ププビレッジを観光地にしよう!
閣下から手渡された企画書には、そんな題名が書かれています。
人生初めての会議の議題が、こんなに悩ましいものとは考えていませんでした。
午前中。とある部屋で陛下と閣下、ワドルドゥ隊長、そしてわたくしの四人がテーブルを囲みます。
わたくしは片手でこめかみを抑えつつ、手を挙げました。
「リーノ」
「はい。わたくしは村の、この国の観光地化に反対いたします」
「まだ会議は始まっていないのに、何を反対する理由があるでゲスか!?」
「観光客から自然や、重要な文化遺産を守る為ですわ。何より、ここは観光地に向いておりません。どうか、お考え直しください」
「もう決まったことにグダグダ言うでないゾイ!!」
陛下のお言葉に耳を疑いました。
「……つまり、ツアー客が来ることは決定しているんですね?」
「その通り!わかったら、お前も案を出していくゾイ!!」
わたくしは、今回ばかりは深いため息を隠しませんでした。
「お力になれるかわかりませんわ……」
「リーノに期待しているのは、料理についてでゲスよ」
「それと、お、も、て、な、し、ゾイ」
「かしこまりました。会議を中断させてしまいすみません。続けてください」
「うむ」
会議は滞りなく進みました。そして終わった後、アーニャとランタンを呼びました。会議に使った部屋をそのまま利用して、五日後に来るツアー客について知らせます。
二人ともたいへん驚いていました。村の観光化に不安を抱いている様子です。
二人がメモに必要事項を書いている間に、わたくしは観光ツアー回の内容を思い出そうとしました。
確か、結果的に観光地化は上手くいかなかったはずです。そしてその中に、料理が不味いという理由があったはずです。
今は、わたくしたちが料理を担当します。とてもおいしい料理を作る予定です。その点は評価されるかもしれません。
あと、カービィのことも。
どんな理由だったのか忘れてしまいましたけれど、カービィについても評価されていたはずです。
評価する点が二つもあったら、星一つの観光地になったりしませんよね……?
わたくしは頭を振ります。気をとり直して、アーニャたちに意識を向けました。
「知らせる情報は以上ですわ。何か、質問はありますか?」
「はい。好き嫌いとか、アレルギーについてツアーのお客様からご要望はありますか?」
「ありません。ただ、一つ。おいしい物を食べさせてほしいそうです」
「それはそれで、難しい要望だわ」
ランタンがため息と共に言葉にします。
わたくしは苦笑しました。
「わたくしたちの担当は夕食と朝食ですので、ビュッフェ形式で食事をお出ししようかと思います」
「ああ、好きな物を選んで食べていただくのですね。それはいい案かと」
ランタンの慣れない敬語がくすぐったいです。けれど、今は真面目なメイドのための会議中なので、凄く真面目な顔でお話しします。
「ビュッフェにはカービィにも参加してもらいます。そうすれば、残り物は無くなりますから」
「カービィは夕ご飯をたくさん食べられて、私たちは洗い物が楽になる。win-winですね」
「一家に一人、カービィかしら?」
「それだと、毎月の食費がたいへんなことになりますね……」
冗談を挟みつつ、メイドだけの会議も問題なく終わりました。
それから、ツアーに向けて準備が始まりました。
ツアー客が宿泊する区画を大掃除したり、ビュッフェに出す料理の練習をしたりします。練習した料理は、陛下と閣下、ガイドのワドルドゥ隊長にも味見していただきました。お三方から合格をいただき、とても嬉しかったですね。
一応、メタナイト卿を含めた戦士たちにはツアー客が来ることを伝えました。
おそらくこのツアーはナイトメア社が絡んでいると、メタナイト卿は言います。
「利益となる一般人に手を出すとは考えにくい。だが、念のため警戒はしておくように」
「かしこまりました。ツアーそのものには参加しませんので、わたくしたちに危険が及ばないと思いますが、注意します」
「ああ、それでいい」
ツアー客が来ること、フーム様には話せませんでした。
なぜなら、陛下から直接「伝えるなゾイ!」とはっきり命令されているためです。これが「言うな!」だったら、手紙でも書いて報告したのですが、それも叶いません。
きっと邪魔をされたくないのでしょう。陛下の命令には逆らえません。
わたくしはフーム様に質問されても何も言えませんでした。ただ曖昧に、笑みで誤魔化すばかりです。
その度に、頬を膨らませるフーム様のお可愛らしいこと!
