ハリー・ポッターと錬金術師の弟子   作:丸子

16 / 26
16,二つの顔を持つ男

ハリーはみぞの鏡の間でピンチに陥っていた。石を狙っていたのはスネイプではなくクィレルだったのだ。どもりもせず、クィレルは別人のようにハリーに鏡から石を取り出すように命じた。

 

ハリーは鏡の前に立った。以前のように両親など家族の姿が見えると思いきや、なんとハリーは石を手に入れてしまった!作り話でその場をとにかく凌ごうとしたが、クィレル……いや、後頭部についた“それ”に見抜かれた。

 

 

クィレル教授は、後頭部にもう一人の顔を持っていた。その名はヴォルデモート。魔法界のほとんどの人が怖がって名前すら呼ばない、悪の魔法使いである。

 

ヴォルデモートはクィレルに命じ、逃げ出そうとするハリーを捕えようとした。しかしハリーの肌に触れたクィレルは悲鳴を上げてのたうち回った。クィレルはハリーに触れない。それを悟ったハリーは、クィレルにこちらから触れて魔法をかけさせないようにするほかないと思った。

 

クィレルに飛びかかろうとした瞬間、

 

 

 

「おいおい何をしている」

 

緊迫した場面には場違いな幼い声が響いた。まさか、と聞き覚えのある声にハリーは絶望する。ハリーは彼女こそがダンブルドアを学校から離れさせた張本人なのではないかと疑っていたからだ。

ふらりとハリーの横を通り過ぎ、クィレルに向き合ったのは橙の少女、アリアであった。その顔から読み取れる感情は困惑、あるいは安堵。

 

クィレルは呆気にとられたようだった。それでもクィレルの後頭部からは甲高い声が響く。

 

「アリア・アルカー……貴様にも聞きたいことがある……しかし今はそこの小僧が先だ!クィレル、捕らえられぬのなら殺せ!殺すのだ!!」

 

 

クィレルは恐怖の表情を浮かべつつも、手を上げて呪いをかけ始めた。しかしそれよりもアリアが早かった。素早く杖を抜いてしならせ、鮮やかにクィレルを縛り上げる。使われたのはハリーを先ほど縛っていた縄だ。

 

「悪いが、ヴォルデモート卿よ。君の器である彼よりも私の方が強い」

 

ハリーは息を呑んだ。クィレル教授はオドオドしてはいるがホグワーツの教師である。そんな彼を一瞬で縛り上げるなんて!驚くハリーとは別に、冷静なハリーが脳内で、アリアは今は敵だとは判断できないと告げていた。

クィレルは尻もちをつき、もがく。ヴォルデモートは怒りの声を上げた。

 

「この愚か者!!!」

「ヴォルデモート卿よ、彼は君をその身に宿しながら君のために戦おうとしたのだ。その言いぐさはないだろう」

 

そう言いながらアリアはクィレルに近づいた。そして、何かに気づいたように眉を顰める。

 

 

「クィレル教授、あなたから呪いの匂いがする」

 

呪い。ハリーはその言葉に心当たりがあった。クィレルがすべての黒幕だったとしたら、罰則の日に禁じられた森で出会ったのはクィレルのはずだ。

 

「アリア、クィレルはユニコーンの血を飲んでいた」

 

炎の扉に近づきすぎたためせき込みながらそう言うと、アリアは血相を変えた。

 

「なんだと?それはいつの話だ」

「四月の終わりだったと思うけど……」

 

それを聞くとアリアは黙り込む。やがて静かに告げた。

 

「ハリー、後ろを向いていろ」

「でも」

「いいから早く!」

 

アリアの声があまりに深くて重くて、ハリーが扉の方に向き合った瞬間だった。

 

 

 

「どうやら間に合ったようじゃの」

「ダンブルドア先生!!」

 

