昼食の後。
玉座の間に向かわれた陛下と閣下のために、お茶を準備してカートに乗せます。
茶菓子はアーニャとランタンが用意しました。今日のお菓子はフルーツ飴ですわ。
……昨日の夜、急に食べたくなったので作らせていただきました。
苺、みかん、ぶどうを飴にして、見目が良くないものはメイドたちが頂戴しました。
おいしかったですわ!
厨房からカートを押して、玉座の間に到着します。
部屋の中からは音が聞こえました。
わたくしはこっそり中を覗きました。
陛下と閣下は、部屋の奥にいらっしゃいます。その手前側、部屋の中央に男性が三人いました。
体格の良い方、高身長の方、丸いメガネが特徴的な方。ププビレッジでは見たことがない方々ですわ。
音の正体は星のデデデでした。
なぜ、あのアニメを見せているのでしょうか。
とにかく。相手はカスタマーサービスではなく、多分一般の方なのですから。
おもてなしが必要ですわ。
幸い、カートに乗せたカップは五人分あります。アーニャ、ランタンとお客様の情報を共有して、玉座の間に入ります。
「陛下、閣下。入ります」
「おお!来たか」
「待ってたでゲスよ〜」
疲労感がにじむ声を聞いて、わたくしは不思議に思いました。
一体何があったのでしょうか、と。
お客様からの視線をビシバシ感じますが、平常心を保ちます。
部屋の中央、お客様とすれ違う時、わたくしはニコリと笑って横を通り過ぎました。
陛下のすぐ傍で立ち止まります。
アーニャとランタンも止まりました。
「お茶をお持ちしました。何にいたしましょう?」
「今日はコーヒーにする。ミルクと砂糖をたっぷりいれるゾイ」
「私は紅茶を……。あっちの三人にも何か出してやるでゲスよ」
「かしこまりました。お客様にもお出しします」
陛下と閣下に、それぞれ飲み物を出します。
次はお客様の方へ向かいました。
「初めまして、リーノと申します。後ろにいるのはアーニャと、ランタンです。――飲み物をご用意します。コーヒー、紅茶、オレンジジュース。どれがよろしいでしょうか?」
三人の男性は輪を作り、ひそひそと話し始めます。
そして、こちらを向きました。
「あの、オレンジジュースを……」
「ぼくも」
「くだちゃい」
「かしこまりました。オレンジジュースを三つですね。少々お待ちください」
わたくしはカートへ向かいました。
……背中に視線がビシバシと感じます。メイドが珍しいのでしょうか?
――――――
飲み物を飲んだあと、三人組の男性は玉座の間を出て行かれました。
何かの取材に向かったようですわ。
「何を取材しに行ったのでしょうか?」
「わからんゾイ……」
「とにかく、こっちは待つしかないでゲスよ。あ〜疲れた」
「もぐもぐ……フルーツ飴は、苺にかぎるゾイ!デハハハハハ!!」
「陛下!私にもおくれでゲスよ!」
フルーツ飴に夢中な陛下と閣下の視界から外れた場所で、アーニャとランタンにこっそり言います。
「――メタナイト卿に報告してきます。ここを頼めますか?」
「はい、大丈夫ですよ。何かあれば……」
「私たちのどちらかが、報せに行くわ」
「お願いします」
わたくしは、そろりそろりと玉座の間から出ていきました。
メタナイト卿は、ご自身の部屋にいらっしゃいました。
最近会える回数が多くて、嬉しいですね。
部屋の中で、先ほど玉座の間でおこった詳細を報告します。
「――というわけでして、今、城には男性三人組が招かれていますわ」
