【完結】転生者がカービィ世界で生き抜く話   作:紅絹の木

45 / 81
愛のデデデ

 

「ねえ、リーノ!もっと魔法を見せて!!」

「わかりました。少しだけですよ」

 

 ある日の午前中。晴天、ときどき曇り。

 村の大樹がある広場にて。

 

 わたくしは子どもたちに魔法をせがまれていました。

 わたくしにとっては、この力は魔法ではなく、特技だと思っています。

 けれど、小さい子から見れば同じに見えるのでしょうね。

 

 今日も「魔法を見せて!」とお願いされるのです。

 今は急いで城に戻る用事もないので、村の子供たちに願われるまま、簡単なアイスショーを見せます。

 

 手のひらで拳大の氷の結晶を踊らせ、空高く打ち上げます。結晶は空中で弾けて、雪を降らせました。

 透明度の高い雪は陽光に反射して、七色に輝きます。

 

 傍で見ていたフーム様、ブン様、カービィが驚き、喜び、拍手してくれました。

 

「すごいわ!とっても綺麗よ、リーノ!」

「いつの間にこんなことできるようになったんだ?」

「ぽーよう?」

「内緒で練習しました。みなさんに喜んでもらえるように、頑張ったかいがありますわ」

 

 子供たちが七色の雪を捕まえようと走り出します。

 楽しく遊ぶ様子を見て、わたくしはさらに嬉しく思うのでした。

 

 

「フームーー!!!」

「この声は、閣下?」

 

 閣下が高級車で大樹の周りを一周します。危険な運転でした。子供たちも大人も慌てて避けます。

 わたくしは目の前に止まった、高級車に乗る閣下に注意しました。

 

「閣下!危険な運転はお止めください!」

「今は非常事態なんでゲス!大目に見るでゲスよ!」

 

 車から降りてきた閣下は、フーム様を真っ直ぐ見ました。

 そして助けてほしいと仰るのです。

 

 

 

 どうやら、今朝から陛下の様子がおかしかったみたいです。わたくしは、今日は陛下にお会いしていなかったので、変化に気づきませんでした。

 

「どのようにおかしいのですか?」

「何をしても、まーったく怒らないんでゲス!」

「まあ!それは大変ですわ!」

 

 陛下は一日一回は怒られる方です。

 そんな方が急に怒らなくなるなんて、何がおこったのでしょうか?

 心配するわたくしたちを見て、フーム様が首を傾げます。

 

「何が問題なの?」

「だって、いつも怒られている方が怒っていないんですよ?心配になりませんか?」

「……いいえ。怒らなければ、その方がいいじゃない」

 

 わたくしは、頭をガンと殴られたような気持ちになりました。

 

「……たしかに、フーム様の言う通りですわ……!」

 

 ですが、何か嫌な予感がするのです。

 人は急に変われるものではありませんわ。

 陛下はどうしてしまったんでしょう?

 

 陛下をじっと見つめると、見つめ返されました。

 そして緩く微笑まれます。

 

「よいゾイ。許すゾイ」

「へ、陛下!??」

 

 こんな陛下は見たことがありません。

 思わず体が固まります。

 

「ねえ、本当に何しても怒らないの?」

「試してみるでゲス」

 

 その間にブン様が、車のタイヤを蹴りました。

 陛下の大切な高級車です。それはさすがに怒られるはず。

 

「よいゾイ。許すゾイ」

「陛下!?」

 

 怒ってらっしゃらない!?

 一体どうなっていますの……?

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 あれから、陛下は何をされても怒りませんでした。

 ペンキを塗られても、ピコピコハンマーで殴られても、ブレーキを弄られたせいで車が川に落ちても。

 怒りませんでした。

 わたくしは陛下のことが心配です。頭を強くぶつけられたのでしょうか?

 それとも、わたくしのように魔獣にされて……?

