今日も陛下の部屋を掃除します。
ですが……。
「お前たち、もうよいゾイ」
部屋に戻られた陛下が、わたくしたちに声をかけました。
「陛下。ご機嫌麗しゅうございます。あの、もうよいとは……?」
「あとはエスカルゴンにやらせる。下がるゾイ」
「?かしこまりました」
わたくしと、アーニャと、ランタン。そしてワドルディたちは顔を見合わせます。
その表情には疑問が浮かんでいました。ですが、陛下に質問はせず、部屋から移動しました。
次の仕事場に向かいます。
次は客室を掃除します。大きい部屋が多いので、気合いが入りますわ。
――――――
次の日。
早朝、朝食前から声が城に響きます。
あれは陛下の声です。すでに朝食を作っていたわたくしは、手を止めました。
そして一緒に朝食作りをしていたアーニャとランタンに言います。
「陛下のご様子を見てきます。後をお願いします」
「はい、行ってらっしゃい」
「任されました。リーノ」
「二人とも、ありがとうございます」
わたくしは厨房を出て、陛下の部屋へと歩き出しました。
陛下の部屋まで行くと、外から中を覗く人たちがいました。
閣下と、大臣一家と、カービィです。
わたくしは彼らに近づきました。
「閣下、みなさま、お揃いで」
「ぽーよう」
「しー」
閣下は静かにするようジェスチャーされました。そして「中を見ろ」というように、部屋の奥を指さします。
わたくしは部屋の奥、ベランダへと目を向けました。
――そこには、陛下と閣下がいらっしゃいました。
「……こちらにも閣下。あちらにも閣下がいらっしゃいますわ」
「ふふ。デデデといる方はロボットなのよ。リーノ」
「まあ、そうでしたか」
フーム様の言葉をうけて、改めて陛下と向き合う閣下そっくりなロボットを見ます。
……顔や関節部分にネジが見えました。
「確かに、あちらはロボットのようですね。ご自身そっくりなロボットを作れるなんて、すごいですわ」
「まあ、大したことないでゲスよ」
和やかな空気が流れました。
しかし、その雰囲気を壊す一言が聞こえてきます。
「カービィを倒すゾイ!」
「カシコマリマシタ」
「カービィ逃げて!」
「ぽーよ!?」
いち早く気がついたフーム様が、カービィを逃がします。
閣下のロボが、逃げたカービィを追います。
わたくしはロボの足元を凍らせました。
「えい」
「アワワ」
ロボは動けなくなり、やがて足が壊れて動かなくなりました。
ロボから煙が立ち上ります。
「ああ……ロボやーい」
閣下が心配そうにロボに駆け寄りました。
そして、陛下がこちらにやって来ました。ロボを見てから、わたくしを見て怒ります。
「なぜロボを止めたゾイ!」
「カービィに意地悪をしてはいけないからです。彼は何もしていませんわ」
「ぐぬぬ……ふんだ!さっさと朝食にするゾイ!」
「かしこまりました」
陛下はずんずんと廊下を進みます。おそらく食堂へ向かわれたのでしょう。
わたくしは大臣一家とカービィに向き直りました。
「それでは、わたくしはこれで。朝食の準備がありますので」
「リーノ、ロボを止めてくれてありがとう」
「どういたしまして。では、失礼いたします」
ぺこりと頭を下げます。
次に閣下の傍へ近づきました。
「閣下」
「……なんでゲスか」
「ロボの様子はいかがですか?」
おそるおそる質問します。
閣下はこちらを振り向きました。少しだけ、目が潤んでおられました。
「キャタピラがちょっと壊れただけでゲスから、これならすぐに直せるでゲスよ」
「それは良かったです。……すみません。カービィのためとはいえ、閣下のロボを壊してしまいました」
「いいでゲス。私もこのエスカルゴンロボには、悪いことをして欲しくなかったでゲスから……」
「そう言ってくださると助かります。……では、わたくしは朝食の準備を急ぎますので、閣下もいらしてくださいね」
