「――て、起きて!アリア!」
アリアは女の子の声で目を覚ました。目を開くと、ハンナが顔を覗き込んでいる。
「もう、何回声をかけたと思ってるの!」
「あー、すまない……」
アリアはしょげたが、ハンナはあまり気にしていないようだった。実のところ、これはアリアの重大な欠点だった。彼女は眠りが異常に深くて長い。
「早く大広間に行かなくちゃ!時間割が配られるみたいなの。もう皆先に行っちゃったわ」
ハンナは金髪をきっちりと編みながら、アリアを急かす。どうやら彼女はアリアのことを待っていてくれたようだ。準備をして連れだって寮から出ると、ハンナは途方にくれたような声で呟いた。
「えぇと、どっちに行けばいいんだったかしら……??」
「こっちだ」
事もなげに先導するアリアにハンナは驚き、遅れないようにと急いで追いついた。
「あなた、よく覚えてるのね!!」
「記憶力はいい方でな」
アリアの言葉は嘘ではなく、二人はあっさりと大広間にたどり着いた。途中には昨日と位置が変わっていたりする階段もあったが、アリアは方向感覚でそれを補っているようだった。
大広間につくと、アリアはハンナに先に朝食をとっているように告げてグリフィンドールのテーブルに向かった。そこには何とも居心地の悪そうに朝食をとっているハリーがいて、隣ではロンが寝ぼけ眼でパンを頬張っていた。
「おはよう、ハリー」
「アリア!おはよう」
ハリーはぱぁっと笑顔を見せた。
「昨日はあれから話ができなかったからな。寮が離れたのは残念だが、これからも仲良くしてくれると嬉しい」
「こちらこそ!!」
ハリーは嬉しそうだった。
席に戻ると、ハンナがひそひそとアリアに話しかけてきた。
「アリアって、あのハリー・ポッターと友達だったの!?ねぇ、彼ってどんな子――」
「ハンナ、私に聞くよりも本人と話した方がいいと思うぞ。せっかく同じ学校に、しかも同じ学年で通うんだ。授業内外でいくらでも機会はある」
ハンナは釈然としない様子だったが、アリアは猛然と朝食をかきこみ始めた。
「大広間に来るのに迷わなかった一年生は久しぶりな気がするわ。朝からよく食べるわね」
そう言いながら隣に座ったのはフィービーである。アリアの横に置いた時間割をさっと取って流し見ると、にっこりと笑う。
「今日の一時間目は『薬草学』ね。温室は分かりやすいけど、その次の『変身術』の教室からは遠いから気を付けた方がいいわ」
「ありがとう、ブランストーン先輩」
「いいのよ。あとフィービーって呼んでちょうだい」
自分はソーセージを少しと紅茶で朝食を済ませてフィービーは去っていった。完全に妹扱いである。
アリアも紅茶を飲み終わり、ハンナとともに温室へ向かった。
それからの一週間は目が回りそうだった、と数年後にハンナは振り返った。特に四つの寮の寮監の授業が印象的だった。
薬草学ではきのこの育て方を習ったが、正直に言ってハンナには飛びはね毒キノコと巻きつき毒キノコの違いは分からなかった。
変身術は、フィービーの言った通りまず教室にたどり着くのが大変だった。何とかたどり着くと今度は厳格なマクゴナガル教授の講義が待っている。さんざん複雑なノートを採ったあとに、配られたマッチ棒を針に変える練習をした。授業が終わるまでにマッチ棒を針にすることができたのはアリアだけだったが、ハンナはアリアの助けで何とかマッチ棒を銀色にすることはできた。
呪文学のフリットウィック教授は小さすぎて、沢山積んだ本の上に立っていた。アリアは隣で呪文学の教科書を恐ろしい速さで捲っていたが、ハンナは教授の話についていくだけで精いっぱいだった。
魔法薬学は前評判通りジメジメとした地下室でスネイプ教授のネチネチとした小言を聞き続けなければならず、ハンナはこの授業が一番苦手だった。調合中はほとんどの生徒が注意を受けたし、素人目にも完璧な調合をしているアリアの鍋を見ても、教授はフンと鼻を鳴らしただけだった。
「もう、無理!」
金曜日の夜、ハンナはベッドに倒れこんで呻いた。
「まあまあ、明日は週末だ」
そうハンナをなだめるアリアは机に向かって何か書き物をしている。ハンナに言わせれば、アリアがマグルの孤児院で育ったなんて信じられなかったし、その能力の高さをひけらかさなさすぎる。彼女がマクゴナガル教授の目の前で変身呪文を使えば、先生だってその杖の冴えに惚れ惚れするだろう。
「アリア、勉強してるなんて言わないわよね……?」
ハンナがぞっとした声を出すとアリアは笑った。
「まさか。日記のようなものだ」
ハンナにはアリアが書いているものは何かわからなかったが、随分と楽しそうに見える。
「そんなに今日が楽ちんで楽しかったのなら、明日私に『ニードルフォース、針になれ』を教える余裕はあるわね?」
「明日は無理だな。日曜日ならいいぞ」
最後に冊子にピリオドを打つと満足し、アリアは早々に床に就いた。ため息をついて、ハンナは読みかけの本を閉じてアリアにきちんと毛布を掛けてやった。この変わった友人は口調は古臭いのに、仕草と容姿はまるっきり子供だった。まるで妖精みたいだ。ハンナはそんな彼女に世話を焼くのがそんなに嫌いではなかったが。