それは夜でした。
蛍を見に行くという大臣一家を見送って。
自室でのんびりと読書を楽しんでいた時間でした。
コンコン。
「私だ。リーノ、いるか?」
「すぐに開けますわ!」
メタナイト卿が、久しぶりに尋ねて来てくれました。
まずは、部屋に招き入れます。
「どうしたのですか?用事は?今日はお休みなのでしょうか?」
嬉しさで興奮するわたくしをなだめつつ、メタナイト卿は答えてくださいます。
「そうだ。今日の夜から、明日の昼まで休みにした。ソードもブレイドも、それぞれランタンとアーニャに会いに行っている」
「二人も会えているのですね。良かった」
親友たちも、恋人たちに会えていることが嬉しいです。
メタナイト卿の手が頬に触れます。わたくしは手を重ねました。
「……今、とても幸せですわ」
「それは、良かった」
仮面がずらされます。
口元が見えたので、わたくしは目を閉じました。
メタナイト卿がお風呂に入っている間に、部屋中のカーテンを閉めておきます。
わくわくする気持ちが、期待が高まります。
彼がお風呂から出たら、二人でベッドに潜り込んで、抱きしめ合います。
このまま寝落ちしてしまいそうなほど、幸せで温かくなって、それから……。
バイク音が聞こえてきました。
「なんですの……」
「廊下から聞こえてくるな」
思わずトゲトゲしい声色になっちゃいます。
先ほどまでの甘い空気とやらは、どこかへ行ってしまいました。
メタナイト卿が、ベッドから出て支度を始められたので、そのお手伝いをします。
「すまない」
「メタナイト卿のせいではありませんわ」
「行ってくる」
そう仰って、両手を広げられたので、腕の中に飛び込みました。
「また来る」
「いつでも、お待ちしております」
ぎゅっと力を込めてから、離れます。
彼はひらりとマントをひるがえし、部屋から出ていきました。
彼が残していった香りと冷めていく体温が、わたくしを孤独にしました。
そして、怒るのです。
「バイク、許しませんわ……」
せめて、今日でなければよかったのに!
――――――
次の日の早朝。
ワドルドゥ隊長に聞いた話では、昨日の夜から大変だったようです。
三台の暴走バイクが、城に侵入したり。
陛下も暴走行為に手を染めたり。
暴走バイクのせいで村がめちゃくちゃになったり。
わたくしとアーニャとランタンは、暴走バイクに対して、さらに怒りました。
「――凍らせて、地下牢に閉じ込めておきませんか?」
「バイクを取り上げるべきね」
「それより、村から追放しましょう。――素敵な夜を、邪魔されたくないです」
「確かに」
「そうですわね」
ワドルドゥ隊長が引いていました。
「一体何をそんなに怒っているのだ?――まさか、何かされたのか!?」
「いえ、直接的には何もされていませんわ」
「昨日の夜、城内でおこした暴走行為のせいで、ちょっとありまして」
「何があったのだ?」
「それは秘密です。でも、私たち怒っています」
三人同時に頷きます。
いつになく、わたくしたちの心は一つでした。
打倒!暴走バイクですわ!!
それから二時間ほどたつと、陛下と閣下が起きました。
朝食のサンドイッチを食べて、また車に乗って出かけます。
そして、帰城されたときには、暴走バイクを連れていました。
名前をビートさんというらしいです。
ビートさんは、数日後に村でレースをするみたいです。ビートさんが勝った場合は、ここに永住するとか。
わたくしたちはストライキしました。
「なんでゾイ!??」
「言うこときかないと、減給でゲスよ!!」
「そちらの方には、わたくしたちも、村人たちも迷惑しております。お世話はできません。ワドルディを頼ってください」
「嫌ゾイ!ワドルディの飯はマズイから食べたくないゾイ!!!」
「我慢なさってください。それでは」
わたくしたちはささっと早足で立ち去りました。
減給なんて、どんとこいですわ!