「すぐ行くでゲス」
再び頭を下げてから、わたくしは早足で廊下を進みました。
――――――
閣下のロボは修理されました。そして陛下のために働きます。
その度に壊れて、閣下の下に戻ってきました。
閣下は睡眠時間を削ってロボを直されます。今では、フーム様も参加しているとか……。
お二人とも、目の下に濃いクマを作っています。
あれでは体に良くありません。なんとか、休んでいただきたいですね。
原因である陛下は、閣下のロボを大切に扱ってくださるわけではないようです。
困りましたわ……。
以上のことをメタナイト卿に相談しました。
わたくしたちは中庭にいます。わたくしとメタナイト卿の視線の先では、ブン様とカービィがボール遊びをしていました。
噴水の縁に座ってお話しているので、水しぶきがちょっとだけ肌にかかります。冷たくて気持ち良いぐらいです。
「メタナイト卿、どうしたら良いと思いますか?」
「そうだな……」
メタナイト卿は静かに考え始めました。わたくしはじっと、答えを待ちます。
――ヒュー……ドカン!!
空気を切り裂くような音と、爆発音がします。
ブン様の後ろで爆発が起きました。
「一体何が……!?」
ブン様とカービィは何かに気づいているのか、視線をカービィの奥へ向けています。
わたくしもそちらを見ました。
あれは……閣下のロボ!?ロケットランチャーを構えています。
「――いえ、ロボに変装した閣下ですわ!」
よく見れば、ロボの足元がキャタピラではありませんでした。閣下の足です。
わたくしは急いで分厚い氷の壁を作り出しました。
狙いは閣下とカービィの間です。
――ガキィン!!
凍えるような冷気が、辺りに落ちてきます。狙い通り、閣下とカービィの間に壁を作れました。
わたくしは急いで閣下の傍に走ります。
「閣下!どうされたのですか?急にカービィを狙うなんて……」
「リーノ……陛下にカービィを倒すよう命じられたでゲスよ」
閣下の目のクマは、昨日よりも酷くなっている気がしました。
わたくしは悲しい気持ちになりました。
「閣下、どうかお止めください。寝てないのではありませんか?ここはわたくしに任せて、今日のところはゆっくりと休んでいただけませんか?」
両手を閣下の手に添えて、お願いします。
閣下は言葉を力なくこぼされました。
「…………すまんでゲス」
「謝るなら、カービィとブン様にお願いしますわ」
「……今度謝るでゲス」
「かしこまりました」
閣下はよろよろと、元気がないご様子で中庭から去っていきました。
わたくしはそっと息を吐きます。
分厚い氷の壁を迂回して、ブン様とカービィ、それにメタナイト卿と合流します。
「みなさん、ご無事ですか?」
「なんとかね。エスカルゴンの奴、ひでえよ」
「寝不足で正常な判断ができていないのです。どうか、お許しください」
「うーん……。とにかく、今日は中庭で遊ぶ気分じゃないや。カービィ、村行くぞ」
「ぽよぽよ」
「またね。リーノ、メタナイト卿」
「はい、また」
「ではな」
ブン様はカービィを連れて行きました。
その後ろ姿を見送ってから。わたくしはとある部屋を見つめます。
そこは陛下の部屋でした。
「――陛下の部屋が、どうした?」
「きちんと、お話しなくてはいけないと思いました」
わたくしの心はメラメラと燃えていました。
陛下の部屋。
扉を激しく開け放ちます。大きな音に驚いた陛下は、びっくりした顔をこちらに向けました。
「な、なんゾイ」
「陛下。閣下と、閣下のロボについてお話がございます」
凛とした……というよりも、静かだけど激しさを持った口調でお話します。
後ろには、なぜかメタナイト卿がついてきており、わたくしの姿を観察されておりました。
陛下はわたくしの様子に気がつかれたのか、視線をわざとそらします。
わたくしは陛下の前に行き、じっとお顔を見ました。
