ハリー・ポッターと錬金術師の弟子   作:丸子

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10,聖二十八一族

図書室を出てまず目に入ったのは座り込んでいるネビルだ。ネビルを背中にアリアが立っており、その正面には驚きの表情で固まっているマルフォイと取り巻き二人がいた。

 

「ネビル、大丈夫?」

 

急いでハーマイオニーが助け起こした。いつもならハリーの姿を見た途端にちょっかいを出してくるマルフォイだが、今はアリアを見つめたまま微動だにしない。

状況からは、アリアがマルフォイからネビルを庇ったように見える。

 

 

 

「ネビルに何したんだよ」

 

ハリーと同じ発想に至ったらしいロンがマルフォイに嚙みつくが、マルフォイの答えはない。代わりに不気味なほど穏やかなアリアの声が廊下に響いた。

 

「ネビルには何もさせていないさ」

 

ひらひらと左手を振った。ハリーはその手に木の棒が三本握られていることに気づいた。いや、木の棒ではない――杖だ。どうやったのかは分からないが、アリアは三人の杖を奪ってしまったようだった。

 

「ふむ……サンザシ、月桂樹、トウヒか。返すよ」

 

三本を眺め、そう呟いて杖をマルフォイたちの方に放る。ハリーにはそれが何を意味しているか何かわからなかったが、マルフォイたちは言葉も出ない様子である。杖を奪われていたにも関わらずアリアに何も言えていない様子を見るに、かなり怯えているらしい。憎らしい同級生に、ハリーは少しだけ同情した。その時、ふとマルフォイと目があったような気がした。その瞬間にマルフォイの口が開く。

 

 

「ふん、君がこんな小さな()()()()()()()に守ってもらわなければならないほど軟弱だったなんてね」

 

「やめろよ、マルフォイ」

前言撤回。マルフォイはやっぱり嫌な奴だ。ハリーは咄嗟に声が出てしまった。その言葉に反応したのはアリアだ。

 

 

「マルフォイ?聖二十八一族の子息か」

 

マルフォイは少し得意げな顔になった。

 

「そうだ。マルフォイ家は大昔から続く純血の家系でね。最も、そこのロングボトムやウィーズリーと一緒にしてもらっては困るが」

 

ロンやネビルは顔を真っ赤にした。ロンが口を開いたが、アリアの方が早かった。

 

 

「そうか、そうか。それは重畳。では君はノブレスオブリージュという言葉を知っているね」

「何を言ってるんだ、当たり前だ。えーと……高貴なるものは義務を負う、だったか」

 

マルフォイが答える。普段は憎まれ口ばかりのマルフォイがやけに素直に答えることにハリーは気づいた。

 

 

ハリーは知る由もなかったが、その理由は明確だった。大方の予想通り、この状況はネビルがマルフォイに“足縛りの呪い”をかけられそうになったところをアリアが庇ったところから始まる。アリアは目にもとまらぬ速さで杖を抜き、呪文の詠唱もせずに三人から杖を奪って見せた。もちろん、多少優れた魔女なら同年代の子供から杖を奪うことくらい簡単だろう。しかし、アリアは三人から杖を奪ってのけた。魔法族同士の戦いは、大抵数の多い方が勝つ。当然、数が多い方が手数も多いからだ。しかし、一人の優れた魔法使いは複数人分の働きをして見せる。アリアがまさにそれであった。

つまり、マルフォイ、クラッブ、ゴイルは本能的に“この小さな少女は優れた魔法使いである”と悟ってしまったのである。

 

ならば主導権はアリアが握ったも同然だった。

 

「その通りだ。素晴らしい教育を受けていると見た。ならばそれが意味することも分かるだろうな……?高貴な者の義務は、他者を虐げるのではなく救いの手を差し伸べてやることだと」

「私も()()()()マグルの血は入っていない。しかしマグルと交わらなければ魔法族が減っていくことも事実」

「然らば我々の為すべきことは知識の劣る彼らを導いてやることではないのか?少なくとも私はそのように振舞ってきているつもりだ」

 

アリアは廊下で軽い演説をしてのける。ご丁寧に、マルフォイ、クラッブ、ゴイル一人ずつと目を合わせて歩き回るという演出付きだ。最後の一言の直前、アリアは廊下の照明の真下に立った。ハリー達には背を向けていたので表情はわからないが、マルフォイ達には逆光ではありつつもその表情が見えたはずである。

ハリーから見たアリアの後ろ姿には照明が当たっていて、橙色の髪がまるで燃えているかのように輝いていた。

 

 

「でも彼らの魔法だって劣っている」

絞り出すようにマルフォイが反論する。アリアは笑った。

 

「ならば君は『薬草学』を受講するのをやめなければならないな。教科書の著者のフィリダ・スポアはマグル生まれだ」

 

マルフォイは何も言い返せないようだった。ハリーはいい気味だと思ったが、アリアが純血でない魔法使いを“知識で劣る”と表現したことには違和感を覚えた。ハリーの知る限り、同年代で最も賢い魔女はアリア、そしてマグル生まれのハーマイオニーだったからだ。

 

 

 

マルフォイがすっかり黙ってしまったのを確認すると、アリアはパンっと手を打った。

 

「では、寮に戻るとしよう。私は()()()()()()()なのでね。ここから寮が遠いのだ。これからもライバルとしてよろしく頼むよ、Mr.マルフォイ」

 

ネビルを揶揄したマルフォイの言葉を根に持っていたのか、アリアは「ハッフルパフ生」を強調してそう言い残し、去っていった。毒気を抜かれたのか、マルフォイも顎をしゃくってゴリラ族と共に去っていく。去り際にハリーをにらんできたことから察するに、マルフォイのハリーへの嫌悪はそうそう終わることがないだろう。しかし、先ほどのアリアの言葉にマルフォイが反論もできずにいたことは事実だった。

 

ハリー達は少し溜飲を下げ、グリフィンドールの寮へ帰っていった。




誤字・脱字報告ありがとうございます。査読の甘さを痛感しております。

書いていて思っているのですが。グリフィンドールやレイブンクローっていう苗字かっこいいですよね。日本人がホグワーツ創設者に交じっていたら「スズキ!!!」とか組み分け帽子が叫ぶことになっていたかと思うと……。
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