ハリー・ポッターと錬金術師の弟子   作:丸子

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早口魔法薬学オタクくん達の会話は読み飛ばしても大丈夫です。というかガバが見つかるのが怖いので読み飛ばしてください。


21,蝙蝠の住む地下室

ハロウィーンパーティーから一夜明け、朝目を覚ましたハンナは衝撃的な光景を目にした。

 

「アリア!?……起きてたの??」

 

目をしょぼしょぼさせたルームメイトが寝ぼけ眼で服を着替えていたのだ。一年と数カ月の学校生活で、アリアがハンナより先に目を覚ましているのは初めてだった。

首を傾げるハンナだったが、当然アリアが昨日の深夜に呼び出されてから遅くまで今後の対応について校長たちと話し合っていたことなど知る由もなかった。

 

アリアと一緒に談話室に降りると、いつもより寮生がざわめいている。ニ年生の女子の部屋では昨日の事件はポッターが何かに巻き込まれたのではないかということで落ち着いたが、どうも他のハッフルパフ生たちはそう考えていない者が大多数のようだった。

 

「第一発見者が犯人なんて、マグルの小説ではよくあることさ」

「ポッターは直前にフィルチに罰則を言い渡されそうになったらしいぜ」

 

談話室で同級生のジャスティンとザカリアスが話しているのが聞こえてくる。

 

「ばかげてるわ、アリアもそう思わない?」

隣を歩く友人に同意を求めるがアリアは眠気ゆえかぼけっと歩いていてハンナの言うことなんて聞いていなかったようだった。

 

「この時間にアリアが起きてるなんて、今日は槍でも降るんじゃない?」

 

通りすがったスーザンがからかってくるのも聞こえていない様子だ。

 

 

その日のアリアは午前中の薬草学でスプラウト先生と何事かひそひそと話したかと思えば、歩いている途中に寝かけて壁に激突しそうになった。ハンナは午後の授業は休んで睡眠をとることを勧めたのだった。

闇の魔術に対する防衛術を休めるのが少し羨ましいと思ったことは秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

ハロウィーンパーティーから数日の間は、ホグワーツは事件の話題で持ちきりだった。『妖精の呪文』の授業後、アリアは廊下で呼び止められた。

 

「アリア、『秘密の部屋』について何か知らない?」

 

今週この質問は7回目である。アリアは『ホグワーツの歴史』という本でその記述を斜め読みしただけだった。そのことを告げると皆残念そうに去っていく。

 

そんな生徒をあしらいつつも、アリアの最近の関心が向けられているのは一点のみ、マンドレイク蘇生薬の研究である。

アルバスから言い渡された研究目標は、未成熟のマンドレイクでも十分な作用となる蘇生薬を作ることだ。ホグワーツには苗の状態のマンドレイクしか栽培できていないが、未成熟のマンドレイクから蘇生薬を作ることができれば石化したミセス・ノリスをより早く蘇生できる。

 

 

 

スネイプ教授との作業時間は土曜日にとることになった。アリアは二年生になってからの日曜日はよく校長の元でお茶会と称した魔法談義を行っていたので、週末はつぶれることになる。しかし全く苦には感じていなかった。ニコラス・フラメルの元を発って以来、好きに調合ができるのだ。

 

深夜の呼び出しの後の初めての土曜日、アリアは昼食後いそいそと文献を鞄に詰め込んだ。ハンナがどこに行くのかと聞いてきたが、適当に自習だと答えて地下室へ向かう。

 

 

 

地下の魔法薬学の教室に着くと、スネイプ教授が憮然とした表情で立っていた。机には大釜、クサカゲロウなどの植物、沢山の種類の粉末が広げられている。

 

アリアが研究することに反対していたとはいえ、教授は準備はしてくれていたようだ。アリアは少し安心しながらスネイプ教授に持ってきた文献を差し出した。

 

 

