「今週の悪巧みが決まったゾイ!!」
「はあ……」
陛下には申し訳ありませんが、気の抜けた返事しかできませんわ。だって、わたくしに悪巧みの話をしたら怒るに決まっているじゃありませんか。後ろでエスカルゴン閣下が慌てています。
わたくしは困った顔で陛下を見上げました。
「陛下、悪巧みをするなら怒りますわ。よろしいですか?」
「はっ!ダメゾイ!ワ、ワシはこれから村のために働く場所を増やすし外貨を得るから怒っちゃダメゾイ!」
「それだけ聞くといいことのように思えます。ですが、悪いこともするんですよね?魔獣を呼ぶのですか?」
「その予定はないでゲス」
「うーん……」
魔獣をダウンロードしないのであれば、被害はきっと少ないでしょう。いつも怒ってばかりでは陛下たちのガス抜きになりません。わたくしはいくつかの条件を出して、それを約束してもらうことにしました。
「陛下、閣下。特定の誰かをいじめないこと、みんなに迷惑をかけないこと。今回は魔獣をよばないこと。約束できますか?」
陛下と閣下はにかっと笑います。
「するする!するゾイ!」
「任せるでゲスよ、リーノ」
「でしたら、わたくしからは何も申し上げません。むしろ、村のためならば協力させていただきます」
「ホホーイ!リーノの協力があれば楽勝だゾイ!」
「すぐにアニメーター募集の看板を出すでゲス!」
アニメーター?
早鐘打つ鼓動を耳元で感じながら、わたくしは陛下に聞きました。
「どんな、アニメを作りますの?誰にも言いませんから、教えてくださいませ」
「星のデデデという陛下が正義のヒーローアニメでゲス!」
「リーノ!お前は食事を作れ!それで人民どもがじゃんじゃん来るゾイ!!」
「かしこまりました。わたくしどもは……いえ、今回はわたくしだけが協力させていただきます」
お二方が頭を傾げました。
「アーニャとランタンはどうするでゲスか?」
「久しぶりに長めの休暇をあげようかと思いまして。張り詰めすぎるのもよくありませんから」
星のデデデ。
あの伝説のアニメ回がやってくるのですから、見過ごせません。独り占めするようで申し訳ありませんが、集中するために今回は一人で行動させていただきますわ。
村でアニメーター募集の看板が出され、その日の昼にはアニメーターとなる村人たちが雇われました。
陛下と閣下ではなく、フーム様主導で会議は進み、アニメ作りが始まります。
フーム様のお仕事は多岐に渡りました。作画監督、閣下のアシスタント、ストーリーを明日までに考えて、編集もフーム様がされるとか。
決してお一人で全てを行うわけではありません。村人たちが手伝ってくれますわ。しかし、責任ある立場というのはそれだけで疲れるものです。わたくしはみんなの食事を作るとき以外は、フーム様のお手伝いをさせていただきました。
絵は、その、あまり力になれませんので、雑事を任せていただきました。
朝、昼、夜と三食をワドルディたちと共に作ります。
たまに同じ歳くらいの男性に食事に誘われます。けれど、フーム様と打ち合わせをしながら食べないと、次の仕事に間に合いません。なので、全てお断りさせていただきました。
その話をメタナイト卿にすると「どんな顔か、覚えているか?」と質問されますので「わからない」と答えています。
実際に覚えていませんから、間違いではありません。
パタパタとあちこち早歩きで移動しているとき、キャラクターデザインをふと見ることができました。
そこに、なんと、嬉しいことにわたくしの絵と思わしきキャラクターがいたのです。
思わず足を止めて見入りましたわ。
そうしていると、わたくしに気づいたフーム様が和やかな雰囲気で声をかけてくださいました。
「ああ、それはリーノよ。よく描けているでしょ?」
「はい、はい……そっくりですわ。あの、後でこちらの絵を頂けませんか?部屋に飾りたいのです」
「え、どうかしら?アニメが終わったらいいんじゃないかしら?」
照れているフーム様を可愛らしいと思いつつ、その横顔を眺めます。
そして、さらに気付きました。
「お待ちください。もしかして、わたくしもアニメに……」
「出るわよ?決まっているじゃない!」
や、やっぱりなのですね!!!
