ハリー・ポッターと錬金術師の弟子   作:丸子

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20,共同研究

アリアは「これを読み次第すぐに校長室に来るように」と書かれたメモを握り校長室に向かった。

 

「杖型甘草飴」

 

合言葉を入り口のガーゴイル像に告げると、ガーゴイル像はぴょんと脇に飛びのいた。現れた階段を上り校長室に入ると、そこには校長ともう一人の人物が待っていた。

 

その人物――セブルス・スネイプ教授は突然現れた生徒を訝しげに見やった。そしてアルバスに向かって不機嫌な声を上げる。

 

「こんな夜中に生徒と吾輩を呼び出して、いったい何の用ですかな。いくら秘蔵っ子といえど、夜中に寮を抜け出すのは校則違反のはずでしたが」

 

 

いきなり呼び出された上に不機嫌な教授に引き合わされたアリアもたまったものではない。

 

「要件も告げずに呼び出すとはどういう了見だ、フォークスにはつつかれたんだぞ」

 

校長に対する不躾な口調にスネイプ教授がぎょっとした顔を向けてきたが、アルバスは気にした様子もなく笑い声をあげた。

そういえば、アリアとアルバスが話すときは立場を隠すためにも二人きりの時だけだった。このスネイプ教授は秘密を共有するに足る人物であると判断されたのだろう。少しは事情を説明しておいてほしい気持ちもあるが。

 

「すまんかったのう、アリア。じゃがフォークスによれば、アリアは普通に起こそうとしてもなかなか起きなかったそうじゃぞ」

 

全くだ、とばかりにいつの間にか校長室に戻ってきていた不死鳥のフォークスがゆっくりと目を瞬かせた。先ほどアリアを強制的に起こしたのはこのアルバスの飼う不死鳥である。

アリアは反論できず押し黙り、その代わりに不満な表情をして見せた。

 

 

 

アリアとスネイプ教授二人の不満げな顔を向けられても、アルバスはその笑顔を絶やすことはない。そして二人を呼び寄せた理由を告げるために重々しく口を開いた。

 

 

「……二人に共同で『マンドレイク蘇生薬』の研究に取り掛かってもらいたいのじゃ」

 

「は?」「え?」

 

まさに青天の霹靂。アリアとスネイプ教授の声が見事にシンクロした。

 

 

先に平静を取り戻したのはアリアだ。

 

「確かに私はいずれ在学中に研究をしたいと要請はしていたが、なぜ『マンドレイク蘇生薬』なんだ。マンドレイクの流行は70年代がピークだと思っていたが」

 

70年代に生まれているはずもないアリアが見てきたかのように当時の研究の流行を述べることに、スネイプ教授はさらに驚いた様子だった。

そんなスネイプ教授をアルバスは気にも留めず、アリアにハロウィーンパーティー後の出来事を説明した。

 

 

 

聞いてみると、さしものアリアもその内容には驚きを隠せなかった。

 

ホグワーツの管理人のフィルチ氏の飼い猫が石にされた?壁には不気味なメッセージ?

 

猫が殺されたなど眉唾物の噂だと思っていたが、どうやら石になっていたところを目撃されたが故の噂だったらしい。しかもハリー達三人組がその場にいたというのだ、アリアは彼らの間の悪さに嘆息した。

石になる魔法と言えば『ペトリフィカス・トタルス』の呪文が有名であるが、強大な魔法使いといえど何時間も効果を持続させられるはずがない。

 

アルバスの後ろの机にちらりと見えた置物だと思っていた猫の目が煌めいたような気がして、アリアは少し気分が悪くなった。

 

 

「……それで『マンドレイク蘇生薬』という訳か」

 

納得したようなアリアが呟く。その一方で、ようやく少し冷静さを取り戻したスネイプ教授が声を上げた。

 

「しかし校長、こんな子供に吾輩の手伝いができるとは」

「手伝いではない、共同研究じゃよ」

 

