――森が燃えていました。
わたくしは、森には陛下や閣下、フーム様にブン様、それにハニーがいることを思い出しました。
ほうきを放り出して、城の廊下を走り出します。
ただ、ただ。陛下たちの身が心配でした。
城の橋の上で、メタナイト卿とアーニャとランタンに出会いました。
珍しい組み合わせでした。それにも気づかず、わたくしはひたすらに森へ向かおうとしました。
「ちょっと、リーノ!どこに行くの?」
「離してください」
ランタンがわたくしの腕を掴みます。
異変を感じたアーニャにも、ランタンが掴んだ反対側の腕を掴まれます。
がっちりと掴まれて、身動きがとれなくなりました。それでも抜け出そうと体をよじります。
「森の方へ行くならダメです。危ない……」
「昨日から陛下たちが、フーム様たちが森に行っています。助けに行かなくちゃ」
「あなたの身も危険になるでしょ!」
「では、どうすればいいんですか!?このまま待っていろと?できません!」
「落ち着け。先ほどワドルドゥ隊長が様子を見に行った。報告を待つんだ」
わたくしは首を振りました。
「わたくしは、自分の目でみんなの無事を、確かめたいのです……」
沈黙が流れました。
三人はわたくしを森に行かせたくなくて。わたくしは森に行きたくて。話し合いは平行線をたどります。
――そのとき、水気が頬をなでた気がしました。
顔を上げて、火事がおこっている方角を凝視します。雷雲が見えました。雨が降っているようです。
火はどんどんおさまっていきます。
「……アーニャ、ランタン。それにメタナイト卿。火がおさまったなら、わたくし、森へ行ってもいいですよね?」
「……ええ」
両腕の拘束がなくなりました。
わたくしは三人に「すぐ戻ります」と言ってから、森に向かいました。
走っても遅い。なので、地面を凍らせてアイススケートのように滑ります。
ひたすらに前だけを向いて、雨と雷が落ちる森へ急ぎました。
――――――
森の外側で、陛下たちと合流しました。
みなさん煤だらけで、疲れている様子です。わたくしは、生きていてくれたことに安堵しました。スケートを止めて、ふらふらとみなさんに近寄ります。
「リーノ!」
「フーム様……ああ、ご無事で良かった。どこも痛くありませんか?お怪我は?」
「みんな無事よ。デデデたちのせいで酷い目にあったけど」
ぐるりと頭を回して陛下と閣下の方を見ます。
「ひっ!リーノ、なんだか……」
「こ、怖いゾイ!」
「陛下……閣下……」
ゆらりと歩み寄り、そして――。
「ひいいいー!許してくれでゲス!」
「すまんかったゾイ!!!」
縮こまるお二人に抱きつきました。
ぎゅっと力を込めます。
「……へいがと、がっがが、ご無事で……よがっだ」
わたくしは大粒の涙を流しました。
陛下と閣下はポカンと驚き、それからわたくしをあやすように頭をなでたり、背中をぽんぽんと優しく叩きました。
「ご、ごめんだゾイ」
「本当にすまないでゲス」
「しばらぐは……危ないごど、しないで〜」
敬語を忘れて、子供のように話します。
涙が落ち着くまで、お二方はわたくしの腕の中にいてくださいました。
エコツアーに参加して、火事に巻き込まれた村人たちにしっかりと頭を下げて謝罪してから、わたくしたちは帰城しました。フーム様、ブン様、カービィとは、城内に入ってから途中で別れます。
陛下たちにはまずお風呂に入っていただき、それから遅めの朝食を食堂に運びました。
サンドウィッチを静かに食べられる姿を、じっと見守ります。
陛下と閣下は居心地が悪そうにされていました。ですが、お二方の身を案じていたわたくしとしては、お腹いっぱい食べている姿を見ていたいのです。
「失礼します」
「失礼します」
食堂に、アーニャとランタンが入って来ました。
二人の目当てはわたくしだったらしく、真っ直ぐこちらに向かってきます。
ランタンが優しく、少し腫れた目元辺りを触れました。
「たくさん泣いたのね。温かい濡れタオル持ってきましょうか?」
「それか、少し休みませんか?」
「どちらも後でお願いします。今はここで、陛下たちのお傍にいたいので」
アーニャとランタンがちらりと陛下たちを見ました。
「ちゃんと怒りましたか?」
「いいえ。安心したら、怒りが飛んでいっちゃいました」
「あらダメよ。ガツンと言ってやらないと」
「そうでゲス!怒ってくれでゲス!!」
「もう耐えられんゾイ!リーノ、怒れ!その方が楽ゾイ!」
「お二人がいてくださって嬉しいので、怒りません。……晩ご飯は何がよろしいですか?」
「優しくするなゾーイ!!!」
陛下の叫びが、城中にこだましました。
――――――
エコツアーで燃えた森を元に戻すべく、陛下と閣下は植林することになりました。
ウィスピーウッズの森が特別なのでしょうか?植えた苗木は見る見るうちに成長し、一週間ほどで元の森の姿に戻りました。
植林を頑張った陛下と閣下のために、より良い食材を求めて村に買い出しに来ました。
わたくしが村の中を歩いていると、何やら村人たちがスコップやらシャベルを持って走っていきました。
どうしたのでしょうか?
