数日後。カスタマーサービスと顔を合わせることなく平穏な日々を享受していた。魔獣もデリバリーされず、良い感じだったのに。陛下がウィスピーウッズの森を伐採してしまい、そこにゴルフ場を建ててしまったのだ。
結果はもちろん。陛下の目論見は失敗する。
カービィが吐き出したリンゴが特別な物だったらしく、ウィスピーウッズが復活した。復活した森の王はすぐさま木々を蘇らせて、森を再生させる。
草原だった場所は、元通りの深い森になった。
陛下と閣下は一日ほど森を彷徨い、帰ってきた。
五体満足で帰してくれてありがとう。ウィスピーウッズ。
帰ってきたその日は、温かく消化にいいお粥を出して差し上げた。
陛下の悪だくみは尽きることがない。
玉座の間で温かい紅茶を飲み干して、カップを高く掲げる。
「次はテレビゾイ!!!」
「テレビ、でございますか」
テレビとは、なんとも懐かしい響き。前世で視聴した以来だ。娯楽の少ないこの村でならすぐに流行するだろう。
「あん?リーノはテレビを知っているでゲスか?この村を出たことがないのに?」
「旅人から話を聞いたとこがあります。家にいながら、遠くの景色を見ることができる便利な物だとか」
「その通り。しかし、我が国が国民に配るテレビの凄さはそれだけじゃないでゲス!」
「と、仰いますと?」
「双方向テレビゾイ!」
「双方向、つまり村人に配るテレビは、視聴者を映すカメラの役割も担っているんですね」
「あくまでも顧客のニーズに迅速に対応するためでゲス」
「その事は、村人たちに知らせなくていいんですか?」
「知る必要はないゾイ」
「かしこまりました。わたくしも口を慎みますわ」
私は深くお辞儀をした。
陛下は目をかっと開いて、指を差した。
「閃いた!お前もテレビに出るゾイ!」
「お断りします」
「なんでゲスか!」
「わたくしには裏方の仕事がありますから」
「そういうのは後回しにしていいから!出るでゲスよ!!」
「嫌です。たいへん、嫌です」
「口答えしない!リーノが出れば男性視聴者はゲット!視聴率アップ!」
リーノはぎょっとした。
自分が男性に(密かに)人気があるらしい、とは聞いている。しかしその事が陛下や閣下も知っているほど、有名な話だとは思わなかった。
「とにかく!お前には料理番組を任せるゾイ!せいぜい気張るがいい。ヌハハハハ!」
「そ、そんな……」
「断れば給料を下げる!」
「うぐ……やらせていただきます」
「……という、訳なの。どうか力を貸してくれない?」
村、アーニャの家にいつもの三人で集まる。
私から話を聞いたアーニャとランタンは眉を寄せて悩み始めた。
テレビ放送のことは、まだ詳細を話せないから秘密にしておく。いつもの「大王様の無茶振りで」と二人には説明し、「村人たちに料理を披露するのだ」と言った。
「いつも、いつも大変ですね。リーノ、同情します」
「いいのよ、アーニャ。慣れているから、そんなに大変ではないの。たまにボーナスも出るし」
「それにしても、断ったら給料減額はないわよ。まったく、あの大王ったら」
「その点についてはもっと言ってやってください。ランタン」
愚痴もそこそこに、話題は”どうやってお披露目を成功させるのか”に移る。
「はじめてお披露目するんですから、簡単な料理をチョイスしてはいかがでしょう」
「簡単な料理というか、調理方法が簡単でなおかつ材料が揃いやすいもの、かしらね」
「プリンとかでしょうか?」
「いいですね!材料も揃えやすくて、調理方法も簡単です」
「案は一つだけじゃなくて、もう少しいるわよね。他だと何がいいのかしら。カレーとか?」
「それならシチューもいいですね」
出されたアイディアをメモ帳にまとめあげる。
さらに三つほど料理の案が出されたところで、リーノは閃く!
