夜までぐっすり寝ましたので、体は元気です。
わたくしは、作業をしているらしい玉座の間に急ぎました。
アーニャとランタンは、わたくしの部屋で寝ていますわ。
……寝ずにわたくしの面倒を見つつ、恋人の安否を心配していたんですもの。疲れていて当然ですわ。
玉座の間の大きな扉を開けて、中へ入ります。
キュリオさんと、パーム様が壊れたデリバリーシステムを直していました。
お二人は、音に気がついてこちらを振り返ります。それから手を振ってくださいました。
わたくしは頭を深く下げます。
邪魔にならないよう気をつけて、デリバリーシステムに近づきました。
「こんばんは。パーム様、キュリオさん」
「こんばんは、リーノ。その……」
「こんばんは。リーノ、大丈夫かい?」
ああ、メタナイト卿がわたくしを眠らせたことを知っておられるのだと、わかりました。
わたくしはニコッと笑います。
「はい。よく寝たので、元気満タンですわ」
「そうかい?それを聞いて安心したよ」
「私はてっきり落ち込んでいるものだと思っとたが、その様子だと大丈夫じゃな」
「いいえ、キュリオさん。わたくしは落ち込んでいるし、怒っていますわ。ただ……今は感情を爆発させている場合ではありませんので、我慢していますの」
「そ、そうなのか?」
「ええ」
キュリオさんはびっくりしたようです。目を丸くされていますから。
パーム様は仰いました。
「まあ、とにかく。元気がないよりかはいいだろう。――怒るのは、メタナイト卿が帰ってきてからでも遅くはない」
「はい。わたくしもそう思います。……ところで、なぜデリバリーシステムを直しているのですか?」
「念のためだよ。最終決戦に向かったのなら、ハルバードが壊れる可能性もあるだろう」
キュリオさんが頷きます。
「敵の本拠地には魔獣がたくさんいるだろうしな。帰ってくる手段は多い方がいい」
「そうですわね。そう思います。……わたくし、お二人にデリバリーシステムを直していただけないか、お願いしようと思っていたのですよ」
「そうか。それでは、ちょうど良かった訳だな」
三人で静かに笑い合います。
そのとき、誰かが眠そうな声を上げました。パーム様とキュリオさんを見ます。お二人は「自分ではない」と、首を振りました。
「あら……リーノも来ていたのね」
「メーム様」
デリバリーシステムの左側。柱に背中を預けて毛布を被っていたのは、メーム様でした。
近くにロロロとラララも寝ています。
わたくしは二人を起こさないよう近づき、メーム様の前で膝をおります。
「こんばんは。起こしてすみません」
「いいのよ。そろそろみんなの夜食を作らなくちゃいけないから……一緒に来てくれる?」
「ご一緒します」
「ありがとう。あなた、行ってくるわね」
「ああ。頼んだよ、お前」
メーム様とわたくしは、パーム様とキュリオさんに見送られて、玉座の間から出ました。
夜風にあたりながら、廊下を歩きます。
メーム様はだんだん目が覚めてきたようです。眠たげだった目が、しっかりとしてきました。
「私ね、メタナイト卿に感謝しているの」
唐突にメーム様が仰られました。
その横顔を見れば、メーム様の視線は遠くを見ていました。「こんなこと言ったら、あなたは怒るかもしれないけれど」と続けます。
「子供たちはメタナイト卿について行ってしまった。あなたまで、遠いところに行ってしまったらどうしようって、不安だったの。でも、あの戦士はあなたを置いていった。妹のように可愛いあなたまでは、取らないでくれた。だから、感謝してる」
「メーム様……」
「リーノ。あなただけでも、安全な場所にいてね」
そうして、メーム様はわたくしの片手を握られます。
「……大きく、なったわね」
慈愛に満ちたその声が、わたくしの中で大きく響きました。
わたくしがフーム様やブン様に向ける親愛のように、メーム様もわたくしに親愛を向けてくださっている。
