ある日の夕方。
陛下が使われる食堂では、ジンギスカンの用意をしておりました。
陛下は席についておられます。あとは閣下を待つだけ……どこにいらっしゃるのでしょうか?
「陛下!陛下!」
「なんゾイ……」
「あら、閣下」
閣下が血相を変えて、食堂に飛び込んできました。
わたくしに目もくれず、陛下の方へ飛び込みます。
「ワドルディたちの食事がどんなものか!知っているでゲスか!?」
「わしは自分のご飯にしか興味ないゾイ……」
「やつらのご飯は精進料理と言って……ごにょごにょ!」
「……それでは、食事代がかかっておるのかゾイ?」
「へ?まあ、そうでゲスな」
「やつらを雇ったのは、食事代がかからんと思ったからゾイ!あとで調査せい!」
「は?わたくしがですか?」
「他に誰がおる?」
「リーノとか……」
呼ばれたので、口を開きました。
「どちらにせよ、閣下に手伝っていただくことになりますわ」
「ああ〜面倒でゲスな」
「とりあえず、今はジンギスカンをどうぞ。そろそろ焼けますわ」
「待っていたゾイ!」
「楽しみでゲスな!」
閣下と陛下は温めたおしぼりで手を拭きました。
そして、肉が焼ける香りを楽しみます。
夕食のデザートもしっかり食べていただきます。
本来ならばお茶を飲んで一服するところです。しかし、閣下とわたくしは用事があるので、食堂を退出します。
アーニャとランタンは、先に帰ってもらいました。
待っててもらうと遅くなっちゃいますからね。
食事を終えているワドルドゥ隊長を訪ねて、理由を話し、ワドルディたちの食費を調べました。
ワドルドゥ隊長の執務室にて。
書類をとじたバインダーをいくつか引っ張り出し、閣下に渡します。そして金額をメモしていただくのです。
「……まあ、こんなもんでゲショ。リーノ、行くでゲスよ」
「もうよろしいのですか?」
「大体わかればいいんでゲス。ワドルドゥ、片付けておくでゲスよ」
「あの、わたくしも片付けをしてから、閣下のあとを追いますね」
「ふん。まあ、いいでゲショ」
閣下はメモを持って、部屋から出られました。
わたくしはワドルドゥ隊長と共に、バインダーを片付けます。高い所はわたくしが、低い位置はワドルドゥ隊長にお願いしました。
二人でやれば、あっという間に片付けは終わります。
ワドルドゥ隊長と、お礼と就寝の挨拶を交わして、わたくしは厨房に向かいました。
もう深夜です。
なにか温かい飲み物を持っていきましょう。
「なんじゃこの金額は〜!?」
玉座の間に入ると、陛下の驚いた声が響きました。
カートをカラカラと押して、陛下たちに近づきます。
「陛下、閣下。何ごとでしょうか?」
「どうしたもこうしたもないでゲス!画面見るでゲスよ」
「はい」
わたくしから見て、左側のモニターに金額がうつっています。
……え?九千万……えと?
「とりあえずホットミルクを飲みませんか?」
「現実逃避するなでゲス!」
「うう、すみません。ですが、想像以上にお金がかかっているんですのね」
「かくなる上は、安い弁当屋を募集するゾイ!」
「自分たちで作った方が安上がりだと思います……。村から城までの道を畑にしちゃいませんか?」
「景観が損なわれる!却下ゾイ!!」
「良い考えだと思ったんですがね……」
コップにホットミルクを注ぎ、ハチミツを溶かします。
それを二つ作りました。
「どうぞ。陛下」
「うむ。エスカルゴン、明日の朝一番のニュースで弁当屋を募集するゾイ!」
「どうぞ。閣下」
「こりゃどうも……って、ええー!?徹夜になっちゃうでゲスよ」
「やれい」
「とほほ……わかりましたん……。ずずっ……はあ、おいし」
「ずずっ……うんまい!」
「喜んでいただけて嬉しいですわ。閣下、残り物で良ければクッキーを差し入れますわ」
閣下はさらに喜ばれました。ニコッと笑顔になります。
「わしには?」
「明日のおやつは、クッキーにしますね」
陛下もニコッと笑われたのでした。
――――――
次の日。
朝一番のニュースで弁当屋を募集したところ、三組の応募がありました。
コンビニを営むタゴさん。
レストランのオーナーカワサキさん。
そして毎日の食事を担う、数名の主婦の皆さんです。
昼すぎ。
三組の応募者には、お弁当を実際に作り、持って来ていただきます。
陛下と閣下、そしてメイド代表としてわたくしが厨房に入ります。
先に厨房に来ていたタゴさん、カワサキさん、主婦の皆さんが、いっせいにわたくしたちを見ました。
陛下が咳払いをします。
「ごほん!さっさと始めるゾイ」
「え〜では、皆さんお弁当を準備するでゲス。……リーノ」
「はい。主婦の皆さん、タゴさん、カワサキさんの順で始めましょう。では、一言ずつアピールタイム開始ですわ!」
パフパフ!
