「リーノ、これ知ってる?」
昼ごろ、城の廊下で掃除をしているときにブン様と会いました。
作業の手を止めて、手渡された何かを受け取ります。
手のひらサイズのフィギュアです。
「これは、兵士でしょうか?」
「そう!チョコカプセルの銀河戦士団シリーズの兵士なんだ!今、超流行っているんだぜ!!」
「それは楽しそうですね。お友達と集めるともっと楽しめそうです」
「そうなんだ!それ、リーノに一個やるよ」
「いいのですか?大切なものでは?」
「いいんだ。俺なんかもう六十個近く持ってるからさ」
「そんなにたくさん……すごいですわ。では、ありがたく受け取らせていただきます。ありがとうございます。ブン様」
「にひひ、リーノも一緒に集めようぜ!じゃあな」
手を降り、去っていくブン様の背中を見ます。
わたくしは手のひらの兵士を大切にハンカチで包みます。それをポケットに入れて掃除に戻りました。
頭の中はチョコカプセルのことでいっぱいです。
ついに、チョコエッグならぬチョコカプセル回が来ましたわ!!
銀河戦士団箱推しのわたくし、お財布が火を噴きましてよ!!!!!
ついに!ついに来たのですわ!!
今日、コンビニに行っても売り切れてしまう可能性があります。
明日の朝、城への手紙がないか郵便局へ行くついでに、コンビニに寄りましょう。
その日の夜、アーニャとランタンを自室に招きました。
お茶を飲みつつ、三戦士たちに渡すお弁当について話し合いました。
ランタンがボールペンをくるりと回しながら言います。ペン回し、わたくしできないんですよね。上手です。
「毎回お肉系じゃ面白くないわよね。今回は魚にする?」
「それもいいですね」
「では、和風にまとめますか?魚はフライにして、だし巻き卵をメインに置いて、煮物を添えて……」
「それなら野菜もたくさん食べてもらえそうです!」
「なら、決まりね。思ったより早く決まっちゃった。この後はコラージュ作りでもしましょうか?」
「賛成です!」
「あの、コラージュを作りながらでいいから、二人に話したいことがありまして」
「なあに?改まって」
「どうかしたのですか?」
「村で子供たちに流行りのチョコカプセルを知っていますか?」
二人は「ああ」と言いました。
何か知っている様子です。
「コンビニの商品らしいですね。子供たちだけではなく、大人たちの……特に男性の間でも流行っているとか」
「すごい売上いいらしいわよ。で、それがどうかしたの?」
「今日、ブン様からいただいた本物のフィギュアがあります」
ポケットからハンカチに包まれたものを取り出します。テーブルに置いて包みを開きました。
中から手のひらサイズの兵士のフィギュアが出てきました。
アーニャとランタンはじっくりとフィギュアを見ました。彼女たちが興味を持ってくれたらいいなと思いつつ、わたくしはフィギュアをうっとりと眺めます。
「すごくかっこいいので収集しようと思っています」
「本気?」
「はい。えーと、メタナイト卿のように、かっこよくて素敵ですから」
「なるほどね。確かに、恋人が関係していたら、集めたくなるわよね」
ランタンが頷きます。
恋人と関係なく銀河戦士団に憧れましたから、そのかっこよさの説明したかったのですが……上手くいきませんでしたわ。
でも、ランタンが言うことも間違いではありません。メタナイト卿の昔のお仕事なのです。興味があります。
アーニャがまるで妹を見守るように微笑みます。
「すべて集まるといいですね。リーノ」
「ええ、楽しみです」
「お金の管理、気をつけなさいよ。メタナイト卿のために貯蓄しているんでしょう?」
「ありがとう、ランタン。やりすぎないように気をつけますね」
実はそうなのです。
メタナイト卿から青バラのコンパクトをいただいたので、お返しのプレゼントの代金を貯めています。
何を贈るのか、まだ決めていません。けれど、メタナイト卿が喜んでくれるものを贈りたいです。それが高くても困らないように、今から貯蓄する必要があるのです。
そういったことも覚えていてくれる友人たちには、頭が下がります。
翌日、朝。
郵便局からの帰り道、コンビニに寄りました。
「いらっしゃい!」
「おはようございます。お邪魔します」
コンビニの店主、タゴさんが迎えてくれました。
店内はお客さんがおらずがらんとしています。てっきりチョコカプセル目当ての子供たちがすでにいると思ったのですが……?
