スネイプ教授との定期的な研究活動は2回目以降はかなり和やかに進んだ。成果は未だ出ていなかったが、二人は特に焦る様子も見せず数多の論文を読みながらマンドレイク蘇生薬を研究していた。
魔法薬作りを進めていく中で、スネイプ教授はアリアのサポート能力に舌を巻いていた。
建前上はスネイプ教授の方が地位も経験も上なので、研究に関する調合はスネイプ教授が行っている。
しかし、「クサカゲロウをとってくれないか」と言い終わる前にはいつの間にかアリアの手には下処理済みのクサカゲロウが握られていた。「催眠豆の汁を頼む」と言えば、潰すのにコツがいる催眠豆を事もなげに潰して見せる。
本人はといえば、その間に薬の様子を見ながら「この反応は生きる屍の水薬と近いな。やはり催眠豆の汁は失敗だったか」等とブツブツ呟きながらメモを取る始末だ。
これではどちらが責任者か判ったものではない、とスネイプ教授は呆れるのだった。
そんな土曜日も数週目を迎えた頃、いつものように地下室に着いたアリアは教卓の上に置きっぱなしにされていた本に目を留めた。
「これは……スネイプ教授の蔵書ですか?」
『ホグワーツの歴史』と記されたその本を一瞥すると、スネイプ教授は苦々しげな顔になった。
「グリフィンドールの馬鹿共は『安らぎの水薬』の調合よりもその本を読むことにご執心でな」
どうやら授業中に没収した本らしい。
ひくひくと動く口元を見ればそのグリフィンドール生がどれだけの怒りをその身に受けたか伺い知れるというものだ。アリアは心の中でその見ず知らずのグリフィンドール生の無事を祈った。
アリアは何気なくその本を手にとってパラパラと捲った。
「……『秘密の部屋』についてですか」
「お前も興味があるのか。言っておくがその本に書いてあることしか吾輩は知らんぞ」
ため息と共に吐き出されたスネイプ教授の言葉に、アリアは肩をすくめる。
「なんだ、スネイプ教授なら“前回”のことも知っているかと思ったのに」
「なっ……何か聞いたのか!?」
驚いた様子のスネイプ教授。アリアはにやりと笑った。
「やはり以前にも似た事件があったんですね」
「……鎌をかけたのか」
悔しげなスネイプ教授にアリアは説明する。
「私のところに聞きに来る生徒が余りにも多くて。秘密の部屋なんて『ホグワーツの歴史』の一小節に書いてあるに過ぎないただの迷信。
それにしては噂が回るのが早すぎるんですよ。『ホグワーツの歴史』なんて本を真剣に読んでいるはずもない生徒が“祖父からその話を聞いたことがある”なんて私のところに聞きに来る。
色々な生徒から聞いた話を鑑みるに、およそ二世代ほど上の生徒に『秘密の部屋』の噂が出回っていたと考えたんです。
私が推測した話はこうです」
アリアは人差し指を立てた。
「おそらく60年前に『秘密の部屋』に関する事件が起きた。そしてホグワーツはそれをもみ消した」
「……もみ消したという表現は正しくないな。犯人は見つかり処罰を受けた」
スネイプ教授はため息をつき、諦めたように語り始めた。
「言っておくが、これは吾輩も人伝に聞いた話だ。
まず、『秘密の部屋』はホグワーツの創設者の一人であるサラザール・スリザリンが作ったとされる。他の創設者と運営方針で衝突したスリザリンは、ホグワーツ内部に『秘密の部屋』を作り封印した。
曰く、真の継承者のみがその封印を解き、その中の恐怖を解き放つことができる。そして、この学校で学ぶに値しないものを追放すると」
そして、その『秘密の部屋』は過去に数度開かれている。前回『秘密の部屋』が開かれたのが50年前のことだ。
50年前は一人の生徒が殺された――そしてその犯人はホグワーツから追放されたのだ」
最後まで聞いたアリアは血相を変えた。
「
生物を石化する古代の魔術は数あり、アリアも個人でそれを調べてはいた。しかし石化と殺害では話が違う。スネイプ教授は少し焦った様子で取り繕った。
「生徒が殺されたのはその時が初めてだった。それに、犯人はもう捕まっている。継承者の血は途絶え、今回のことは単なる愉快犯の仕業だろう」
スネイプ教授のその見解を聞いても、アリアは安心しきれなかった。確かに前回の状況を聞けば今回は愉快犯の仕業だろう。用務員のフィルチは生徒に好かれているとは言い難く、飼い猫を当てつけに狙った可能性も否定はできない。
しかし、生物の石化のような高度な魔術をホグワーツの生徒が使うことができるだろうか?
教職員を疑うとしても、新任の教授は
現状の被害は猫一匹だ。いたずらというには悪質だが、生徒にまで危害が及ぶかもしれないならばマンドレイク蘇生薬の研究はなおさら急ぐ必要があった。アリアは手のひらがじっとりと汗ばむのを感じた。
秘密の部屋に潜む恐怖とは何なのか。そして誰が部屋を封印から解き放ったのか。
アリアは事件がただの愉快犯の仕業であることを願ったが、それは叶わなかった。
翌月のグリフィンドール対スリザリンのクィディッチ対抗戦の日、事件が起きたのだった。