わたくしの自室。
朝からクッキーや、鉱石に似た美しい琥珀糖を作ります。部屋には、わたくしだけじゃなくてアーニャとランタンもお菓子作りをしています。
手を動かしつつ、わたくしは二人に悩みを打ち明けました。
「メタナイト卿に先日のお礼がしたいのですが、何をお返しすればいいのか悩んでまして。いい案はありませんか?」
ランタンが赤裸々に、けれど真面目に言いました。
「体で払えば?」
「ランタン!」
わたくしが顔を赤くして声を荒げると、色っぽい彼女は余裕を含んだ声で笑います。
「何が恥ずかしいの?そういう関係なら、それも選択肢に入るでしょ?あとはそうね、やらしい意味じゃなくてマッサージしてあげれば喜ぶんじゃない?」
「そう、ですね。いつも忙しそうですし、差し入れと肩叩きとかいいかもしれません。アーニャはどう思う?……アーニャ?」
赤面して何か呟いています。心配になったので肩を軽く揺すりました。
気がついたアーニャは、目を大きくさせて私を見ました。
「はい!何でしょうか?」
「あの、さっきの話は聞いていましたか?」
「あ、いえ……別のことが気になって何も聞こえていませんでした」
「何が気になっているんですか?」
「……秘密です」
アーニャは両手で顔を隠してしまいました。
そこにチンと、オーブンのタイマーが鳴ります。中にはシュークリームの生地が焼きあがっています。すぐには取り出さず、少々の間オーブンの中に入れて置きます。ランタンが電子タイマーを八分にセットしてくれます。
ランタンは、ごく自然に質問してきました。
「ねえ、リーノ。関係を深くするときって、どう判断したの?」
「……え」
わたくしはすぐに答えられませんでした。だって、わたくしの場合は告白と同時でしたから。ですが、気持ちは通じ合っていました。付き合うまで恋人同士ではありませんでしたが、約十年近く仕事仲間として過ごしたのです。何より、りかの……前世の記憶のおかげでメタナイト卿のことは一方的に知っていました。だから、あのとき身を任せられたのです。
ランタンには、わたくしの経験ではなく考えを話しました。
「……わたくしの場合は、相手をよく知ってもっと好きになってから、関係を深くします」
「それは、なぜですか?」
「本で知ったのですが、女性は相手を好きであればあるほど、痛くなくなるんです。なので、気持ちが追いつくまで待ちますわ。この情報を相手と共有するかどうかは、それぞれの関係次第でしょう。わたくしは恥ずかしくてできませんでした」
「気持ちは見えないんだから、量るなんてできないでしょ。どうやってもっと好きになったことを自覚したの?」
「……抱いて欲しいと思ったら、でしょうか」
聞いていた二人の顔に熱が集まるのが見えます。わたくしの顔も熱かったです。
ちょうど電子タイマーが鳴りました。
空気を入れ替えるために、二人に質問します。
「お昼ご飯は、食べていきますよね?」
二人は黙って頷きました。
お昼過ぎ、約束の時間ちょうどに到着するよう廊下を歩きます。
先頭を歩いていたランタンが、大臣一家の家の扉を軽くノックしました。
「はあい」
この声はメーム様ですね。わたくしはメーム様が扉を開けてくださると思いました。大臣家への扉が音を立てず開かれます。
美しいご婦人が顔を姿を見せてくれました。
「いらっしゃい、三人とも。さあ中に入って」
「お邪魔します」と、三人揃って言いました。
メーム様の隣りを抜け、すぐ見えるリビングの方に誰もいなかったため、ダイニングテーブルの方に顔を向けます。フーム様、ブン様、カービィが座っていました。
「ぽよう!」
挨拶を交わす間もなく、カービィがわたくしの所にやって来ました。飛び跳ね、期待に満ちた眼差しを向けてきます。
そんなカービィを見て、わたくしたちは笑みをこぼしました。
「カービィったら、待ちきれないのね」
「オレも待てない!リーノ、早く作ろうぜ」
「かしこまりました。すぐに準備いたします。メーム様、ホイップなどの準備はできておりますでしょうか?」
「ええ、買ってきてあるわ!すぐに始められるわよ」
「では、ただちに準備します」
