「明日、ペットを買うからエサの準備をしておくゾイ!」
陛下は突然発表されました。
夕食時でした。
わたくしは内心戸惑いながらも、笑顔を作りました。
「かしこまりました。手作りのエサをご用意いたします。新しく陛下の家族になるペットちゃんの、食べてはいけないものはありますか?それか、苦手なものとか」
陛下は懐からカタログを取り出して、あるページを開きます。
しばし読まれて「ないゾイ」と仰られました。
「では、砂糖を使わないケーキをご用意します」
「うむ。明日は特別な日になるから、ケーキも特別大きなものを作るゾイ!」
「かしこまりました」
「リーノ。そういえば、明日の私たちのオヤツはなんでゲスか?」
「はい。カップケーキでございます」
「それは楽しみでゲス」
陛下と閣下は食事を終えて、食堂から出ていかれました。
わたくしたちメイドは、食堂に残り後片付けをします。
その間の話題は、陛下の新しいペットでした。
アーニャが皿を下げつつ、楽しみだと言いました。
「いつか、旦那様とペットを飼うのが夢だったんです。陛下の飼い方を参考にさせていただきたいですね」
「一体、何を飼うのかしら?」
「それはわたくしもまだ知りません。小さくてモフモフしている動物だといいですね……」
アーニャとランタンが賛同してくれました。
「抱っこできる大きさのうさぎとかいいですよね」
「猫も良いわよ」
わたくしは記憶の深い底から浮き上がる言葉をそのまま紡ぎました。
「犬も可愛いですよね」
――――――
翌日。
陛下たちの朝食はワドルディたちに任せて、わたくしたちは大急ぎでケーキ作りに取りかかりました。
五十人分はありそうな大きなケーキです。厨房で完成させてしまうと、扉を潜れないので、厨房の外で完成させます。
ワドルドゥ隊長がやって来たところで、なんとかケーキは完成しました。
ワドルディたちをケーキを玉座の間へ運びます。
わたくしたちはヘロヘロになっていました。
それでも、これから掃除の仕事が待っています。
上半身を厨房のテーブルに突っ伏して、わたくしはアーニャとランタンに声をかけます。
「あと十分休んだら、掃除に行きましょうか……」
「了解です……」
「わかりました……」
三人ともとっても疲れています。
今日は大変な一日ですわね……。
掃除をするため廊下に出ると、ちょうど陛下たちに出くわしました。
陛下と閣下、そして……あれはスカーフィでしょうか?それが四匹いました。
四匹は鎖で繋がれていました。
「陛下、そちらは……?」
「新しく家族になったスカーフィちゃんだゾイ!リーノ、アーニャ、ランタン!良いケーキであった!褒めてつかわすゾイ」
「勿体なきお言葉ですわ」
アーニャもランタンも深くお辞儀して、喜びの意を表します。
陛下は満足そうに頷かれました。
「ワシはこれからスカーフィちゃんたちを散歩に連れていくゾイ。昼は村で食べる。夕食は豪華にせい」
「かしこまりました。陛下と閣下、そしてスカーフィちゃんに豪華なお食事をご用意させていただきます」
「それと、玉座の間を掃除しておくでゲスよ」
「?かしこまりました」
昨日、掃除したばかりなのですが、何かあったのでしょうか?
