朝食の席にて。
ここ毎日は陛下のお飲み物に、氷を数個入れることが習慣となりました。
もう慣れてしまったのか、陛下は驚きも喜びもせず「うむ」と言って受け取ります。少々寂しいですね。村人たちは、能力を使ってみせるとまだ喜んでくれます。
「リーノ、どこかにいい森はないかゾイ?」
「どうして、そのようなことを聞かれるのですか?」
「そりゃあ我がカントリークラブを造るためゾイ……あっ」
「陛下!?それ言っちゃダメ!!」
わたくしは頭に手を当てました。少し痛む気がします。
「陛下、プププランドにゴルフクラブ場を造ることは諦めてください。森を破壊すれば、ウィスピーウッズが立ち上がります。また怪我をしますよ?」
「それでも諦めきれんゾイ!!!」
イヤイヤと顔を振る陛下。わたくしたちメイドは、困ったと視線を合わせました。
「とにかく忠告はいたしました。どうか、お気をつけて」
その日の夜、すべての業務を終わらせてからフーム様の元に尋ねました。
夜の八時頃です。遅くになってしまいましたが、快くドアを開けてくださったメーム様には頭が上がりませんわ。
通されたリビングですぐに話を始めました。
「陛下がまたカントリークラブを造ろうとしています。どうか、森に住む方々に気をつけるようお伝えください」
「デデデの奴、またかよ」
フーム様もブン様も呆れたご様子です。わたくしは困ったように微笑みました。
そうそう、忘れるところでした。
「フーム様、ブン様。こちらのシフォンケーキをどうぞ。夜分遅くにお邪魔したお詫びですわ」
「わあい!ありがとう、リーノ!」
「さっそく食べようぜ!」
「ダメ。今から食べたら太るわ。これは明日の朝食に出します」
メーム様が音もなく現れて、シフォンケーキを抱えました。にっこり笑って、私の方を見ます。
「お茶でも飲んでいかない?今から用意するところだったの」
「いえ、今日のところは帰ろうかと」
「あら、用事でもあるの?」
「そうではありませんが……」
「なら、遠慮しないで。たまには一緒に飲みたいわ」
「……ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
わたくしが氷を作れるようになって、初めてお茶によばれました。以前と同じように、接してくださって嬉しいです。
リビングに隣接した、ダイニングテーブルに座ります。温かい紅茶をいただきました。隣に座られたブン様が、紅茶の入ったカップをわたくしに差し出します。
「リーノ!氷ちょうだい!」
「はい。ただいま」
「こら!ブン!」
「このぐらい構いませんわ」
「へへ、だってさ」
わたくしはブン様のカップの中に、三つの氷を作って入れて差し上げました。
それから数日後、夜に嵐が来ました。
嵐は一晩で去ってくれました。朝にはお日様が顔を出し、いつものプププランドに戻りました。たいした被害はないように思えたのですが、東の森で何かあったようです。村の男性たちが確認しに東の森へ出かけました。
森。帰ってこない陛下と閣下。そして子供たち。
私の頭の中のピースが、さらに浮かびます。
カントリークラブ。
これらが線で繋がります。おそらく、わたくしの想像は正しいでしょう。嵐の中で戦闘があったのならば、長い時間雨に打たれているはず。
わたくしは城へ帰り、お風呂を用意しました。
陛下たちは昼前に帰ってきました。
服も体もずいぶん濡れています。それに、どうやら愛用している車を壊してきたようです。東の森から城までは、かなり歩かなければなりません。
今すぐに眠ってしまいそうなお二方を引っ張り、大浴場に入っていただきます。付き添いには数人のワドルディにお願いしました。これで安全でしょう。
お風呂からあがったら、昼食です。
食事はおにぎり二つです。もう寝てしまいそうなお二方のために、簡単に、すぐに食べられるものをご用意しました。
おにぎりの具は、お二方が好きな鮭と唐揚げを入れておきました。おいしそうに食べてくださって嬉しいですね。
食後、瞬く間に眠ってしまわれたので、ワドルディたちにそれぞれの自室へ運んでもらいます。
おやすみなさい。陛下、閣下、良い夢を。
明日からまた、素うどんですわ。
仕事が全て終わり、わたくしたちはアーニャの部屋に集まりました。彼女から詳しく話を聞かせてもらうためです。
