今日は、昼にサザエのつぼ焼きをご用意しました。
天気の良い日です。中庭で食事にしました。
陛下はたくさん食べてくださいました。閣下は食べたくなかったようで、手をつけられませんでした。
「閣下、代わりに何か作ってきます。何か、食べたいものはありますか?」
「んじゃ、豚汁を!」
「かしこまりました。豚汁をご用意します」
「リーノ!わしにも持ってくるゾイ」
「承知いたしました」
頭を下げます。
そして、アーニャとランタンには残ってもらい、わたくしは厨房に向かいました。
まずは、陛下専用の食材を保存してある厨房に向かいます。いつも陛下が使っている食堂と、同じ階にある厨房ですわ。
そこで食材を確認しました。
……うん、具材は揃っていますね。早速作りましょう。
具材を食べやすい大きさに切って、手順通りに鍋に入れます。
コトコトと煮込んでいると、厨房の扉が荒々しく開けられました。
びっくりして振り返ると、アーニャがいました。肩で息をしています。
「アーニャ?どうしたのですか?」
「陛下が、閣下を追い回していて……」
それだけ聞くと、いつものケンカのように思えました。
アーニャはわたくしの傍に来ます。わたくしはコップに水を注ぎ、アーニャに手渡しました。
「いつものケンカとは、違うのですか?」
「ありがとうございます。……そうなんです。今日は、閣下の殻の中身が見たいから、という理由で追いかけっこしていて……その、閣下の殻を割ろうとハンマーを振り回しているのです」
「まあ!危ないですわ」
閣下の身も危ないですが、間違ってフーム様やブン様たちに当たってしまったら、恐ろしいです。
「アーニャ、豚汁を頼めますか?わたくしは陛下と閣下を探して、ケンカを止めてきます」
「はい。任せてください」
「ありがとうございます!では、行ってきます!!」
あとは任せて、わたくしは廊下を走り出しました。
今だけは、走ることをお許しください。
とりあえず玉座の間に向かいます。陛下は閣下の殻を割ることに失敗したら、ナイトメア社を頼ると思うのです。
玉座の間に突撃します。
叫び声が聞こえました。
「うげー!!!」
「閣下!」
「ワハハ!敵に隙を見せる方が悪いゾイ!」
ちょうど陛下のハンマーが、背中側から閣下の殻をドーンと打ったところでした。
閣下の殻には、見事にヒビが入っていました。
「大丈夫ですか!??」
「おお!ヒビが入ったゾイ!」
「ええ!?どこ?!どこでゲスか!!?」
慌てる閣下は元気そうです。
わたくしはちょっとだけ、安心して言いました。
「背中です。……閣下から見えませんね」
「どどどどうしたら……、ふ、フーム!!!」
「閣下、お待ちください!!」
ものすごいスピードで、フーム様がいるだろう大臣一家の部屋へ向かわれました。
わたくしは陛下を置いて、閣下を追いかけました。
大臣一家の部屋に到着します。
フーム様にもどうにもできない、ということで。
ヤブイ先生を頼って、村へおりました。
ヤブイ先生は、閣下の殻を診て仰いました。
「見事にヒビが入っとる。これからもっと割れるじゃろう」
「オー!ノー!!!!」
「閣下、おいたわしや……」
医院はてんやわんやの大騒ぎです。……いえ、騒いでいるのはわたくしと閣下だけなのですが。
診てくださったヤブイ先生と、付き添ってくださったフーム様、ブン様、カービィは落ち着いています。
どうやって殻を直す……治す?のか、みんなで考えていると、陛下がお見舞いに来てくださいました。
閣下は全力で拒否します。扉に棚をくっつけて、陛下が入られないようにしました。
陛下はハンマーで扉を壊そうとします。
わたくしは怒りました。
「陛下!閣下は嫌がっています。すぐにお止めください!あと、ヤブイ先生が困るので、扉は壊さないでください」
「嫌ゾイ!!」
「もう、陛下!いけません!」
「わしはどうしても、エスカルゴンの殻の中身が知りたいゾイ!」
閣下が叫ばれます。
「もう!そんなの誰も興味ないでゲスよ!ねえ!!!」
う……そう言われると……。
「実は、ちょっと興味あります」
「同じく」
「そうね。どうなっているのか知りたいわ」
「軟体動物は気持ち悪いが、興味はある」
「ぽよ!」
「ああ゛〜!!!!誰も信じらんねえ!!」
「で、ですが!興味があることと、殻の中身を暴くことはイコールではありませんわ。わたくしはそのようなことはいたしません!陛下も、お止めください!」
「わしの知的好奇心は誰にも止められんゾイ!デハハハハハ!!」
扉はとうとう壊されました。
再び診察室で、陛下と閣下の追いかけっこが始まります。ドタバタと大騒ぎです。
――二人とも、氷漬けにしてしまえば、ケンカもしませんよね?
