最近、天気が崩れやすいですわ。
じっ、と一階の洗濯場から窓の外を眺めます。
「あらメイド長、どうかしましたか?」
「ランタン……少し、フーム様たちのことが気になりまして」
「フーム様ですか?たしか、今日は学校でしたよね?」
「そうなのです、アーニャ。屋根のない場所で子供たちに教えているので、この雨で濡れていないか心配なのです」
二人は少し考えてから、それぞれ口にしました。
「さすがに、この雨の中で勉強はしていないと思うわ」
「はい。風邪をひいてしまうかもしれませんから」
「そう、ですね」
さすがに、わたくしの考えすぎのようです。
わたくしは洗濯を止めていた手を、またキビキビと動かし始めました。
やがて雨は止みます。
はっきりと太陽が見えて、雲が流れていきます。わたくしたちは今のうちに、と洗濯物を干していきました。
「リーノ!リーノはおるでゲスか!」
「はい!こちらに!!」
干したシーツの海の中、どこからか閣下のお声が聞こえました。
わたくしにとって、後方の方角から「どっちゾイ!」「あっちでゲスよ!」と言い合う声が聞こえます。
わたくしはちょうど空っぽになった桶を持って、アーニャとランタンと一緒に声が聞こえる方へ向かいます。
「陛下、閣下。ご機嫌麗しゅう」
「おお!ようやく見つけたゾイ!」
「今から学校に行くから、ついてくるでゲスよ」
「また、学校をつくられたのですか?」
一度目は教師を凶暴にさせる帽子のせいで、二度目は生徒が魔獣のため、陛下がつくられた学校は上手くいきませんでした。
陛下はフフン!と鼻を鳴らします。
「今度は一味違う。わしらは生徒になるゾイ!」
「生徒に、でございますか?」
「校長も教頭も先生も全部、フームと村の奴らに任せるでゲスよ」
「それは、革新的ですわ!」
「そこでリーノには、また給食を作ってもらうゾイ」
「わたくしで良ければ、ぜひ作らせていただきますわ!」
わたくしの言葉に、陛下たちは満足気に頷きます。
「んじゃ、早速学校へ行くでゲスよ」
「――へ?」
「もう準備はできておる。アーニャ、ランタンは片付けをしておくゾイ」
「かしこまりました」
「行ってらっしゃいませ」
わたくしは陛下と閣下に運ばれて、車に乗りました。
車に乗って十分ほど。
以前、校舎を建てた場所と同じ平原に、新しい校舎がありました。校舎ができた合図なのでしょうか?鐘が鳴り響きます。
鐘の音に気づいた村人たちも集まっていました。その中にはフーム様を含めた子供たちがいます。……フーム様の隣にいる男性は誰でしょうか?
「村人たちがすでに集まっているでゲスな」
「ちょうど良い。わし自ら説明してやるゾイ」
陛下たちは村人の前に車を止めて、降りました。わたくしも降ります。
そして説明を始めました。
今回学校をつくったけれど、自分たちは校長と教頭ではないこと。校長はキュリオさん、教頭はレン村長がするよう命じられます。
「教師はフームがやればよいゾイ」
そのフーム様は、自分よりも適任者がいると仰られました。
「ご紹介します。チップ先生です!」
そして隣にいらっしゃった男性を、みんなに紹介されました。
「本職の先生なの!……ただ、問題はあなたたちよ」
「それならば問題はない。わしらは良い生徒になるゾイ」
「今さら学んでどうする!?」
「ブン様、学ぶ時期に歳は関係ありませんわ」
思わず口が出てしまいました。
慌てて口を抑えます。
「すみません……」
「あの……あなたは?」
チップ先生が声をかけられます。
わたくしはにこりと笑みを作りました。
「リーノと申します。城でメイドをしておりますわ」
「おお、そうだった。給食はリーノが作るので楽しみにしているでゲス」
それを聞いた子供たちが歓声を上げました。
ハニーが私のもとに走ってきます。
「リーノ!私、絶対に学校へ行くわ!リーノのご飯とっても楽しみだもの」
「ありがとうございます、ハニー。給食だけではなくて、きっと学校そのものが楽しくなりますよ」
「うん。私もそんな気がするの。チップ先生は本当に優しいのよ」
「素敵そうな先生ですものね」
「うん!」
――――――
数日後。
学校が始まりました。大人も混じった学校の生徒たちは、その年齢差も性別も関係なく、学友として楽しんでいるようです。
わたくしはというと……一人では約三十人分の給料を作るのは難しいです。なので陛下にお願いをして、アーニャとランタンも学校に出張してもらいました。
学校の厨房にて、メイド三人がカレーライスを作ります。
「今度はうまくいくといいわね、学校」
「そうですね、ランタン。ねえ、リーノ。陛下たちは新しい先生と、仲良くやっていらっしゃるのでしょうか」
「まだ始まったばかりですから、なんとも。ですが、子供たちに人気の先生ですもの。きっと、陛下とも仲良くしてくれますわ」
そう願ったのですが、陛下がチップ先生を怪我させたと聞いてたいへん驚きました。
わたくしは厨房をアーニャとランタンに任せて、医院に急ぎます。
医院には、先にフーム様、レン村長、キュリオさん、チップ先生が到着しておりました。ヤブイ先生がチップ先生の頭に包帯を巻いています。
「失礼します。リーノですわ」
「リーノ!」
「フーム様。何かお手伝いできないかと思って来ましたが、大丈夫みたいですね」
チップ先生の手当はすでに終わっていましたわ。
フーム様がこちらに駆け寄ります。
「今ね、チップ先生が……!」
「はい?」
「デデデもいつか、礼儀正しい生徒になってくれるって言ってくれたの!」
「左様ですか」
「……?あんまり期待していないの?」
「いえ、そうではなくて!……大きく変えなくても、その方の個性を伸ばしつつ、良い方向に向かえば良いと思うのです」
「つまり?」
「陛下は元気なままで、良い事をしてくれたらいいなあと思うのです」
「それって難し過ぎない?」
「欲張りな願いだとは思っております」
魔獣をダウンロードする陛下は好きではありませんが、元気な陛下は好きなんですよね。
それからチップ先生には、しっかり謝罪しておきました。
うちの陛下がすみません!!
