1,アリアという少女
その孤児院は日当たりのいい場所に位置しており、活気にあふれていた。
およそ50年前に訪れた孤児院とは正反対だ。アルバス・ダンブルドアは子供たちの無邪気な笑い声に微笑みながら案内の職員についていった。
事の発端は、旧知の友人のニコラス・フラメルの頼みである。
人生の幕を下ろす準備をしていた彼だが、先日アルバスに「頼みがある」と言い出したのだ。
曰く、「支援先のマグルの孤児院に魔女らしき11歳の子供がいる。気がかりだから、君の手で社会に出られるようにしてやれないか。」
ダンブルドアはもちろんそれを引き受けた。後日確認すると、確かに数日前にその孤児院で届け出のない魔力行使があったようだ。マグル生まれの魔法使いのほとんど全員が、未認可の魔力行使の調査員の手によって発見されるのは魔法界の教育者にとって常識である。
初めにアルバスが面会したのは施設長のミセス・リードだ。柔和な顔立ちのその人は、40代くらいのふくよかな女性だ。背広に見合わないアルバスの背格好に違和感を覚えたようだったが、すぐにその顔に笑みを浮かべた。
「アリアのことでお越しになったとか」
「ええ、将来のことについて。実はアリアを、私どもの学校に入学させようかと思っております」
「ご家族の方でしょうか?あの子は身寄りがないものと思っていたのですが」
ミセス・リードは少し疑問を覚えたようだ。
「いいえ、私はそこの校長でして。ニコラス・フラメルの古くからの友人なのです」
アルバスは懐からフラメル家の紋章の描いてある手紙を取り出した。ミセス・リードはその手紙を見て一瞬で警戒心を解いたようだった。
「まぁ、フラメルさんの!いやだわ、私そんなお世話になっている方の友人だなんて知らずに……お茶も出してなかったなんて!!!」
慌てて立ち上がるミセス・リードを制し、アルバスは質問を投げかける。
「ときに、アリアはどのようにしてここに??」
ミセス・リードは少し気まずそうに答えた。
「その、私は存じ上げないのです。10年前に来たことはわかってるんですの、でもその時は三代ほど前の施設長だったものですから……」
「彼女がどのようにしてここに来たか、誰も知らないと?」
「えぇ、そうです……あの子は一番の古株で、私も子供たちも随分助けられて……やだ、私ったらまた余計なことばっかり」
可愛らしく口元を抑えたミセス・リードにダンブルドアは気にしていないことを告げ、アリアの元に案内するよう頼んだ。
「こちらがアリアの部屋になりますわ」
ミセス・リードが愛想よく告げる。示された扉には「Aria Alker」と書かれた木のプレート。
アルバスは礼を言い彼女を下がらせた後、ノックの後その扉を開けた。
こういう子供に初めて話しかけるときの方法は心得たものである。まずはこちらに敵意がないことを告げ、身の回りで起きている奇妙なことの説明をする。
しかし、ことこの部屋の前に限って、アルバスの直感はそうするべきではないと告げていた。
開いたドアの先に広がる部屋でまず目につくのは散乱した木屑。窓際に置かれた机では、橙色の髪の少女がこちらに背を向けて何か作業をしているようだった。
「君がアリア・アルカーだね。私は――」
ダンブルドアが声をかけ、部屋に一歩足を踏み入れた瞬間。
視界に橙色が閃き、気が付くと喉元に何かが突き付けられていた。
僅かな驚きと大きな警戒心を持って、アルバスはその少女の顔を見た。
美しい少女だった。髪も、目の色も、睫毛の一本に至るまで見事なオレンジ色である。11歳にしてはあまりにも小柄で幼いが、将来はさぞ引く手あまたの美女になるだろうと思わせるような、そんな少女だった。
喉元に突き付けられていたのは、先ほどまで少女が削っていたと思われる杖らしきもの。そして
最初に動いたのは少女、アリアだった、肩をすくめて杖(後ほど分かったことだが、この少女の作った木の棒は間違いなく杖として機能するものだった)を下ろす。
アルバスもまた杖を下ろし、静かにアリアに問いかける。
「ミセス・リードや、その前の施設長を傷つけてはいないじゃろうな?」
アルバスの質問の意図はその場にいる二人には明確だった。杖の扱い方さえ知っている少女が施設に来た理由と方法を誰にも知られず、施設内の人の入れ替わりも激しい。アルバスは最悪、孤児院が乗っ取られているという状況も危惧していた。