アーニャの部屋は、淡いオレンジ色を基調とした可愛らしい部屋ですわ。カーテンの裾にフリルを装飾したり、クッションカバーなど手作りの物を部屋中に置かれています。部屋は花のいい香りがしていて、大人の女性の部屋という感じです。
わたくしたちは、部屋の中央のテーブルを囲み紅茶を飲みます。今日はアーニャが用意してくれました。とてもおいしいです。
ランタンが身を乗り出してアーニャに質問しました。
「それで?婚約中の彼とはいい感じなの?」
「はい。リーノの件を知ったときはずっと傍にいてくれました。とても、優しい人です」
「アーニャ!本当に、おめでとう!わたくし、自分のことのように嬉しいです」
ここには気を許した親友しかいません。歳を気にせずはしゃぎました。アーニャは頬を染めて「ありがとう」と言います。
手の中のカップを弄りつつ、アーニャは話し始めます。
「彼は、ブレイドさんは婚約後、すぐに私の家族に挨拶してくれました。それから、私を改めてメタナイト卿とソードナイトさんに紹介してくれたんです」
「ブレイドナイトさんのご家族の方は……?」
「大戦中に生き別れてしまったようで、今どうしているのかはわからないそうです。だから、今はメタナイト卿とソードナイトさんが家族だと説明してくれました」
「そう……」
戦士たちの思わぬ過去に触れ、わたくしとランタンは言葉を紡げませんでした。ふ、と考えます。
メタナイト卿のご家族は今どちらにいるのか。わたくしはまだ知りません。できるなら、後で教えてもらおうと思いました。
それから、アーニャは微笑んで続きを話します。
「ブレイドさんね、私の家族の中にアーニャが加わってくれたらすごく嬉しいって、言ってくれたんです。だから、私もブレイドさんと家族になれたらすごく嬉しいですって返しました。ブレイドさん、すごく喜んでくれて……嬉しかった」
「あら、もう結婚するって決めちゃったの?」
ふざけるようにランタンが言います。アーニャはニコリと笑いました。
「それはまだですけれど、でも、そうなったらいいなとは思います」
「アーニャ、見守っていますわ。いつでも相談に乗りますからね」
「ありがとうございます。リーノ、ランタン、二人がいてくれたら心強いです」
女子会の夜は更けていきます。
そろそろ寝ようか、時計の針が夜中をさしたとき、リーノはある事を思い出しました。
「最後に一つ、いいかしら?」
「何?どうかしたの?」
「アーニャとランタンは、このままメイドの仕事を続けたい?」
二人はぱちぱちと数回瞬きをして、首を降りました。
わたくしはがくりと頭を下げます。
「ですよね……メイドって大変ですものね……」
ここ数ヶ月の二人の働きぶりは、陛下と閣下も認めてくださるほど素晴らしいものです。しかし、勤務内容に問題があります。メイドの枠組みを超えた仕事の種類に、陛下と閣下の都合によってコロコロと変わる勤務時間。これが会社だったら、まともではありません。
二人がメイドを辞めたくなっても仕方がないのです。
力のないわたくしの手を、ランタンが握ります。
「でもね、ここってお給金がいいのよね」
反対の手はアーニャが握りました。
「それに、ブレイドさんといつでも会えるんですよね」
顔を上げると、二人は悪戯が成功したような笑みを浮かべていました。
「仕事もアクシデントも魔獣もやばいところだけど、そんな場所にリーノを一人置いていくほど、私たち薄情じゃないわ」
「リーノは案外危なかっしいところがありますから、傍で力になれたら嬉しいですね」
「というわけで、陛下と閣下さえよろしければ……」
「今後とも、よろしくお願いします」
「明日にでも、聞いてみますわ!!」
頭を下げる二人に、胸がいっぱいになった。二人の手を握り返す。
翌日、早朝。ようやく鶏が鳴き始めた頃、陛下の寝室に突撃した。
「陛下!起きてくださいまし!起きて、仕事を開始してください!!」
「なんゾイ……寝かせるゾイ……」
「アーニャとランタンの、正社員への雇用のことでお話があります!!」
「はあ?なんのことゾイ……あやつらはもうとっくに正規のメイドだゾイ」
「まあ、知りませんでした。いつから正規雇用されたのでしょうか?」
「リーノが実家に帰っとる間に決めたゾイ。そういえば、まだ二人に連絡してなかったゾイ。後でするからワシの代わりに覚えておくゾイ」
「か、かしこまりました」