返事をすると、陛下と閣下はスカーフィたちを連れて、村へ行きました。
「……スカーフィちゃん、可愛かったですね」
陛下たちの姿が見えなくなったころ、アーニャが少しだけ弾んだ声で言いました。
ランタンがふふっと笑います。
「アーニャ、嬉しそうね。そうね。あの子たちを毎日見て、お世話ができるのは嬉しいわね」
「長生きできるように、しっかりお世話していきましょうね」
わたくしたちは互いに頷き合いました。
そして掃除用具を持って、急いで玉座の間へ向かいます。
玉座の間は酷いありさまでした。床がケーキでベトベトに汚れていたのです。
「リーノ」
「ワドルドゥ隊長。これは一体、何があったのですか?」
「ケーキが倒れたんだ」
「まあ!みな様ご無事でしたか?」
「幸い、だれもケガをしていない。だが、見ての通り床がめちゃくちゃになってしまったんだ」
「……ケーキが無くなっているところを見ると、スカーフィちゃんは全部食べたんですね」
「そうだ。すべて平らげた」
ランタンが「すごい食欲ね」と呟きました。
わたくしも同意します。
食費が凄まじいことになりそうです。
「リーノ、メイド三人でここを掃除するのは時間がかかる。だから、兵士を十人置いていこう」
「助かります!ありがとうございます。ワドルドゥ隊長」
「うむ。良いのだ。それで相談なのだが……」
「はい。何でしょうか?」
「今度、兵士たちにご飯を作ってやってくれないか?みんなリーノのご飯の味が忘れられないのだ」
「それは、陛下に相談して時間を作らないとできませんわ。少し返事を待っていただけますか?」
「わかった。待とう。ではな、リーノ。ランタン。アーニャ」
ワドルドゥ隊長と別れの挨拶をすませて、わたくしたちは掃除にとりかかりました。
夕食時。
ヘロヘロな体をもうひと踏ん張りさせて、陛下たちの夕食を作ります。もちろん、スカーフィちゃんたちのことも忘れません。
しかし、スカーフィちゃんたちは陛下の傍にいませんでした。
食堂中をキョロキョロと見回しますが、その姿は見つけられませんでした。
「あら、スカーフィちゃんたちはどちらに?」
「城内を散歩しておる。その間にワシらはご飯ゾイ」
「かしこまりました。すぐにご用意します」
陛下と閣下の食事が始まります。間もなく、わたくしはお二方に相談をしました。
「陛下、閣下。折り入って相談がございます」
「なんゾイ」
「ワドルドゥ隊長から兵士たちに食事を作ってほしいと、頼まれたのです。アーニャとランタンを連れて、行ってもよろしいですか?」
「うーむ……」
「陛下、ちょっと……」
閣下が席を離れて、ゴニョゴニョと陛下と内緒話を始めます。
微かにお声が聞こえます。
「……払ってない……たまには……食事ぐらい……」
「うむ。リーノ、許すゾイ!」
「ありがとうございます。陛下」
どんなお話をされたのかわかりませんが、許可をいただけました。良かったですね。
明日にでも、ワドルドゥ隊長にお返事をしましょう。
食後は、陛下の自室に移動します。
夕食中にスカーフィちゃんたちが帰ってこなかったので、場所を変えるそうです。
陛下の自室に到着して十分ほどたったころ。
スカーフィちゃんたちが戻ってきました。
陛下は大層喜ばれて、さっそくスカーフィちゃんたちにエサをあげます。
食べ方について、しつけが必要ですわね……。
部屋の出入口でメイド三人が固まっていると、フーム様、ブン様が廊下の奥から現れました。
「こんばんは。陛下にご用でしょうか?」
「用も何も!デデデのペットが私たちのご飯を食べちゃったのよ!」
「今しつけとかないと、手がつけられなくなるぞ」
「申し訳ありません!すぐに陛下に報告しますわ」
深々と頭を下げます。
しかし、フーム様たちは「報告はしなくて良い」と仰られました。
「しかし……」
「リーノの気持ちだけ受け取っておくわ。これ以上、怒るのも疲れるもの」
「いいのかよ。姉ちゃん」
「いいのよ。ペットが手をつけられなくなって困るのは飼い主だもの。それじゃあね、リーノ」
「またな」
「はい。また」
フーム様たちは走って戻って行かれました。
……今度改めて、大臣一家に謝罪と菓子折りを持っていきましょう。
夜はメタナイト卿が時間を作ってくださいました。
夕飯はまだらしいので、私の自室に招いて軽食を作ります。
今日はサンドイッチにしました。玉子と、ハムと、フルーツサンドです。
わたくしはメタナイト卿が食べてくださる姿を、見守りました。
「……リーノ。そんなに見つめられると、恥ずかしいのだが」
「ごめんなさい。食べてくださるのが嬉しくて、つい見入ってしまうのです」
「そうか……」
そう言って、改めて食べ始めます。
少々スピードが上がっていますね。もしかして、照れていらっしゃるのかしら?