「あの、私たちが作っているアクセサリーを身につけて、皆の前に出るのはどうかしら」
リーノたちは小物のアクセサリーと雑貨を作っていた。三人が友達になった頃から、ずっと作り続けている。はじめは子供が作った幼い物から、現在の大人向けに至るまで。
それらはランタンが勤める雑貨屋の片隅に販売されている。売り上げは上々で、黒字だ。
いつかは、子供の頃に夢を見たように、三人のお店を持ち作った物を売りたいと考えている。
そのためにはお金が必要だ。もっと売れなくてはならない。
「そうすれば、たくさんの人の目にとまって、アクセサリーの売れ行きが良くなると思うの」
ランタンは興奮して大声を上げた。
「それよ!ナイスアイディアよ、リーノ!いい宣伝になるわ」
反対にアーニャは静かに考える。
「そうと決まれば、急いでメイド服に合うシンプルなアクセサリーを見繕いましょう」
「リーノ、あんたのメイド服を一枚借りられない?それに合わせてアクセサリーを作っちゃうわ」
「でしたら、古い物が一着あるから、それを持ってくるわ。私はお披露目にかかりっきりになるから、他の事は任せるわね」
「了解、任されたわ」
「万全の準備をして当日を迎えましょうね」
揃って固く頷き合う。
リーノはアーニャとランタンに見送られて、城に戻った。
すぐに玉座の間に赴き、デデデ陛下とエスカルゴン閣下に話を通した。料理番組のアシスタントとスタイリストにアーニャとランタンを雇いたいと伝える。
陛下は「ワドルディたちで充分だわい!」と仰られたが、二人のセンスの良さを知る閣下は私を後押ししてくださった。おかげで陛下の了承が得られ、無事に二人も番組に参加できる。
プププビレッジ初のテレビはお昼に始まった。
料理番組は夕方以降の枠だ。それでも準備は念入りに、数時間前から用意する。
たった数日の準備とは言え、やれるだけのことはやった。後は楽しんで乗り切ろう。
十秒前、にっこりと笑みを作る。視界の端でアーニャとランタンが手を振って応援してくれている。手を軽く振って応えた。
五秒前、しっかりと背筋を伸ばして正面のカメラを見る。
そして映像が切り替わった。
『こんにちは、テレビの前にいる皆様。リーノです。今日はいつもお城で、陛下にお出ししているプリンの作り方をご紹介いたしますわ』
「なんてこと!まさかリーノまでデデデに協力しているなんて!!」
「彼女も陛下の部下だ。命令されては、従わざるを得ない」
「確かにそうだけど……」
「なあ、ソード。アーニャとランタンも出るのかな」
「どうだろうな。このまま見ていればわかるだろう」
「あなたたちね……」
『ここで、臨時ニュースでゲス』
リーノと幼馴染の三人は、モニターを二度見した。
魔獣が村近くの森に現れたのである。三人は顔を見合わせた。互いに村の安否を気にしているようだった。
リーノはぐっと手に力を入れた。
この目で魔獣を確かめたい、そう思った。
村を脅かす存在でもあり、数日かけて取り掛かった番組の邪魔者である魔獣を、この眼で一目見ておきたかった。カービィに倒される前に。
椅子が音をたてる。
「少し席を外します!番組が繋がったら、わたくしがつけているイヤリングの紹介をしてください!」
そして部屋の外に向かって走り出した。
その後ろ姿へ、慌ててランタンが声をかける。
「リーノどこへ行くの!?」
「村が一望できるバルコニーです。そこで魔獣を確認してきます!」
「見てどうすんのよ!リーノ!!」
なにもできない。それでも、意味がなくても、相手を睨みつけてやりたい。
リーノは悔しさを力に変えて、一生懸命に走った。
目的地のバルコニーに着くころには、額に薄っすらと汗が滲んでいた。
もう夜のとばりが降りてきている。目を凝らして魔獣を見つけようと、森を睨んだ。
でも何も見えない。
村周辺には一切、異変を感じられなかった。念のため遠くまで眺めるが、どこにも異常はなかった。
いつもの平和な村だ。魔獣はどこに行ったのだろう。
ここで、記憶が一部蘇った。
デデデ大王が村人たちにテレビを配る回。最後には嘘がバレてしまうストーリー。
「嘘、嘘なんだわ。全部カービィを追い出すためのでっちあげ!!」
気づいたリーノは再び走り出す。アーニャとランタンがいる放送室に戻った。
戻った時には息切れしていて、上手く言葉が紡げない。