 

 頭を降って、悪い考えを追い出します。

 

 とにかく、川から上がった陛下と閣下に、暖かいお風呂に入っていただきます。

 

 入浴中に、わたくしはメタナイト卿の部屋へ訪れました。

 ですが、生憎お留守だったのです。

 誰にも相談できないまま、その日のニュース時間を迎えてしまいました。

 

 そして、陛下は番組中に仰ったのです。

 

「愛の力ゾイ。良き隣人たちよ。ワシは教えたいですゾイ。やられる度にやり返していては、いつまでたっても憎しみは終わらないですゾイ。踏まれても、殴られても、殺されても、全てを許す。愛と寛容の精神が、世界を救うのですゾイ」

 

 スタジオにいるみんなが、唖然としました。

 

「……一体、誰ですの」

 

 もうこんなに人が変わってしまっては、別人と言われてしまったほうが、信じられます。

 わたくしは、陛下が入れ替わった可能性も視野に入れました。

 

 

 その日の夜、心を入れ替えた陛下を讃えるための祝賀会が、城で行われました。

 わたくしたちメイドは、急遽お料理を振る舞うことになったのです。

 陛下の傍にいられませんでした。悔しいですが、何かあればフーム様たちが何とかしてくれると信じています。

 

 最後の料理をワドルディたちに運んでもらったら、わたくしたちは少しの間休憩です。

 

 ランタンが緑茶をすすりながら、言いました。

 

「それにしても、陛下があんなに変わるなんてね。もう、驚いちゃったわ」

 

 それを聞いたアーニャが頬に手を当てて言いました。

 

「本当に驚きましたね。……今だから言えますが、陛下の怒鳴り声は苦手だったので、それが少なくなることは嬉しいです」

「……でも、不自然だわ。なんだか、悪い予感がします」

 

 そういうと、アーニャとランタンは顔を見合わせました。

 アーニャが気遣うように言ってくれました。

 

「急に変わり過ぎですもの。心配になっちゃいますよね」

「ええ……。本当に、ただの心境の変化なら良いのですが……」

 

 直後、激しい爆発音が外から聞こえてきました。

 城が揺れるほどの大きな音です。わたくしたちは咄嗟に立ち上がりました。

 

「花火でしょうか?」

「それにしちゃ、大きすぎる音だわ」

「……外には陛下たちが」

「ダメよ!騒ぎが落ち着くまで、いっちゃダメ!!……もう危ない目にはあわないで」

「ランタン……」

「……机の下に潜っておきましょうか。手を繋いでいれば、怖くないですよ」

 

 アーニャの案を採用し、わたくしたちは騒ぎが落ち着くまで、厨房にいました。

 ようやく、音が聞こえなくなったところで、厨房から祝賀会をしている中庭に行きます。

 

 会場はあちこちめちゃくちゃに壊されていました。

 何より、エスカルゴン閣下が陛下にハンマーで殴られていました。

 慌てて近寄り、陛下と閣下の間に体を差し込みます。

 

「陛下、一体何事ですか!お止めください!」

 

 陛下が激高した様子で言いました。

 

「エスカルゴンから殴ってきたゾイ!ワシには殴り返す権利がある!!」

「……閣下、本当ですか?」

 

 ボロボロの閣下は何度も頷きました。

 その姿が痛ましくて、悲しかった。

 わたくしは陛下に頭を下げました。

 

「陛下、閣下はもう充分反省しています。どうか、ハンマーを下げて美味しい料理をお食べください」

「うん?……そういえば、口の中から変な味がするゾイ!リーノ、美味い料理を持てい!」

「かしこまりました。食堂にお持ちします。それでよろしいでしょうか?」

「良い。すぐに持ってくるゾイ」

「かしこまりました。すぐに準備します。アーニャ、ランタン!もうひと働きしますよ!」

 

 二人は同時に了承の意を述べました。

 

 厨房はアーニャたちに任せて、わたくしは閣下を介抱します。背中を預けられる場所……ステージ近くに連れてきて、座らせます。

 ハンカチを取り出して、拳よりも小さい氷を作り出し、包みます。それを閣下のタンコブにそっと当てました。

 

「いだい!優しくしてくれでゲス……」

「精一杯、優しくしておりますわ」

「リーノ」

「メタナイト卿」

 

 ステージ上には、子供たちと、メタナイト卿がいました。

 彼らから事の顛末を聞きました。

 

「やっぱり、陛下がおかしかったのは、魔獣のせいだったんですね。それに、今の陛下は元通りなんですね」

「そうだ。いつもの陛下に戻った」

「そうですか。良かった……」

 

 嬉しそうにしていたのは、わたくしと閣下だけ。

 みなさんは残念そうでしたわ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。