し合いは進みます。

どのように陛下たちに説明するか、鍛錬する理由はなんとするのか?みんなで案を出しました。

話し合いは、お昼前にまとまりました。

 

みんなで部屋を元通りに片付けているときに、ブン様に質問されました。

 

「で、今日出たアイディアはいつ決行すんの?」

「今日からですわ」

「え?」

「今日のお昼に、陛下と閣下にお会いして力を見せます」

 

わたくしはガラスコップを持ちます。

みんなに見えるように掲げ、コップの中に氷を作り出しました。

コップの中で氷がカランと踊ります。

全員が驚く雰囲気を感じました。

 

「話し合いの中で申し上げた通り、今見せたものを陛下たちにも見せてきます」

メタナイト卿は静かに話しはじめます。

 

「気に入れば村人たちに自慢するだろう。恐れれば……」

「ここを去るのみ、ですわね。こういうことは早い方がいいと思うんです。だから、これから参りますわ。……見届けていただけますか?」

 

否と、答える方はいませんでした。

 

 

 

陛下と閣下は、村がよく見える上層階のベランダにいらっしゃいました。

お二人は仲良く日光浴しています。

わたくしはメタナイト卿と共に、姿を見せました。他のみんなは隠れています。ですが、声が届く距離にいてくれました。何かあれば駆けつけてくれると。わたくしには味方がいてくれるので勇気が湧いてくるのです。

意を決して陛下と閣下に話しかけます。

 

「――陛下、閣下」

「うおお!?びっくりしたゾイ!」

「いきなり現れるんじゃないでゲスよ!いつもみたいに足音立てるでゲス!」

「すみません。緊張で普段通りに振る舞えないのです。お許しください」

 

深く腰を折る。

二人はわたくしの言葉に興味が引かれたのか、寝転んでいたチェアに座り直しました。

陛下は仕切り直すように、こほんと咳払いなされます。

 

「うむ。話してみるがよいゾイ」

「結婚の報告は受け付けないでゲスよ」

「そちらはまだですね」

「えーと、今回は違う用件です」

 

結婚という言葉に持っていかれそうになるけれど、意識を無理やり本題に戻します。

 

「今日は、相談と報告を兼ねて参りました。こちらをご覧ください」

 

わたくしは両手で水をすくうように、胸の前まで持ち上げます。

その両手の上に氷を作り出しました。小さな粒は瞬く間に、拳大の氷塊に変化します。

閣下が仰いました。

 

「すんげー手品」

「いえ、種も仕掛けもありません。このように、魔法みたいなことができるようになりました」

「一体いつからできるようになったゾイ!?」

「故郷に帰る前ですわ」

 

嘘ではありません。実際に故郷に帰る前、ヤミカゲに捕まりこの能力が使えるようになったのですから。

陛下はわたくしが作り出した氷を掴み、口に入れました。

ガリボリと噛み砕きます。

 

「……本当に氷だゾイ!こりゃすごい!だははははは!早速村の人民共に自慢するゾイ!!!」

 

わたくしはメタナイト卿とアイコンタクトをとりました。

よかった。拒絶されませんでしたね。

次は村人たちです。さて、どんな反応をされるでしょうか。

 

「メタナイト、お前は城で待て!着いてくるなゾイ!」

「……かしこまりました」

「メタナイト卿、行って参ります」

「気をつけてな」

「そこ!イチャつくんじゃないでゲス!!」

 

 

 

 

村の広場にて。

陛下は村人たちを集めてわたくしの力を披露させました。

 

陛下と閣下はそれは楽しそうに、わたくしの新しい力を村人たちに見せつけます。

誰も彼もが戸惑う中、特に仲良くしていただいているサトさん、ハナさん、メーム様の戸惑いと心配は大きなものでした。

メーム様が人々をかき分けて、わたくしの両手を包みます。

 

「リーノ、何度も氷を作って疲れない?大丈夫なの?」

「はい。今のところ問題ありませんわ。ただ、わたくし自身もこの力を完璧に制御しているわけではありません。しばらくは、メタナイト卿のお知恵を借りつつ、制御訓練に励みたいと思います」

「そう?無茶しちゃダメよ。女の子なんだから」

「はい。ありがとうございます。メーム様」

 

メーム様の優しさが心に染みます。

わたくしが笑顔を向けると、サトさん、ハナさんも笑ってくれました。安心していただけると嬉しいですね。

その和やかな雰囲気を壊す如く、陛下が言いました。

 

「メタナイトの奴を頼らんでも、ワシが何とかしてやるゾイ」

「は?」

「聞けえい!リーノに凍らせて欲しいものがあるなら持ってくるゾイ!一つ、十デデンで凍らせてやるゾイ!」

「へ、陛下??」

 

陛下のお言葉を聞いた村人たちは、騒めきました。誰もすぐには動きません。

そこにフーム様、ブン様、カービィ、ロロロ、ラララが到着しました。

彼らもまた、人の輪をかき分けて最前列に来ました。そして事情を知ると、ブン様がわたくしにペロペロキャンディを差し出します。

 

「なあ、リーノ!これ冷やしてくれよ!」

「かしこまりました。冷やします」

 