わかっていました。知っていました。けれど、改めて実感しました。
わたくしは、メーム様の手を握り返しました。
感謝と、愛おしさと、申し訳なさでいっぱいでした。
「わたくしは……メーム様やパーム様、村のみんなに育てられて大きくなりました」
「そうね。私の家に泊まりに来たことも、一緒にご飯を作って食べたことも、何回もあるわね」
「今もお世話になっています。――ありがとうございます。心から感謝しています」
「いいのよ。あなたも、私たちに力を貸してくれるでしょ。姉孝行と言えばいいのかしら?……してもらったわ。ありがとうね」
メーム様のにこにこと微笑まれる表情には、混じりっけなく喜びが浮かんでいました。
「……わたくしはここに残るのではなく、メタナイト卿と共に行く道を選びました」
「そうね」
「怒りませんか?嫌になりませんか?」
「ならないわね。ああ、とうとう姉離れのときがきたんだと、そう思ったわ」
わたくしは目を大きく開けて、メーム様を見ました。
メーム様はふふっと笑います。
「リーノ。私ね、もう妹離れの準備はできているの。あなたの幸せを願ってる」
手を強く握られました。
「あなたの選んだ道だから、応援するわ。できたら、近くにいてほしいけれど、ね」
「メーム様……」
わたくしはくしゃりと顔をゆがめました。
「わたくしも、メーム様のお傍にいたいです。でも、メタナイト卿が遠くに行かれるのならば、ついていきたい」
「人を愛するって、きっとそういうことよ」
厨房に到着しました。
メーム様は、空いている片手でわたくしの頬に流れる水を拭き取ります。
「泣かないの。これから頑張って、おいしい夜食を作るんだから」
「はい。はい」
ハンカチをとりだし、涙を拭います。
わたくしは数度、深呼吸しました。
もう大丈夫。
厨房の扉を、開けました。
――――――
デリバリーシステムは二日目の明け方に、完成しました。
最後はキュリオさんを筆頭に、パーム様、ワドルドゥ隊長、ワドルディたちの中でも機器類の扱いが上手な人たちを集め、直しました。
デリバリーシステムは完成後、すぐに動き出します。
あっという間に、みんなが帰ってきました。
その中に、メタナイト卿の姿もあって。
喜びが胸中にあふれます。
ですが、アーニャとランタンが、それぞれの恋人と喜びを分かち合うとき、わたくしとメタナイト卿は静かでした。
「リーノ……」
「メタナイト卿……無事に帰ってきてくださってよかった」
「ああ……すまなかった」
「理由が、あるんですよね?」
周りのみんなが、玉座の間から出て行きます。
メタナイト卿が仰いました。
「私たちも行こう」
「はい……」
お互いに、微妙な距離を開けつつ。
わたくしたちも朝日を見るべく、城から出ました。
城の外。
村がよく見える丘の上で。
海の向こうから朝日が顔を出します。
決戦に行ったみんなは、生きていることを実感しているようでした。
わたくしは後ろの方で、メタナイト卿と朝日を見ていました。
「――そなたを置いていったのは、安全な場所にいてもらいたかったからだ」
「それだけ、ですか?」
「……」
メタナイト卿は、しばし迷うように空中を見つめて、それからわたくしの方に向き直りました。
「リーノ。私が戦友を失ったことは、知っているな」
「はい。以前、お聞きしました」
ナックルジョーのお父さんのこと、シリカのお母さんのこと。
あまり多くは話されなかったけれど、メタナイト卿から聞かされた話。戦争での出来事を語ってくれました。
「――私は、友も、仲間も、部下たちも失った。魔獣にされて戦ったものもいる。裏切ったので、倒したものもいる。魔獣との戦いで命を失ったものもいる」
メタナイト卿は一度強く目をつぶったあと、また目を開けられました。
「リーノ。そなたは強い。自分を守り、仲間を守れる力がある。だから狙われる。そして――魔獣にされるだろう。そうなれば……」