「おお、リーノ」
「キュリオさん」
考古学者のキュリオさんです。何やら分厚く古い本を片手に持っています。
「みなさん、お忙しそうですね。何か発見されましたか?」
「大発見をしたよ。なんと、トッコリの先祖が隠した財宝が、このププビレッジにあるかもしれないんだ!」
「すごい!それでみなさん、財宝を探すために道具を持っていたんですね」
「リーノも来るか?」
「いえ、今日は都合が悪いので止めておきます」
財宝を見てみたい気持ちもありましたが、それ以上に陛下と閣下のためにおいしい食事を作ってあげたいのです。
城に戻り、陛下のお部屋へ向かいました。
ベッドの上で、陛下がトッコリをもてなしていました。
……立場が逆転していませんか?
「おう!リーノ、茶」
「トッコリ、わたくしはお茶ではありません。陛下、これは一体どういうことでしょうか?」
「いいから、茶を持ってくるゾイ!」
「はあ……?」
わたくしは部屋を出て、一度厨房に向かいます。
厨房にはアーニャとランタンがいました。椅子に座って休憩しているようです。
二人はわたくしに気づくと、笑いかけてくれました。
「ただいま戻りました。アーニャ、ランタン」
「おかえりなさい」
「おかえり、リーノ。いいお肉は買えた?」
「ええ。……あの、話が変わりますが、陛下とトッコリ、どうしたんですか?」
「ああ、あれね」
ランタンはため息を吐き、アーニャは困ったように言いました。
「トッコリの御先祖が、ププビレッジに財宝を隠した噂は聞きましたか?」
「はい。村でキュリオさんに聞きました」
「陛下はその財宝を狙っているの。多分、トッコリから奪うつもりかもね」
「陛下ったら……その時は止めなくてはいけませんね」
「話を聞いてくださるでしょうか?」
「わかりません。ですが、諦めてもいけません」
わたくしは決意を秘めて、陛下とトッコリのために茶の準備を始めました。
お茶の準備には、アーニャとランタンも手伝ってくれました。
カートに緑茶、紅茶、ジュース、コーヒーを乗せて、陛下の部屋へ出発します。
……その途中の廊下で、走る陛下と閣下、そして陛下の手に捕まるトッコリに出会いました。
「まあ陛下、どちらに?」
「急用ゾイ!茶はいらん!」
「行ってくるでゲス!」
「行ってらっしゃいませ」
あっという間に姿が見えなくなりました。わたくしたちは立ち尽くして、それからランタンが言いました。
「これ、どうする?」
「もったいないですよね。せっかく用意したのに」
「あ……三戦士たちと一緒に飲むのはどうですか?」
「いいわね!この間のBBQのリベンジといきましょ!」
わたくしたちは頷き合い、三戦士たちがいるだろう場所を目指して歩き出しました。
三戦士たちは玉座の間で、玉座を調べているようでした。休憩に誘うと、快く迎えてくれました。
玉座の間の向かい側、ベランダの端にレジャーシートを敷きます。そこに六人が座りました。
ちょっとぎゅうぎゅうですが、それも楽しいですわ。
「それで、玉座の間で何をしていたの?」
ランタンが聞くと、二人の従者は主人の解答を待ちました。
「……ダウンロードシステムの履歴を調べていた」
「――魔獣がダウンロードされていないか確認されていた……ということですか?」
「そうだ。通信の記録はあったが、魔獣はまだダウンロードされていなかった」
「……これから魔獣が来るんですか?」
アーニャが不安そうにブレイドナイトさんを見つめます。戦士は大丈夫だと言うように、頷きました。
「隠れていれば、大丈夫だ。だから、午後からはみなで部屋の中に隠れていてくれ」
ソードナイトさんはランタンを見つめます。
「問題なければ、呼びに行く」
「だったら、リーノの部屋に集まりましょ。いいかしら?」
「かまいませんよ。わたくしの部屋が一番広いですからね」
お茶休憩は十分で終わりました。
戦士たちと離れて、歩きだします。もうすぐ魔獣が来るので、真っ直ぐわたくしの自室に向かいました。
――部屋に到着して、そわそわと落ち着かないわたくしたちでした。
ですが、一際大きな雄叫びが聞こえてきて、震え上がります。
わたくしたちはテーブルから移動して、ソファに座ります。お互いの腕を組んで、恐怖に負けないよう頑張りました。
数分ほどで、ソードナイトさんとブレイドナイトさんが訪ねてきました。
「魔獣は海の方角に行った」
「城内は安全になったから、普段通りの生活をおくっても問題ない」
その言葉を聞いて、やっと肩の力が抜けましたわ。
陛下と閣下たちは、夕方に帰ってきました。
海に落ちたらしく、服は乾いたけれど海水でベトベトです。すぐにお風呂に入っていただきました。
結局、財宝は手に入らなかったと嘆いていました。
それは残念でしたけれど、トッコリから奪わずにすんで良かったです。