そこに現れたのは学校にはいないと思っていたダンブルドア校長だった。安堵のあまりハリーはその場に座り込んだ。ダンブルドア校長はハリーに優しい目を向けると、すっとハリーの背後のアリアに視線を移した。

 

「アリア、よくやってくれた」

 

ハリーは呆気にとられる。散々その真意を疑ってきたアリアだったが、ダンブルドアはすでにその動向を把握していたらしい。なんだか拍子抜けした。

ハリーとは対照的に、アリアは固い声で言った。アリアを背後にダンブルドアと向き合う形になっているハリーにはその表情は伺い知れない。

 

「アルバス、クィレル教授はユニコーンの呪いをもろに食らっている。加えてこのやけどだ、もう助からない」

 

 

助からない、その言葉の意味するところは明らかだった。さしものダンブルドアも少し表情を強張らせる。しかしハリーにかけた声は穏やかそのものであった。

 

「ハリー、君のお友達のミスター・ウィーズリーとミス・グレンジャーは無事じゃよ。二人とも君を心配して部屋の入り口で待っておる」

 

その言葉に安心した。そしていまそれを伝えるということは、暗にここから出て行けと言っているのだろう。ハリーは立ち上がろうとした。しかし立ち上がろうとした瞬間、安堵か疲労ゆえか、その場に崩れ落ちてしまう。意識が遠のいていく。

 

「……軽い貧血じゃろう、ゆっくり休ませようぞ……」

 

ダンブルドアのそんな呟きが最後に聞こえた声だった。

 

 

 

 

 

目が覚めると真っ白な天井が見えた。遠くでマダム・ポンフリーの声が聞こえることからも、おそらくここは医務室なのだろう。

目の前がぼんやりとしていて、どうやら眼鏡が外されているようだと思う。

 

ウーンと呻いて眼鏡を探そうとベッドで体勢を変えた瞬間、横からついと眼鏡が差し出された。

 

「ハリー、気がついたようだね」

 

ベッドサイドに座っていたのはアルバス・ダンブルドアその人である。ハリーは眼鏡を受け取り、真っ先に頭に浮かんだ疑問を口にした。

 

「ダンブルドア先生、あの、石は……クィレルはどうなったんですか!?」

「落ち着いて、ハリー。君を安静にさせていないと、儂がマダム・ポンフリーに叱られてしまう」

 

ダンブルドアの穏やかな口調にいくらか心も落ち着き、ハリーはベッドサイドのテーブルを見た。そこには山盛りの甘いものが置いてある。

 

「君の友人や崇拝者からの贈り物だよ」

 

ダンブルドアが微笑んだ。

 

「地下で君とクィレル先生との間に起きたことは『秘密』でな。秘密ということはつまり、()()()()の活躍は学校中が知っているというわけじゃ」

 

「三人?先生、僕、アリアに助けられました」

 

ダンブルドアは今度は困ったように眉尻を下げて笑う。

 

「ハリー……アリアがあの部屋にいたことは秘密にしておいてほしいのじゃ。彼女はとある事情で、『賢者の石』と深い関わりを持っておる。このことが広まれば、彼女の身にも危険が及ぶことじゃろう」

 

その言葉は重々しく、ハリーは思わず神妙に頷いた。

 

「僕、アリアがダンブルドア先生を学校から遠ざけたと思ったんです……石を手に入れるために。そうだ、先生、石はどうなったんですか?」

 

そう言って一部始終を話すと、ダンブルドアはくつくつと笑った。

 

「あの子は生徒であり、同時に儂の友人でね。クリスマスには靴下を贈り合ったものじゃ。そして、『石』じゃがの、あれは壊したことになっておる」

「壊したことに?壊したことにしてニコラス・フラメルに返したということですか?」

「おお、ニコラスを知っているのかい?君はずいぶんきちんと調べて取り組んでくれたようだね。ニコラスとも話したのじゃがな、あれは表向きは壊したことにして、誰にも使われぬよう辺境の地に隠してしもうた。もう悪用されることはあるまいて」