「この時間は空いているんですね」
「そうだね。大人が来るには早いし、子供たちは家事手伝いをしてお金をもらってから来店するから、この時間は空いているよ。それで、今日は何を買うんだい?」
「えと、その、チョコカプセルを少しください」
「リーノもハマったの!?」
目をギョッとさせてタゴさんが驚きます。
そんなに驚くことでしょうか?
「ハマったというか、ブン様からいただいたフィギュアがカッコよかったので、集めたくなりまして……」
「フフフ!それをハマったって言うんだよ!嬉しいな!女性客にもウケて欲しかったんだ。リーノが注目しているってわかれば、村の女性陣も注目してくれるぞ!」
「そうでしょうか?」
「そうだよ!」
そんなに簡単にいくとは思えないのですが……。
とにかく、チョコカプセルを買って帰りましょう。
「とりあえず、チョコカプセル十個いただきますね」
「それだけでいいの?」
「たくさんありましても、チョコを食べきれませんから」
それにお金を使いすぎてしまいます。
チョコカプセルの棚の上の十個を抱えてレジに行きました。
用事を済ませたわたくしは帰城しました。
早くチョコカプセルを開封したかったので、厨房を借りることにしました。一階の厨房でガサガサとカプセル型のチョコを開けていきます。チョコはお皿の上に置いて中のフィギュアを並べます。
兵士が八体、ナックルジョーのお父様とオーサー卿が当たりました。
初めてでこれは良い結果です。
わたくしは嬉しくて、にやにやとフィギュアを眺めます。
「なーに笑っているでゲスか」
「閣下」
そこに閣下が入って来られました。
閣下はわたくしが机に置いたチョコとフィギュアを見比べます。
「ほーん。お菓子の中にフィギュアが入っていたでゲスか。ちょっと見せてくれでゲス」
「ど、どうぞ」
「これは、中々、かっこいいでゲスな……」
「タゴさんのコンビニで販売しているチョコカプセルです。他にも、こんなに種類があるんですよ」
兵士のフィギュアをじっくりと見られている閣下に、チョコカプセルの箱を渡しました。
裏面には、どんなフィギュアが出てくるか紹介されています。
「なるほど。今そこにあるのがレアものでゲスか」
「あげませんよ」
「ケチ!育てた恩を忘れたでゲスか!」
「こんなことで、そのようなことを仰らないでくださいまし……。お店に行けばもっとたくさん買えますわ。今から行ってみてはどうでしょうか」
「そうでゲスね。リーノ、ありがとうでゲスよ」
「どういたしまして。昼食には戻ってきてくださいね」
閣下は走り去りました。
その背を見送りつつ、わたくしは考えるのです。
デザートやお菓子に、しばらくチョコを使用するのをやめておこうと。
それから、閣下も本格的にチョコカプセルにハマったようでした。
ほぼ毎日のようにチョコカプセルを買いに出かけられているようです。
チョコカプセルの流行りは閣下から陛下へ伝わりました。
その日のうちにお店に陳列されていたチョコカプセルをすべて購入されたと、閣下から聞いたときは驚きました。
やはり陛下は行動力があります。素晴らしいことです。
チョコカプセルの銀河戦士団シリーズをコンプリートしたという方が出始めたころ。
新しいレアが登場しました。
閣下が仰るには、それはメタナイト卿だというのです。
その話を聞いてから、一日中メタナイト卿のフィギュアのことばかり考えておりました。
正直に申し上げます。とても欲しいのです。
ですがお店中のチョコカプセルを買うことはできません。
フィギュアを手に入れられるのはいつになるのか、そう考えるとため息が出ました。
「どうかしたのか?」
「いいえ、その、大したことではないのですが……」
「なんでもいい。話してくれ」
夜。仕事が終わり、本物のメタナイト卿と自宅でデート中です。
青い恋人はいつだって優しく、わたくしの背を押してくれます。
今回もそうです。わたくしは「もうご存知かもしれませんが」と前置きして話を始めます。
「村で流行っているチョコカプセルの新作のレアフィギュアが欲しいのです」
「私のフィギュアか」
「そうです。ご存知だったんですね」
「昼前にフームが教えてくれた。いよいよ私もレアものだ」
「おめでとうございます。素敵なことですわ」
「ありがとう、リーノ。さて、人形のことだが」
