花粉症の季節がやってきました。
城でも村でも、咳の音が聞こえてきます。
わたくしは花粉症ではありません。
なので花粉が多く飛んでいる日は、やたら目がゴロゴロするなあと、違和感があるぐらいです。
しかし、こんなに花粉が飛んでいる年は初めてです。
……まさか、陛下は関係していませんよね?
それから、とある日の夜中。
なにか、歌のようなものが聞こえました。それは玉座の方から聞こえてきた気がして。
わたくしはパジャマ姿にカーディガンを羽織り、夜の静まった廊下を歩きます。
歌は玉座の間へ近づくにつれて、大きくなっていきます。
その玉座の間の扉前に、誰かいました。あのシルエットは……。
「メタナイト卿、こんばんは」
「こんばんは、リーノ。こちらへ」
促されるままに玉座の間の向かい側、ベランダの方へ身を隠します。
静かにしていると、陛下と閣下が鳥かごらしき物を持って出てきました。
お二人はそのまま陛下の自室方面へ歩いて行かれます。
充分な距離があいてから、わたくしたちは身を隠すのをやめました。
「陛下がお持ちだった鳥かごはなんでしょうか……?」
「あの中にはザ・ツインナッツという双子の妖精が入っている」
「双子の妖精……」
「リーノ。おそらく、そなたがあの妖精たちの世話をするように命令されるだろう。何かわかれば、教えてくれ」
「かしこまりました」
「今日はもう遅い。送ろう」
「はい。お願いします」
愛する人と手を握り、一時を共にします。
そして、夜中に警報が鳴りました。
それから大砲の音が、城全体を揺らします。窓から外を見れば、巨大なイモムシが城に向かっていました。
イモムシは城に張り付き、糸をはいてサナギになりました。
あれは一体なんなのでしょうか……。
――――――
翌日の朝。
陛下たちの朝食後に、こっそりと命令されました。
「リーノ。お前はわしの部屋にある、あるものの世話をせい」
「内緒でゲスよ」
「かしこまりました。すぐに行動を開始します」
片付けはランタンとアーニャに任せて、わたくしだけ別行動をします。
陛下の自室に入ると、窓辺にその子たちはいました。
鳥かごに窮屈そうにいれられている、双子の妖精です。朝日に照らされて暑そうでした。
「たいへん!すぐに移動させますからね」
わたくしはカゴを、日が当たらない端に移動させます。カーテンが日差しをさえぎり、二人は暑さから解放されました。
「ありがとう」
「あなたは……?」
「わたくしはリーノ。あなた方のお世話を任されたものです」
双子の警戒心を解いてもらいたくて、わたくしは微笑みました。
すると、双子は両手を胸の前で握り、頭を伏せます。
「お願いです!」
「私たちをここから出して」
「……ごめんなさい。このかごの鍵を持っていません。だから、あなた方を出すことはできません」
「そんな……」
「ああ……」
わたくしは申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
せめてもの償いに、彼女たちの世話を頑張ることにしました。
まずは食事です。
元気がなければ、いざというとき逃げ帰ることができません。彼女たちに何が食べたいか聞くと、蜂蜜水と答えたので用意しました。
美味しそうに飲んでくれました。
どうやら、いつもは果実水を飲んでいるようです。
「蜂蜜水はなかなか飲めないから」
「すごくおいしいわ」
「それは良かったです。こちらに滞在される間は、どちらもご用意できますから、遠慮なく言ってくださいね」
それから、生活環境を整えます。
鳥かごの床は硬いので、クッション性のある床材を小さく切って入れます。その上に布を敷いてあげます。
これで、過ごしやすくなりました。
「ありがとう」
「とても過ごしやすくなりました」
「良かったです。他に何かあれば……」
「ふわぁ」
双子の一人があくびをしました。
わたくしはにこりと笑います。
「お疲れのようですね。部屋を暗くしますので、どうぞお休みください。わたくしは傍で本でも読んでいますので、起きたら教えてくださいね」
「わかりました」
「おやすみなさい」
明かりを消します。
窓の外から入ってくる自然光だけが、部屋の中を照らしました。
昼ごろになると、部屋の外が騒がしくなりました。
強風が窓を何度も叩きます。そのため、双子が目覚めてしまいました。
わたくしはかごを窓からそっと移動させて、部屋の中央にあるテーブルへと移動させます。
