村長さんとボルンさんから、きもだめし大会の参加賞として配るお菓子作りを依頼されました。
子供たちはどんなお菓子を食べたいかしら?わたくしとアーニャとランタンは、話し合ってはお菓子を作ります。それらを試食して、また話し合います。毎日少量とはいえお菓子を食べ続けているので、体重が気になります。健康のため今の体重をキープしていたいですね……。
参加賞のお菓子の候補は、いくつかに絞られました。候補を絞っていく中でわたくしたちは、自分たち以外の人の意見も欲しい、と考えました。
そのため、三人の戦士たちに事情を説明して食事会を開きました。食事会の最後に、候補のお菓子をデザートとして出すためです。
食事会のメニューはグラタンとスープとパンです。前と同じ料理ですね。皆さんが、わたくしの好物であるグラタンを食べさせてあげたい、と考えてくれたようです。ありがたくて、嬉しかった。
メインはデザートであるお菓子を食べていただき、意見を聞くことなのでグラタンはあまり多く作りませんでした。
グラタンはマカロニが入って、チーズをたっぷりかけたものが好きです。今日作るグラタンは亡き母に教えてもらったレシピを、わたくしなりにアレンジしたものになります。アレンジしたといっても、隠し味に味噌を加えただけなんですけれどね。
……そういえば、どこで隠し味に味噌を加えることを知ったのかしら。ずいぶん前から知っていたけれど、五歳になる前から知っているなんて変だわ。
しばし考えて、りかのおかげで知っていたんだと、考えつきました。そして、胸が切なさに締め付けられました。
「どうしたのだ?」
隣で器にグラタンをよそっていたメタナイト卿が、わたくしの変化に気づきました。正直に答えます。
「りかのことを思い出してしまって、胸が締め付けられるんです」
「少し、休むか?」
「いえ、それには及びません。少しづつ受け入れていきますから」
「わかった。無理はしないいでくれ」
「はい。大丈夫ではないときは、助けを求めますわ」
互いの顔を見て強く頷きます。わたくしはどうも感情を溜め込んでしまうみたいだから、感情が爆発する前に、誰かにつけ込まれる前に、心を整理する必要があります。……また日記でも書きましょうか。今度は感情を素直に書き出しましょう。
食後のデザートは、大きめのお皿に数種類のお菓子を乗せたものになります。
グラニュー糖をまぶしたラスク、チューリップに似せたクッキー、宇宙をイメージした透き通るような水羊羹、鉱石を模した美しい琥珀糖、一口サイズのマカロン。どれもわたくしたちの自信作です。
三人の戦士たちは、緑茶と共にゆっくりと食べ始めます。どれも美味しそうに召し上がってくれました。
最終的にメタナイト卿は琥珀糖、ソードナイトさんがラスク、ブレイドナイトさんがマカロンを選びました。
わたくしはチューリップクッキー、アーニャがラスク、ランタンがラスクでした。
票の獲得だけならばラスクで決まりです。ここからは、なぜ選んだお菓子がいいのか話し合います。
ラスクはよく作ります。村のみんなに配ったことも、食べてもらったこともあります。身近な美味しいお菓子と言えるでしょう。簡単には壊れないので、持ち運びにも向いています。
マカロンも、ラスクと同じことが言えます。最近だとお城に遊園地を造ったときですね。村人たちを招待し料理でもてなしたときに、マカロンを出しています。こうしたイベントでは、華やかで可愛らしいマカロンは必ず作ります。食べたことがある子もいるでしょう。
チューリップクッキーは大切なお客様向けのお菓子です。作るのは決して簡単ではありませんし、長く持ち運ぶと形が崩れてしまうかもしれません。見た目良し、味良し、珍しさ良しなのですが、今回のイベントには向いていないかもしれません。
琥珀糖は各家庭でも作っていただけるお菓子です。しかし、鉱石のように美しい物だと作るのは中々難しいです。なので、美しく作ることができれば、喜んで受け取ってもらえるでしょう。それに持ち運んでも崩れたりしません。
わたくしはラスクと琥珀糖を見比べました。
「ラスクと琥珀糖を一緒に配るのはどうでしょうか?」
「いいんじゃないかしら?子供たちは喜ぶわ」
「賛成です。子供たちは怖い思いを抑えて勇気を出すのですから、参加賞は少しでも豪華にしてもいいかと」
ランタンとアーニャの言葉を受けて、三人の戦士も賛成します。
多くの賛成をもらったので、ラスクと琥珀糖を配ることにしました。
子供たちに喜ばれるといいですね。
きもだめし大会当日。夜の草原を、わたくし、アーニャ、ランタンと三人固まって歩きます。
配る参加賞は大人にも渡されるらしいので、かなり多めに作って持ち寄りました。
会場となる森の入り口付近には、すでに三十人近い人々が集まっていました。そのうち子供は十名ほどです。フーム様、ブン様、カービィもいました。わたくしは彼女らに近づいて、挨拶をします。