そんな危うい考えが頭をよぎったそのとき、ハンマーが再び殻に当たりました。
殻が、ゆっくり割れて、左右に開かれようとして――カービィが背中に乗っかりました。
「ぽよ?」
「カービィ!そのまま!」
フーム様は叫びます。
カービィのおかげで、殻の中身は守られました。
「デハハハ!殻は割れた!中を見せるゾイ!お前とわしの仲ゾイ!」
「嫌ー!!!」
「カービィ、ジャンプして!」
「ぽよい!」
わたくしは閣下の殻を凍らせました。
氷漬けになった殻は、見るからに重そうです。しかし、誰かが支えていなくても、左右に落ちることはありません。
閣下は気に入られたようでした。
「おー!これはいいでゲスな!でも冷たいでゲス……」
「そうですね……。この気温ではすぐに溶けます。すぐに、代わりとなる殻を見つけるか、殻を直さないと……」
「あ〜……リーノ!余計なことをするでないゾイ!」
「すみません。ですが、今日のわたくしは閣下の味方ですわ」
そこに、フーム様が言いました。
「とにかく、デデデ!エスカルゴンの殻を弁償しなさい!」
「べん、しょー?」
「被害のお返しをすることよ!」
「お返し?デハハハ!そらなら任せるゾイ!!」
そう言って、陛下は車に乗って帰城されました。
まるで嵐のようでしたわ……。
「わたくしたちも一度、戻りましょうか」
「フーム、ブン、カービィ。殻の代わりになるものを探してくるでゲス」
「なんで俺たちが!」
「みなさま、ご協力お願いします。お礼はケーキですわ」
「やる!」
「ぽよ!!」
「イロー、ハニー、ホッヘも呼んであげてください。みんなで食べましょうね」
「うん!楽しみだなあ」
「もう、ブンったら。単純なんだから」
「姉ちゃんも楽しみだろ?」
「それは、まあね……」
わたくしはその言葉を聞いて、ニコリと笑いました。
楽しみにしていただけて、嬉しいです。
閣下の着替え……殻替え?は、大臣一家の部屋ですることになりました。
リビングの一角をカーテンで仕切ります。円柱のように仕切られたカーテンの中には、閣下の身長より少し高い姿鏡が用意されていました。
「さあ、閣下。中にお入りください」
「うむ。あ〜寒かった……」
「すみません……」
「いいでゲスよ。リーノのおかげで、村からここまで殻のことを気にしないですんだでゲス。ありがとうでゲスよ」
「いえ、大したことはしておりませんわ」
ニコッと笑います。
実際、疲れは感じておりません。
自分でも、氷の制御がかなり上手くなったと思っています。それでも、訓練は続けます。
――続けた方が良いと、そう思うから頑張りますわ。
やがて、閣下の殻の代わりとなるものが、部屋に持ち込まれました。
フーム様が壺。ブン様が業務用の大きな鍋。イロー、ハニー、ホッヘが羊の毛。……カービィがまだですね。
「カービィがまだだけど、始めましょう。さあ、みんな!鍵をかけて、カーテンを閉めて、誰も入られないようにして!」
フーム様の言葉に、みんなが動き出します。
部屋の中はイロー、ハニー、ホッヘが担当して鍵をかけます。カーテンも閉めました。
大臣夫婦は閣下の周りにいて、フーム様とブン様が廊下に誰もいないことを確認します。
フーム様とブン様が部屋の中に戻ってきました。
みんなの動きを眺めていたメーム様が仰いました。
「こんなストーカーみたいなこと、陛下はなさるかしら?」
フーム様は断言します。
「するわ。知りたいことは、どこまででも追いかけるタイプだもの」
「……今だけは、陛下の思い通りにいかないことを願いますわ」
閣下の殻替えが始まります。
閣下がカーテンの中に入ってすぐのことです。中でガシャンガシャン、と何度もタライを打つ音が聞こえてきました。
慌てたフーム様とブン様が、カーテンを開けてしまいます。
――わたくしは素早く目をおおいました。
「見ちゃいやん!!!」