今から、わたくしたちはお菓子の家を作ります。きもだめし大会で優勝したフーム様たちをお祝いするためですわ。
テーマは輝くお菓子の家。クッキーやシュークリームで作られたお菓子の家に、鉱石に見立てた琥珀糖を飾ります。きっと綺麗でおいしい家が作れるでしょう。
参加者はきもだめし大会優勝者のフーム様、ブン様、カービィ。ご家族のメーム様、パーム様。計五名で作ります。
主役は子供たちです。どんな家が作られるのか楽しみですね。
五人が座ってゆったりと食事ができるダイニングテーブルは、あと三人も大人が増えても窮屈にはなりませんでした。
メーム様からお借りしたカートに、お菓子の家の材料を並べます。五人には着席していただき、わたくしたちメイドは補助に専念します。
「では、始めます。素敵なお家ができますように」
わたくしの言葉が合図となって、五人は材料に手を伸ばしました。
「アーニャ、土台とって!」
「はい、ブン様。こちらのクッキーがしっとりとしていてオススメです」
「じゃあそれ、ちょうだい」
「ブン!自分で取りなさい!」
「ふふ、今日は補助としてここにおりますから、何なりと申し付けください」
「でも、悪いわ。今日はお休みなんでしょ?」
申し訳なさそうに遠慮するフームに、ランタンが材料が乗ったお盆を持ってきた。
「そうですわね。しかし、こんな日も悪くありません。どうぞ、フーム様」
「そう?ありがとう、ランタン」
アーニャとブン様、ランタンとフーム様の組み合わせで頑張っているようです。
ならば、わたくしはカービィのお手伝いをしましょう。
材料をちょっとずつ並べるカービィに声をかけます。
「ぽよ、ぽーよう」
「まだ食べちゃダメですよ、カービィ。まずは家が崩れないように作りましょう。お菓子の家の中身は何がいいですか?」
「ぽよ?」
「うーん、ケーキは好きですか?」
「けーき!けーき!」
「では、ホールケーキの上に小さなお菓子の家を作りましょうね」
わたくしは、ケーキとお菓子の家の材料をまとめてお盆に乗せて、カービィの所に持ってきました。
小さな戦士に確認を取りつつ、お菓子の家の土台となるイチゴのホールケーキを完成させます。
こちらの様子を見ていたブン様が「ずるい!」と言いました。
「自分で作らなきゃ意味ないじゃん!」
「ブン!カービィはまだ赤ちゃんなのよ!」
「あ、すみません。ホール部分は皆様で分けて食べると思いました。それならわたくしが、少々出しゃばってもいいかと思ったのです」
「それならいいぜ!」
「もう、現金ね」
「リーノのケーキ、おいしそうだわ」
「早く食べたいね、メーム」
そんなやりとりをしつつ、カービィは自力でお菓子の家を完成させます。
少し歪んだラインはご愛嬌。心がこもったお菓子の家ケーキができました。
ホールケーキの上に乗った、歪で小さな家。厚みがあるクッキーを三段重ねて、ずれないようにホワイトチョコでくっつけました。壁と屋根は薄いクッキーで覆い、これもホワイトチョコでくっつけて落ちないようにします。屋根の飾りにカラフルなコーティングがされたチョコを使い、クリームで付けました。薄いクッキーをドアに見立てて飾りつけ、お菓子の家と合体させれば出来上がりです。
カービィは今すぐに吸い込もうとしましたが、わたくしとフーム様で阻止しました。
お菓子の家作りはお終いとなり、まずはそれぞれ写真を撮ります。次に切り分けて試食です。
「ねえ、リーノ。メタナイト卿にお菓子の家を作ってあげたら?」
「それ賛成!リーノが作って、渡せばいいんだ!」
「……喜んでくださるでしょうか?」
わたくしは、この場でも「メタナイト卿への返礼は何がいいか?」と案を募りました。きもだめし大会のときにフーム様たちを助けてくださったことは、すでに伝えてあります。
フーム様は、お菓子の家。メーム様とパーム様は、キッチンからワインを持ってきてくれました。
ワインは、渡せばきっと喜んでくれるでしょう。けれど、お菓子の家は……どうでしょうか。甘い物も好んで食べておられるようですが、こんなにたくさんの甘い物を渡したら胸焼けになりませんか?