「これからよろしくお願いします、スネイプ教授。こちらでも何本か論文を見繕ってきました。

チャールズ・S・ケリーの『マンドレイクの11の効用』、これは基本ですからわざわざ持参しなくてもよかったかもしれませんがデータの参照が必要になった時に備えて。

アーメット・J・マッケンジーの『石化呪文に対する魔法薬的アプローチ』、石化呪文の対策の論文ですが魔法薬学的観点から見たものはかなり参考になるかと思って。

あ、もちろん1970年代の魔法薬学学会の予稿集も持ってきています……」

 

 

ほとんど息継ぎもせず矢継ぎ早に語りながら鞄から次々と資料を出してくるアリアに、スネイプ教授は初めは目を白黒させていた。しかしやがてアリアの持ってきた資料に目を通しながら、適宜質問をしてくるようになった。

 

 

 

「吾輩も『マンドレイクと11の効用』は読んだ。ケリーの唱える五番目の効用について、幼年期のマンドレイクでも抗石化作用が見込めると思うがどう思う?」

 

「うーん、五番目の筋弛緩作用は確かに幼年期のマンドレイクからも得られるみたいですが……過度な溶解を防ぐ成分がマンドレイクに足りていない気もしますね」

 

「ならば溶解を防ぐような成分を加えるのは?」

「やってみる価値はあるかと思います。何かいい物は思いつきますか?」

「ふむ……エリー・マルコム女史の数年前の論文にツユクサのエキスについてのものがあったな」

「ではそれはマンドレイクの成分と交じり合わなければ使えそうですね、ツユクサは在庫はありますか?」「あるにはあるが、心許ないから発注しておこう」

「ありがとうございます。方針としては、マンドレイクが成長してから発現する要素を別の材料で補っていく形で大丈夫でしょうね?」「ああ。その案が一番現実的だろう」「ケリーの論文ではマンドレイクの年齢についてはあまり詳しく書いてありませんね、問い合わせてみましょうか……」

 

 

 

それから数時間、二人は延々と論文同士を突き合わせ確認事項をまとめていき、ふと気づいた時には外は薄暗くなっていた。アリアは空腹に気づき、慌てて散乱したメモをまとめ始める。

スネイプ教授はというと、食い入るように自ら記したメモ(余談だが、教授はかなり悪筆だ)を熟読していた。

 

「……調合までたどり着かなかった……」

 

アリアが名残惜しげに大釜を見つめると、スネイプ教授は事もなげに言う。

 

「一食くらい食べなければよいではないか」

 

その言葉にアリアは目をむいた。

 

「一食も抜いたら死んでしまいますよ!?……まさか教授は食べないつもりですか」

 

「大げさすぎる。吾輩はもう少し参考になりそうな論文を……」

 

 

言いかけて机の上に目をやる。普段は大釜や薬品しか並ばない魔法薬学の教室の机の上には、一人の人間が何年かけても書きあげられないほどの論文が山積していた。

 

「久しぶりにここまで読んだな」

 

ぽつりとつぶやいたスネイプ教授に、夕食に向かう準備ができたアリアはにっこりと笑って鞄を肩にかけた。

 

「『良き書物を読むことは、過去の最も優れた人達と会話をかわすようなものである。』マグルの哲学者の言葉、言いえて妙ですね」

 

それじゃ、と急いで地下室を出て行くアリアにスネイプ教授は口を開いたが、アリアは既に地下室から階段を駆け上がっていた。

スネイプ教授は肩をすくめて紙の山を片付け始める。

 

 

 

正直、アリア・アルカーをなめていた。その子供らしい見た目と、噂に聞く性格からはそんなに魔法薬学に優れている人間だとは思わなかったのだ。

人は見かけによらないとはこのことか。彼女の頭の中にはまるで図書館でもあるかのようだ。

 

久しぶりに思う存分魔法薬学について議論したからか、謎の興奮が残り香のようにスネイプ教授の胸の内に燻ぶっていた。

 

 

そのまま自室に引き上げようとしたスネイプ教授だったが、思い直して大広間に向かったのだった。早くも次の土曜日に何を検討しようかと考えている自分がいた。

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