「あっ!……ごめんなさい……」
カーテンはすぐに閉じられたようです。
興味はありましたけれど、見なくてすんだことにホッとしましたわ。
カーテンの中では閣下が「これじゃない!こっちでもない!」と大騒ぎです。
「……今って、どんな感じなのかしら」
「ナメクジみたいなものじゃないかな」
大臣夫婦の会話に、思わず言葉がこぼれます。
「それでは、なんだか強くなさそうで、心もとないですわ……」
「たしかに!弱そう!」
「ブン!ごめんね、リーノ」
「わたくしは気にしておりませんわ」
「私は気にするでゲス!!!」
そうして、満を持してカービィが部屋に入ってきました。
カービィは、大きな空の巻貝を背負っています。閣下の背中にちょうど良さそうですね。
「おお〜!いい感じでゲスな!さあ、こっちに持ってくるでゲスよ」
「かしこまりました。カービィ、お願いします」
「ぽうよ!」
大きな巻貝はカーテンの中へ入れられました。
二分後、大きな巻貝を背負った閣下が、カーテンの中から出てきました。
拍手がおこります。
「よかった!やっと見つかった!」
「素敵ですわ!閣下」
「ぽよよーい!」
「にへへ。そうでゲスか?アハーン?」
閣下は上機嫌です。
無事に代わりの殻が見つかって、本当に良かったですわ。
「ありがとうでゲス。それじゃ、殻は直しておくでゲスよ」
「え?」
「閣下?」
「よろしく〜」
そう言って閣下は、部屋を優雅に出ていきました。
そ、そんな……。
「すみません。閣下が……」
「あなたが謝ることじゃないわ……」
「そうそう……」
みんなの声には疲労感がありました。
ですが、もうひと仕事ありますわ。閣下の元の殻を直さないといけません。
わたくしは、まだ氷漬けにされている殻に向かいます。それをパーム様に止められました。
「ところでなんだが……リーノはパズルは得意だったかな?」
「得意では……ありませんね……」
パーム様は優しく微笑まれました。
「リーノはケーキを頼むよ。こちらは我々に任せてくれ」
「そういたしますわ」
わたくしは得意なことを頑張りましょう。
厨房でケーキを作ります。
今日作るのは二段のホールケーキです。苺に生クリームでシンプルに作りつつ、砂糖菓子で華やかに飾ります。
途中、玉座の間の方で大きな音が聞こえてきました。
「魔獣でしょうか……?」
頭の中をよぎるのは、大切な人たちの安否です。
わたくしは、ホールケーキが食べられないように、メモを書き残します。そして厨房を出ました。
そろりそろり。
音は、わたくしが移動している間に止みました。
玉座の間に到着すると、そこには陛下とフーム様、ブン様にカービィがいました。
戦闘をしたのでしょう。あちこちが崩れ、場所によっては柱がバラバラになっています。
「まあ!みな様、ご無事ですか?」
「リーノ!私たちは大丈夫よ」
「大変だったんだぜ?」
「何があったのでしょうか?」
詳しく聞いてみました。
どうやら閣下が、魔獣になってしまったようです。
震え上がるほど、恐ろしい出来事がおきたみたいですね。その場にいなくて、よかったと思いました。
そして、カービィが正気に戻してくれたらしいです。
わたくしはカービィに心からお礼を言いました。
「ありがとう。カービィ!あなたのおかげですわ!」
「ぽよよい!」
「ところで、閣下はどこに……?」
「ホーリーナイトメア社が用意した殻が壊れたとたんに、どっかへ行っちまったよ」
「そうでしたか……」
このときは、わたくしは閣下を酷く心配しました。
ですが閣下の元の殻が直る頃には、閣下は大臣一家の部屋に戻って来られました。
そして無事に直った元の殻を着て、また優雅に大臣一家の部屋を出ていかれたのでした。
残されたわたくしと大臣一家、子供たちにカービィは、一緒にホールケーキを食べました。
ひと仕事を終えたあとのケーキは、たいへんおいしかったです!