「こんばんは。フーム様、ブン様、カービィ。月がよく見えますね」
「あら、こんばんは。リーノたちもきもだめし大会に参加するの?」
「いいえ。しませんわ。わたくしたちは、参加賞を作ったのでそれを持って来たのです」
「参加賞?見せて!」
「どうぞ」
持っていたエコバッグの口を開きました。ブン様は覗き込み、喜びと驚きの声を上げます。
「すっげー!ラスクと……この宝石みたいなのなんだ?」
「鉱石を模した琥珀糖です。甘くておいしいお菓子です」
フーム様とカービィも、周りにいた子供たちもお菓子を覗き込みます。
皆さん、綺麗だとおいしそうだと褒めてくれます。
「わあ、綺麗!どちらか貰えるのね」
「二つとも差し上げます。なので、頑張って参加してくださいね」
子供たちから歓声が上がりました。どうやらやる気を出してくれたようですね。作ってきた甲斐があります。
はしゃぐ子供たちにレン村長さんが声をかけます。
「おーい、子供たちや。そろそろ初めるぞ」
「順番に並んでくれ」
ボルンさんの指示通りに子供たちは一列に並びました。一番はホッヘです。
ホッヘに松明が渡されます。
「では、真っ直ぐ歩いて森を抜けなさい。墓場の中に宝があるからな」
「はーい!」
ホッヘは元気よく返事をして、森の方を向きました。そして一度ぶるりと体を震わせて、ゆっくり森の中へ歩き出します。
わたくしは関心しました。
「きもだめしでも、他のことでもそうですが、一番始めにやるというのは勇気ある行動ですね」
「そうよねホッヘくん凄いわ」
「参加賞のお菓子、渡すのが楽しみですね」
のほほんと構えていると、子供の叫び声が森から聞こえました。わたくしたちは驚いて心臓が跳ね上がります。
大慌てでホッヘが戻ってきました。泣いています。よほど怖い思いをしたんですね。
村長さんが次の方を決めている間に、ホッヘの傍へ近づきました。
「ホッヘくん、大丈夫ですか?怪我をしましたか?」
「リーノさん……怖かったよ」
「もう怖いものはありません。安心してください。さあ、参加賞のお菓子です。こちらを食べて一緒に皆さんの帰りを待ちましょうね」
「うん。ありがとう」
ホッヘを連れて大人たちの輪の中に戻ります。ラスクと琥珀糖が入った袋をホッヘに渡しました。
彼は包みを開けて、ラスクから食べ始めます。サクサクと音が鳴ります。
「おいしい。でも喉渇く……」
「すみません。お茶は持ってきていないので、ラスクを食べるのは一枚だけにしておきませんか?」
「我慢するよ……」
ホッヘは泣き止み、お菓子の袋を大事そうに抱えます。
次はフーム様、ブン様、カービィの組です。フーム様が松明を持って先頭を歩き出しました。
ホッヘが帰ってきた頃と同じ時刻、フーム様とブン様の叫び声が聞こえてきましたが、少し待っても三人は帰ってきません。
村長さんを筆頭に大人たちは驚いているようです。
「いやはや、あの仕掛けに驚いても帰って来ないとは、さすがフーム様じゃな」
「次は大人からも参加しましょうか。誰から行きますか?」
「ハナ、どうだい?」
「ええ、行くわ。あなた」
村長夫婦が身を寄せ合って歩き始めました。お化けなど、怖がっている様子はありません。
仲睦まじい、その姿をわたくしはひっそり、羨ましく思いました。
村長夫婦はホッヘと同じ時間に帰ってきました。レン村長は気絶したそうです。ハナさんは呆れていましたが、横顔がどことなく楽しそうでした。
森へは、ボルンさん、イローとハニー、カワサキの順番で入っていきます。
カワサキが森に入った後、ボルンさんの悲鳴が聞こえてきました。それから、イローとハニーが悲鳴が聞こえてきました。三人は距離をおいて森に入りましたが、同じ時刻に帰ってきました。
ボルンさんが、本物の幽霊が出たとみんなに説明します。
とても信じられませんでした。困惑していると、遅れてカワサキも帰ってきました。彼も幽霊が出たと叫びました。
私たちと一緒に残っていたサトさんが言います。
「そういえば、聞いたことがあるわ。森には魔物が住んでいるって」
「でしたら、すぐに先頭を歩くフーム様たちに知らせなくちゃ」
誰かが言います。
「カービィがついているから平気さ。それよりも早く逃げよう」
わたくしは納得できませんでした。アーニャとランタンに向き直り、意見を求めます。
「二人はどう思いますか?」
「私は逃げてもいいと思います。助けを呼びに行きましょう」
「ここに残る方が危険よ。一旦出直すわよ」
「わかりました……」
フーム様たちを見捨てるようで心苦しいですが、仕方ありません。メタナイト卿たちを呼んで来ましょう。
村人たちと一緒に走り出します。
夜、暗闇の中、男たちが掲げる松明の明かりを頼りに進みます。
あと半分の距離で村に到着する頃、遠くできらりと光る何かを見つけました。立ち止まって目を細めます。
――メタナイト卿です。どうやら、仮面が松明に反射して光ったようです。
