年の暮れ。
冬とまではいかないけれど、秋のように寒い空の下で。
風邪が流行りました。
村からも、城からも咳とくしゃみの声が聞こえてきます。
アーニャとランタンも、そしてわたくしも風邪をひきました。
「ごほ、ごほ……。風邪が治るまで、有給扱いにしていただきましょうか」
「お願いします。メイド長……こほ、こほ」
「頼んだわ。リーノ……」
一度、朝に集まりましたが解散しました。そしてメイド長であるわたくしが陛下を探して、城をさまよいます。
その途中でメタナイト卿に出会いました。
「メタナイト卿、ご機嫌よう……ごほ、ごほ」
「ごほ、ごほ……そなたもか。寝ていなくていいのか?」
「今日はお休みしますと、陛下に伝えたくて探しているのです。けれど、どこにもいらっしゃいませんわ」
「ふむ。……ああ、陛下ならそちらに」
廊下の向こうから、陛下とふらふらと歩く閣下がいらっしゃいました。
「陛下、閣下……ごほ、ご機嫌麗しゅう」
「お前まで風邪かゾイ!?ええい、さっさと部屋に戻っておるゾイ!」
「あの、お伝えしておきたいことが……。風邪が治るまで、メイド一同に有給をいただけませんか?」
「許可する!」
「それでは、皆様。ご機嫌よう」
「送ろう。……ごほ」
「ですが……」
「すぐそこだ。行こう」
「ありがとうございます」
わたくしはメタナイト卿と共に、自室に戻りました。
そして、自室のお菓子箱の中から、まだ開けていないのど飴を引っ張り出してメタナイト卿に差し上げました。
「喉が治れば、まだ楽ですから……よろしければどうぞ」
「ありがとう。いただこう」
――――――
風邪そのものは一日で治りました。
次の日にはスッキリと良くなっていたのです。
アーニャとランタンも、閣下も、大臣一家も、村の人たちも、そしてメタナイト卿たちも治っていました。
ですが、陛下だけは風邪をひいたままです。
どうやら、魔獣の力を借りて風邪をひいたようですわ。それはきっと、強力なウイルスなのでしょう。
わたくしはつきっきりで看病いたしました。
「陛下。これからはどうか、風邪をひきたいなどと仰らないでくださいね」
「もうひかないゾイ……」
「何か、食べられそうなものはありますか?」
「アイス……それにリンゴ……リンゴは細かくすったやつ……」
「かしこまりました。準備させます」
それぞれをアーニャとランタンに任せます。わたくしは陛下の汗を拭ったり、飲み物を飲む手伝いをいたしました。
――――――
新春、クイズショーを放送していたようです。
けれど、わたくしはメタ発言を聞くのが怖くて、番組は見ませんでした。
その日の夜に、陛下と閣下が空へ打ち上がる姿を見て、大変驚きました。
陛下たちが左右へ移動するたびに、わたくしもあちらへこちらへ足を動かしました。
それを見たフーム様が仰いました。
「心配しなくても、デデデたちなら大丈夫よ」
「軽い怪我で済んだとしても、心配なのです……」
陛下たちが地上に降りられるまで、わたくしは右往左往いたしました。
――――――
新年も落ち着き、普段の生活が戻ってきました。
わたくしたちはお正月最後の休日に、食事会を開きました。ちょうど全員の休みが重なっていたためですわ。
三戦士たちはおせちを食べたことがないと、仰るのでおせちを作ります。わたくしと、アーニャとランタンで朝から張りきって作りました。
急遽決定したため、それに村のお肉屋さんなどの店が閉まっているため、食材は決して豪華なものではありません。
しかし工夫を凝らして、普段は食べないものを作っていきます。
ちらし寿司とか、時間がなければ作れない料理を重箱につめていきます。それにからあげとか、皆さんに好かれているおかずも作ります。
メタナイト卿たちが地下の厨房にやって来ました。
先に調理中に出た汚れものを洗い終えてから、席につきます。
手を揃えて「いただきます」と声を揃えました。
おせちは好評でした。
三戦士たちは、それぞれ恋人が作った料理を言い当てました。
自分たちの料理を恋人に理解してもらえているというのは、たいへん嬉しいものですね。
仕事始めの日もすぎて、城にも村にも日常が戻ります。
その日は、朝から雷雲がプププランド中を覆っていました。ときどき、雷が落ちてはわたくしたちを驚かせます。
玉座の間へ掃除に行くときでした。
前方から、ソードナイトさんとブレイドナイトさんが誰かを運んで、こちらに走ってきます。
その方はナックルジョーさんでした。彼は傷だらけの姿で気を失っていました。
彼らはわたくしに気づくと、足を止めてくれました。
「ソードナイトさん、ブレイドナイトさん!どうしてナックルジョーさんが……?」
「話は後で」
「今は治療が優先です」
「そうでしたわね。わたくしも治療のお手伝いをさせてください」
「それは心強い」
「ぜひお願いします。こちらへ」
「はい」
先に進むお二人の後を追いかけます。
魔獣化した事件から体力が大幅に上がったわたくしは、お二人の速さにもついていけました。
大臣一家のお部屋に到着します。
わたくしは不安になりました。ナックルジョーさんがケガをしているということは、何か事件に巻き込まれているはずです。それに大臣一家を巻き込むことは、躊躇します。