しかしその最悪の想定はいい意味で裏切られる。
「ミセス・リードはいい人だから、そんなことはしないさ」
アリアは木屑をよけながら部屋の隅のベッドに座った。そして少し困ったように微笑む。
「しかし、前の施設長はね……暴力に横領、酷いものだったよ。だからちょっとばかり、大人しくさせてから出て行ってもらった。ここの子たちは皆いい子だし」
杖を突き付けてきたかと思えば柔らかく話し出すアリアのことを、アルバスは図りかねているようだった。それに気づいたのか、アリアは悪戯っぽく笑いながらアルバスに告げる。
「先ほどはすまなかったね。失礼なのは承知の上だが、あなたが評判通りの人か知りたくて」
ぺこり、と頭を下げて続ける。
「私はアリア・アルカーだ。ニコラス・フラメルの弟子にして後継者。錬金術と魔法を
ジーザス、アルバスは信じてもいない神に祈りたい気分だった。ニコラス・フラメルは食えない友人であり共犯者だったが、最後の最後にこんな厄介ごとを押し付けていくとは。
「あ、今私のことを厄介ごとの種だと思っただろう!」
アリアは頬を膨らませる。幼い少女がやっているとかわいい仕草だが、その実御年70歳超だとは考えたくはない。
そもそも賢者の石から生み出される命の水は厳重に管理されているし、ニコラス・フラメルの弟子も全員が所在と研究内容を魔法省に把握されている。未認可で命の水を他者に与えるなど、犯罪もいいところである。胃の痛みを覚えながらアルバスは彼女に多くの質問をしていった。
Q.今、命の水は飲んでいるのか?
A.1年ほど前に辞めた(作ろうと思えば、材料さえあればいつでも作れるが)
Q.ニコラス・フラメルはどのようなつもりで君を紹介したのか?
A.死ぬ前に私に魔女としての戸籍をくれたかったらしい。正体を隠せとは言われたが、そんな約束を守る意味はない(プロットの段階では守っていたけれど)
Q.今更ホグワーツで何を勉強するのか?
A.フラメルの元で学べなかったこと(闇の魔術なんか、全く触れたことがないから興味がある)
Q.どうやってこっそり厳重な監視下にあるフラメルの元で錬金術を学べたのか?
A.住み込みで勉強をさせてもらっていた。(押しかけて住み着いたともいう)
Q.ではどのようにしてフラメルの家からこの孤児院まで抜け出せたのか?
A.10年前の騒動のときにこっそりと(独学の姿くらましで)
エトセトラ、エトセトラ。
信じがたい経緯と、答えにしれっと付け加えられてくる言葉にダンブルドアはもはや言葉も出ない。プロットってなんじゃ。
「で、私をホグワーツに入学させてくれるのだろう?」
話が一段落したとみると、アリアは唐突に言った。
「喜べ、ダンブルドア。この私が手伝ってやろうというのだ。今年はハリー・ポッター入学の年、今まで隠されていた英雄が世に出る年だ。しかもヴォルデモートとかいう若造が最近また動き始めたときている。手駒は多い方がいい。私がホグワーツに通っていれば、近くで君の手助けができることだろう」
アリアはベッドに座ったまま一人で勝手にしゃべった挙句に、右手を差し出した。
「アルバス・ダンブルドア。錬金術師の権威、ニコラス・フラメルの弟子である私が力を貸そう」
アルバスは逡巡する。この少女が言葉通りの才能を持つのなら、もちろんこちらの陣営の大きな力になるだろう。しかし、目的が掴めない。わざわざホグワーツに通う意味もないし、大して恐れてもいないであろうヴォルデモートの打倒に力を貸す理由もない。
しかし、アルバスはその手を取った。小さなため息で抗議することも忘れずに。
「アリア・アルカー。9月から、君はホグワーツ魔法魔術学校の一年生じゃよ」
にっこりと微笑む少女を信用したわけではない。彼女がわざわざこちらに手を貸す理由を調べなければならない。そもそもどこで生まれて、どこから来たのか。何が目的なのか。手がかりはないに等しい。
けれど、孤児院の子供たちのことを話すその柔らかな表情だけは嘘だと思いたくなかった。
書籍で持っていたハリー・ポッターを最近電子版で購入し、テンションが上がって書き始めています。どうにか走りきりたいと思いますのでよろしくお願いします。