【完結】転生者がカービィ世界で生き抜く話   作:紅絹の木

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貯金箱

 

 ある日の朝。

 陛下がアーニャとランタンに人形をくださった。

 その人形は陛下そっくりでした。目がキリリとしていて、抱き締めるにはちょうど良い大きさだったので、少し欲しかったですわ。

 しかし、もう数がないらしいので、我慢します。

 

「それを枕元に置いておくと、いいことがあるゾイ!デハハハハハ!!」

「かしこまりました」

「枕元に置きます」

 

 わたくしたち三人は、早めの朝食を食べられる陛下と閣下に頭を下げます。

 陛下たちはテレビスタジオへ向かわれ、食堂に残ったわたくしたちは空になった食器を片付けます。

 かちゃりと鳴る音に混じって、メイドたちはおしゃべりを始めます。

 

「あの人形、枕元に置かなくちゃダメでしょうか?なんというか、あの人形の目つきが怖いのです」

 

 アーニャが困った顔で、わたくしに問いかけました。

 わたくしは落ち着かせるように、彼女の肩に手を置きます。

 

「夜、眠るときだけはクローゼットの中に入れたらどうでしょうか?部屋にいない日中は枕元に置いておけば、陛下のご命令通りになります」

 

 話を聞いていたランタンも含めて、二人は顔を輝かせました。

 あの人形、あまり好きではないのでしょうか?可愛いと思うのですが。

 

 

 

 その日の昼過ぎ。

 アーニャとランタンを連れて、お城の買い出しをします。手分けしてお店を周り、大量に注文しました。

 費用のほとんどがワドルディたちの食費です。こういうとき、改めて兵士の数の多さを実感しますわ。

 

 お昼は、コックカワサキのお店に寄って自分達でご飯を作ります。自分達とカワサキの分よりも多く作ることは、疲れていてできませんでした。なので、わたくしたちがいる間だけ、お店を閉めてもらいました。

 カワサキはおいしいご飯が食べられること、そしてちょうど人が来ない時間帯だったため、快くキッチンを貸してくれました。

 

 今日のお昼は肉うどんです。余っていたお肉をいただいて、甘辛く仕上げます。

 カワサキはニコニコと笑顔で、うどんをすすります。

 

「この味、たまんないね!毎日食べたいくらいさ。メタナイト卿が羨ましいよ」

「メタナイト卿も、毎日は食べておりませんわ」

「そうなのかい?まあ、リーノも忙しいもんね。それにしてもおいしい!」

「ありがとうございます。プロであるカワサキさんに教えてもらったおかげです」

「そう褒めないでよ。照れちゃうよ〜」

 

 ご機嫌で食事をしていたカワサキが、ふと真面目な顔をして質問されました。

 

「そういえば、リーノたちに聞きたいことがあるんだ」

「なんでしょうか?」

 

 三人分の視線を受けて、カワサキは話をします。

 

 朝、配られたデデデ人形のこと。

 とりあえず枕元に置いておくように言われたこと。人形が幸福を運んでくること。

 

「信じてもいいのかな〜?」

「まあ、朝のニュースでそんなことを言っていたんですね。真実かどうかは、試してみないとわかりません」

「そうだよね。とりあえず置いてみようかな」

 

 残りのうどんもすすります。カワサキは余ったお肉でどんぶりを作っていました。残さず食べていただけて、とても嬉しかったですわ。

 

 

 

 その日の夜。わたくしたちと三戦士たちだけの食事会を開きました。

 今回はミネストローネと、村特産の羊肉のステーキです。

 

 食事会の話題は、村中に配られたデデデ人形のことで持ちきりでした。

 じっと静かに、わたくしたちのお喋りを聞いている戦士たちは、何か考え込んでいるようです。

 ランタンが隣に座るソードナイトさんを覗き込みます。

 

「どうかしたの?ソード。いつもより無口ね」

「考え事をしていたんだ。陛下が無償で人形を配る理由はなんだろう、と……」

 

 ソードナイトさんの言葉を聞いて、ブレイドナイトさんがアーニャに問いかけます。

 

「人形についてもう少し教えてくれないか?」

「はい、いいですよ。陛下そっくりのお人形で、このくらいの大きさで、あとは、そう!貯金箱になっています」

「……村人にお金を貯めさせるのが目的か?」

 

 その言葉にメタナイト卿が頷きました。

 

「おそらく。そして、銀行を立てて金を集めるつもりだろう」

 

 アーニャとランタンが「銀行?」と首を傾げます。村には銀行がありませんから、知らないのは無理もありません。

 わたくしは知識として、なんとなく知っているだけです。

 なので、銀行について簡単に説明してくださるメタナイト卿の言葉に耳を傾けました。

 

 話は進み、わたくしだけが人形をいただいていないことを伝えます。

 