「はい」
「作ろうか?」
その言葉に驚いて、言葉を失いました。
メタナイト卿をまじまじと見つめてしまいます。
メタナイト卿はわたくしを真っ直ぐ見つめました。
「木彫りで良ければ心得がある」
「良いの……ですか?忙しいでしょう?」
「休憩の合間に、息抜きでやろう。……もらってくれるか?」
わたくしはメタナイト卿の手を握り、何度も頷きます。
「ください。ご迷惑でなければ、作って欲しいです」
「迷惑ではない。どうやら私は、恋人には何かとプレゼントしたくなる質のようだからな。もらってくれると嬉しい」
穏やかに言葉にする彼の表情は、やっぱり見えませんけれど。微笑んでいる気がしました。
胸が高鳴ります。メタナイト卿への想いが言葉になって出てきました。
「わたくしも何かメタナイト卿にプレゼントしたいと思っています」
「無理はしなくていいぞ?」
「無理ではありません。無茶でもありません。わたくしもあなたに贈りたいのです。何か、欲しいものはありませんか?」
メタナイト卿は少しの間、考えられました。
そしてゆっくりと言葉を紡がれます。
「では、揃いの懐中時計を二つ。君と、私に」
胸がまた、高鳴りました。
嬉しくて、喜びが体から溢れるようです。
潤む視界の中で、メタナイト卿は一際輝いているようでした。
「……喜んで、贈らせていただきますわ」
わたくしはゆったりとメタナイト卿にもたれかかりました。
メタナイト卿はわたくしの肩を優しく抱きました。
チョコカプセルの人気が落ち着いてきたころ。
新しいシリーズが発表されました。
その名もファイターシリーズだとか。
ファイターシリーズが発売された日も、やはりブン様に教えていただきました。
城の一階部分、洗濯物を干す場所で少しおしゃべりします。
「リーノもやっぱり買うだろ?」
「わたくしは、今回はやめておきます」
なんとなく嫌な予感がします。多分、ホーリーナイトメア社絡みだと思うのです。
「そっか。じゃあ、欲しくなったらいつでも言ってよ。被ったやつでいいならあげるからさ」
「ありがとうございます。ブン様」
ブン様はお部屋へ帰られました。
わたくしは洗濯物が一段落したのち、メタナイト卿の元へ急ぎました。
なんの証拠も得られていないため「少し様子を見よう」とメタナイト卿に提案されました。
確かにその通りですわ。
焦りは禁物です。本当にホーリーナイトメア社のものか判明してからでも、遅くはないはずです。
それでも気になって仕方ありませんが……。今日は緊張しつつ仕事をこなすことになりました。
事件は夜中に起きました。
ガタガタと扉が叩かれる音で目が覚めました。
「メタナイト卿?」
いえ、違う気がします。この騒ぎは一体なんでしょうか?
ベッドから起き上がり、パジャマの上からセーターを羽織ります。
そっとドアを開けて廊下を窺いました。
何か、わたくしよりもずっと背の低いものが暴れていました。
それもたくさんです。
「ひっ」
魔獣でしょうか?いえ、そんなことよりも!
わたくしは勇気を振り絞り、廊下へと出ました。跳ねている魔獣を無視してアーニャとランタンの部屋に急ぎます。
二人とも廊下に出ていたので、すぐに見つかりました。
わたくしは叫びました。
「二人とも伏せてください!」
二人が気づいて体を低くした瞬間を見計らい、わたくしは周囲に凍える吹雪の風を巻き起こしました。
風の中を飛ぶ氷のつぶては、魔獣たちをあっという間に消滅させます。
「弱すぎます……ということは、このザコたちに意味はない?」
ただ混乱を招くことが目的だったのかしら?ううん、そんなはずはないわ。
だってホーリーナイトメア社が関わっているはずですもの。
それよりも今はアーニャとランタンが気がかりです。
辺り一帯に魔獣の姿が消えたため、二人の親友はわたくしの傍に来ました。
「リーノ、ありがとう」
「お陰で助かりました」
「良いのです。さあ、安全な場所まで向かいましょう」
「三戦士のところに行くのね」
「先頭はリーノに任せてもいいですか?」
「もちろんです!頼ってくださいね」
わたくしたちは廊下を走り抜けました。
道中の魔獣はわたくしの広範囲攻撃で消滅させます。氷を出しっぱなしにすることは大変です。なので、魔獣が寄ってこない限り氷は出さないようにしました。