なんだか微笑ましくて、わたくしはニコニコと頬が緩みます。
「そういえば、今度ワドルディたちにご飯を作ってあげることになったんですよ」
「ほお。彼らの量を作るとなると、大変だろう」
「ええ、物凄く大変ですわ。ですが、お祭りみたいに賑やかで楽しいですよ。参加しませんか?」
「なに?私たちが?」
「ええ。最近忙しくて食事会を開いていませんし、みなさんと食事がしたいですし……」
「……ふむ」
メタナイト卿は少し考えられます。
「参加ということは、ただ食べるだけではないのだろう?」
「そうですね。できれば、作るところから参加してほしいですね」
「……時間がかかるな」
「なので、時間が空いている日にお願いしたいと思います」
わたくしはそこまで言って、量が少なくなった自分の紅茶を見ました。
カービィがプププランドに、村に来てからずいぶんたちました。ナイトメアとの決戦は近いでしょう。つまり、ハルバードも完成間近だということ。
「……お忙しいですか?」
断られても仕方がない。そう思っていると、メタナイト卿は「いや」と言葉を続けられます。
「ソードとブレイドの意見も聞きたい。返事は待ってくれるか?明日中に伝えよう」
「かしこまりました。お待ちしておりますわ」
――――――
明朝。
朝食作りのために厨房にいました。
みんな、まだ眠たそうです。けれど、食事を作っている間に眠気が飛んでいきました。
ドンドン。
厨房の扉を叩く音がします。
わたくしが一番近くにいたので、扉に向かいました。
「はい」
扉を開けると、ブレイドナイトさんが立っていました。
「卿からの伝言を、預かっています」
「かしこまりました。それじゃ、アーニャに変わりますね」
「いえ、伝えるだけですから」
「そうは言いましても……最近、アーニャに会えていますか?」
ブレイドナイトさんは少し黙って、首を振りました。
ならばと、わたくしは思うのです。
「少しだけ、待っていてくださいね」
わたくしはアーニャと交代しました。
「アーニャ、十分後に戻ってきてください」
「ありがとうございます。リーノ」
アーニャは花が咲くように、たいへん嬉しそうに笑って、ブレイドナイトさんに会いに行きました。
……良いことをすると、気持ちがいいですね。
スカーフィちゃんたちのエサと共にカートに乗せて、朝食を運びます。
食堂に到着しました。
席に着く陛下と閣下、傍にいる兵士たち。
……?
「陛下、スカーフィちゃんたちはどちらに?」
「アレは……」
「陛下、しー!」
閣下がなにやら陛下に合図を送られます。
一体なんでしょうか?
陛下はわたくしから視線をそらします。
「うっ……なんでもない!スカーフィたちは散歩中ゾイ。帰ってきたらエサを作るように。それまでエサは作らんでよい」
「かしこまりました。では、今朝のエサはいかがいたしましょうか」
「カービィにでも食わせておくゾイ」
「……承知しました」
わたくしたちは不思議に思いつつも、普段通りに働きました。
食後。
空のお皿と、スカーフィちゃんたち用のお皿をカートに乗せて厨房に戻ります。
汚れたお皿が洗えたら、スカーフィちゃんたちのために作られた、味のない料理を見つめます。
「陛下、カービィに食べさせろって仰ったわよね」
「どうしますか?そのまま出すわけにもいきませんし……」
「……ソースで味の変化を楽しんでもらいましょう。幸い高級食材を使っている分、素材の味はおいしいです。カービィも喜んでくれるでしょう」
「なんなら、お詫びのデザートも作りましょ」
「いいですね。ホールケーキにしましょうか」
方針が決まったので、作り始めます。
ソースを作り、カービィのために飾ります。
ホールケーキはフーム様とブン様と食べられるように、大きめに作ります。
メレンゲクッキーでフーム様、ブン様、カービィを作ります。材料があって良かったです。
ホールケーキを飾り付けているところで、外が騒がしくなりました。