「ソードとブレイドの分も含めてあげればいいじゃん。そしたら、少ない量でも胸焼けしないだろ」
「確かに、そうですわね」
「何より、恋人であるあなたの心がこもった贈り物よ。無下にはしないわ」
「それは心配していませんわ。わたくしは、いらない物を贈ってしまうことが怖いのです」
「いらなければ持って帰ってくればいいよ。カービィが食べてくれる」
パーム様のお言葉にわたくしは微笑んだ。それならば、作った物は無駄にならなくて済む。
「それはいい案ですね。早速作りたいので、場所をお借りしてもいいですか?」
「いいわよ。とっておきの物を作っちゃいなさい」
「ありがとうございます。メーム様」
あまり大きな物を作っても迷惑かと考えて、一人用のケーキにお菓子の家を乗せたサイズを作りました。それを透明な箱にしまい、紙袋の中に入れます。ワインが入った紙袋と一緒に持ち上げます。
「では行って参ります。お菓子は先に食べてください」
各々はそれぞれ「行ってらっしゃい」とわたくしに声をかけてくれました。
廊下に出た所で、フーム様に呼び止められます。
「リーノ、これ。今日、試してみたらカービィが吐き出したの」
差し出されたそれは、間違いなくあの青バラのコンパクトでした。
もう帰って来ないと思っていた大切な物を見て、わたくしは目を滲ませました。丁重に受け取ります。
「ありがとうございます!よかった、諦めていたんです!カービィは吸い込んだ物をあまり吐き出さないから、このコンパクトも返ってこないかとばかり……」
「みんなの前だとコンパクトについて質問攻めにあっちゃうでしょ?……すぐに返せなくてごめんなさいね」
「お気遣い感謝します。本当にありがとうございます。フーム様」
「いいの。いつも良くしてくれているお礼よ!こちらこそ、ありがとう!じゃあね」
フーム様はすぐに大臣家の中へ戻られました。
わたくしは、コンパクトをしばし抱きしめて、落とさないようにポケットにしまいました。
長い廊下を歩いて、三人の戦士たちが集まるメタナイト卿のお部屋に到着します。
軽く身だしなみを整えていると、扉が開きました。ブレイドナイトさんが姿を見せます。
「こんにちは」
「こんにちは、メタナイト卿にお会いしたいのですが、今いらっしゃいますか?」
「卿なら中にいらっしゃいますよ。どうぞ」
「すみません。話したいことがありますので、外に呼んでいただけませんか?」
「わかりました」
ブレイドナイトさんが部屋の中に入って二分後、メタナイト卿が出て来られました。
「リーノ」
「メタナイト卿」
微笑んで名前を呼ぶと、微笑み返してもらえた気がしました。
「うむ。やはり、こちらの方がいいな」
「そうですか?では、できるだけお名前を呼ばせていただきますね」
「よろしく頼む」
メタナイト卿は「メタナイト卿」と呼ばれた方がしっくりくるようです。
わたくしは名前でも愛称でも、どちらで呼ばれても構いませんわ。
「それで、どうしたのだ?」
「一つはこれを贈りに来ました。きもだめし大会で、フーム様たちを助けてくださったお礼です」
「気にしなくて良いのだぞ?子供たちを助けるのは当たり前のことだ」
「それでも、お礼がしたかったのです。喜んでいただけると良いのですが……」
メタナイト卿に紙袋を二つ渡します。青い戦士は紙袋を受け取ってくれました。
「中には何が入っている?」
「お菓子の家とワインです」
「ワインはわかるが、お菓子の家?」
「そうです。今日はアーニャたちと大臣一家の皆様で、お菓子の家を作っていたんです。きもだめし大会のお礼に何がいいかと皆様に相談したら、お菓子の家を提案されまして。作りました。……あの、迷惑でしたら持ち帰ってカービィに食べてもらいます。なので、遠慮せずに言ってくださいね」
「いただこう。お菓子の家は食べたことがない。初めて貰った」
「そうなのですね。今日作りましたお菓子の家は、甘いお菓子なので、コーヒーと一緒に召し上がってくださいね」
「わかった。今から楽しみだ。ありがとう」