「私は、あなたに倒される」
村人では勝てず、ソードナイトさんとブレイドナイトさんでも勝てず。
きっと私を殺せるのは、カービィかメタナイト卿だけ。
メタナイト卿は頷かれた。
「だから、連れて行けなかった。私は恋人を、手にかけたくなかったのだ。……一瞬の迷いが、何倍にも被害を出してしまう。私は魔獣になったそなたと、みなの命を天秤にかけるだろう。……多くの被害は、出せない」
「わかり、ます……」
わたくしは声を絞り出しました。
そこまで考えられず、ついて行こうとした自分が、嫌でした。
あまりにも、楽観的でした。
メタナイト卿たちが勝つ。それを知っていて、だからなんなのでしょうか。
「ごめんなさい」
「そなたが謝る必要は、ない」
メタナイト卿が両手を広げ、そっと、ゆっくりわたくしを包み込んでくださいました。
「リーノ、愛している。そなたが無事で、この未来を生きていてくれて、よかった」
「メタナイト卿……!わたくしも、あなたを愛しています」
ぎゅっと、離すことがないように、メタナイト卿を抱きしめました。
今は、共に未来を生きれることを、祝いましょう。
――周りで拍手がおきました。
びっくりして顔をあげます。
いつの間にか、村人たちや、大臣一家、陛下に閣下までこちらを見ていて。
わたくしたちを祝福していました。
メーベルが言いました。
「リーノ、おめでとう!」
わたくしはぎょっとしました。
「な、何がでしょう?!」
「何って……ねえ?」
メーベルは隣にいたサモさんと頷き合います。
今度はメーム様が、メタナイト卿に言いました。
「もう“まだ”なんて、言いませんね?」
「ええ」
メタナイト卿は再び、わたくしの方を向きます。
両手を繋いで、まっすぐ顔を見て。
「リーノ」
とびっきりの優しい声で呼ばれるものですから。
わたくしは顔が真っ赤になりました。
そのとき陛下が言います。
「あー!!!ちゅーはいかんゾイ!!!」
「陛下!めっ!今は良いんでゲスよ!!!」
「しませんよ?!!」
わたくしが声を荒らげると、フーム様が大声を上げました。
「デデデ、黙りなさい!せっかく良いところなんだから!」
「そうだぞ!」
「?なんのことだゾイ?」
「あちゃー……この人わかってないよコリャ」
みんなが頭を抱えました。
その中で、レン村長とハナさん、ボルンさんとサトさんの夫婦がメタナイト卿に近づいて、言いました。
「メタナイト卿。日を改めた方が良さそうですぞ」
「こういうのは邪魔者がいないほうがいいですからな」
「お互いにとって一生の思い出になるもの。二人きりの日をオススメするわ!」
「リーノをよろしくね!」
メタナイト卿は力強く頷きました。
「必ず、幸せにします」
女性陣から「きゃー!」と声が上がりました。
陛下は、メタナイト卿を指して言います。
「当たり前ゾイ!」
「うちの子泣かせたら、許さないでゲスよ!」
「承知しています」
さっきの甘い空気はどこかに流れてしまったので、わたくしとメタナイト卿は離れました。
みんなの前で、ずっとハグしているのも、恥ずかしいですわ。
フーム様とブン様、カービィがこちらに来ました。
「なんだかごめんなさいね。リーノ」
「いい雰囲気だったのにな」
「ぽよぽよ……」
わたくしは笑顔で言いました。
「いいのです。それよりも、みなさんお疲れでしょう?朝食にして、それから休まれてはいかがですか?」
「そうするわ!リーノが作ったオムレツが食べたい!」
「俺も!」
「ぽーよ!」
「かしこまりました。メタナイト卿、いってきます」
「ああ。いってらっしゃい」
「ああー!リーノ!ワシの分も作るゾイ!」
「私の分も作ってくれでゲス!」
「かしこまりました。腕によりをかけますわ」
アーニャとランタンを呼んできます。
どうせなら、兵士たちも、村人たちも、みんなが食べられるようしましょう。
パーティの始まりですね。