ある日から、玉座の間にチップスの袋が置かれるようになりました。
「陛下、こちらのお菓子を片付けても……」
「それはそこに置いておけ。うーん、それにしてもチップスが食べたいゾイ」
ちらちらとわたくしとお菓子を交互に見られます。
わたくしはクスリと微笑みました。
「わたくしでよければ、チップスを手作りいたしますわ」
「おお、そうか!では早う持ってくるゾイ」
「かしこまりました」
わたくしは玉座の間を出て、厨房に向かいました。
スライスしたじゃがいもでチップスを、そしてトルネードポテトを作ります。
一時間ほどで、できたそれらをカートに乗せて、玉座の間に持って行きます。
陛下はすでにチップスを食べていらっしゃいました。
わたくしは驚きましたが、すぐに落ち着きます。
きっと待てなかったんですね。
わたくしから見て左側の大きなモニターでチャンネルDDDをご覧になる陛下に声をかけます。
「陛下、おやつの準備が整いました」
「うむ。持ってくるゾイ」
よかった。食べてくださるみたいです。
カートを玉座の近くに寄せて、カバーを取ります。
ほんわかと湯気がのぼります。同時に食欲を刺激する香りが辺りに満ちます。
「うまそうゾイ!いただきま〜す!」
陛下はチップスの袋をお腹に置いて、まずはトルネードポテトを手に取ります。
大きく口を開けて食べられました。
「うまい!おやつはしばらくこれにするゾイ!」
「陛下、それではお体に障ります。週に一度お作りいたしますので、ご容赦を」
「ぬうう……。まあ、よい。これが食えん間はコッチを食べるゾイ!ぬははは!」
そう仰られてチップスの袋を持ち上げました。
わたくしは困りました。揚げ物ばかりでは、体に良くありません。なので説得します。
「チップスではなく、フルーツはいかがですか?新鮮でおいしく……」
「いらんゾイ」
「陛下……」
「いらんゾイ」
説得はできませんでした。
それから二日、陛下はチップスを食べ続けました。
わたくしと閣下はとても心配でした。
なぜなら、陛下は玉座からまったく出歩こうとなさらず、食べ続けていらっしゃるからです。
それでは不健康になります。
いくら栄養バランスを考えた食事を食べていても、運動しなければいけないのです。
三日目で、わたくしはメタナイト卿に助けを求めました。
ですが、その返事は――。
「……そなたの言葉が届かないのであれば、誰の言葉も届かないだろう」
「で、では、知恵を貸してくださいませんか?」
「すでに色々試したのではないか?」
「はい。玉座の部屋の中だけでも歩いていただこうとしたのですが、どれも上手くいかなくて……」
「リーノ。そなたには苦しいことだが、放っておくしかないと思う」
「……痛い目を見なければ、今の生活習慣が変わらないからでしょうか」
「そうだ」
わたくしは両手を握りしめました。
「わかり、ました」
メタナイト卿はただじっと、わたくしから目をそらさず見ていました。
――――――
陛下がチップスを食べてから一週間後。
陛下の朝食を準備しているときでした。
突如、城が揺れました。そして低い唸り声が廊下中に響きます。
わたくしは嫌な予感がして、厨房から飛び出しました。ランタンとアーニャが後を追ってきます。
途中で合流したエスカルゴン閣下と共に、玉座の間へ入りました。
――大きな何かが、部屋の奥にいました。
それは大きく太ってしまった陛下でした。
「陛下……!おいたわしや……」
「うわあ……」
「これは一体……」
続いて大臣一家も部屋に入ってきます。
皆さん驚いて、困った表情を浮かべました。
閣下は笑っていました。なぜ笑うのでしょうか……?