茶目っ気たっぷりにウインクされ、ハリーは毒気が抜かれたような思いだった。

 

 

それから二人はたくさんのことを話した。ニコラス・フラメルについて。ヴォルデモートについて。みぞの鏡について、そしてハリーの両親について。

 

ダンブルドアとの会話はハリーに実感させた。――もう終わったのだ。

 

 

 

 

それから数日は医務室から出してもらえなかった。見舞いに来てくれたロンとハーマイオニーにクィレル、鏡、賢者の石について話して聞かせた。彼らは優れた聞き手であり、ここぞというときには息を呑んで続きを神妙に聞いた。

 

「じゃあ、アリアは結局味方だったってことね」

 

ハーマイオニーがほっとしたように呟いた。

そしてアリアが地下の部屋にやってきたときのこともハリーに話して聞かせた。

 

 

 

 

それから何人かの見舞いを受けた後、ハリーは学年末パーティーの日にやっと解放された。大広間についた時には既に人がいっぱいいて、スリザリンの色であるグリーンとシルバーで飾られていた。ハリーは一気に気が滅入るのを感じた。

ハリーが大広間に入ると突然その場はシーンとなり、その後全員が一斉に話し始めた。ハリーは居心地の悪さを感じながらロンとハーマイオニーの間に座ったが、運よくダンブルドアが現れて大広間は静まり返った。

 

「また一年が過ぎた!一同、ごちそうにかぶりつく前に、老いぼれの戯言をお聞き願おう。なんという一年だったろう。君たちの頭も以前に比べて少し何かが詰まっていればいいのじゃが……新学年を迎える前に君たちの頭がきれいさっぱり空っぽになる夏休みがやってくる。

それではここで寮対抗杯の表彰を行うことになっとる。点数は次の通りじゃ。4位 グリフィンドール312点。3位 レイブンクロー406点。2位 ハッフルパフ426点。そしてスリザリン 472点」

 

スリザリンの机から嵐のような歓声が上がった。しかしその歓声もダンブルドアの言葉によって静まりかえる。

 

「スリザリン、よくやった。しかし最近の出来事も勘定に入れねばの。駆け込みの点数をいくつか与えよう。

まず最初は、ロナルド・ウィーズリーくん。この何年か、ホグワーツで見ることができなかったような、最高のチェスゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに50点を与える。

次に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢に……炎に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに50点を与える。

三番目はハリー・ポッターくん。その完璧な精神力と、並外れた勇気を称え、グリフィンドールに60点を与える」

 

グリフィンドールのテーブルから騒音と呼んでも差し支えないほどの歓声が上がった。誰かが、「同点だ!」というのが聞こえる――スリザリンに追いついた!

 

 

ダンブルドアが右手を上げた。大広間はだんだんとまた静かになっていく。

 

「勇気にもいろいろある。敵に立ち向かっていくのも大いなる勇気がいる。しかし、味方の友人に立ち向かっていくのにも同じくらい勇気が必要じゃ。そこで、儂はネビル・ロングボトムくんに10点を与えたい」

 

 

グリフィンドールからは大歓声が上がった。ハリーも一緒になって歓声を上げた。グリフィンドールの優勝だ!ダンブルドアによって大広間の飾りつけが赤と金に染まる。ハッフルパフとレイブンクローの生徒も一緒になって喜んでいる。ハリーはハッフルパフの机にアリアの姿を見つけた。アリアは周りの生徒ほど喜んでいなかった。けれどそれすらも今はどうでもよかった。

 

ハリーは今までの人生で一番素晴らしい夜を過ごした。




今回はハリー視点でした。
明日の更新は短い幕間で、明後日の更新は十中八九お休みです。
それ以降は秘密の部屋編がスタートとなります。ここまで読んでくださりありがとうございました。次回以降もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。