「こちらに運ぶのですか?」
「ここが、城の中では安全ですから」
「それは、そうですけど……」
玉座からの近さ、安全さでは確かに良い場所かもしれません。それでも、と思うのです。
止める前に、お二方は大臣一家の玄関の扉をノックされました。
ナックルジョーさんはフーム様の部屋に寝かされます。
わたくしとフーム様の二人で、ナックルジョーさんをお世話します。汚れを拭い、傷を消毒し、包帯を巻くのです。
彼はいっこうに目を覚ましません。仕方ないので、一旦お茶でもいれようとなりました。
ソードナイトさんとブレイドナイトさんは、ブン様と一緒に玉座の間へ戻られました。
デリバリーシステムのアクセス歴を調べられるそうです。
キッチンにて、わたくしは沸騰した湯をコップにいれます。白湯のできあがりです。今日は白湯が飲みたい気持ちなのです。フーム様は紅茶を、ナックルジョーさんにはお水、カービィはジュースにします。
「今日は、何か起きそうな気がいたします」
「ふふ、リーノったら。カービィが来てから、いつだって何か起きてるでしょ?」
「それも、そうですね」
「ぽよ!」
初めてではないと気づいて、少しだけ体に張っていた力が抜けました。
フーム様の部屋に戻ると、ナックルジョーさんは起きていました。
「ジョーぽよ!」
カービィさんが嬉しそうにナックルジョーさんに近寄ります。
フーム様が事情を尋ねられると「関係ない」と言われました。ベッドから出ていき、外へ行こうとされます。
それでもカービィが、ナックルジョーさんをベッドに再び寝かせました。
「……わあったよ。大人しくしといてやるよ」
「ぽよぽよ」
「ふふ、素直じゃないんだから」
「そうですわね。ところで、お水いりますか?」
「おう。くれ」
「かしこまりました」
わたくしはナックルジョーさんにお水をいれたコップを渡しました。
――――――
ナックルジョーさんが無事に目覚めたので、わたくしは仕事に戻ります。
放り出してしまった玉座の間を掃除し、他の仕事をしていたアーニャたちと合流いたしました。
……ナックルジョーさんがプププランドに来ただけで、今日は終わると思っていたのです。テラスから陛下の車が走り去るのを見るまでは。
「陛下たちは、今城内にいらっしゃいますよね……?」
「ええ、閣下のお部屋に入っていく様子を先程見ましたね」
「どうかしたの?メイド長」
「あの、見間違いでなければ、メタナイト卿が陛下の車を運転して城外へ……」
「行っちゃダメですよ」
「アーニャ……」
「今日は、私たちと一緒にいてください」
「わかりました……」
「まあ、メタナイト卿なら大丈夫よ!強いもの!」
「そうですよ。危なくなったら、ちゃんと逃げてくれます」
二人がわたくしに寄り添ってくれます。
わたくしは笑顔を返しました。……うまく笑えているといいですね。
次の日。
朝日がのぼるころと共に、仕事を始めます。
陛下の朝食が終わり、厨房へ帰る途中でフーム様たちに会いました。
「ご機嫌麗しゅう……まあ!?」
「おはよう、リーノ」
「よう……」
「ぽよ」
そこには、昨日と同じフーム様と、比較的まだ汚れていないソードナイトさんとブレイドナイトさん。
ボロボロで汚れているメタナイト卿、ブン様、カービィ、ロロロとラララ、ナックルジョーさんがいました。
私の後ろにいたアーニャとランタンも驚きます。
「ちょっと!ソード、大丈夫なの?」
「問題ない。かすり傷だ」
「ブレイドナイトさんは?ケガしていませんか?」
「大丈夫だよ、アーニャ。誰も酷いケガはおっていない」
ブレイドナイトさんの言葉を聞いて、メタナイト卿と目を合わせます。メタナイト卿は頷かれました。良かった、大きなケガはなさっていないのですね。
ランタンがソードナイトさんの体を確かめながら質問します。
「一体何をしてきたの?」
「パワードマッシャを倒してきたんだ」
「……マッシャですって?あの最強魔獣の?」
思い出されるのはしばらく前の出来事です。
城中が魔獣でいっぱいにされた日、ナックルジョーさんは最強魔獣マッシャをこの地によびました。
あの日の記憶がよみがえります。
アーニャが大声を上げました。
「あのマッシャと戦ったのですか!?」
「あのマッシャよりもっと強い、パワードマッシャと戦ったんだよ。最後はジョーが倒したけどね」
「もっと……強い……」
わたくしたち三人はヘロヘロと座り込みます。
「あれ?言っちゃいけなかったか?」
「ブン!」
考えるブン様に対して、フーム様が怒られます。
「わたくしたち、何も知らないで……のんきに寝ていましたわ」
「それでいい。そなたたちが安全だからこそ、私たちは力をふるえるのだ」
メタナイト卿はそう仰い、ソードナイトさんとブレイドナイトさんが力強く頷きます。
「あなた様がそう仰るならは、そうなのでしょう。ですが、何も知らされないというのも、寂しいですわ」
「……すまなかった。今回は時間がなかったのだ」
「お察しします……このような事件、次は起こらないことを願いますわ」
わたくしはメタナイト卿とじっと視線を交わしました。
メタナイト卿はゆるりと、困った笑みを作られたようでしたわ。