それは、ある日の食事会で言われたことでした。
その日は二人一組、それぞれのパートナーと鍋を食べていました。今日は戦士たちが作ってくれたものです。とてもおいしいですわ。
たいへん楽しい時間でした。
笑い声が聞こえて、わたくしも笑って。そんなわたくしをメタナイト卿がじっと見つめられて。小さな違和感はありました。
でも、この楽しさが続いてほしくて知らないフリをしました。
鍋のシメは雑炊でいただき、完食します。
後片付けは、メイド組がしようとしたのですが、三戦士たちも手伝ってくれました。
全てが終わると「話がある」と、わたくしたちは呼び止められました。
三戦士たちの雰囲気は、先程と変わって静かでした。
メタナイト卿が話し始めます。
「……食事会は、しばらく中止にしたい」
「なぜですか?」
「――成すべきことが、大詰めを迎えようとしている。そちらに集中したい」
「……かしこまりました。食事会はしばらくの間、中止にいたしましょう」
きっとハルバードができあがりそうなのですね。
勝利のためには戦艦が必要です。わたくしは素直に、食事会の中止を受け入れました。
ですが、理由を知らないアーニャとランタンは不安そうです。
アーニャがブレイドナイトさんに近づき、その手を取ります。
「……信じて、待っています」
「ああ。大丈夫だ。すぐに会えるようになるよ」
ブレイドナイトさんがアーニャの手を包み込みました。
そこで、ランタンが声を張ります。
「会える頻度が減っても、差し入れくらいできるんでしょう?なら、あんまり落ち込む必要もないわよ」
ランタンの隣にいたソードナイトさんが言いました。
「差し入れは助かるが、いいのか?以前のようにすぐ返礼できないが」
「お礼が欲しいわけじゃないわ」
「……長い時間は取れないし、必ず会えるわけでもないしぞ?」
「それでもいいのよ……。だって何かしなくちゃ落ちつかないの。私たちの間にある糸が切れてしまいそうで怖いのよ」
「ランタン……」
ランタンは寂しそうに、ソードナイトさんの手を握りました。
メタナイト卿がみんなに聞こえるように、声をかけます。
「リーノ、ランタン、アーニャ。すまない」
「謝らないでください!会えるだけでも嬉しいのですから」
本当は、もっと傍にいたいです。ですが、宇宙の平和のため、少しの辛抱ですわ……。
――――――
今日は休みの日。
アーニャとランタンと一緒に村へおりました。
公園の近くに置かれたベンチで、わたくしは空を見上げていました。
考え事をしていたのです。
ナイトメアとの決戦は近いです。わたくしはどうするべきでしょうか?
村に残るべきでしょうか?それとも兵士に志願しましょうか?
首を振ります。
氷を操る能力があったとしても、わたくしは城で働く村人です。とても兵士として戦えないでしょう。
わたくしは自分が槍を振り回したり、剣を掲げる姿を思い浮かべます。どうにも、しっくりきませんね。
ため息を吐きます。
やはり、メタナイト卿の足でまといにならないためにも、村に残るべきでしょうか?
それだとハルバードに乗船する人たち……メタナイト卿を含めたわたくしの大切な人たちの安全を、私の手で守れなくなります。
わたくしの力は、決して大きくはありません。
けれども、小さくもないはずです。
「非戦闘員として、雇っていただくのも良いかもしれませんね……」
「どこに雇ってもらうの?」
「きゃっ」
突然サトさんのお顔が、目の前に現れました。
わたくしはびっくりしてしまいました。
「サ、サトさんでしたか。こんにちは」
「はい、こんにちは。……それで、どこに雇ってもらうの?カワサキの店?」
「いえ……その……」
「カワサキの店なら助かるわ!今より高い値段になっても、毎日食べに行くわよ!」
「あ、ありがとうございます……。でも城を辞めることになるのは、しばらく先の話になりますわ」
「あら、そう?残念ね」
「あ、あはは……」
サトさんが本気で残念がります。
料理上手のサトさんに、こんな風にわたくしの料理の腕を褒めてもらうのは嬉しいですね。
そして彼女は隣に座りました。
何か、話したいことがあるのでしょうか?
そんなことを考えている内に、サトさんのトークが始まりました。
「ねえ、知ってる?今、村に大男の旅人が来ているらしいわ」
「大男の旅人さん……ですか。どうしてこの村に?」
「それがね、カービィを探しているらしいわよ」
「カービィを?」
彼を訪ねてくる人……そして体が大きく旅人であること……。うーん、思い当たる人がいませんね。
「なぜカービィを訪ねて来たのでしょうか?」
「詳しくはわからないけれど……。そう!ちょうどあんな感じよ!」
「え?」
突然サトさんが前方を指しました。その方向へ視線を向けると、紫の体毛に黒のズボンを履いた大男がゆっくり歩いています。背中には大きなハンマーを背負っていました。
……あの方ってボンカースではありませんか?
