それは朝食のときに発表されました。
いつもより早い時間の朝食でした。
「今日から学校が始まるゾイ」
自慢するように陛下が仰いました。
わたくしは自分の耳が信じられませんでした。
「陛下、今……なんと?」
「だから、学校を創ったんでゲスよ。今日から始まるというか……もぐもぐ……ごく。生徒を募集するでゲス」
「そんな……陛下……!」
「な、なんゾイ!」
わたくしはよろよろと力なく座り込みます。
アーニャとランタンが気づいて、わたくしの隣りにやってきて支えてくれました。
「リーノ!大丈夫ですか?」
「一体どうしちゃったの!?……泣いてるの?」
「うう……嬉しくて……。陛下が村のみんなのために、こんなに素敵なことをしてくださるなんて……」
「デハハハハハ!お前にも手伝ってもらうゾイ」
「!なんなりと、ご命令ください!」
「給食を作ってくれでゲス」
「全力で作らせていただきます!」
わたくしはとっても気合いをこめて言いました。
朝食後。
学校の名前はデデデ帝国大学付属小学校というらしいです。大学も行くことができるなんて、素晴らしいですわ。
校内で教材を販売するお手伝いをします。わたくしからお手伝いを申し出ました。アーニャとランタンは城でお仕事です。
長蛇の列の先頭、とある親子が目の前に来ました。
わたくしは何度もしたとおり、教材を後ろのダンボールから集めて親子に渡します。
「はい。こちらが学校で使う教材ですわ。千デデンです」
「はいよ。ありがとう、リーノ」
「ありがとう!」
親御さんからお金を受け取り、お釣りを手渡します。
あとは気をつけてほしいことを伝えるだけです。
「入学式の日に改めて持ってきてくださいね。それまでは大切に保管してください。……次の方、どうぞ」
次の親子がやって来ます。
ハニーとハニーのお母さんです。
ハニーがわたくしに気づいて、笑顔になりました。
「こんにちは!リーノいたのね!」
「こんにちは、ハニー。それにハニーのお母さんも。今日はワドルディたちのお手伝いに来ました。教材は千デデンですわ」
ハニーのお母さんは優しく「はいはい」と言いました。
持っていたカゴからお財布を取り出し、開いて千デデンを渡してくれます。
その千デデンを両手で受け取ります。
「はい、確かに。ちょっとお待ちくださいね……こちらが教材ですわ。入学式の日に持ってきてください。それまでは大切に保管してくださいね」
「ありがとう、リーノ。ママ、帰ったらちょっとだけ開けていい?」
「ちょっとだけよ?ありがとう。リーノ、またね」
「はい。また」
軽く手を振ってハニー親子とはお別れしました。
それから何時間たったでしょうか。
お昼休憩を挟みつつ、長蛇の列をさばきます。
とても大変で疲れましたが、みなさん笑顔で帰っていきます。それが嬉しくて、疲れがとれるようでした。
ほとんど作業と化した教材の受け渡しにも、終わりが見えてきたころでした。
大臣一家がお見えになりました。
「パーム様、メーム様、フーム様にブン様も。みな様お揃いで」
「やあ、リーノ。教材はまだ残っているかな?」
パーム様がお財布を手にしつつ仰います。
わたくしは頷きました。
「ございます。すぐにご用意しますね」
手早く教材を集めます。それを二つ、受付の机に並べました。
「一つ千デデンなので、二つで二千デデンですわ」
「はい」
パーム様は千デデン紙幣を二枚、わたくしに渡されました。二千デデンを、手元に置いてある小さな金庫の中に入れます。
教材を一つ取って、フーム様に渡しました。二つ目はブン様に渡しました。
「どうぞ。フーム様、ブン様。入学式の日まで大切に保管してくださいね」
「ほーい」
軽い返事をされたのはブン様です。
フーム様は難しそうな顔でわたくしを見つめています。
「リーノ。あなたまで、デデデの気まぐれに付き合うの?」
「フーム様……そうですわね。今回も、陛下の気まぐれかもしれません。始まりは良いものではなくても、これから素晴らしいものに変えていけるはずですわ」
わたくしは自分の手をぎゅっと、信じたいと思う心を込めて握りました。
「わたくしは小学校をより良いものにしたいと考えています。だから、自分にできることを精一杯いたします」
そう言ってにこりと微笑みました。
パーム様、メーム様、ブン様は応援してくださいました。
フーム様は最後まで心配そうです。
その心配が晴れることを、わたくしは願うのでした。
――――――
入学式の日。
早朝。校庭に子供たちと大人が並びます。
学校の制服は、魔法学校のときに用意した制服を再利用するようです。
デデデ校長にエスカルゴン教頭と挨拶があり、次に校歌斉唱です。
どれも陛下を称えるものでした。敬う気持ちを強制することは望ましくないのですが……。これから変えていけばいいですよね。
後で改善点をメモに書いて、まとめて陛下と閣下に報告しましょう!