――――――
学校が始まってから、一週間がたちました。
チップ先生とは、顔を合わせたら雑談をするようになりました。子供たちに人気の先生と仲良くなれたようで嬉しいです。
学校が始まってから、メタナイト卿への報告は毎日しております。
合わせてご飯の差し入れもおこなっています。差し入れた次の日には食べた感想を教えていただけるので、ありがたいですね。
夕方。
今日もメタナイト卿に報告します。メタナイト卿は主に、チップ先生のことが気になるようでした。
学校ができあがると共に現れた、旅の教師……たしかに気になりますね。
「チップ先生ですが……やっぱりカービィを虐めるなど、不審な様子は見られません」
「ふむ……」
ハニーや他の子供たちにも、チップ先生の様子を聞きました。本当に良い先生で、生徒たちに優しく平等に接しています。
わたくしはたしかめるように、質問しました。
「チップ先生は魔獣ではありませんよね……?」
「――あるいは……」
メタナイト卿は、質問には沈黙で答えました。
――――――
朝。
二回目の洗濯が終わらせてから、学校に向かいます。
三人で談笑しながら、歩いて行くと……。
学校から離れた場所に生徒たちが集まっていました。
今日は体育でもするのでしょうか?
そして――。
ドッカーン!!!!
学校が爆発しました。
わたくしたちはたいへん驚いて、とにかく生徒たちが集まっている場所へ走ります。
「フーム様!ブン様!ハニー!チップ先生!みなさん、ご無事ですか!」
「リーノ……ええ、大丈夫よ!カービィが魔獣をやっつけてくれたの!」
「魔獣が出たのですか?」
「デデデがチップ先生の代わりにって、ダウンロードしたのよ」
「陛下ったら……。あら?陛下と閣下はどちらに??」
「知らないわ」
みなさん知らないようです。
あとでワドルドゥ隊長にお願いして、探すしかありませんね。
そう考えていると、チップ先生が重々しく口を開きました。
「……みんな、僕は出ていくよ」
「え!?」
「?村が嫌になりましたか?」
わたくしの質問に、チップ先生は首を振ります。
「いや、みんなのことは大好きだ。でも、ナイトメアは裏切り者の僕を放っておかないだろう」
「裏切り者?」
「チップ先生は、契約魔獣だったの」
「契約魔獣……ナイトメア社の方だったんですね」
「そうだ……。みんな、黙っていてごめん」
チップ先生は深く頭を下げて謝罪されます。
フーム様は「頭を上げて!」と言いました。
「チップ先生には感謝してる!私たちにたくさんのことを教えてくれて、ありがとう」
「魔獣から、身をていして守ろうとしてくれたしな!」
「チップ先生のおかげで学校が楽しかったわ!ありがとう、先生」
子供たちはそれぞれの言葉で、チップ先生に感謝を述べます。
チップ先生は涙を浮かべました。
「……もう行くよ。このままだと、ここに残ってしまいそうだ」
「学校跡地から、荷物を探し出すお手伝いをさせていただきますわ」
「ありがとう。リーノさん」
「私たちも手伝うわ!」
生徒たちと、メイド三人、チップ先生本人で学校跡地から荷物を探し出します。
服は埃で汚れてしまいましたが、洗っている暇はありません。急いでカバンにまとめました。
爆発を聞きつけて村人たちが学校跡地に集まります。
チップ先生が出ていくとこを知って、別れを言いに来てくれました。
たくさんの人たちに見送られて、チップ先生は村を出ていきました。