食べていただけるみたいで安心しました。わたくしは力を抜いて顔を緩ませます。そんなわたくしを見てメタナイト卿は纏う雰囲気が和やかなものになりました。
最後に、ポケットからコンパクトを取り出します。
「最後に、こちらをご覧ください」
「これは……!!返ってきたのだな」
「はい。フーム様が今朝試してくださったみたいです。先ほど渡されました」
「リーノ、良かったな」
「はい!とっても、嬉しいですわ」
涙が滲む目元を、メタナイト卿が優しく拭ってくださった。その手を取って、両手で握りかえします。
「ごめんなさい、メタナイト卿。もう二度と失くしません」
「これ一つでそなたの命が救えるなら、何も問題はない。大切にしてくれてありがとう」
わたくしたちは、確かにお互いに微笑んでいました。
「夜になったら、そなたの部屋に行く」
メタナイト卿は、こっそりとそう耳打ちされました。耳から直に、その愛しい声を注がれて鼓動がすごく速くなりました。
わたくしはただ、頷くことしかできませんでしたわ。頬が熱くなり、頭がぼんやりします。
いつの間にか、メタナイト卿は二つの紙袋を部屋に置いてきました。
「ブレイドたちには伝えてきた。では、行こうか」
「どちらにでしょうか?」
「そなたが今から行くところへ送ろう」
「よろしいのですか?お邪魔ではありませんか?」
「いいんだ。私がそうしたい」
「かしこまりました。ありがとうございます。では、大臣家に戻りたいです」
「わかった。行こう」
わたくしたちは並んで、城の廊下を歩きます。
隣りで鳴り響く金属音を、いつまでも聞いていたい。そんな気持ちになりました。
大臣家でどんな事をしていたのか、そんな話をしながら歩きます。わたくしが話し、メタナイト卿が主に聞き役にまわりました。時々投げられる質問に、興味を持っていただけたのだと嬉しく思い、口がよく動きました。
やがて、村が良く見える方角に造られたベランダに、陛下がいらっしゃるのが見えました。わたくしはご挨拶しようと立ち止まります。
「メタナイト卿、少しお時間をいただけますか?」
「――かまわない」
わたくしが「ありがとうございます」と言うと、戦士は「礼を言われるほどではない」と仰られました。
わたくしが先頭を歩き、メタナイト卿が後ろに続いて陛下の前に出ました。
「陛下、ご機嫌麗し……くないようですね」
「その通りだゾイ」
通気性の良い素材で作られた、プールサイドに置かれそうな椅子に陛下は座っておられます。陛下とわたくしたちの間には、魔獣デリバリーサービスのカタログが左右に半分ずつ山積みにされていました。
深くため息を吐かれる陛下の姿は、おいたわしくて。わたくしは心配になりました。
「どうしたのでしょう?何かありましたか?」
「さっきからいくら待ってもお茶がこんのだゾイ!」
わたくしは一瞬、それだけと、思いました。けれど、この常夏のプププランドで真昼の空の下、何も飲まないでいることはまずいでしょう。わたくしは陛下のことが改めて心配になりました。
「わたくしで良ければ冷たいスポーツドリンクをお持ちいたします」
「休みの日なのに、いいのかゾイ?デート中なのに?」
「もう、陛下ったら。デートではありませんわ。とにかく、陛下のお体が心配なので、ご用意いたしますね。では、失礼いたします」
深く丁寧なお辞儀をしてから、わたくしたちは城の廊下に戻りました。
ベランダから充分に離れた場所で、メタナイト卿とお話しします。
「すみません。大臣家に戻る前に用事が一つできました。ここまで送っていただけたら、充分ですわ」
「そなたを送りたい気持ちもあるが、コンパクトの件でフームに礼を伝えたいのだ」
「そうでしたか。では、寄り道しますけれどよろしいでしょうか?」
「ああ、素早く終わらせよう」
「では、急ぎましょうか」
わたくしたちは早足で、ベランダから最も近い厨房に向かいました。
陛下にスポーツドリンクを差し入れ大臣家に帰ってこられたのは、三十分ほど時間がたった後でした。
メタナイト卿はパーム大臣にワインのお礼を、フーム様にコンパクトのお礼を言って去りました。
「リーノ、顔赤いな。どうかしたの?」