きょろきょろと辺りを見回しています。
誰かを探しているのでしょうか?もしかして、彼がカービィを探しているのでしょうか?
わたくしは確かめるべく、サトさんの静止をふりきってボンカースに近づきました。
「こんにちは」
ボンカースはゆっくりとこちらを見ました。
大きな体、鋭い目付き、ちょっとだけ怖く感じます。
ですが、怖さよりも彼と話したいと思いました。
「わたくしはリーノ。何か、困っていることはありませんか?」
「……人を、探して……いる」
「そうなのですね。わたくしで良ければ一緒に探しますわ」
「この……人……」
ボンカースはポケットから一枚の写真を取り出しました。
写真にはカービィが写っていました。やはり、ボンカースはカービィを探していたのですね。
わたくしは頷き、微笑みました。
「その方の家まで案内いたします」
「知って……る!?」
「ええ、カービィは有名ですから……。ところで、あなたのお名前は?」
「おれは、ボンカース……」
「ボンカースさん、こちらです。行きましょう」
「どうも……あり、がとう……」
「うふふ、お礼はまだ早いですわ」
わたくしたちは並んで歩きます。
――――――
川に沿って歩いているときでした。
向かいの岸にカービィが釣りをしていました。しかし寝ているようです。わたくしたちに気づいていません。
「少しお待ちくださいね」
ボンカースさんから離れ、わたくしは川を凍らせました。向こう岸に渡りカービィを起こして、ボンカースさんに会わせようとしたのです。
凍った川の上に乗り――ボンカースさんもついてきました。
氷が割れなかったため、わたくしはほっとしましたわ。
「一緒に行きますか?」
「たの……む」
「かしこまりました」
二人一緒に向こう岸に渡ります。
川を凍らせても、わたくしたちが近くにやってきても、カービィはすやすや寝ていました。
わたくしはカービィの肩辺りをそっとトントンとします。
「カービィ、カービィ。お客様ですよ」
「んう……ぽよ?」
「カービィ様……起きた……」
「もう少しお待ちくださいね」
カービィはわたくしの顔を見て喜び、それからボンカースさんを見て不思議そうな顔を浮かべていました。
わたくしはカービィにボンカースさんを紹介します。
「カービィ、こちらはボンカースさん。あなたを探していらっしゃったんですよ」
わたくしはボンカースさんがよく見えるように、ボンカースさんの前から横に下がりました。
ボンカースさんは一歩カービィに近づくと、両手両膝をつきます。
「カービィ様……おれを、弟子……にして、ください」
「ぽよ」
カービィは驚いている様子です。
ボンカースさんはカービィの返事を、イエスかノーなのか判断しかねていました。
そこに大きな声が届きます。
「リーノ!!」
「は、はい!……あら、フーム様にブン様。こんにちは」
「今すぐそいつから離れて!」
「え?」
驚いている間もなく、今度は車のエンジン音が聞こえてきました。
「あー!!悪徳借金取りにリーノが捕まっているでゲスよ!」
「兵士、かかれえい!リーノを助けるゾイ!」
陛下と閣下、それにワドルドゥ隊長とワドルディ兵士たちです。兵士たちはすぐさまボンカースさんを取り囲みました。
わたくしは声を張ります。
「お止めください!この方は借金取りではありません!!」
ジャキン!と槍を向けられます。話は聞いていただけそうにありません。
こうなれば、冷気を放ち足元を凍らせてしまい、動けなくしましょう。
そう思ったのですが、ボンカースさんが先に動かれました。
「うおおおおおお!!!」
凄まじい雄叫びを上げると、彼は軽やかにハンマーを操り、兵士たちをふっ飛ばします。
そして逃げ出す陛下の車に向かってジャンプしました。車体に重い一撃を与えます。車は煙を上げてよろよろとしばらく動いたあと、爆発しました。
「陛下!閣下!」
慌てて車の方によると、陛下と閣下が真っ黒になって空から落ちてきました。
服が少しだけ火がついていたので、冷気の風を送ります。
「大丈夫ですか?すぐに城へ帰りましょう」
「仕切り直しだゾイ!」
「兵士!退却!!」
陛下はわたくしの腕を掴むと、走り出しました。
ワドルドゥ隊長と兵士たちも、それに続きます。わたくしは去り際に、カービィとボンカースさんを見つけました。そこにフーム様たちが加わって何か話し込んでいるようです。
ボンカースさんは借金取りではないと、わかってもらえると良いですね。
あとで陛下たちにも説明しておきましょう。
――――――
お城に撤退したわたくしたちは、やっと走るのをやめました。