左手でペロペロキャンディの棒を持ち、右手はキャンディの部分を触らず、包むように掲げます。

キャンディは瞬く間に冷気を発しました。

 

「これでよろしいでしょうか?」

 

ブン様はさっそくペロペロキャンディをぱくりと食べます。

 

「……うまあい!ヒンヤリしてて甘い!サンキューな」

「どういたしまして」

 

頭を軽く下げる。

はじめてだったけれど、うまく冷やせてよかった。

 

「リーノ!この水筒に氷をいれるでゲスよ」

「かしこまりました。いくつ程いれますか?」

「そうでゲスね……五個いれてくれでゲス」

「承知いたしました」

 

閣下の水筒を受け取り、蓋部分を外します。そして手のひらに集中しました。製氷皿で作られる氷と同じくらいの大きさが一つ、わたくしの手のひらで作られます。

氷を水筒の中にいれました。

これを五回、繰り返します。

蓋部分をしっかり閉めて、閣下に返しました。

 

「お待たせしました」

「ありがとうでゲスよ。リーノ」

「さあさあ、他にも氷が欲しい奴はおらんか!!今ならたったの十デデンで、何でも凍らせるし、冷やすゾイ!!」

 

陛下の声が背中を押し、村人たちは我先にと一度家に帰ります。そしてお財布を持って、氷を求めてやって来るのでした。

 

わたくしは、ひとまず村人たちに受け入れられたことに、一息つくのでした。

 

 

 

 

それから、わたくしの日常に力の制御訓練が追加されました。メタナイト卿には週二日ほど訓練の様子を見ていただき、アドバイスしてもらいます。

よくメイドの仕事中に、陛下と閣下に命令されて氷を作り出します。お二人の望む氷は、注文が細かいので訓練にうってつけです。

本日は、お昼のおやつにかき氷を出しました。

シャリシャリとした氷っぽいものではなく、ふわふわしている空気を含んだ特別なかき氷を、出しました。

作り方は簡単です。氷を作りだし、秘密の方法で削りだします。

陛下と閣下は大層喜び、しばらくの間おやつはふわふわかき氷に決まりました。

 

わたくしは、ふわふわかき氷を周りの人たちに作ってあげました。

親友たち、大臣一家とカービィ、三人の戦士たちにです。みんなから好評でよかった。

メタナイト卿から、器用だと褒められました。

 

制御訓練の次は出力訓練に移ります。

宇宙船を凍らせて手に入れたいのなら、空まで届く大きな氷を作り出す必要があります。

大きな氷は、週に一度だけ陛下に許可をいただき、城の庭の片隅に作り出します。

初めは海に作ろうかと思ったのですが、海の生態系を壊しかねないので止めました。

 

大きな氷を作り出す訓練は、ただ氷の山を作り出すものから変化していきます。大きな氷の滑り台を作り、子供たちの遊び場を提供するようになりました。

冷たくて熱中症対策にいいと話題になりました。

そのため、村にも家の高さまである氷山を作りました。

氷山の周りでは、村人たちが集まり涼んでいるようです。

村の役に立てて嬉しいですね。

 

氷山を作るとたいへん疲れます。徐々に慣れて、連発できるように頑張っていきたいと思いました。

 

 

 

「城の地下に新しくプールを造る。手を貸してほしい」

「いいですよ。お手伝いします」

 

ある日ワドルドゥ隊長に頼まれて、ワドルディたちのプール造りを手伝いました。

学校などに置いてあるプールではなく、レジャー施設に置いてあるプールを、ワドルドゥ隊長は考えたみたい。

一つ目は流れるプール、二つ目は引いては押す波のプール、三つ目は氷山の周りを泳げる冷たいプール。

わたくしが担当するのは三つ目のプールです。冷たいプールに体をつけてしまうと、お腹を壊してしまいます。なので底は浅く作ります。

足が完全に浸からない程の深さにしました。

これでお腹を壊す人はいないでしょう。

 

自分の担当した場所が完成したら、他の場所を手伝いにいきます。

ワドルドゥ隊長に許可をいただき、その場の現場監督であるワドルディさんに教えて貰いつつ作業しました。

 

 

朝から夕方まで、わたくしは地下にいました。

 

ですので夕方、地上に出たときアーニャとランタンに捕まりました。

二人のメイド服は朝会ったときと比べると、よれよれになっていました。

 

「探しましたよ!」

「どこも怪我してないわよね!?」

「は、はい。大丈夫です。……二人は疲れているみたいですね」

 

ランタンが困ったという風に眉を下げます。

 

「さっきまで羊が群れをなして、城に攻め込んできたのよ」

「大人しい羊がですか?」

「そうよ。羊に追いかけ回されて大変だったのよ」

 

アーニャが村の方角を示す。

 

「今はもう村の方に帰ったので、騒動は収まりました。でも、羊たちが荒らした場所を掃除しなくちゃいけなくて」

「でも、今からは夕飯を準備しないと、陛下たちの食事の時間に間に合いません」

「はい。なので、夕飯作りが終わった後ですね。残業です……」

 

アーニャの言葉を聞いたリーノは、くたくたな体でもうひと踏ん張り必要なことを理解した。

空を見上げる。

夕日が綺麗だった。

 


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