「なんでもありませんわ。ブン様。体調に問題はありません」
「ならいいけど?」
「ところでリーノ、プレゼント受け取ってもらえて良かったわね」
「はい。皆様のおかげです。ありがとうございます」
お皿に集められたわたくしの分のお菓子をいただきつつ、欲しがるカービィにも分けてあげました。
その日は大臣家で夕食をいただきました。
夜のことは……言うまでもありませんね。
大切な方たちと会い、時間を共有し、楽しめた日です。とても素敵な一日でしたわ。
翌日。朝から陛下に呼び出されました。閣下とわたくしは陛下のお側について、ワドルディを数えます。
主に閣下が一人ずつワドルディを数えます。しかし、それでは非効率なので進言いたしました。
「閣下、簡単にワドルディたちを数える方法を思いつきましたの。聞いていただけますか?」
「なんでゲスか?」
閣下は数える手を止めて、陛下と共にこちらに注目されました。
わたくしはゆっくりと話し始めます。
「まず、一階から各部屋ごとに十人のワドルディを待機させます」
「ふんふん」
「そして部屋の前に一人ずつワドルディを待機させます。そのワドルディに部屋には十人のワドルディがいるのか、ワドルドゥ隊長に確認させます。あとは正の字でも紙に書いてカウントすれば良いかと」
「あ〜なるほど、それなら動いているワドルディを数えるより、楽でいいでゲスな!」
「早速するゾ……」
「お待ちください。今はもう昼前、ワドルディたちには昼食を食べてもらってから行動してもらいましょう」
「別に待たせればいいゾイ」
「わたくしたちも、お昼ご飯を食べなければならないと思うのです」
それならば、と陛下たちは納得してくださいました。
ワドルドゥ隊長に話を通し、昼からワドルディたちを数えます。
順調に数えて行きましたが、兵士の詰所では本日休みであるワドルディたちが休憩していました。隊長がざっと数えて「たくさんです!」と報告されます。それでは数えられないので、わたくしがざっと数えます。
「閣下、中にはおよそ五十人以上いました。なので、五十を足しておきます」
「細かく数えんでいいでゲスか?」
「時間が迫っておりますので、多少は仕方ないかと。これ以上は夕飯に間に合わないかもしれませんから」
「ほんじゃ、仕方ないでゲスな」
ワドルディの数は膨大でしたが、一応は数え終えました。ちょうど夕飯時でしたので、集計はわたくしがしておくことになりました。閣下と陛下はお食事の時間です。
食事はちょうど良く、アーニャとランタンが準備してくれていました。二人には感謝しきれません。
「ありがとうございます。アーニャ、ランタン。もう食事の準備はバッチリですね」
「これぐらいはどうってことありません。どうぞ、お任せください」
言葉は丁寧ですが、ランタンはこっそりウインクを返してくれました。アーニャもにこにこしています。私たちはこっそり笑い合いました。
陛下たちが食べているテーブルの一部をお借りして、集計を始めます。正の字はわたくしが書いたため、集計は簡単でした。
部屋の中にいたワドルディが十人、外にいた一人を足して十一人。つまり、正の字は一つで五十五人のワドルディを意味します。
電卓を打ちつつ計算すると、一枚の紙の両面で五百ほど数えられました。この紙は方眼紙で、一つのマス目に正の字を記入しています。それが二十枚……。
わたくしは途方にくれました。そんなに多くいたとは思わなかったのです。
陛下が食後のアイスに舌鼓を打ちつつ、手を止めたわたくしに声をかけました。
「終わったかゾイ?ならば、はよう結果を言うゾイ」
「かしこまりました。では、報告させていただきます。結果は一万人以上です」
「一万……!?」
陛下は顎を外し、閣下は椅子から滑り落ちました。
聞いていたアーニャとランタンも手を止めて聞き入っています。
「アーニャ、ランタン。体を動かしましょう」
「失礼いたしました」
「失礼いたしました。メイド長」
二人は陛下と閣下の傍に、それぞれアイスを飾る材料が置かれます。カットされた果物や、カラフルなアザラン、小粒のチョコ、シュークリームなどです。