「ここなら、うるさくありませんよ」
双子たちはほっとしたように笑います。
「ありがとう。リーノは本当に優しいわ」
「そのようなことは……。わたくしは、陛下のご命令がなければ、あなた方の世話すらできませんでしたから」
「かといって、その陛下にお礼は言えません。私たちをこうやって閉じ込めているんですもの」
「……陛下があなた方に飽きたり、手放そうと思えば良いのですが……」
すぐにはうまくいかないでしょう。そう思っていたら、突然ドアが開きました。
「リーノ!」
「フーム様、ブン様!」
「ここに妖精はいない?」
「お二人なら、こちらに」
わたくしはかごがよく見えるように、その場からズレました。
フーム様は「いた!」と仰って、かごに近づきました。
「ねえ、お願い!カービィとモスガバーの戦いを止めて」
「モスガバーは平和を愛しています」
「私たちの歌で止めてみましょう」
フーム様は鍵を懐から取り出して、解錠なさいました。
そしてフーム様とブン様、それぞれ一人ずつ妖精を手に乗せます。
「ありがとう、リーノ。あなたのおかげで快適でした」
「このご恩は忘れません」
「ならば、できることなら陛下を許してあげてくれませんか?」
その言葉に双子は顔を見合せて、それから言いました。
「許しましょう」
「ありがとうございます。さようなら」
「さようなら」
「また、いつかどこかで」
別れを告げた双子は、フーム様たちと共に去って行きました。
やがて強風がおさまります。
後に会ったアーニャとランタンによれば、大きな蛾と共に双子の妖精は帰ったそうです。故郷の南の島に無事に帰れて良かったと、そう思うのです。
そういえば、メタナイト卿に妖精たちについて報告するよう頼まれていました。
案外早く事件が解決したので、報告する時間がありませんでしたね。
「今回ばかりはスピード解決だったということで、許していただきましょう」
――――――
今、村に恐竜ブームがきています。
村から離れた荒野の発掘現場にて、恐竜の骨の化石が見つかったからです。
そして陛下にも恐竜ブームがきました。
以前オススメしたときには、見向きもされませんでしたが……。タイミングというのは大事ですね。
陛下は城の図書室で、恐竜の本をたくさん読まれました。字は読めなかったはずなので、多くの絵をご覧になられました。
絵本から図鑑など、とにかく恐竜が載っている本はすべて読まれます。
すべてを読んだ、次の日の朝。
陛下は「恐竜を探しに行く」と仰られました。
城の廊下で、わたくしと閣下は困り果てました。
「――陛下、たいへん言い難いのですが」
「なら、言わんでいいゾイ」
「いえ、言わせてください。恐竜はずっと昔に滅んでしまったんですよ」
「嘘だゾイ!信じられんゾイ!」
「リーノの言う通りでゲスよ……だから、探しに行ったって無駄でゲス」
「二人してわしを騙しているゾイ!」
そして陛下は走り出しました。
あちらは大臣一家のお部屋です。……フーム様に聞きに行かれたのでしょうか?
「陛下……きっとお心が痛むでしょうね」
「そんな暇もなく、こっちは振り回されるでゲスよ…………ほら」
陛下が走って帰ってきました。
肩で息をしています。
「エスカルゴン!すぐにキュリオの所に行くゾイ!」
「はーい。そんじゃ、リーノ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
陛下は閣下を引っ張って行きました。
わたくしは、仕事に戻ります。アーニャとランタンが待っていますからね。
それから数日後、陛下は悲しみゆえに「恐竜はまだ生きている!」と触れ回りました。
本屋に自分で書いた恐竜に関する本を置いていったり、村の道に恐竜の足型を残したり。
わたくしは急いで村のみんなに謝りに行きましたわ。
みなさん、陛下の困り事には慣れっこで、中には面白いものもあるからと、笑って許してくれます。
村人たちの心の広さに感謝しつつ、わたくしは陛下に怒りました。
「陛下!これ以上、村人たちを困らせてはいけませんわ」
「うるさーい!かくなる上は……!」
そう仰って玉座の間に籠られます。
数十分後に、出てこられたのは陛下と閣下と、知らない方でした。
閣下と同じくらいの身長で、豊かな白髪とお髭とメガネが特徴的でしたわ。白衣を着ていらっしゃいます。医者か研究者でしょうか?