「ふむ。その者たちは、どのような人物に見えた?」
「……荒事が得意そうには見えませんでした。むしろ事務仕事などが得意に見えましたね。一般の方だと思いました」
「そなたも、荒事は得意ではないだろう。だが、当別な力がある」
「――そうですわね。人は見かけによらないもの。気を引き締めますわ」
「そうしてくれ。――数日は、常にこの部屋に誰かがいるよう、気をつけておく」
「はい。報告は毎日いたしますね」
「頼んだ」
わたくしは言うか迷いましたが、伝えることにしました。
「……少しだけでも、お話できて嬉しいですわ」
「――すまない」
「いえ、誰も悪くありません。心は、いつも寄り添っています」
「私もだ。そなたと共にある」
わたくしたちは、それぞれ懐から揃いの懐中時計を取り出しました。
いつも一緒に。
そのことが、たいへん嬉しくて、笑顔になりました。
――――――
次の日。
「フーム様がストーカー被害を受けている……ですか?」
「そうらしいわ」
「今、村中の噂よ」
昼ごろ、村から帰ってきたアーニャとランタンに教えてもらいました。
わたくしは考えます。
村の人たちが、尊敬するフーム様に対して、突然こんなアプローチをするとは考えにくいです。
怪しいのは、最近村に来た三人組の男性でした。
ストーカー行為は取材だと、思うのです。
「――理由は何であれ、フーム様のご迷惑になっておることは事実。帰ったらやめていただくよう、お話しましょう」
「犯人、わかったんですか?」
「おそらく、昨日から城に泊まっていらっしゃる三人組のお客様です」
「リーノ、話すときは一人じゃダメよ。私たちも同席するからね」
「穏便に、お話するつもりですよ……?」
二人は「念には念を」と言いました。
わたくしは、それもそうだと、頷きました。
三人組の男性は、昼過ぎに帰城されました。
城の廊下を歩く三人組を、見つけます。
まずは話を聞こうと思っていましたのに、彼らのケガを見て気持ちが萎みました。
それは一緒にいたアーニャとランタンも同じでしょう。
「まあ、どうされたのですか?」
「取材をしたら……」
「こうなったでちゅ」
「……取材時間を、考えて行いましたか?」
みなさん静かになりました。
ランタンとアーニャが言います。
「考えて」
「いなかったんですね」
わたくしと、アーニャにランタンも、ため息を吐きました。
眉をキリリと上げます。
「みな様にお話したいことが……」
「見つけたでゲスよ!!!」
閣下と、陛下もご一緒です。
ワドルドゥ隊長と兵士のみなさんを引き連れています。
「取材は終わったでゲスか!」
「僕ら的には」
「オッケーかなって」
「ならばすぐに始めるゾイ!!」
「地下牢へ強制労働でゲス!!!」
三人は兵士に捕まり、引っ張られて行きました。
「陛下、何事でしょうか?」
「ヤツらにアニメを描かせる!リーノたちは、アイツらのご飯の用意をせい!」
「か、かしこまりました」
陛下たちはそれだけ仰ると、再びどこかへ走っていかれました。
わたくしたちは驚いて、すぐには動けませんでした。
「……陛下が、連れて行っちゃいましたわ」
「話を聞くとこも、怒ることもできないわね」
「とにかく、掃除を済ませたら夕食にとりかかりますか?」
「そうしましょうか」
なんとも納得ができない結末です。
ところで、陛下はアニメと仰いましたか?