穏やかに告げるアルバスに、スネイプ教授は苦虫を嚙み潰したような顔を見せた。アリアを見るその眼差しには、こんな子供が何もできるわけがないという考えがありありと表れている。アリアからしてみればあまり面白くはない。

アルバスはさらに説明を重ねた。

 

「彼女の腕は儂が保証しよう。アリアは数十年前は国際魔法薬学会誌の査読に関わっていたほどの学者じゃ」

 

 

 

今度こそ、スネイプ教授は言葉を失ったようだった。アリアはといえば、アルバスはそこまで調べていたのかとため息をつく。

 

アリアには知る由もないが、ここ1年でアルバスはアリアのみならずニコラス・フラメルのことについても徹底的に調べ上げていた。そして、アリアがニコラス・フラメルの元で研究に従事していたのはおそらくアルバスが生まれる数年前からであることも検討をつけていた。

 

雑誌などで発表される論文には、その内容を精査するプロセスが存在する。査読は専門家が行うが、ニコラス・フラメルも査読する専門家の一人であった。ニコラス・フラメルの評価する優秀な論文はある時から少し傾向が変わるようになった。それが大体150年ほど前のことで、アルバスはその辺りからアリアがニコラス・フラメルの元にいたと推測していた。

 

 

「言っておくが、私は積極的に論文に口出ししたりはしていないからな。当然不正もない。ただニコラスが論文を新旧ごちゃまぜで押し付けてくるから読んで感想を言っていただけだ」

 

ニコラス・フラメルという著名な学者の名前を呼び捨てにして出してきたことにスネイプ教授は顔を青ざめさせる。そんな教授にアルバスはアリアと出会うまでのことを話して聞かせた。

 

 

 

 

 

一通り話を聞いたスネイプ教授は突然の情報量に当惑したが、アルバスにさらに反論してみせた。

 

「……しかし、彼女は生徒という扱いのはずです。彼女が()()()魔法薬に造詣が深いのは認めますが、校外の魔法薬の博士にならば多少伝手はあります。せめて彼らに助力を」

 

「ことはそう簡単ではないのじゃ、セブルス」

 

アルバスの静かな声がスネイプ教授の反論を遮った。

 

「ホグワーツでまた秘密の部屋が開かれたということは公にするべきではない。生徒が安心して過ごせる学び舎であるのがホグワーツの務め。アリアならば、ホグワーツとは関係のない魔法薬の材料の伝手も存在する。それにハッフルパフ生の彼女なら、スプラウト先生と連携してマンドレイクの様子を逐一報告してくれるじゃろうて」

 

つまりは私は利用されるのか、とアリアはどこか他人事のように考えていた。しかしアルバスの言うこともわずかながら理解できる。要するに、ホグワーツ内の事件が外部に筒抜けになると不都合があるということなのだろう。ホグワーツは昨年も教師が生徒に危害を加えるという学校にあるまじき事件を起こしている。被害生徒がハリー・ポッターであったことがアルバスにとっては不幸中の幸いだったのだ。

同時に、生徒だからとアリアの研究に反対したスネイプ教授のことも少し見直した。

アリアの周りのハッフルパフ生のみならずスリザリン以外の生徒の大多数が苦手とするスネイプ教授だが、案外子供が嫌いではないのではないだろうか。

 

 

アルバスの言葉にスネイプ教授は反論の余地がない様子だった。そろそろ自分の新たな研究に取り掛かりたいと思っていたアリアからしても、この話は願ったり叶ったりの要請であった。

 

三人の結論は出たが、誰も言葉を発することなく、気づけば全員が校長室の机の上に鎮座するミセス・ノリスの石像を眺めていた。

 

 

同時にアリアは思い返す。壁に描かれていたメッセージは警告。ならばこの事件はまだ始まりに過ぎないのではないだろうかと。




誤字・脱字報告ありがとうございます。
魔法界のアカデミア事情は捏造しています。
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