「どんな用件か……おわかりですか?」
「し、知らんゾイ」
「閣下に意地悪しないてください。陛下に振り回されて、閣下はひどい寝不足なのです。このままでは命に関わります」
「大袈裟だゾイ……」
「いいえ。大袈裟ではありません」
息を整えて、努めて冷静に説得します。
「陛下、賠償金を払うために節約していること。そのため、派手に遊べないことは、わたくしも理解しております。だからといって閣下をからかってはいけません。――わたくしで良ければ、暇つぶしのお手伝いをさせていただきます。なので、どうか、閣下に一日お休みを……」
頭を下げようとした、そのときでした。
突然、ベルの音が鳴り響きます。
「これは一体?」
「誰かが、ダウンロードシステムを動かしておる!リーノ、説教はナシだゾイ!」
「いけません!陛下!!」
陛下はあっという間に部屋から出ていきました。
「リーノ、追うぞ」
「はい!」
わたくしはメタナイト卿と共に後を追います。
――――――
廊下から、玉座の間を覗きました。
陛下と閣下、新品のようにボディがピカピカと輝くエスカルゴンロボが部屋の中央にいます。
彼らだけではありません。カスタマーサービスが画面にうつっています。
エスカルゴンロボはどこから食材を取り出したのか、あっという間に満漢全席を作りました。陛下はおいしそうにご飯を食べていらっしゃいます。
カスタマーサービスが、新しいエスカルゴンロボについて注意事項を話しました。
青のボタンを押してはいけない。陛下は押してしまいました。そしてエスカルゴンロボが変形しました。
戦闘に特化したその姿は、閣下の望む姿とはかけ離れています。
わたくしはまた悲しい気持ちになりました。
陛下は更に赤いボタンを押します。
エスカルゴンロボに飛行機のような翼が生えて、空中を飛びました。
――そして壁を壊し、外に飛び出します!
「――いけない!ロボは村に向かっていますわ!」
「リーノは村へ。私はカービィのところに行こう」
「かしこまりました。お気をつけて、メタナイト卿」
「そなたもな」
わたくしたちは走り出しました。
――村はミサイルによって、いくつかの家屋が破壊されていました。
わたくしは吹雪を作りだし、消火に専念しました。
消火が早かったためか、被害は少なかったです。
ケガ人もころんで擦りむいた人しかいませんでした。
村人たちに謝罪してまわりました。
そして、すぐにワドルディたちを連れて家屋を建て直すことを約束しました。
城へ、とんぼ返りします。
アイススケートのように地面に氷を張り、その上を滑ります。
その道中で陛下にお会いしました。お一人で、歩いておられました。
「陛下、どうしてここに?」
「お前こそ、なんでおるゾイ」
「わたくしは村の消火活動を手伝っておりました。エスカルゴンロボによって家屋が破壊されてしまったんです。……あの、家屋を修復するためにワドルディをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「フン!わしに言わずともやっておったんだろう?」
「その通りでございます」
陛下は興味がないと言わんばかりに、顔を背けられました。
「勝手にせい」
「かしこまりました。兵士をお借りします」
「あと、エスカルゴンも回収しておくゾイ」
「閣下、ですか?そういえば今どちらにいらっしゃるのですか?」
「カービィの家前で寝ておる」
「寝ている……」
寝不足で限界が来たのでしょうか?
心配です。村のことはワドルドゥ隊長に任せて、閣下のところにはわたくしが行きましょう。
わたくし一人では閣下を運べませんので、ワドルディ数人に手伝っていただきます。
「わしは帰っておやつにでもするゾイ。ランタンとアーニャに伝えよ」
「はい。すぐに行動いたします」
わたくしは陛下に対して深々と頭を下げてから、また滑り出しました。