陛下たちはそれらに一瞬心を奪われて――頭を振ります!そんな場合ではない、と。
「なんで、そんなに兵士がおるゾイ!と言うことはゾイ……食費も給料も維持費もめちゃくちゃ掛かってるゾイ!?」
「その通りでゲスな」
たしか、ワドルディたちに給金が支払われたことはないはずです。しかし、食費を含めた生活費が諸々かかってるのは事実なので、何も言いませんでした。
陛下は立ち上がります。
「こうなれば、ワドルディたちをリストラゾイ!」
「はぁー!?掃除やら城の見張りとか、どうするでゲスか!?」
「お前たちがおるゾイ。デハハハハハ」
「それはいけませんわ。陛下」
わたくしは思わず、陛下を止めました。
「この広いお城を、わたくしたちだけでカバーするのは無理でございます。毎日働いても、今のように――ワドルディたちが居て働いてくれるようにはいきませんわ」
「では、助っ人を呼ぶゾイ」
「助っ人、でございますか?」
「明日を楽しみにしているゾイ!」
そう言って陛下は酷く楽しそうに笑われました。
夕食の後、厨房でわたくしたち三人はおしゃべりします。そこに上司と部下の関係はなく、気楽に友人と話す時間が流れていました。
「ねえ、リーノ。陛下が言っていた助っ人って誰のことかしら」
「さあ……陛下の交友関係はほとんど把握していますが、一体誰のことか検討がつきません」
「リーノでもわからないなら、城や村の人ではないことになりますね」
わたくしたち三人は首を傾げて考えましたが、答えは出ませんでした。
次の日の早朝。朝食後に陛下に呼び出されて、玉座の間へとお供しました。
陛下はすぐに、デリバリーサービスを起動します。天井近い壁が開き、巨大なモニターが出てきました。そしてカスタマーサービスの姿が映し出されます。
わたくしはできるだけ、陛下の影に隠れました。
「カスタマーサービス!ワシの身の回りを世話する魔獣を寄越すゾイ」
『身の回り……フム……では、こちらなどいかがでしょう!』
バリバリと低い振動音が鳴って、機械が動きます。次の瞬間には、正方形の体に足がキャタピラのロボが機械の上にいました。
『ホームヘルパーロボです!』
「おお!」
「なんと!」
「あら、まあ」
なんていかにもロボっぽい見た目をしているのでしょうか。あえて無害に見える作りが、なんとも怪しく思えました。
ロボはすぐに動き出します。天井を向くの面からほうきを取り出し、あっという間に廊下へ走り出します。
わたくしたちは慌ててその後を追いますが、ロボの後ろ姿は遥か彼方へ。なので、ベランダに出て、外の様子を見てみます。
ロボはこの一瞬で一階に降りていました。そして庭で働くワドルディたちの仕事を、代わりにこなして行きます。
洗濯中ならば、洗濯物を持ち上げロボの体の中で洗います。
掃除中ならほうきを持って掃除します。
短時間で二つの仕事を同時にこなすロボは、まさしく優秀なのでしょう。
ですが……。
ちらりと廊下の方を、わたくしは見ました。廊下の端、埃が少々残っています。ワドルディなら綺麗に掃き取りますわ。陛下にそのことを言おうとしました。
「陛下、あの……」
「これならワドルディはもういらん!全員、リストラするゾイ!」
「そんな、お止めください!ワドルディたちはよく働いております!現に――」
「黙らっしゃい!これは決定事項だゾイ!」
「すぐにワドルドゥ隊長を呼ぶでゲス!」
そうしてワドルドゥ隊長と、ワドルディたちはお城から出ていきました。
わたくしは悲しい気持ちになりながら、彼らの力になれなかったことを悔やみました。
最後に、ワドルドゥ隊長に声をかけます。
「なんとかして、皆様が城に戻れるよう動いてみます。どうか、それまでお元気で」
「ありがとう。だが、無理はするな。……達者でな」
わたくしたちは握手をした後、別れました。
泣いている暇はありません。わたくしはすぐに行動に移ります。
まずはロボの行動観察です。ナイトメア社の製品ですもの。何かが起きても不思議ではありません。