駆け寄ってきた二人の腕を掴み、必死に伝える。
「二人、とも。ニュースは嘘よ!今すぐここから逃げなきゃ……」
そのとき、三人は槍を持ったワドルディたちに囲まれてしまった。
「!!」
「な、なんですか一体……」
「あ、あんたたち!二人に近づいたら許さないわよ!!」
「待って、落ち着いて二人とも。……あの、私たちはどうすればいいですか?」
ワドルディたちは槍を下げて、歩き出した。そして部屋の外の扉を開けてくれる。
「に、逃げてもいいんでしょうか?」
「いいえ。彼らは私たちについてきて欲しいのよ」
「行くしかないみたいね」
私たちは互いの手を取り合って、ワドルディたちの後ろをついて行った。
地下深く階段を降りる。そこには厳重に守られた、放送室があった。中に入ると、村を襲っていた魔獣の着ぐるみを着た閣下に、陛下がいらっしゃった。奥には村を忠実に再現したおもちゃのセットがあった。
私たちに気づいた陛下は怪訝そうなお顔になった。
「一体何事ゾイ」
その言葉を聞いた一体のワドルディが、私たちから離れて、ワドルドゥ隊長の下に駆け寄る。
「ふむふむ……なるほど。陛下!ニュースの嘘がバレたのでこちらに連れてきた、とのことです!」
「なぬ!?バレただと!」
「一体なぜ!?」
「外に出て、村を見れば一目瞭然です。陛下、閣下!このような信用を失う嘘は、お止めください!」
「信用ならもう失っているような……」
「しっ!!」
「だまらっしゃい!」
「かくなる上は、ニュースが終わるまでお前たちは、ここに軟禁ゾイ!」
「向こうでみんなのご飯でも作るでゲスよ!!」
放送室の隣の部屋、いつの間に造られたのか、そこには調理室があった。
そこに押し込められ、外から鍵を締められる。
鎖に繋がれこそしなかったが、外部との連絡は遮断されてしまった。
私は二人に頭を下げる。
「アーニャ、ランタン。ごめんなさい!私がもう少し慎重に行動していれば、こんなことにはならなかったわ」
「そうかもしれない。でも、いいのよ。リーノは、私たちを危険な場所から、一刻も早く逃がしたかったんでしょ?」
「私も、ランタンも。わかっていますから、大丈夫ですよ。あんまり気にしないでください」
「うん、うん。三人無事でよかった」
「その通りね。さて、ここにいる間は暇だし。言う通りにするのも癪に障るけれど、ご飯でも作りましょうか」
「片手間に食べられる物がいいですよね。となると、サンドウィッチでしょうか?」
「うーん、パンの数が少ないわ。かと言って、おにぎりを作るにはお米の量が足りない……」
「じゃあ、両方作りましょう」
「ランタン、いい考えですね!」
「ふふん。でしょう?さあ、手を洗って取り掛かりましょう!」
「ええ!」
「はい!」
おにぎりとサンドウィッチを半分ほど作ったところで、扉の向こうから騒ぎが聞こえてきた。
「何でしょう?」
「魔獣を倒すシーンでも撮っているのかしら」
「それにしては陛下の叫び声も聞こえるような……」
三人は手を止めて、静かに喧騒が収まるのを待った。やがて騒ぎは収まり、時計の針の音が大きく聞こえてくる。
体感では五分、実際には一、二分程度の時間が経ち。鍵が開かれて、扉はゆっくり開いた。
自然と誰かの喉が鳴った。
「……無事か?」
「メタナイト卿!助けに来てくれたんですか?」
「騒ぎを聞きつけて、駆けつけた。さあ、出るといい」
促されて、全員外に出る。
辺りは嵐が過ぎ去ったかのようにめちゃくちゃだった。棚が倒れて、床に物が散乱し。おもちゃの村もぐちゃと潰されて壊れてしまっている。
陛下と閣下が指揮をとって、ワドルディたちを動かし掃除させている。
「部屋の中で竜巻でも起きたんでしょうか」
「そうとも言える」
「皆様、無事でしょうか」
「大事ない。全員軽傷だ」
「よかったです。では、私たちはこれで、帰りましょうか」
「大王に一言文句言ってやりたいけれど、今は寝たくてしょうがないわ」
四人は出口に向かって歩きはじめる。
リーノは近くで掃除していたワドルディに、調理室に夜食を置いてあることを伝えて、放送室を出た。
それから五日間は、陛下と閣下の食事を、超健康的な質素な食事に変えておいた。「濃い味のものが食べたい!」と仰られたが、「健康に長生きしていただくためです」と頑なに譲らなかった。
このくらいのお返しはさせてもらいますよ!