メタナイト卿のお部屋近くの廊下で、三戦士に会いました。彼らもまた魔獣を倒していました。
休みなく戦っていたのか、辺りの魔獣はほとんどいません。
「メタナイト卿!」
「リーノ!みな無事だったか」
「はい。道中の魔獣もできる限りやっつけました。この辺りは安全かと思います」
「そうか。よくやった」
メタナイト卿に褒められると思っておらず、嬉しくて頬が緩みました。
ですが、すぐに気を引き締めます。
「この事件の原因はやはり……」
「十中八九、陛下だろうな」
「ああ、陛下ったらなんてことを」
わたくしは村のみんなに申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
アーニャが肩をさすってくれます。
ランタンが呆れたようにため息を吐きました。
「城がこんな感じじゃ、村も大変なことになっているわね」
わたくしは、ハッとなりました。どうして村のことまで気がまわらなかったのでしょうか。
「すぐに行かなくちゃ……」
「待て、私も行こう。ソード、ブレイド。ランタンとアーニャを守ってここに残るのだ」
「かしこまりました」
「必ず守り抜きます」
「ダメよ!リーノも残って!!」
「残りません。わたくしはもう、強いのですから」
その言葉に、ランタンは衝撃を受けた様子でした。ゆっくりと瞬きをして、それから口を開きました。
「わかった。怪我しちゃダメだからね」
「気をつけてくださいね。リーノ」
「ありがとう。気をつけて行ってきます」
わたくしとメタナイト卿は走り出しました。
玉座の間に陛下たちはおらず、どこかに出かけているようです。
メタナイト卿がカービィの家が気になる、と仰ったのでそちらへ向かいました。
カービィの家の前にはフーム様たちや村人たちがいて、陛下たちもいらっしゃいました。
ちょうど陛下が高らかに宣言します。
「ルールに則ったスポーツで戦うゾイ!」
陛下たち以外が、ポカンとして顔を見合わせます。
そんなわたくしたちを放って、陛下と閣下は笑いながら車で去りました。
その後ろに、あのザコ魔獣たちがくっついていきます。村からやって来ただろうたくさんの魔獣が、です。
あの魔獣たちを一体どこに住まわせるのか、気になりました。まさか城でしょうか?
「メタナイト卿、わたくしは陛下のあとを追います。そして何か情報を掴みますわ」
「わかった。私は少しここに残る。アーニャたちには私から伝えるから、そなたは終わり次第そのまま帰るといい。夜道に気をつけてな」
「はい。では、これで」
城に戻り、玉座の間に急ぎます。
玉座の間に行くと、陛下がちょうどワドルドゥ隊長に何かを命令しているところでした。
「では、行け!」
「はっ!」
ワドルドゥ隊長はわたくしの横を通り、部屋から出ていきました。
わたくしは奥の玉座に座る陛下の前へ行きます。
「陛下、ご機嫌麗しゅう」
「挨拶はよい。そちに命ずる。コロシアム建設を手伝うゾイ」
「お断りします」
「逆らうか!!!」
「今回の騒動のせいで、わたくしの大切な親友二人が魔獣に怪我をさせられるところだったんです!ご命令には従えません!!」
わたくしはぎろりと睨みました。
陛下も閣下もたじろいでいます。
「陛下、ここは引き下がった方が……」
「うぬぬ……!今日のご飯は大盛りのスペシャルにするゾイ!!!」
「かしこまりました。陛下の好物てんこ盛りな和食を作らせていただきますわ。夕飯時にお出しします」
「それで手を打ったゾイ!」
今日の仕事が一つ増えましたが、コロシアム建設を手伝うよりは良いはずです。
アーニャもランタンも許してくれるでしょう。
その日の夕飯に、陛下たちには和食だけどハンバーグもスパゲッティもフライも入った御膳をお出ししました。
たいそう喜んでいただけたので、機嫌がなおって良かったです。
対戦当日。
カービィは快勝を重ね、全ての強い魔獣に勝ちました!
そして、村人たちが興奮して観客席からコロシアムの舞台に降り、ザコ魔獣を倒し始めたのです。
わたくしもそれに参加しました。
陛下たちのいらっしゃったVIP席から氷の滑り台を造り、舞台に降ります。
氷のつぶてを作り、村人に当たらないように魔獣を倒します。
村人たちの数以上にいた魔獣は、あっという間に倒されました。