「わたくしも欲しかったです。残念です」

「リーノ。陛下たちは、数を用意できなかったのではなく、そなたには渡せなかったのではないか?」

「それは、なぜでしょうか?」

「何か、良くないことが起きる気がする」

 

 それっきり、メタナイト卿は黙り込んでしまいました。

 もし本当に、メタナイト卿が言った通りに良くないことが起きるなら、わたくしはまた陛下と閣下に対して怒ります。

 悪いことは事前に止められればいいのでしょう。ですが証拠もなしに、陛下に「悪いことはお止めください」とは言いにくいです。

 

 

 

 食事会の次の日。

 洗濯物を干していると、フーム様に出会いました。村から帰って来たところのようでした。

 

「手伝うわ」

「そんな、申し訳ないですわ」

「いいのよ。少し、リーノと話がしたかったし」

 

 フーム様はわたくしが持っているシーツを半分持ちました。そして息を合わせて、シーツを物干竿にかけます。

 竿にかかったシーツの位置を調整して、洗濯バサミでとめます。

 それを十回すると、ニ回目の洗濯物は全て干し終わりました。

 

 ワドルディたちが洗濯物を入れていた桶を持って、洗濯場に帰って行きます。その後を追いかけるように、フーム様と並んで歩きます。

 日々大人びていくフーム様の横顔を、心のアルバムに記録しつつ、わたくしは問いかけました。

 

「お話とはなんでしょうか?」

「今朝ね、変なことがあったの」

「変なこと、ですか?」

「うん。家族みんなで、デデデはすごいって話をしたのよ」

「それは、珍しいというか……なんと言いますか……」

「こんなことありえないわ!村でも同じことが起きたらしいの。みんなで、デデデはえらいって話をしたって」

「まあ、それは……それは……」

 

 わたくしは言葉を紡げませんでした。

 陛下の部下として、その先の言葉を発してはいけないと思ったのです。

 フーム様はわたくしの目を覗き込みました。

 

「リーノ、この不可解なことについて何か、心当たりはない?例えば魔獣とか」

「ありませんわ。変わったことといえば、あのデデデ人形が配られたことしか知らないのです」

「そう……デデデ人形、今回の件と関係があるのかしら」

「……聞いてみましょうか」

 

 わたくしは、陛下に質問しても誤魔化されると思いました。

 ですが、嫌な予感がしたのです。大事が起きる前に確かめておきたいと思いました。

 

 

 

 フーム様と別れてすぐ、わたくしは陛下を訪ねました。

 陛下は部屋のお花に水やりをしていました。それも鼻歌を歌っています。

 

「陛下、ご機嫌麗しゅう」

「挨拶はいいゾイ。なんゾイ」

 

 陛下はこちらを振り返らず、お花に注目しています。

 

「デデデ人形のことで、相談に参りました」

 

 わたくしがそう言うと、陛下は演技がかった調子で言いました。

 

「あれは良い物ゾイ!幸福を呼ぶ縁起物、だから配った。お前の分を用意できなかったからといって、文句言うなゾイ」

「いえ、そうではありません」

「じゃあなんの用ゾイ?」

「あれは安全ですか?陛下にとって」

「は?」

 

 陛下はやっとこちらを向いてくださいました。

 意味がわからない、そんな顔をされています。

 わたくしは胸の前で両手を握り、考えたことを述べました。

 

「陛下の人形が配られてから、みんなが陛下を誉めるようになったそうです。つまり、それは陛下の望みを人形が叶えたのではないですか?」

「デハハハハハ!それは違うゾイ!ワシが……おっと」

 

 陛下は何か言いかけて、止められました。

 そのお顔は自信に満ちていますが、反対にわたくしは心配でした。

 

「そうなのですね。陛下が何かなさって、それが人形を通して村のみんなに伝わったんですね」

 

 どうやら言い当てたようで、陛下が挙動不審になりました。何か、言い訳を考えるように唸り、あたふたと部屋の中を見回します。

 

「陛下。わたくしはこう考えています。陛下の望みを叶えるあの人形は、陛下に悪いことも一緒にもたらすのではないか、と。そんな嫌な予感がしてならないのです。人形について、いかほど調べられましたか?」

「な、何も……」

「では、あの人形を作った会社はよほど信頼がおける会社なのですね?」

「…………」

「違うのでしたら、もう少しあの人形を調べてみませんか?もしかしたら、陛下とって悪いものかもしれません」

「う、うるさいゾイ!調べたくても、人形が手元にないんじゃ調べられんゾイ!」

 

「メイド長、言われたとおり持って来ました」

「ありがとう、アーニャ」

 

 仕事中なので、わたくしはアーニャたちからメイド長と呼ばれます。まだ慣れませんね。少しくすぐったいです。

 わたくしはアーニャからデデデ人形を受け取りました。

 陛下は青ざめたお顔で、仰います。

 

「何をする気だゾイ」

「実験ですわ」

 

 わたくしは人形を空中に放り投げました。

 するとどうでしょう。

 

 陛下も遅れて空中に浮かび上がり、床に激突しました。

 

 ドスン!!