持って来たパフパフラッパを鳴らします。
まずは栄養満点、おかずの種類も豊富な弁当が三百デデン。
「高いゾイ!」
「安くするでゲスよ!」
「へ?」
値段はどんどん下げられます。
二百デデンから、カワサキさんの天然が発揮されて五百デデンに上がり、再び下がって百九十デデン。
百五十、百、六十、五十デデン……。
「これ以上はムリだ……」
「味も栄養も見た目もガタ落ちしちゃう……」
「そうですわよね……陛下、これ以上はできませんわ」
「いかんゾイ!もっともっと下げるがよいゾイ!」
「……!汚れた油で野菜クズを揚げた弁当、十デデンね!」
「カ、カワサキさん!?」
カワサキさんの言葉に喜んだのは、陛下と閣下でした。
そしてタゴさんが、声を上げます。
「う、う……梅干しだけ弁当!九デデン!」
「六デデン!」
「五デデン!」
「もう一声!!」
「うっ……もう無理だよ……」
タゴさんが諦めた、そのとき。
「――じゃあ、おれは一デデンでいい」
みんながびっくりしました。
陛下と閣下が「決定だ!」と喜ばれます。
そこにフーム様とブン様とカービィが登場して「待った」をかけました。
「カワサキ、一デデンでどんな料理を作るつもり?」
「サンドイッチだよ」
「バカ言え!一デデンのサンドイッチなんかあるもんか!」
「今やってみせるね!リーノ、パンとハムちょうだい」
「は、はい」
食パンと立派なハムをカワサキさんに渡します。
カワサキさんはそれらを、薄く――とんでもなく薄く切りました。
みんながまたもや、驚きました。
「向こう側が透けて見えますわ……」
「芸術的ゾイ!弁当はコックカワサキに……」
「決まりでゲスな!!」
「やったー!」
「ちょっとお待ちください!あれではご飯になりません。お考え直しを……」
「断る!」
「さ、お前たち帰ってもいいでゲスよ」
主婦の皆さん、タゴさんは怒って厨房から出られました。フーム様たちも呆れています。
カワサキさんは正気にかえったのか、頭を悩ませていました。
わたくしも頭を悩ませました。
……とりあえず、ワドルドゥ隊長に相談しましょう。
「……本当に、薄いな」
「はい……」
夕方。
ワドルディたちの夕食時。
カワサキさんの手によって作られた透けるサンドイッチは、今日からワドルディたちに配られます。
あらかじめ、わたくしから話を聞いていたワドルドゥ隊長は、実物を見るまで半信半疑でした。
ワドルドゥ隊長の顔をこっそり覗きます。
困っているような、怒っているような複雑な顔でしたわ。
「陛下に抗議してくる」
「ならば、わたくしも」
「なぜ、ついてくる」
ワドルドゥ隊長の背中が「ついてくるな」そう語っているように見えました。
わたくしはハッキリと申し上げました。
「家族の誰かが、家族をしいたげているのを、黙って見ているのはイヤですから」
「――そうか」
「それに、陛下を止めきれませんでした。今回の件、わたくしにも責任がございます」
ワドルドゥ隊長はわたくしの方を見ます。
「――覚悟はあるか」
わたくしは、言いました。
「――ワドルディたちに健康な食事を。陛下に考え直していただきます」
結局。ワドルドゥ隊長の忠告は、陛下に聞き入れていただけませんでした。
わたくしの話も、ダメでしたわ。
兵士たちの食堂へ帰る途中、ワドルドゥ隊長は言いました。
「明日の朝、またあの薄いサンドイッチがご飯だったら、行動をおこす」
「かしこまりました」
「……陛下を裏切れるのか?」
「わたくしは、ワドルドゥ隊長やワドルディたちのために……家族のために、家族である陛下と交渉するだけですわ……」
「――陛下との交渉は、私がやる。リーノはメタナイト卿を抑えてもらいたい。かの御仁には、中立でいてもらいたいのだ」
「……わかりました」
メタナイト卿は、どうされるのでしょうか。
考えてもわかりません。わたくしはみんなが戦わなくて済むように、頑張ろうと思いました。
そうだ!アーニャとランタンには、事情を説明しましょう。
――――――
翌日、朝。
アーニャとランタンは地下に隠れていただきます。
わたくしは、クッキーとコーヒーをのせたカートを押して、メタナイト卿の部屋にお邪魔しました。
メタナイト卿は快く中に入れてくださいました。部屋の中にはソードナイトさんもブレイドナイトさんもいます。
「それで、今日はどうしたのだ?」
メタナイト卿の優しい声が心地よくて、わたくしはニコニコと笑います。
「これからワドルドゥ隊長が、ワドルディたちを率いて革命をおこすかもしれません。なので、ここにいてください」
「は?」
「なんと……」
「――そうか。そなたは、ワドルドゥ隊長側についたのだな」
「どちらか一方に、味方している訳ではありません。陛下が考え直してくだされば、わたくしはワドルドゥ隊長を止めますわ」
「……詳しく、話してくれるか?」
わたくしはコーヒーを三人分いれました。
「ええ、喜んで」
ドタバタ。ドタバタ。
ワドルディたちがあちらこちらと走る音が、離れたところで聞こえます。
そんな中でフーム様とブン様、それにカービィが部屋の中に飛び込んできました。
「メタナイト卿、匿ってちょうだい!」
「かまわない」
フーム様たちは、ほっと息を落ち着かせます。
それから、わたくしに気づかれました。
「リーノも無事だったのね!良かった!」
「フーム様、ブン様、それにカービィもご無事で良かったです。……ワドルドゥ隊長に、大臣一家は襲わないようお願いしておけばよかったですわ」
「どういうこと?」
フーム様たちは困惑されました。
わたくしは答えます。
「こたびの革命、わたくしは知っておりました」
「なんですって!?」
「知ってたのか!?」
「ぽよ!」
わたくしはこれまでのことをフーム様にお話します。
フーム様はどんどん顔を険しくされて、とうとう怒ります。
「――全部、デデデのせいじゃない!」
「陛下が考え直してくだされば、この革命も止まりますわ」
「そんな簡単にうまくいくかな?」
ブン様の疑問はもっともです。
それでもわたくしは、これ以上の争いがおきないことを願うのでした。
そのとき!