わたくしは息を切らしながらも、陛下に伝えます。
「ボンカース、さんは、借金取りでは、ありません。……はあ、はあ。カービィの弟子になりたくて、ここまで旅をしてきたのですよ」
「なんと!」
「カービィの弟子に!?」
陛下と閣下はお互いに驚いた顔を見せたあと、にんまりと笑います。
そして、離れた場所にサッと移動して、こしょこしょと内緒話を始めました。
「陛下?閣下?」
「おほん!リーノ、お前はもう行ってもよいゾイ」
「いいことを教えてくれたでゲスな」
「?は、はい」
陛下と閣下は、予備の車を兵士に運ばせて乗り込みます。
そしてまた城から出て行きました。
わたくしはメタナイト卿に、ボンカースさんのことを伝えるべく、城の中へ歩き出しました。
メタナイト卿のお部屋には、メタナイト卿がいらっしゃいました。
彼はわたくしを部屋の中に招き入れてくれます。
メタナイト卿の優しい声が聞こえました。
「――それで、今日はどうしたのだ?」
「今日はご報告があって、参りました。村に来た旅人について、ご存知ですか?」
「陛下の借金取りだと聞いている。――違うのだろう?」
「はい。彼はボンカース。カービィの弟子になりに来た男性です」
「カービィの弟子に?」
メタナイト卿は少し静かになられて、それから嬉しそうに言いました。
「カービィも有名になったな」
「そうですね……。今ボンカースさんはカービィと、そしてフーム様たちと一緒にいますわ」
「そうか……もしかしたらここへも来るかもしれないな」
「村に宿がありませんので、城に泊まる可能性もありますね……今のうちに客室を用意しておきましょうか」
わたくしは改めてメタナイト卿と目を合わせます。
そしてにこりと笑いました。
「では、メタナイト卿。報告は以上ですわ。わたくしは用事ができましたので、これで」
「ああ、情報提供に感謝する。またな、リーノ」
「はい、また。メタナイト卿」
メタナイト卿の部屋を出て、歩き出します。
わたくしは、大臣一家の部屋から一番近い客室を、掃除しようと思いました。
――――――
部屋の掃除ができました。
これでボンカースさんを招くことができる。そう考えていると、お城が揺れました。
「何事でしょうか?」
わたくしは慌てて、窓の外を見ました。
驚くべきことに、隣の部屋……大臣一家の部屋から魔獣が出てきたのです!
そのゴリラのような魔獣の手にはフーム様が捕まっていました。
「フーム様!?」
わたくしは客室を飛び出して、大臣一家の部屋へ突撃します。
ブン様とカービィとボンカースさんがテラスで何かを見上げていました。
「ブン様!カービィ!」
「リーノ!……あそこ!」
それだけで何を言いたいのか伝わりました。
ブン様のさした先、見上げれば魔獣がゆっくりと城の壁を登っていきます。
そして頂上でドラミングをしました!
振り回されるフーム様が必死に叫びます。
「来て!ワープスター!!きゃああ〜!!!」
まもなくワープスターが飛んで来ました。
カービィはワープスターに飛び乗り、魔獣の周りを飛びます。
ですが、すっぴんの状態では攻撃がやりにくくて、相手にダメージを与えられません。
そこで目に入ったのは、ボンカースさんのハンマーでした。
あれならば、わたくしのアイスよりも大きなダメージを与えられるでしょう。
「ボンカースさん。カービィの本気、見たくありませんか?」
「どう……いう……?」
「合図したら、ハンマーをカービィに投げてください。そうすれば、彼は強くなりますから」
わたくしはボンカースさんの返事を待たず、叫びます。
「カービィ!!」
気づいてもらえました。
「吸い込みよー!!!――ボンカースさん今です!」
「フン!!!」
投げられたハンマーは、まっすぐカービィの所へ飛んでいきます。
カービィはハンマーを吸い込み、ハンマーカービィとなりました。
それからはカービィの独壇場です。
魔獣のあらゆる箇所をハンマーで攻撃して、フーム様を掴んでいた手を離させます。
カービィは落ちたフーム様を見事キャッチします。そして一旦フーム様を、わたくしたちがいるテラスに送りました。フーム様にケガはなく、ご無事でしたわ。
カービィは再び魔獣に向かっていきます。
そしてハンマーの最強の技を魔獣にぶつけ、空高く飛ばしました。
魔獣は爆発します。
わたくしたちは勝利したのです。
手を叩き、笑顔で喜び、声を上げました。
それから思うのです。
あとで陛下たちに怒りに行こうと。
だって、陛下が魔獣をダウンロードしたから、フーム様が危険な目にあったんだもの。
それだけは許せませんでしたわ。