今日の仕事を全てアーニャとランタンに任せて――仕事は陛下の身の回りのお世話です――わたくしはロボを追いかけます。
ロボは午前中は真面目に仕事をしているようでした。しかし、閣下のお部屋の前にたどり着いたとき、違和感がありました。
周りを見てから中に入りました。まるで中に入る姿を見られたくなかったようですわ。
何事もなく、ロボは部屋から出てきました。しかし、出てくるには早すぎました。
わたくしたちとワドルディたちが一緒に掃除しても二十分から三十分はかかるのに、あのロボは五分程度で出てきたのです。
何もかもが怪しすぎました。
「――怪しいな」
「ひう!」
驚きすぎて飛び上がりました。後ろにいたのはメタナイト卿です。わずかに、怒っているようでした。メタナイト卿はわたくしに静かにするよう、ジェスチャーします。
こうしている間にも、ロボは遠くへ行ってしまいました。わたくしは残念でしたが、今起きたことを相談するべきだと考えました。
「メタナイト卿、今のは……」
「うむ。おそらく、エスカルゴン殿のへそくりを盗ったのだろうな」
「悪いことをしていたのですね。それとなく、閣下に伝えましょうか」
「私が言いに行こう。そなたは、皆のところに戻れ」
「かしこまりました」
「もう、危ないことはしないように。するならば、声をかけてくれ」
「追跡も、危ないですか?」
「そうだ。どんなに知った場所でも、敵に勝てないようならば仲間と共に行動するべきだ。わかってくれたか?」
「はい。以後、気をつけます。次はメタナイト卿か、カービィたちを誘います」
「それでいい」
わたくしはメタナイト卿と別れて、陛下の元に戻りました。
わたくしが陛下の下に辿り着くのと同時に、エスカルゴン閣下が息を切らせて陛下のお部屋に飛び込んで来ました。
「陛下ぁ……へそくりが!私のへそくりが無くなっているでゲス!」
「何!?」
陛下はすぐに、ご自身のへそくりが置かれている部屋へ走り出します。
部屋にはへそくりがありませんでした。いつの間に持って行かれたのでしょうか?
「ぐむむむ……かくなる上は!」
「ああ、ちょっと、陛下!」
陛下は飛び出して行きました。閣下がその後ろを追います。わたくしは、アーニャとランタンを部屋の中にいるよう待機させて、二人の後を追いかけました。
曲がり角で一度立ち止まります。こっそり顔を覗かせると、陛下と閣下がヘルパーロボを糾弾するところでした。言葉までは聞き取れませんが、陛下も閣下もかなり怒っている様子です。
その様子をハラハラと見守っていると、メタナイト卿が後ろからやって来ました。
「リーノ、間に合ったか」
「メタナイト卿?どうしてこちらに?」
「陛下たちがヘルパーロボの所へ向かうことは予想できた。そして君がついていくことも」
「……何か危ないことが起きるかもしれないんですね」
「十中八九な……見ろ!」
顔を陛下たちの方に向けます。
なんと、ヘルパーロボが変形して戦えるようになっていました。
ヘルパーロボは片手からミサイルを撃ち始めました。
「きゃあ!」
「こちらに!伏せていろ!」
メタナイト卿に引っ張られて、彼の後ろに庇われます。メタナイト卿の背中を見て安心したからか、わたくしは両手を握りしめました。
「メタナイト卿。もしこちらにミサイルが来たら、特大の氷を放ってミサイルを凍結させますわ」
「できるのか?」
「やります。守りたいのは、わたくしも同じですわ」
メタナイト卿は雰囲気を柔らかくされて言いました。
「無理はするな」
「かしこまりました」
結局、ミサイルは飛んで来ませんでした。
ホームヘルパーロボは、駆けつけたカービィとワドルディたちによって倒されたのです。
陛下のへそくりも無事でした。ワドルディたちが守っていてくれたみたいです。
それを見た陛下は、大声で笑われていました。
「これで、一件落着となればいいのですが」
「それは、君の目で確かめるといい」
「はい、行ってきます。ご一緒にどうですか?」
「申し出は嬉しいが、これから用事がある」
「わかりました。では、行ってきます」
メタナイト卿と別れて、わたくしは陛下たちの下へ走り出しました。