ガンガンガン!!!
扉が酷く叩かれました。
三戦士が臨戦態勢にうつります。
「ワドルディの総攻撃だ!」
「そなたたちは逃げろ」
「ええ!」
フーム様たちは、部屋の暖炉の中へ飛び込みます。
そこには仕掛けがあって、下の階へ逃げられるようになっていました。
「リーノ!」
「わたくしは残ります」
驚いたメタナイト卿が、わたくしを見ました。
わたくしの目には、きっと決意が浮かんでいたでしょう。
「家族であるワドルディたちを、傷つけることはできません。ですが、メタナイト卿たちを守ることならばできます」
「どうするのだ?」
「氷の壁を造りますわ」
「……わかった。そなたの合図に合わせる」
「はい」
わたくしは両足を肩幅まで広げて、リラックスします。
両手も体の横に、力を抜いて。手のひらに力を溜めます。
「――今です!」
「ソード、ブレイド!引け!!」
「はっ!」
「ふっ!」
「いっけえええ!!!!」
ソードナイトさんとブレイドナイトさんが飛び退いた瞬間、わたくしは両手に溜めた力を一気に解放しました。
――わたくしたちと、兵士たちの間にちょっとした壁を造る予定でした。
でも、現実は……。
バキバキバキィ!!!
巨大な氷の山を、築きました。
わたくしはとってもびっくりして、思わず声を上げます。
「きゃ!」
「大丈夫か!?」
「へ、平気ですわ。ちょっと驚いてしまっただけで……」
「――なにか、体に異常はないか?」
「異常ですか?」
体のあちこちを見て、さすってたしかめます。
「異常はありません」
「……ペナルティなし、か」
「メタナイト卿?」
ドン引きされている気がしますわ。
たしかに、ちょっと……すみません。かなり大きな氷の山を築きましたが、ソードナイトさんにブレイドナイトさん、加えて兵士のみなさんに危害がありませんでした。
なので、引かれる理由に心当たりがありませんわ……。どうしてでしょうか。
改めて、氷漬けになった扉の方を見ます。
ワドルディたちは誰もいませんでした。きっと逃げたのでしょう。
わたくしはほっとします。
「兵士たちは逃げたみたいですね。戦わなくて良かったです」
「そう……」
「ですね……」
部下のお二人にも引かれている気がしました。
気づかなかったことにします。
メタナイト卿が少々疲れた調子で仰いました。
「この氷を切るのは、骨が折れそうだな」
「それならば、問題ありませんわ。また魔力を込めれば、粉々に砕けますので」
「――そうなのか?」
「はい。以前、小さな氷でやってみたところ、できましたの。ですから部屋を出るときは、お任せください」
「わかった。そなたに任せる。……おそらく、我々がもう襲われることはないだろうから、氷を砕いてくれ」
「かしこまりました」
わたくしは氷に手をつけて、力を流します。
氷は簡単に砕けました。できるだけ、細かく砕いておきます。
拳大の氷がゴロゴロと床に転がりました。
扉はもう氷におおわれていません。
「フームたちを探す。リーノ、行けるか?」
「もちろんです!」
「では、行くぞ」
「はい!」
メタナイト卿とわたくし、ソードナイトさんとブレイドナイトさんの二手に別れて、フーム様たちを探しに行きました。
その道中で、兵士たちの食堂から良い香りがしたのです。
念のため覗きました。
たくさんのワドルディたちが、おいしそうな精進料理を食べています。
そんな部屋の中で陛下と閣下、それにフーム様たちを見つけました。
駆け寄って話を聞くと、どうやら魔獣と一戦交えたあとのようです。
わたくしは陛下を見ました。
「みなさまがご無事で良かったです。あの、ワドルディたちの食事の件は……?」
「もうケチらんゾイ」
「革命はこりごりでゲスよ……」
「よかったですわ!」
わたくしは心から喜びました。
だって、家族同士が仲直りしてくださったのですから。