わたくしはアーニャとランタンに「少し離れます」と声をかけてから返事を待たず、メタナイト卿の所へ走りました。
「メタナイト卿!」
「リーノ……よくこちらに気づいたな」
「力がついただけではなく、視力もよくなったみたいです。あの、頼みたいことがあります」
「聞こう」
「この先の森でお化けが出ました。しかし、森の中にはまだフーム様、ブン様、カービィがいます。どうか見つけて、お城に連れ帰っていただけませんか」
「わかった。三人を探しに行くとしよう。そなたは先に城へ戻っていろ」
「わかりました。ありがとうございます。お気をつけて、メタナイト卿」
「そなたも、夜道には気をつけて……」
わたくしは深く頭を下げました。メタナイト卿が走り去る後ろ姿を見送り、急いでアーニャとランタンのいる場所へ走りました。
村の入り口で、きもだめし大会に参加した村人たちに参加賞のお菓子を配ったあと、わたくしたちはお城へと帰ります。
お城についた所で、通り雨がきました。それは激しい雨で、外にいる子供たち、彼らを探してくれているメタナイト卿のことが心配になりました。陛下と閣下も戻ってきていないようです。
わたくしは不安でした。だから、寝ずに帰りを待つことにしました。
アーニャとランタンには内緒です。メイド服から着替えて、私服のワンピースの上に薄手の夏用ポンチョを羽織ります。
何をなされているのか知らない陛下と閣下はともかく、メタナイト卿と子供たちはすぐに帰ってくると思っていました。
一時間たって雨が止んでも、帰ってきません。
心配です。長期戦を覚悟して、コーヒーを作り水筒の中に入れます。夜番のワドルディたちの邪魔にならないように城壁に上りました。子供たちとメタナイト卿が入っていった森の方角を眺めます。
激しい雨の後とは思えないくらい、優しい風に頬を撫でられて。ずっと森の方を見ていました。
さらに一時間経ちましたが、まだ誰も帰ってきません。
わたくしの隣に、どなたかがやって来ました。
「リーノ」
「ワドルドゥ隊長。夜分遅くまで、お疲れ様です」
「うむ。私のことはいいのだ。リーノ、この地が常夏とはいえ、昼間より夜の方が風が冷たい。部屋に戻って休みなさい」
わたくしは首を振ります。
「申し訳ありません。邪魔ならば別の場所に行きます。そうでないなら、どうか、ここで帰りを待たさせてください。わたくしのせいで、メタナイト卿が危ない目にあっているかもしれないのです。ゆっくり眠ることはできません」
「別に邪魔ではないが……。むう、リーノは頑固なところがあるからな。仕方ない。風邪に気をつけるのだぞ。何かあれば近くのワドルディを頼りなさい」
「ありがとうございます。隊長」
正式に許可をいただき、わたくしは城壁に立ち続けました。
足が痛くなっても、月がどれだけ傾いても。わたくしは大切な人たちの帰りを待ちました。
心配でした。早く、一秒でも早く顔が見たかった。
メタナイト卿も、アーニャやランタンも同じ気持ちだったのでしょうか?
わたくしが出かけて、ナイトメアに捕まってしまい帰ってこなかった時間を、こんな風に首を長くして待っていてくれたでしょうか。
わたくしがいない間に星が落ちてきたと聞きました。その対処で手がいっぱいだったはず。わたくしのことは一旦考えないようにしていたかもしれませんね。
今、わたくしは待つ以外にしなければならないことはありません。ただひたすら、森の方角からメタナイト卿たちの姿が見えることを願います。
途中、持参したコーヒーときもだめし大会の参加賞のお菓子を食べつつ、また待ちます。
やっと、空の向こう側から太陽が顔を出しました。
大地が明るく照らされていきます。その中を歩く人影がありました。それらは真っ直ぐこちらに向かってきます。
わたくしは大声を上げました。
「誰か帰ってきました!橋を下ろしてください!!」
橋は大きな音をたてて下されます。わたくしは急いで、城壁を下りて、橋の上に立ちました。
城壁の上から見えた影は、よく見ると四人の影が一つになったものでした。
フーム様と、カービィとブン様と、メタナイト卿です。
はっと息を吐き出しました。
わたくしは四人のもとに駆け寄ります。
「お、お帰りなさい。よくぞご無事で……」
「ただいま。リーノ、心配かけちゃったわね」
「色々あってさ、もうくたびれたよ。帰って寝る」
「はい、はい。おうちでメーム様、パーム様がお待ちですよ」
子供たちはリーノに笑顔を見せて、ゆっくりと歩いていきます。
わたくしとメタナイト卿が、その場に残りました。
「リーノ。陛下とエスカルゴン殿が、森を抜けた墓場の奥の焼けた建物で寝ている。ワドルドゥ隊長に頼んで回収してもらうといい」
「わかりました。隊長には、そのように伝えておきます。メタナイト卿。遅れましたが、お帰りなさい」
「ただいま」
わたくしたちの視線は交わり、心を相手に届かせました。
手を繋ぐと、身体中から力が抜けるようでした。