陛下はまだチップスを食べていらっしゃいます。
わたくしは様々な気持ちが込み上げて涙が溢れました。涙を拭くことも忘れて陛下のお顔の近くに行きます。そして傍で膝をつきました。
「陛下、もうやめてください。これ以上食べ続けたら、本当に死んでしまいます」
陛下は申し訳なさそうなお顔をしつつも、お菓子から手が離せない様でした。
なので、菓子に手を伸ばすその手を、緩く両手で握ります。
「……離すゾイ」
「いいえ」
こっそりと後ろで声が聞こえてきました。
「……リーノってデデデのこと大好きだよな」
「私たちよりも長い間一緒にいる家族だもの」
「しかし、あれじゃ可哀想だ。見ておれん」
「でしたら、陛下をヤブイ先生のところへ運びましょう。肥満が治れば、リーノも喜ぶわ」
「すぐに準備をするでゲス。フーム、ブン、ワドルドゥ隊長とワドルディたちを連れてくるでゲスよ」
「なんでオレたちが?」
「こっちはリーノを慰めておくでゲス。ほら、早く」
「行きましょ、ブン、カービィ」
「はーい」
「ぽよ!」
十分後、陛下は村のヤブイ先生のところへ運ばれました。
わたくしは泣いていたので、アーニャとランタンと一緒に城に残りました。
厨房で陛下にお出しするはずだった朝食を食べます。
「うん。きょうのコーンスープもおいしい」
「このコーンスープ、今度の食事会で出したいです」
「アーニャ、それすごくいい考えだと思う。リーノも、いいでしょ?」
「ぐずっ……はい、良いかと思います」
ハンカチを片手に持ち、わたくしは朝食を食べていました。
アーニャが心配そうに言います。
「リーノ、もしかして陛下がいなくなるかもと想像して、怖いのですか?」
「そうです……陛下はわたくしにとって、家族のように大切な方ですから」
「……あーあ。陛下も、もう少しリーノのお願いを聞いてくれてもいいのに」
「いいのです。こちらのお願いをたくさん聞いてくださる陛下というのは、想像できませんから」
わたくしは呟きます。
「健康で、長生きしてくださったら、それで良いのです」
「……それ、本人に聞かせたら?」
「怒るより、効果的だと思います」
ランタンとアーニャから、そのように言われたので、夕飯のときにでも、お伝えしようかしら。
陛下が城に戻られました。
お会いすると、わたくしはどうしても泣いてしまいます。なので閣下より接近禁止命令がでました。
陛下の肥満が治るまでは近寄れません。困りました。
とにかく、今は村へ買い出しに行くように命令されました。
アーニャとランタンを連れて村へおります。
しばらく戻らない方が良いと判断したので、城の買い出して、それから三人でショッピングを楽しみました。
良い気分転換になりました。心から楽しめたわけではありませんが、調子が良くなりました。
二、三時間ほど村をまわります。
カワサキさんの店で休憩しているとき、軽い地震が起きました。
すぐに店から外に出ます。
――お城が崩れていました。
わたくしは口を大きく開けて、びっくりしました。
そして声を大きくして、二人を呼びます。
「アーニャ、ランタン!戻りますよ!」
「了解」
「わかりました」
多い荷物を持って、坂をのぼります。
たいへん疲れますが、お互いを励まし合って進みました。
その道中で、城から逃げる陛下と閣下にお会いしました。
陛下はすっかり元通りだったので、わたくしは飛び上がって喜びます。
「陛下!ご無事なのですね!それにそのお身体!元に戻って良かったです!」
「それより早う逃げるゾイ!」
「なぜですか?」
「マイクカービィでゲス!逃げなきゃ耳がやられるでゲスよ!」
耳をすませますが、城からは何も聞こえてきません。
「あの、何も聞こえておりません」
「なに?……本当だゾイ」
わたくしたち五人は城へ向かいます。
橋近くにカービィはいましたが、その状態はすっぴんでした。
カービィの向こう側で、城が崩壊しています。
……またカービィにお願いする必要があるみたいですね。
わたくしは皆さんより前に出て、言いました。
「カービィ、瓦礫の山を吸い込んで」
「ぽよ!」
凄まじい吸引の音と共に、瓦礫はカービィに吸われます。
瓦礫がなくなり、無事に城の住人たちを救い出すことができました。
その日は、城壁に備蓄していたキャンプセットで、夜を過ごしました。
ここ数日大変な思いを抱えていましたが、それを忘れさせてくれるほど、楽しいキャンプとなりました。
陛下が元に戻って良かったですわ!