わたくしがにこりと笑ってしまうので、フーム様を余計に怒らせてしまうのでした。
ツアー客が来た日。
彼らは夕方に、お城に到着しました。お客様はキャピィ族に姿がそっくりです。ですが肌の色が違います。
彼らはメイドが珍しかったのか、何枚もわたくしたち三人の写真を撮ります。手を止めていては仕事になりませんので、体を動かしつつ対応します。
お客様の荷物はワドルディたちに運んでもらい、わたくしたちメイドは陛下の手足となり動きます。
お客様を招いて開く夕食会は久しぶりです。賑やかな食堂の外、廊下ですれ違ったときにワドルドゥ隊長が教えてくれました。
「リーノたちが作った料理の評判がとてもいい。みんな大満足している」
「まあ、嬉しいです。教えてくださってありがとうございます」
わたくしは隙間を見つけて、アーニャとランタンにも教えてもらったことを伝えました。
二人とも嬉しそうに頬を緩めて、配膳に精を出しました。
夕食会は、大成功でした。
料理のほとんどを食べてもらえました。最後には「おいしかった。また食べたい」とワドルドゥ隊長を通して、お話ししたほどです。
とても嬉しかったです。さらに料理の腕について自信がつきました。
お客様たちをそれぞれの部屋にご案内をして、後はワドルディたちに任せます。
わたくしたちメイドの仕事は、今日はおしまいです。
一日の終わりに日記を書いていると、ノック音が聞こえてきました。
「はい、どなたでしょうか?」
「私だ。メタナイトだ」
「すぐ開けますわ」
ドアを開けると、メタナイト卿がするりとドアの隙間から入られました。
わたくしが問いかける前に、メタナイト卿はお話しされました。
「夜遅くにすまない。今晩は泊まってもいいか?」
「かまいませんわ。でも、明日も早朝から仕事なので……」
「わかっている。無理をさせる気はない。今日は、そなたの傍にいたいだけだ」
「ありがとうございます。では、今日はベッドとソファに別れて寝ましょうか」
部屋唯一のソファを動かして、ベッドにくっつけます。そして、わたくしたちは手を取り合って眠るのでした。
メイドの部屋に泊まったのはメタナイト卿だけではありませんでした。
翌日、早朝の厨房にて。
昨日のうちに作り置きしておいたサンドイッチを電子レンジで温めながら、アーニャ、ランタンと話します。
「では、ソードナイトさんとブレイドナイトさんも、メタナイト卿と同じようにお泊まりされたんですね」
「みたいね。一緒に眠れたのは嬉しかったけれど、どうしたのかしら」
ランタンと首を傾げていると、アーニャが答えてくれました。
「念のためだと、ブレイドナイトさんは言っていましたよ」
「念のため?」
「城の中で迷ったツアー客が、私たちの部屋を訪ねるかもしれないから、そのとき対応するのは男の方がいいだろう……と」
「つまり、私たちのことを気にかけてくれたのね。三人とも優しい!」
「ありがたいですね。大切にされていると実感できます。改めてお礼が言いたいですわ」
わたくしはメタナイト卿を抱きしめたくなりました。それは後でさせてもらいましょう。
今は、ツアー客の朝食となるビュッフェ作りが優先です。
電子レンジが鳴りました。
「さあ、ご飯を食べたらすぐに朝食作りに励みましょう!」
アーニャとランタンは元気よく返事をしてくれました。
朝食後、ツアー客を送り出しました。
火山に向かった彼らを待ち受けていたのは、花火と魔獣でした。
ツアー客やその場にいた人たちに怪我はなかったと聞いて、わたくしは安堵しました。
そして、ププビレッジが観光地になるかどうか、その結果を知らされる朝。
わたくしは仕事を抜けて子供たちと合流します。フーム様、ブン様、カービィと一緒に、玉座の間の扉から中を覗きました。
カスタマーサービスの声が聞こえてきて、心臓が痛いほど速くなります。でも、村の未来がかかっているので、最後まで聞きました。
結果、食事は良かったけれど他はあんまり。観光地化には向いていません、とのことです。
わたくしは扉をそっと閉めました。
そして向かいのベランダに出て、子供たちと喜び合うのでした。