闇の魔術に対する防衛術の授業は早々に見切りをつけたアリアだったが、その他の授業は楽しむことができていた。
座学が多かった1年生の授業に比べると、2年生の授業はより実践的なものになっている。今まで魔法界での知識は全て本を読んで独学で修めていたアリアにとっては、ホグワーツの授業は自らの理解を深める素晴らしい機会だった。
久しぶりのホグワーツの授業を楽しんでいるとあっという間に時は過ぎ、気づけばホグワーツに戻ってきて2ヶ月が経とうとしている。
「アリア、魔法薬学の授業後にそんなに活き活きしているのってあなたくらいよ……」
ハンナとアリアの二人は2時間続きの魔法薬学を終え、夕食を食べに大広間へ向かっていた。
脱力しているハンナの横でアリアは楽しそうに歩いている。
「魔法薬が楽しいのは事実だが、今日はそれだけじゃないさ」
弾むようなアリアの声に、ハンナは納得したような声を上げた。この友人と付き合い始めて二年目だが、彼女の興味の対象は嫌というほど理解できる。
「……そうか、今日はハロウィーンだったわね」
アリアは嬉しそうに頷いた。新学期から一か月が過ぎ、少し身長が伸びて大人っぽくなったように見えたアリアだったが、食べ物への執着は相変わらずだということが再確認できていた。
食堂に着くと、アリアは素早く席に着き、机に広げられているご馳走に目を輝かせる。ハンナはアリアに置いて行かれないように急いで席に着いた。同時に周りの生徒の視線も感じ困ったような笑みを浮かべた。
アリアは去年も何かと目立つ生徒であったが、今年に入ると新入生からの視線も多く感じるようになってきていた。
去年こそ、アリアと関わりがあるような生徒は同学年か、アリアの噂を聞きつけた勉強熱心な他学年の生徒だった。しかし、アリアの昨年度の成績が学年4位という目に見える形で現れたことで、セドリック・ディゴリーに次ぐ期待の星としてハッフルパフ生の間で有名になっていたのだ。
ハンナに言わせれば、アリアの成績は学年で一番でないと納得がいかなかったが、学年で一位の生徒のハーマイオニー・グレンジャーも授業では文句のつけようがない優秀ぶりだったのでそれを口にすることはなかった。
何より、アリアがテスト勉強らしいテスト勉強をしているところを見たことがなかった。
先生に聞きづらいような軽微な質問でと聞けば快く答えてくれ、美少女と形容するのが相応しい容姿の優秀な生徒。
そんなアリアが以前から知り合いの上級生だけでなく、新入生からも人望を得るのにさほど時間はかからなかった。
席に着くや否や、アリアは目の前に置いてあるマッシュポテトを自分の皿によそい始めた。ハンナはそれを横目に大広間の飾りつけに見惚れる。コウモリが飛び交い、ひときわ大きなカボチャがハンナの背丈ほどのランタンになっている。
しばらく眺め、そろそろ目の前のご馳走に手を付けようと前を向いたハンナは、アリアが注目を集めるもう一つの要因が目の前の席に着いたことに気づきため息をついた。
「……どうしたの」
ハンナは横のアリアがそれに気づいていないことを確認するとそう声をかけた。
「たまたま君たちが大広間に入ってくるのが見えてさ。邪魔だったかな?」
その生徒、セドリック・ディゴリーは首を傾げて微笑んだ。そんな仕草も妙に絵になることが腹立たしくもある。ハッフルパフの四年生である彼は、そのハンサムな容姿や優秀な成績からハッフルパフ生の憧れの的だ。おまけにクィディッチの寮代表選手でもある。
そんなセドリックはアリアのことがお気に入りらしく、何かと理由をつけてアリアに話しかける。そんなアリアにハッフルパフの生徒は羨望の眼差しを向けるが、同じく容姿端麗、成績優秀であるがゆえに何も言えないばかりか本人はセドリックを軽くあしらう始末だ。
ハンナは呆れながらもアリアを小突いた。そこでやっとセドリックの存在に気が付いたアリアは口をもごもごとさせながらセドリックの話に相槌を打つ。もちろん新しい食べ物を口に運ぶことも忘れない。セドリックは意に介した様子もなくにこにことアリアに話しかけ続けている。
もちろんハンナも例に漏れずセドリックに憧れを抱いていた。しかしセドリックがハンナをアリアの友人としか認識していないこともまた理解できていた。
微かな苦味を砂糖たっぷりのカボチャパイで噛み潰しながら、ハンナは今度こそハロウィーンのご馳走に取り掛かったのだった。
ハロウィーンパーティーは素晴らしかった。骸骨舞踏団がサプライズで現れたときにはハンナも、流石のアリアも歓声を上げた。ご馳走も文句のつけようがないほどおいしく、生徒はみな満足して寮に帰る、かと思われた。
生徒がパーティーの余韻に浸りながら大広間を出て行く。アリア達も生徒の列の中であれこれと話しながらハッフルパフの寮に向かおうとした。
列の先頭が大広間から出て少しすると、突如前方の生徒たちが静まり返った。列が進まなくなり、アリアの近くの生徒たちは何が起きているのかと背伸びして前方を見ようとする。生徒全体をざわめきが包んだ。
やがて前方からひそひそと噂が回ってくる。
――フィルチの猫が殺されたらしい
――ポッターが現行犯だ
――気味の悪いメッセージが残されている
アリア達は何が起きたのかもわからず、やがて現れた寮監たちによって強制的に寮に帰された。
当然、その夜はハロウィーンパーティーよりもその後の出来事のことで持ちきりだった。ほとんどのハッフルパフ生はポッター達は事件の関係者であっても、猫を殺したりなんてするはずがないとの意見で一致していた。
その日の夜、ハッフルパフの寝室でアリアは耳をつねられて目を覚ました。驚いて顔を上げると、アリアの眼前では世にも美しい鳥――不死鳥が憮然としたような表情で足に括りつけられたメモを差し出していた。
差し出されるがままにメモを取って一瞥すると、アリアは急に目が覚め、枕もとの杖を素早く一振りして寝室を抜け出したのだった。