人生初めてとなるアフレコを喜んだり、緊張したりと忙しく感情を巡らせます。
その日は頭の中がアフレコの件でいっぱいで、小さなミスを何度もしてしまいましたわ。
その日の午後。
陛下がアニメスタジオで働く全員を会議室に呼びました。
進捗は遅れています。なのに、陛下は放送を二日後と通告されます。みんなで抗議いたしましたが、効果ありませんでした。
フーム様と共に急いで作業に戻り、休みなく働きます。みんな寝不足で酷いクマができています。
そして、アニメ放送日を迎えました。
台本を手渡されて、アフレコする部屋に入ります。ああ、録音スタジオというのですね。
みなさんと放送開始時間を待っていると、陛下が部屋に飛び込まれます。
「間に合わん!ぶっつけ本番で声を入れるゾイ!!」
「ええ……」
アニメ回がはちゃめちゃだったことは覚えていますが、ここまでだったでしょうか?……アニメカービィなら、あり得ますわ。
緊張していると、誰かが肩に手を乗せました。
驚いて振り向きます。
「リーノ」
「メタナイト卿」
「深呼吸するのだ」
「はい。すー……はー……」
「体の強張りは楽になったか?」
「はい。ずいぶん、ほぐれたと思います」
「うむ。ここにいるのはみな、初めてのものばかりだ。そなただけではない。だから、あまり緊張するな」
「ありがとうございます。メタナイト卿。そうですわね、今は楽しむ気持ちとやり遂げる気持ちを抱いて、精一杯頑張りますわ」
「うむ。ではな」
「はい、また……」
「いちゃつくでないゾーイ!!!」
「始まるから自分の立ち位置に行くでゲスよ!!!しっしっ!!!」
陛下と閣下の割り込みで強制的に離されたわたくしたちは、決められた立ち位置に向かいます。わたくしは陛下と閣下の隣で、メタナイト卿は一番奥の端に立ちます。
オープニング、CM、Aロール、Bロールが順番に運ばれてきます。……出来立てですわね!?
ハラハラ、ドキドキすることが楽しくて仕方ありません。手に汗握ります。アドレナリンが出ますわね!!!!
アニメが始まりました。
小さな星形の宇宙船に乗った、赤ん坊のような陛下が映し出されます。
あまり可愛くは描かれておりませんわ。
「デハハハハハ!ワシ、ゾイ!」
「シー!声が放送されているでゲス!」
閣下は陛下に注意しました。それだけかと思いきや、アニメのクオリティについて話を始められました。
「それにしても、キャラの線がガタガタしているでゲスな」
「絵が下手なのはキャラデザのせいだゾイ」
「作画監督も酷かったからでゲスからな」
「お二方とも、おやめください。フーム様は与えられた仕事を一生懸命に真っ当されていましたわ」
はっきりそう言うと、二人はそっぽを向かれました。そのように無視されるのであれば、こちらにも考えがありますわ。
わたくしは怒りを押し隠して微笑みました。
今話のタイトルは「ふとった訪問者」です。今しがた知ったフーム様が驚いておられます。
大臣ご家族が羊の声真似をされます。とてもお上手ですわ。
目の前の大きなスクリーンに映し出されていた羊たちが、みんな吸い込まれます。
カービィの仕業です。本物よりも巨大に描かれたカービィが羊たちを吸い込んでいるようです。
カービィは自分の登場に喜び、ぴょんぴょんと跳ねながら声をあげます。
「酷いわ!魔獣がカービィになってる!」
「デデデの奴、全部作り直したんだ!」
「エヘヘヘヘ!正義の味方はあくまでも陛下でゲスよ」
「まてえ、ピンクの悪魔カービィめ」
「ぽーよう」
放送しているアニメのシーンと、今わたくしたちが話している内容が見事にマッチしています。違和感が仕事をしておりませんわ。奇跡的ですわ。
「カービィ、こんな仕事やめましょ。あなた悪人にされているのよ!」
「アホなカービィにはわからんゾイ」
「陛下!カービィは赤ちゃんなのです。わからないのは当然ですわ」
つい声を荒げてしまいました。ちょうどわたくしがアフレコする場面でしたから、助かりましたわ。
いただいた台本には陛下を誉める言葉が書かれております。……なぜ、このシーンで陛下を誉める言葉が?後で台本をしっかり読んだ方が良さそうですわね。
そしてアニメは戦闘シーンに入ります。
なのに、なぜか会話シーンがふんだんに盛り込まれています。今戦っているんですよね??