嫌な予感に襲われて、ほとんど反射的に動きました。
外から中に入れないように、扉を氷漬けにしたのです。
すべてではなく、縁部分だけ凍らせました。
間もなく、ドンドンと扉になにかが当たります。
わたくしはいち早く、背中で扉を抑えました。
すぐにアーニャとランタンも手伝ってくれます。
「一体なんなの!?」
「わかりませんけれど、とにかく扉を抑えましょう!」
「ええ!」
五分後ぐらいでしょうか。
やっと、外の騒ぎが収まりました。
念のため、しばらく厨房にいました。
二十分後、また扉を叩く音がしました。
「そこにいるのか!リーノ!」
「メタナイト卿!はい、わたくしとアーニャとランタンがいます」
「扉を開けられるか?」
「いえ、できません……」
「では、私が扉を壊そう。下がっていろ!」
言われた通り、わたくしたちは扉から離れ、壁際に行きました。
「離れました!」
「では……はああああ!!」
扉は切られて、ガラガラと床に崩れ落ちました。
向こうには、剣をしまうメタナイト卿が立っていました。
メタナイト卿の傍に駆け寄り、お礼を言いました。
「ありがとうございます」
「良い。隠れていたのは正しい判断だった」
「……なにがあったのでしょうか?」
「陛下のペットが魔獣化して、城中で暴れていた。それをカービィが解決したのだ」
「スカーフィちゃんたちが魔獣に!?みなさん、無事でしょうか?」
「何人か襲われた。無事かどうかはそなたの目で判断するといい」
「わかりました。あとで、行ってきます」
「うむ。ではな」
メタナイト卿は体にマントを巻き付けて、廊下の奥へ去っていきました。
「外は大変なことになっていたんですね」
アーニャが言いました。
「リーノがいち早く扉を氷漬けにしてくれたおかげで、助かりました。ありがとうございます」
「ありがとうね。リーノ」
「とっさに動いただけなのですが、良い方向に転んで良かったですわ」
「おーい!リーノ!!それにアーニャとランタンも!」
「ブン様、フーム様、カービィ」
「良かった、無事……なのかしら?」
フーム様は縁は氷漬け、バラバラになった扉を見て考えます。
わたくしは笑顔を作りました。
「ええ。メタナイト卿のおかげでここを出られましたからね。みんな無事ですわ」
「それは良かったわ。ところで、いい匂いね……」
「良ければ中へどうぞ」
厨房に案内します。
そこにはフードカバーを被せられた、たくさんの料理がありました。
カービィは喜んで近寄ります。
「すっげー量じゃん」
「これどうしたの?」
「スカーフィちゃんたちのエサですよ。朝食の分を食べて貰えなかったんです。余ってしまったので、代わりにカービィに食べさせろと陛下が命令されて……」
「カービィなら、喜んで食べると思うわ。どう?カービィ」
「ぽよう!」
「わかりました。では、どうぞ」
フードカバーをすべて取り、カービィにフォークを持たせます。
カービィは吸い込まず、少しずつ食べ始めました。
「ねえ、リーノ。オレたちになんかないの?」
「食後のデザートがありますよ。そちらは、カービィと一緒に来るでしょうフーム様とブン様のために作らせていただきました」
「やった!あとでちょうだい!」
「かしこまりました」
子供たちが厨房の椅子に座ります。
わたくしはアーニャとランタンに向き直りました。
「ここはわたくし一人でも大丈夫ですから、アーニャとランタンはお二人に会ってきてください」
「ソードとブレイドのこと?」
「そうです。無事な姿を見せた方が良いかと……」
「ありがとう。リーノ。私、ソードに会いたかったの」
「私もです。ブレイドさんの元気な姿を見たかったんです」
わたくしは二人を送り出しました。
「リーノ!カービィが食事終えたぞ〜」
「かしこまりました。では、ケーキを切らせていただきますね」
大きなホールケーキを見た子供たちは、バンザイと喜んでくれました。