そして陛下はまたぐっすりと眠り始めました。
わたくしはしばしその場から動けませんでした。あまりにも驚いていて陛下のお顔を見つめていたぐらいです。
その二時間後、陛下と閣下が朝食を食べる前。二人が正規雇用されていた話を、陛下からしていただきました。二人は少し目を見開いて、それから納得したように頷きます。深々と、陛下に向かって頭を下げました。
「陛下。城のメイドに恥じない働きをいたします」
「精一杯、勤めさせていただきます」
「うむ。励むが良いゾイ」
次は閣下に向かって、深々と頭を下げます。
「閣下、今後もよろしくお願いします」
「迷惑をかけないように、頑張ります」
「二人ともおめでとうでゲス。気張っていくでゲスよ」
後は大臣一家、ワドルドゥ隊長、三戦士、ワドルディたちに挨拶に行きましょう。皆さん、新しい仲間である二人を歓迎してくれたら嬉しいですね。
二人が正式にお城のメイドとなり、わたくしとは上司と部下の関係になりました。これまではメイド長(仮)でしたけれど、カッコカリカッコトジが取れてメイド長になったわけです。初めて、直属の部下を持ちます。たいへん緊張します。
昨日の内に城の中の挨拶回りが終わったので、今日はアーニャとランタンの実家に挨拶と報告に行きます。
事前に、郵便局長であるモソさんにお手紙を配達してもらいました。早朝に手紙が届いて、その日の昼に挨拶に向かうわけです。ご迷惑ではないかと心配しました。けれど二人が問題ないと言うので、その言葉を信じます。
手土産は、村では手に入りにくい高級菓子を取り寄せました。二人からアドバイスをもらって決めた物です。気に入っていただけると嬉しいですね。
わたくし、アーニャ、ランタンの三人でメイド服を着て村の中を歩きます。とても目立ちます。こちらをチラチラと見られる方が多いですね。その中を慣れた足取りでわたくしたちは歩きます。
村の中央に到着したとき、村長さんとボルンさんがお話をされておりました。
遠くからでもご挨拶しておこう。そう思ったのですが、村長さんと目が合うなり手招きされました。わたくしたちは疑問に思いつつ、お二人に近づきます。
「あの、何か?」
「こっちじゃ、こっち」
「ほっほっほ、中で話そう」
「?」
わたくしたちは招かれるままに、警察署に入ります。
奥のデスクまで通されました。お二人は楽しそうににこにこし続けています。
「あの、これから用事があります。なので手短にお願いいたしますわ」
「おお、それは悪いことをした。素早く終わらせよう。ボルン署長、あの紙を持ってきてくれ」
「これですな。どうぞ」
ボルンさんは一枚の紙を渡してくれました。一番近くにいたアーニャがそれを受け取ります。
三人で紙を覗き込みました。
「何ですか?……きもだめし大会?日付は、今度ですね」
「墓場に埋められた勇者の箱を君は発見できるか……」
「子供向けのお祭り、でしょうか?」
「今大至急でお化けを作っとるところじゃ。できれば手伝ってもらいたいんじゃが、手は空いとるかの?」
「正直に申し上げますと、難しいですわ。もう少し早く知ることができれば、仕事の合間にお手伝いできました。けれど今からでは、ほんの少ししかお手伝いできません。お化け作りではなく、別の何かで参加できませんか?」
「そうじゃのう……じゃあ、参加賞を作ってもらおうかの」
村長さんがそう言うと、ボルンさんはそれだと言わんばかりに頷きました。
「それは名案ですな!三人が作った物はどれも良いと評判です。子供たちにはお菓子を配ってやれば、喜びます」
「では、大会が始まる前にお菓子を袋に詰めて持って来ますね」
「ああ、よろしく頼むよ。急な頼みを聞いてくれてありがとう。それと、きもだめし大会のことは内緒にしてくれ」
「わかりました。誰にも言いませんわ。では失礼します」
「呼び止めてすまんかったの。またの」
「じゃあな」
「失礼します。村長さん、ボルン署長」
「とびっきり美味しいお菓子を用意して持ってきますね」
わたくしたちは外に出ました。胸の中は、これから起こるイベントに緊張していますが、同時にワクワクと胸が高鳴ります。
「楽しみですね」
「うまくいくといいわね」
「城に帰ったらさっそくお菓子の案を考えましょうね」
わたくしたちは、子供たちはどんなお菓子が食べたいか、話し合いながら歩き始めました。