わたくしは授業の様子を見ることはできません。
先生として呼ばれていないからです。
その代わり、子供たちや一緒に授業をうける大人たちのために給食を作ります。
みなさんのために、なにかできるのは嬉しいですね。
お昼。
給食を教室に持っていきました。
その教室はフーム様たちがいらっしゃいました。
フーム様と目が合ったので軽く微笑むと、じっと見つめ返されました。
一体どうされたのでしょうか?
それだけではありません。教室中がわたくしの動きを注視しているようでした。
わたくしはとにかく、普段通りに振る舞いました。
まず子供たちに給食を配ります。
フーム様の番になったとき、少しだけお話ししました。
「……リーノは何も変わってないわね」
「?はい。わたくしは朝から元気ですよ?」
「なにも変化がないならいいの……」
心なしか疲れていらっしゃるフーム様を、心配します。……よく観察すれば、陛下と閣下以外の方はなんだか元気がありませんわ。
授業が厳しいのでしょうか?
学校が終わったら、フーム様に聞いてみましょう。
給食がみなさんにいきわたったので、両手を合わせて声を揃えます。
「いただきます」
わたくしの後に続いて、何十人もの声が重なります。
わたくしは「召し上がれ」と言いました。
子供も大人も一口食べると笑顔になります。
「おいしい!」
「うめーよ!リーノ!」
「ふふ、ありがとうございます。フーム様、ブン様」
お二人をきっかけに、あちこちから料理を褒める言葉が聞こえてきます。わたくしは一人ずつ、お礼を言いました。
みなさんに元気が戻ったようです。よかった。
学校にいる間は、できるだけ笑顔でいてほしいですからね。
給食の片付けもすませて、帰城します。
その間に陛下と閣下にお会いしました。なんでも玉座の間を片付けてほしいそうです。
わたくしはそれを了承しました。まっすぐ次の仕事場に向かいます。
玉座の間を開けて中に入ると、メタナイト卿とフーム様、それにカービィがいました。
玉座の間は資材や教材らしきもので散らかっていました。その中から、カタログらしきものをフーム様がお持ちでした。
「こんにちは、みな様。お揃いで」
「こんにちは。よかった、リーノだったのね。デデデたちかと思っちゃった」
「陛下と閣下だと、良くないのですか?」
メタナイト卿に質問すると、彼は頷きます。
「今は、な……」
「ぽよ」
「あら、まあ。では、わたくしはなにも見なかったことにいたしますね。そうだ。あの、フーム様?」
「なにかしら?」
「一つ聞きたいことがありまして……学校はどうでしたか?」
「うっ」
「う?」
フーム様は複雑そうなお顔をされました。
しばし目を閉じられて、そして決意した表情で話し始めます。
「あまり、良くなかったわ……」
「それは、一体どういうことでしょうか?みなさん、緊張されて授業が上手く進みませんでしか?」
「ううん。もっと別よ……」
「?」
そのとき、メタナイト卿がわたくしの肩を優しく叩かれました。
振り向いて彼の方を見ます。
「リーノ。この学校はホーリーナイトメア社のものだ」
「……そんな、まさか」
頭が鈍器で殴られたかのようでした。
教材を買いに来てくれたみなさんの笑顔が浮かんで、崩れます。
わたくしは顔を両手でおおいました。
「陛下……閣下……」
「リーノ……」
「学校が、ナイトメア社のものなら……どこかに魔獣が潜んでいるかもしれません。探さないと……」
「それはこちらでしておこう。そなたは普段通り、陛下たちの傍にいてくれ。できればでいい。情報収集を頼む」
「わかりました。そちらは任せてください……」
「リーノ、大丈夫?」
わたくしは微笑んでみせました。
たとえ虚勢でも、今は張りたかったのです。
――――――
次の日。
魔獣は、教師となる方がかぶる帽子に化けていたようです。カービィがファイターとなって倒してくれました。
魔獣と共に、学校は爆発しました。
学校の中にいたみなさんは外に避難したので、誰もケガをしませんでした。
わたくしはとっても、怒りました。
それと同じくらい悲しくて、こっそり泣きました。
陛下と閣下のご飯は、しばらく作って差し上げませんでした。
陛下はそれに大層怒りました。
「お前がそうなら、ワシにも考えがあるゾイ!」
「陛下?一体何を……?」
「うるさいゾイ!ふんだ!!」
それっきり、しばらくは口を聞いていただけませんでした。
学校の方はというと……。
建て直すと費用がかかるので、青空の下で授業が再開されました。
村のみんなが入れ替わり先生をします。子供たちは気まぐれにやって来ます。
生徒たちが全員揃う日は少ないです。なので、やはりみんなが通いたくなる学校は必要なのだと、そう思うのです。
たしか学校に関する事件は、あと二回ほどあったはずです。
少しずつ、より良いものに変わっていけばいいのですが……。