「ぎゃあ!!」

 

 とても痛そうです。

 わたくしは人形を無事受け止めたのですが、それは陛下に反映されなかったようです。

 アーニャは驚いて声も出ない様子でした。

 わたくしも驚きましたが、それ以上に悪い予感が当たってしまったことが気になりました。

 努めて冷静に、陛下に申し上げます。

 

「陛下、この人形はおかしいです。すぐに製造元に確認を……」

「い、言われんでも!」

 

 陛下はわたくしたちの横を走り抜け、どこかへ向かわれました。

 ところが、五メートル先まで行ったところで、こちらに戻ってきました。

 

「よこすゾイ」

 

 そう言って、わたくしからデデデ人形を掴み取り、また走り出しました。

 

 

 その背を見送り、陛下のお姿が見えなくなった頃に、わたくしはアーニャに謝りました。

 

「ごめんなさい。やっぱりあの人形、陛下に持っていかれちゃいました」

「気にしないでください。あの人形、貰ってからずっとクローゼットに閉まってあったんです。置き場所に困っていたので、引き取ってくださって助かるぐらいです」

 

 アーニャが困っていないことが、今は救いでした。

 

 

 

 その日のうちに、陛下と閣下はデデデ人形を全て回収されました。

 人形は城の地下深くに保管されるそうです。

 夕方、お二人はヘトヘトになって帰城されたので、わたくしはうんとおいしい夕食を用意させていただきました。

 

 

 

 

 

 夜。わたくしの自室にて。

 ベランダにソファを出して、メタナイト卿と二人で星空を眺めます。

 

 わたくしは右側を、メタナイト卿は左側をお互いにくっつけていました。腕から体温が伝わります。それがわたくしをたいへん幸せにしてくれました。

 わたくしたちは、今日あったことを話し合っていました。話題は必然と、デデデ人形を回収した件になります。

 

「結局、あの人形は陛下とシンクロしていたのか」

「そのようです。人形は陛下の声を村人たちに届けたり、陛下の思い通りに動きます。そのかわり、人形が受けた衝撃や痛みは陛下に伝わる……。人形を空中に放り投げて、陛下が飛んだときはとても驚きました」

「であろうな」

「メタナイト卿」

「なんだ?」

 

 優しい声色が、そっと続きを促してくれます。それが心地よくて、もっと聞きたくなるのです。

 わたくしはうっとりとしたようで、それでも拭えない心配を口にしました。

 

「これでよかったのでしょうか?」

「どういうことだ?」

「今回はたまたま問題を早期発見できて、被害が出ないうちに解決できました」

「うむ」

「ナイトメア社が関わっていたのに、怪我人が出ませんでした。そして、カービィは戦いませんでした」

 

 言いたいことが伝わったのでしょう。メタナイト卿は静かに聞いてくれます。

 

「もし、悪い予感を無視していたら?陛下の部屋を訪ねないでいたら?きっと陛下は人形を通してカービィと戦っていたと思うんです。もしかしたら、わたくしはカービィの成長するチャンスを奪ってしまったのでは……」

「そこまでだ」

 

 まるで花に声をかけるように、メタナイト卿は声を発しました。いつ間にか俯いていたわたくしの顔は、メタナイト卿の方を向きます。

 彼も、メタナイト卿もわたくしを見ていました。

 なんて綺麗な黄金の瞳でしょうか。

 

「リーノ。そなたは陛下が危ない目に合う瞬間を、黙って見ていられるのか?」

「できません」

「ならば、戦いを未然に防げたことを喜ぼうではないか。陛下とカービィが戦って、勝つのはカービィだからな」

「そうですね。陛下は痛い思いをしなくて済んだのだと、そう思います」

 

 軽い調子で仰るのがなんだかおかしくて、笑みがこぼれました。

 メタナイト卿の手がわたくしの頬に触れました。

 

「やっと、笑ってくれたな」

 

 壊れ物を扱うように、愛おしく頬を撫ぜるその手に、わたくしの手を重ねます。

 熱が集まる顔に夜風が当たって気持ちいいですね。

 

「?ずっと笑っていませんでしたか?」

「ああ、心から笑えていないようすだった。だから、気になっていた」

「ご心配おかけしました」

「いいんだ。心配するのも、恋人の特権だろう?」

 

 仮面がずらされたのを見て、わたくしは目を細めました。

 

「メタナイト卿」

「なんだ?」

「月が、綺麗ですわね」

「ああ、綺麗だ」

 

 メタナイト卿は、わたくしの瞳を覗き込みながら言いました。

 

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