「次のアニメってたしか……」
「リーノ?」
「あ、いえ!なんでもありません」
今は掃除に集中しましょう。
――――――
地下牢で働くお客様には、朝昼夕と夜食を運ぶことになりました。
夜食は深夜に運ばれるので、ワドルディたちの担当です。体に良いものを食べていると良いですね……。
それは、朝に気づきました。
お客様がケガをしていたのです。――まるで、ムチで打たれたようなケガでした。
そしてムチを持っていたのは、ワドルドゥ隊長でした。
わたくしは、イヤな予感がしました。
心を奮い立たせて、ワドルドゥ隊長に言います。
「ワドルドゥ隊長……もしかして、そのムチで……」
「打った。陛下のご命令だ」
「それでも!やっていい訳ではありませんわ」
「……逆らうならば、出ていってもらう」
「…………」
わたくしが考える前に、お客様が間に挟まります。
「ちょ、ちょい待ち!」
「メイドさんは心の癒しだし!」
「来てくれないとやる気なくなるし!」
「むう……」
今度はワドルドゥ隊長が考える番でした。
話を聞いていたアーニャが言います。
「あの……ご飯を食べている間と、ケガの治療をしている間は、少し休憩をしませんか?描き続けて腱鞘炎になったら、大変ですし」
「たしかに。その方が効率が落ちるわ」
「……一理、あるか。しかし、あと六日でアニメを完成させなければならない」
「できそうですか?」
お客様のうち、丸メガネをかけた男性が頷きます。
「なんとか」
「凄いですわ」
心から賞賛を贈ると、彼は照れたように頬をかきます。
他の二人はそれを見て「我こそは!」と、手を挙げます。
「じ、自分は背景が得意で……!」
「自分は色をぬれるっす!」
「みなさん、得意なことがあるのですね。素晴らしいですわ」
ニコニコと笑ってそういうと、三人組もニコニコと笑顔になりました。
それから五日間。
三回の食事の間だけ、ほんの少しお話しました。
地下牢は肌寒いので、食事はなるべく温かいものを用意します。お客様は必ず完食してくれるので、わたくしはその度に嬉しく思うのです。
五日目。
食事が終わり、作業に戻られるお客様の姿を見届けてから、地下牢を出ます。
そのとき、陛下と閣下に会いました。
どうやら、アニメの進捗を確認しに来たようですわ。
陛下と閣下が、アニメを作っている机から紙を取ります。
「見せるでゲス!」
「ああ!勝手に見ないで!」
「……こ、これは!フームでゲス!」
「星のデデデじゃないゾイ!これじゃ明日の放送に間に合わないゾイ!」
そう仰ると紙を放り投げ、お二人ともどこかへ走っていきました。
わたくしは紙を拾い上げて、お客様にお返しします。
「災難でしたわね」
「いつも、あんな感じっすか?」
「はい……パワフルですわ」
こんな事件があったりしつつ。
翌日の早朝には、アニメが完成しました。
巻かれたフィルムを持って、スタジオの方へみなさんが移動します。
わたくしは、その後ろ姿を見つめながら親友二人に言います。
「……アーニャとランタンも行きませんか?」
「ちょっと気になります」
「まあ、あんなに頑張っていたんだし。見届けましょうか」
「はい!」
わたくしたちも、スタジオに向かいました。
スタジオに飛び込みます。
あと数秒でアニメが始まるところでした!
「楽しみです……!」
――飛び込んできたのは、セクシーなフーム様でした。
わたくしも、アーニャも、ランタンも。
口をポカンと開けて、アニメに釘付けになります。
お互いに何も言えませんでした。
フーム様は、その、たいへん怒られて。
お客様たちをハンマーで追いかけ回していましたわ。
アニメはずっとフーム様をうつしていました。
ですが、最後だけ。わたくしたちが描かれていました。
キラキラのぱっちりとしたアニメらしい瞳。
しかし、誇張はしていない体つき。
アニメの中の私たちは言いました。
頑張ってくださいね。
体に気をつけてよね。
それでは、また。次回もお楽しみに。
いつも、食事のあとに交わした言葉です。
フーム様はさらにヒートアップしました。
「アンタたち!私だけじゃなくて、リーノたちまでも〜!!!」
「フーム様、お止めください」
「リーノ、でも!」
フーム様からそっと、ハンマーを預かります。
「勝手に録音されたことは、良いことではありません。ですが、アニメに出演できたことは、嬉しいです」
「そうね。星のデデデのときは、出番がなかったから」
「今、凄く嬉しいです」
わたくしたちは、お客様たちの方に向き直りました。
「わたくしたちを」
「アニメに出させてくれて」
「ありがとうございます!」
お客様たちはめちゃくちゃ照れていました。