パーム様とシナリオを考えたフーム様が怒りました。
「何よ、こんなくだらないセリフに書き替えて……リーノ、あなた知ってた?」
「まったく知りませんでした。焦ったいですわね……」
「戦いの最中にこんな話ダラダラして酷えシナリオだぜ」
アニメの中のカービィは城を破壊し、大臣一家を追い回し、村長さんとボルンさんを倒しちゃいます。
そしてまた、陛下と閣下の会話シーンが始まりました。
大臣一家がまとまり、話し始めました。絵を動かさないアニメは安く作れるとのこと。
わたくしは恥ずかしいような、そんな気持ちになっていたたまれなくなりました。目を覆い隠します。
「リーノ、次!出番でゲスよ」
「は、はい」
「ポーヨ!!」
「危ない、陛下!吸い込んで……吸い込んで!?」
わたくし、フーム様の役をしていますわ!??
驚いて、フーム様と顔を見合わせました。そしてフーム様は陛下たちの方に鋭い視線を投げます。
アニメの中のカービィが炎を吐いて、陛下がそれを吸い込みました。
きますわ!ファンの方は備えて!!
「やった!あれぞファイヤーデデデ……締まらないな、これでは」
今日一番聞きたかった声を聞けて満足ですわ。小さくガッツポーズをいたしました。
アニメは色がない、白黒の世界へと変化します。
陛下も閣下も困惑されましたが、すぐに立て直します。
アドリブは素人であるわたくしにはできませんわ。幸い、わたくしの出番は次を除けば最後までない様子。
「来て、ワープスター!」
「ワープスター」
カワサキがとっても上手に声をあてました。わたくしは後ろに下がります。
陛下のセリフをカービィが言ったり、良い作画に見惚れて陛下がアドリブを忘れたりします。
そして、作画は完全な崩壊を迎えました。
カービィが描いた絵が映し出されたのです。もう何が描かれているのか全くわかりません。わたくしも驚いて、目がギョッと開いちゃいました。
おそらく、カービィと思われる大小の丸が何枚も描かれています。
そんな一頭身の世界に、二頭身の誰かが現れました。フーム様に似ているような気がしますが、髪型が違いますね。どなたでしょうか?
「ぽよ、リーノぽよ!」
「わ、わたくし?」
どうやらカービィはわたくしを描いてくださったみたいです。後ろで感激していると、カービィが私の手を引きました。
マイクの前に立って、何度も跳ねてはわたくしの名前を連呼します。
放送中ということも忘れて、わたくしはカービィを抱きしめました。
「ああ、カービィ。たくさんわたくしを描いてくださったんですね。どうもありがとう。お礼に今度お菓子を差し上げますからね」
「ぽよぽーよ」
アニメはめちゃくちゃ、酷い状態でおわりました。
仕事が終わった村人たちはその場で眠り始めました。わたくしも眠たかったので、一度自室に引き上げることにしました。
そのときメタナイト卿に送っていただきました。わたくしがベッドに潜る姿を見届けてから、メタナイト卿は部屋から出ていかれました。鍵は、合鍵を使っていただきました。今度返す、と言われましたがそのまま持っていてもらうことにしました。
夕方には起きることができました。
なので、厨房に向かいお菓子を作り始めます。明日からは、アーニャとランタンが帰って来るので、ちょっとだけ忙しいのです。だから今のうちにカービィに贈るお菓子を作ります。
お菓子を作っていると、閣下が入って来ました。
「おや?もう夕食を作り終えたでゲスか?」
「は?いえ、カービィに贈るお菓子を作っておりました」
「夕飯は?」
「今日は作りませんわ。カワサキの店へ行ってください」
「はあー!??」
「ツーアウトです。カービィをいじめたこと、村人に迷惑をかけたこと。怒ってますので今日の夕食は作りません」
「そ、そんな〜……とほほ」
こんな風に怒りを見せていますが、台本をいただけたこと、この世界で星のデデデに出演できたこと、すごく嬉しかったんです。台本は、わたくしの宝物の一つになりました。
なので、明日のご飯は豪華にしようとこっそり考えています。