――――――
レース当日。快晴。
貴賓席にて。わたくしたちメイドは、給仕をしていました。陛下と閣下のお世話の横で、レースを見ます。
……ガスさんが出場すると聞いていたのに、代わりにガングさんがレースに出場しています。
陛下と閣下が悪い顔をして言いました。
「ガスは出場できない」
「よって、ガス欠……デハハハハハ!!」
「陛下、一体何をされたのですか?」
「お前には教えてやらんゾイ!」
「ストライキのお返しでゲスよ!」
うーん。このままだと話し合いは平行線ですね。
とりあえず得た情報だけでも、メタナイト卿にお渡ししましょう……。
「すみません。ちょっとお花をつみに行ってきますわ」
「させんゾイ」
わたくしの前を兵士のみなさんが塞ぎます。
槍がぶつかり合い「ギャリン!」と耳障りな音がしました。
アーニャとランタンが怯えます。
「きゃ!」
「リーノ、下がって」
「二人とも、落ち着いてください。――陛下、これは一体何事でしょうか?」
「いつもいつもメタナイトに会いに行きよって!仕事中にイチャつくなゾイ!」
「陛下……多分違うでゲスよ……」
「なに?」
「――恋人に少し会うだけですわ。健全だと思うのですが」
そう言うと、陛下はブンブンと頭を横に振りました。
「とにかくならんゾイ!」
「そういう訳だから、ここにいるでゲスよ!」
ビシッと言われては逆らえません。
それに、兵士のみなさんを凍らせることもできません。
わたくしたちは貴賓席に閉じ込められたのです。
わたくしはレース場を見ました。
ガスさんのことは、きっとフーム様たちがなんとかしてくださるでしょう。
こちらは、陛下たちを見張るとしましょう。レースを妨害するようでしたら、止めないといけませんね。
そして、レースが始まります。
ビート……の、運転技術は素晴らしいものでした。
わざわざ相手を攻撃するような反則行為をしなくても、レースに勝てるでしょう。
しかし、ビートは反則行為をやめません。
まずボルンさんが、ビートのせいでクラッシュします。次いでサモさんが、レン村長もクラッシュします。
すぐにワドルドゥ隊長率いる兵士たちが、クラッシュしたメンバーを助けてくださいました。
わたくしは体から力を抜きます。
ワドルディたちに任せておけば、すぐにヤブイ先生のところまで運んでくれるでしょう。
「いいゾイ!」
「どんどんやるでゲスよ!」
「陛下、閣下……」
空気をパキリと凍らせます。
お二人は震えました。
「それやめっちゅうねん!!」
「寒いでゲスよ!!!」
「ビートへの応援、お止めください」
「断るゾイ!」
「では、首から下を凍らせて……」
「それはやりすぎでゲショ!」
双方が傷つかない良い案だと思ったのですが……。
レースは始まったばかり。これから何が起こるかわかりません。手足は動けた方がいいですよね。
なので、凍らせるのは止めておきます。
やがてガングさんもビートにやられます。
バイクはクラッシュしていないので、すぐに復帰すると思うのですが……?
わああああ!!
歓声が上がりました!
ガスさんです!ガングさんの代わりにバイクに乗っています!
わたくしたちも歓声を上げました。
「ガスさん、ファイトです!」
「ビートなんてやっつけちゃえ〜!!」
「村に平和を取り戻してください!」
陛下は怒りました。
「お前たちも静かにするゾイ!!!」
そんなやりとりをしている間にも、ビートは反則行為をします。
ガスさんに向かって鎖を振り下ろしました。このままでは、ボルンさんたちと同じ結末になります。
そこに一台のバイクが現れました。
初めて見るバイクです。あれは……誰かに似ているような?
誰かが言いました。
「ステッペンウルフだ!」
あの、伝説のライダーがどうしてここに?
ステッペンウルフはすぐに、ガスさんとビートに追いつきます。
そしてガスさんの腕を縛る鎖を、バイクのタイヤで引きちぎりました。
ビートは次にステッペンウルフに向かって鎖を放ちます。その鎖をステッペンウルフは握り返し、ビートに反撃しました。
ビートのバイクのタイヤは鎖と絡まります。そしてクラッシュしました。
これでガスさんの勝ちが決まりました!
わたくしたちは喜びを分かち合いました。
「これで!」
「素敵な夜が!」
「戻ってきますね!」
閣下が声を荒らげます。
「お前たち!陛下の前ではしたないでゲスよ!」
「なんゾイ?」
「いや!その〜……あの〜……」
「ええい!とにかく!ビート!!!」
「で、出番でゲスよ!!」
陛下たちの合図で、ビートが雄叫びを上げます。
巨大な魔獣に変身しました!
「あれは……!?」
「魔獣ウィリー、カービィを倒すゾイ!」
カービィも負けていません。
クラッシュしたマシンのタイヤを吸い込みます!
ホイールカービィに変身しました。
「ぐふふ!これでもくらうゾイ!」
「いけない!」
レースを邪魔する陛下を止めようと、ランタンとアーニャが動きます。
それを、わたくしは止めました。
「リーノ!?」
「どうして……?」
「よく見てください」
レース場にまかれた油と、まきびしは、どれもホイールカービィとガスさんには当たりません。
ウィリーだけが、困っています。
「なんでゾイ!」
「あちゃー」
アーニャとランタンは顔を綻ばせました。
「リーノは気づいていたのですね」
「やるじゃない」
「カービィとガスさんなら、大丈夫だと思ったんです!」
ウィリーはガツン!と壁にぶつかり、山のように大きなデデデ像の上に乗ってしまいました。
そしてホイールカービィとガスさんが同時にゴールします!
わたくしたちは身を寄せあって、喜びを分かち合いましたわ。
ですが、それも束の間。
すぐにレース場が崩壊し始めます。わたくしは氷の階段を作り、レース場の外へみんなを誘導しました。
氷の階段は、レース場と共に砕けました。
ですが、陛下も閣下も、アーニャとランタンも無事です。
元気に「お〜いおい!!」と泣く陛下と閣下を置いて、わたくしたちメイドは恋人たちの安否を確かめに行くのでした。