陛下は上機嫌で、知らない方を紹介してくださいます。
「リーノ。こちらはDNAの権威ドクターモロだゾイ。恐竜の骨が出た発掘現場に案内してやれい」
「かしこまりました。モロ様、ご案内させていただきます」
「うむ。よろしく頼むよ」
紳士的に見える態度ですが、玉座の間から突然現れたのは怪しいですわ……。
わたくしは警戒を気づかれないように、モロ様に接します。
――――――
発掘現場に到着しました。
モロ様はさっそく、発掘作業をしているフーム様たちに声をかけられます。
わたくしは誰にも挨拶せず、城に戻りました。
はやくメタナイト卿に知らせるべきだと判断したためです。
メタナイト卿は彼の自室におられました。
部屋の中に入り、手早くドクターモロについて報告します。
メタナイト卿は少し考えられてから言葉を発しました。
「ドクターモロは魔獣かもしれない」
「やはり……ああ……陛下」
「辛いだろうが、何かわかればまた報告してくれ」
「もちろんです。では、失礼いたします」
わたくしはメタナイト卿の部屋を出て、とりあえず仕事に戻りました。
数日たつと、プププランドに恐竜パークがオープンしました。
最近、城からワドルディたちが減っていたのは、パークを造りに出ていたためなんですね。
メイド三人は、パーク内の売店を手伝う事になりました。ですが、わたくしだけは陛下に連れられてボートに乗ったのです。
「面白いものを見せてやるゾイ!」
「はあ……」
嫌な予感がしますわ。
陛下とわたくしの他に閣下、フーム様、ブン様、カービィ、そして十人ほど村人たちが乗ります。
村人たちの中には、サトさんとハナさんがいらっしゃったので手を振りました。あちらも気づいてくれて、手を振り返してくれました。
「出発進行ゾイ!」
陛下がボートを発進させます。
数分ほど川を下ると、両扉が閉じられた門が見えてきました。
近づくと扉はボートの大きさだけ開きます。その門をくぐりました。
門の先は、ずっと川が流れており、左右の陸地には森が続いています。
また数分ほど川を下ると、陛下はわざとボートを停止させます。そしてボート内のボタンを押しました。
右手側の陸地に、檻に入った羊たちが現れます。
――そして、陛下そっくりの青い恐竜が森の奥から出てきて、羊たちを食べちゃいました。
青い恐竜はこちらに気づきます。
「マズイ!」
「うわあああ出すゾイ!」
フーム様と陛下の声と同時に再び、ボートが急発進しました。
それに続いて青い恐竜が追ってきます。
わたくしは狙いを定めて、特大の氷を青い恐竜に放ちました。
――ガゴン!!
鈍い音がして、氷と青い恐竜は川の中に落っこちました。
「やった!」
「――いえ、まだですね」
恐竜にとって川は浅かったようです。身を起こして直ぐに追いかけてきました。たいへん怒っているように見えました。
「リーノ!怒らせちゃったじゃない!!」
「すみません。ですが、もう何発か当てれば気絶するかと」
「やるゾイ!!」
「かしこまりました」
わたくしは大きさの違う氷を何個も作り出し、タイミングをズラして放ちます。
――当たり、外れ、外れ、本命が当たります。
青い恐竜はようやく目を回して、大地に沈みました。
「やったゾイ!」
「陛下、このまま進んでください!逃げましょう」
そしてわたくしたちは洞窟に入ります。
陛下と恐竜が混ざったアレは何だったのか?答えは出ないまま、今度は大きな蚊に襲われます。
逃げるように洞窟を進み、また空の下に出て。
次は閣下と恐竜が混じったような、恐竜が出てきました。
それは青い恐竜と合流して、わたくしたちを追いかけてきます。
氷で何とか応戦しますが、こちらの足場が安定しないため、上手く狙えず当たりません。
やがて追いつかれてしまいました。
ボートが陸に乗り上げて、みんなが森の中に放り出されます。
散り散りに逃げていく背中を見ながら、わたくしも一人で逃げ出しました。
できたらフーム様たちと逃げたかったですね。そうしたら守ることができたのに……。
夜の森の中、息をひそめてドクターモロの研究所を目指します。
その途中でメタナイト卿に出会いました。
メタナイト卿は、わたくしにそっくりな恐竜に跨っていましたわ。
わたくしはメタナイト卿によく懐いている恐竜に、目をぱちくりとさせました。
「メタナイト卿、その子は一体……?」
「うむ。恐竜に襲われかけたところを助けられたのだ。それから行動を共にしている」
「そうでしたか。……わたくしに似たのでしょうか?」
「かもな」
もし、メタナイト卿そっくりな恐竜がいたら、わたくしに懐いてくれるでしょうか?
そんなことを考えつつ、二人と一匹で森の中を進みます。
しばらく歩くと、ドクターモロの研究所らしき建物が見えてきて。建物の前では、村人たちにそっくりな恐竜たちに囲まれるみんなの姿がありました。
「いけない!」
「……!」
メタナイト卿はわたくしたちを置いて、フーム様たちを助けに行きました。
カービィそっくりなピンクの恐竜が、ファイヤーをコピーします。恐竜になってもカービィはカービィなのですね。驚きましたわ!
カービィ本人はワープスターで空を飛びまわり、ピンクの恐竜から逃げます。
そして、陛下が取り出した特別な爆弾を吸い込みました。
派手で底知れぬ力を秘めた冠を、カービィは頭にかぶります。
それで――。
カービィを中心に爆発が起きました。
建物は崩れ、恐竜たちは骨と化しました。
メタナイト卿とわたくしを助けてくれた、あの子も骨になりました。
ショックでしたが、仕方がないことだと思いました。
それよりも、メタナイト卿たちと合流します。
みんな大きなケガもなくて、安心しました。
ですが、みんなを危ない目にあわせた陛下と閣下には、きっちり怒りました。
少しでも反省してもらえたらいいのですが……。